天魔(エンビル)
□絆の決戦
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何…ここ?居心地が悪いような…
「ようこそ…」
目の前には、私自身がいる。どういうこと…?
「私を知っているはずよ。だって、私はあなた、あなたは私ですもの」
ここは…私の心の中?ヴァンプから身体を取り返すためにやってきたのに、どうしてあなたが出て来るの?
「あなたは私を捨てた。身体に残していったから」
そうか…、あなたは…!
「やっとわかったの?前よりもずいぶん、知能が劣ったようね」
あなたは私、でも違う!
私はあなたを失う代わりに、新たな道を手に入れた。後悔はしてない!
「本当かしら…?あなたの強みは全て私が持っているのよ」
確かにそうかもしれない。けれど、私にも強みはあるわ!
「優しさ?純粋さ?それとも人を信じる心?そんな甘ったれたものが強みなんて…、嘘っ!」
もう一人の私は、私に近づき首を掴んだ。
「他人は他人を騙し、陥れ、踏みにじる。自分が頂点に立っていればそれでいい。そのためには情けも愛も、心でさえも捨てる!」
考えが偏っているわ!
私は過酷な場所で、そう思っていた。他人を蹴落とす強さを求めてた。生きていくには仕方がなかった!でも…、今は違うと思う
「あなたみたいな弱い存在なんて…私じゃない!」
もう一人の私は、さらに強く私の首を絞めた。く…、苦しい…
「結局は自分だけ。自分が全てなのよっ!!」
私はもう一人の私の手を掴み、跳ね退けた。
もう一人の私は、少し息が荒い
「…感じてるんじゃない?何か足りないもの」
うん…、何となく感じてた。やっぱり、私は心のどこか隅の方で自分が全てだと思ってる…
「私も感じてた。誰かを信頼する温かい心、それがまだうずいてる」
もう一人の私は私の目の前に立った。
私の目の前に鏡があるみたい…。同じ格好に同じ仕草
「ねぇ、私達は切っても切り離せないの?」
「そうみたいね…。私達は、ヴィリア…。過去も今も、そして未来も合わせてヴィリアだから…。
一緒にヴァンプを追い出してくれる?」
「私の身体は私のもの。勝手にさせて堪るものですか…」
二人のヴィリアは一つとなった。
ネルはヴィリアの様子を伺っていた。相変わらず、笑い続けている。
「手に入れた。ヴァンプは完全な生き物になったんだ!ウフフ、アハハハハハハハッ!!」
ネルは祈った。
ヴィリアちゃんが、うまく身体を取り返せますように…!
その時だ。
「………?!な、なんだ…?…あ、頭が…割れる……!?」
ヴィリアは頭を抱え、苦しんでいる。
「いやだ…、いやだ!!ヴァンプ、死にたくない…!!」
ネルは少し戸惑いを感じた。ヴィリアには身体を取り返してほしいが、苦しむヴァンプを放っておけないのだ。
ネルはヴィリアに抱き着いた。
「苦しまないで下さい、なのです。ネルがあなたの魂を守ります、死なないよう魔力を送りますです。だから、ヴィリアちゃんに本当の身体を返してあげて下さい、なのです」
ヴィリアはそのまま気絶した。そして、ヴィリアの身体から一つの魂が出て来た。その魂は、ネルの元にやってきた。
ネルは、ヴィリアをゆっくりと地面に寝かせた。そして、ヴィリアを見守りつつ、優しく魂を包むように持った。
「う…」
「ヴィリアちゃん!」
ヴィリアは目を開けた。そして、ゆっくりと起き上がった。
「…その魂、ヴァンプの?」
「はい、そうです!」
ヴィリアは微笑んだ。
「…そう」
ヴァンプの魂は、弱々しく光っている。
ネルはヴァンプの魂をヴァンプの身体に入れようとした。しかし、魂は拒絶している。
「ヴァンプさんの魔力が弱くなっているのです…。早く何とかしないと!」
ヴァンプの魂は、少しずつ光の粒となって消えていく。
「ダメです!ヴァンプさん」
ネルは魂を強く抱きしめた。それでもなお、魂は消え続けている。
「ネルの魔力をあげるです!だから、消えないで……、あっ…」
もうネルの腕の中には何もない。ネルの胸は悲しみで溢れた。
「どうして…なのです?」
「ヴァンプの命の源が途絶えたから」
ヴィリアの目は冷たかった。
「私はヴァンプに魔力を送ってなかったし、ヴァンプ自身の魔力も使い果たしてしまった。ネルちゃんの魔力を受け取れないほど弱っていた。もう…死ぬしかなかった」
ネルはヴィリアの瞳を見た。乾ききった冷たい瞳だった。
「…悲しくないのです?」
「ええ…、不思議と…全くね。
今まで、人の気持ちになったことなかったから、自分の感情を殺してたから…。ごめん…」
ヴィリアは空を見上げた。
「本日は、本当にありがとうございました、なのです!!」
「礼よりも、君と付き合う方が良いニャ〜」
リヴとガラップが、すかさずギャランを殴った。
「ネルは天界に帰ります、なのです!長い間、お世話になりました、なのです。
ヴィリアちゃんは…冥界に残るのです?」
「ええ。天界には拒絶された身だから…。でも、私はあなたのお友達」
ネルは満面の笑顔で頷いた。
「あっ、そうです!良いこと思い付いたのです」
ネルは魔石を取り出した。
「これはネルを守ってくれました、なのです。友情の印にこれをペンダントにするのです」
ネルが魔法で魔石をペンダントにしようとしたその時、ギャランが割り込み、ネルを止めた。
「サンシャインストーンの効力は、むやみに魔法でいじると無くなってしまうニャ!」
「サンシャインストーン?」
ネルは首を傾げた。
「加工にゃらビ・ガラップに任せろ!あいつは手先が器用だニャン」
ネルはガラップに魔石を手渡した。ガラップは早速、加工を始める。
「ネルはん、よう見つけなはったなぁ。サンシャインストーンはほんま、見つけにくいさかい」
「それは交換してもらったのです。それがないと、冥界に入った途端、悪魔になってしまうようだったので」
クワロフは突然、爆笑した。
「ブワハハハハハ!!
ネルはん、騙されてまっせ!天使が悪魔になるなんて有り得まへん」
ピトローもクワロフに便乗し、笑った。
「サンシャインストーンは、天界ではただの光る石!価値が見出だせず、ネルちゃんに押し付けたんっすね!
カーッカッカッカ!!」
「…じゃあ、サンシャインストーンは役に立ってないのです?」
「おいらが説明するニャン!」
ギャランがネルの前に立ち、少し気取ってポーズを決めた。
「サンシャインストーンはその名の通り、太陽の石。闇魔法から身を守ってくれるニャン。他にもたくさんの効力がある不思議な石だニャ。
天界でしか生まれない石だけど、天界に闇魔法を使う者はいにゃいから、有効活用されてにゃいだけにゃんだよ」
ネルは納得したように頷いた。
ギャランの説明が終わると同時に、ガラップの加工作業が完了した。
ガラップの手には、三つのペンダントが握られている。
「ありがとうございます、なのです!!」
ネルは、ガラップの手からペンダントを受け取った。ペンダントの一つは赤く、一つは黄色く、一つは青く輝いている。
「どの色が良いです?」
ネルはヴィリアとリヴにペンダントを見せた。
「アタイはいらないわよ」
「でも、お友達の印なのです!どうぞ」
リヴは渋々赤いペンダントを取った。ヴィリアは黄色いペンダントを受け取った。
「また会いましょう、なのです!!」
ネルは手を振りながら、飛び去った。
「本当に不思議な子ね…」
リヴはぽつりと呟いた。
「ネル様、ネル様ー!!一体どこにいるのですか?!」
ジェルは冥界から帰って来ないネルを心配し、イルダと共に冥界に来ていた。
「はぁ…、やっぱり僕もついていけばよかった…」
「ジェル、冥界の空気は君にとって毒なのです。ネルはそれを知っていたんですよ」
ジェルは顔が曇っている。
「でも、もしネル様が悪魔に襲われてたら…」
「心配する気持ちはわかりますが、ネルは強い子です。きっと大丈夫」
イルダがジェルを慰めていると、一人の天使が飛んでいるのを見つけた。
「ネル様っ!」
ジェルはネルに駆け寄った。
「ジェル!?どうしてここに?」
「ネル様が帰って来ないから、ものすごく…ものすごく心配したんですよ!!」
ネルはイルダがいることに気づき、お辞儀した。
「心配かけて、本当にごめんなさい…なのです」
「とにかく、無事でよかったです。さあ、天界に帰りましょうか。お仕置きはその後、ということで」
イルダの一言に苦笑いするネルだった。
ネル達は天界に帰ってきた。
ネルはイルダの方に向き、頭を下げた。
「本当にごめんなさい、なのです!ご心配おかけして…、そして、前に注意されたのに、悪魔と仲良くして…」
イルダは眉を吊り上げるも、瞳に怒りは見えなかった。
「悪魔と交流して、何か学んだ事はありますか?」
ネルは頭を上げ、イルダの顔を見つめた。最初、ネルはキョトンとした表情だったが、少しずつ笑顔になり、満面の笑顔となった。
「出会いというものは、とても良いことだということです!」
イルダは頷いた。
「では、ネル。君は冥界で大変な思いをしたとは思いますが、見習い天使である君が冥界に行ったこと、それを危険行為とみなし、刑罰を与えます」
ネルは唾を飲み、姿勢を正した。表情は少し強張っているものの、覚悟はできたようだ。
「ネル・ジェーン、君は今日から見習い天使ではなく、小天使としての働きを見せなさい。それが私からの罰です」
ネルはそれを聞いた途端、驚きの表情を見せた。
「だ、大天使様、本当です?!ネル…、まだ魔法が未熟ですのに」
「ネル、天使の強さは魔法だけではありませんよ。それを君は学んだはずです」
イルダはネルの頭を優しく撫でた。ネルは嬉しさを隠せなかった。
こうして、ネルは見習い天使から小天使へ昇格した。
「ネル、早速頑張るのです!エンジェラエンジェラァ」
ネルの手の平から水が溢れ出て、その水を操り、イルカの形になった。そして、イルカは空中を泳いだ。
「成功したのですぅ!!」
成功したことでうかれていると、イルカの形が崩れ、水は地面に落ちた。
「キャー!そ、そんな…」
ドジは相変わらずなようだ。
それを見たイルダとジェルは、微笑ましくネルを見守るのだった。
リヴは自分の家で背伸びをしていた。
前に手に入れた『下級悪魔認定(仮)』と書いた紙を一目見て、眉を吊り上げる。
「試練って何なのよ…ったく」
リヴは紙を手に取り、グシャリと握り締める。
「もういいわ!!」
リヴは紙をビリビリに破り捨てた。その時、紙は燃え上がった。
「キャッ!?な、何?」
突然、下級悪魔認定の紙がリヴの手に渡った。リヴはパチクリとまばたきをする。
「何がなんだかよくわかんないけど…ラッキー!」
リヴは嬉しそうな表情で、自分の部屋の壁に認定証を貼り付けた。
「…姉ちゃん、どうしたの?」
リヴは先程貼り付けた認定証を自慢げにルーヴに見せた。
「下級悪魔になったのよ、アタイ!超嬉しい!!
たっぷりと悪事が働けるわ」
「フーン」
リヴはルーヴを睨んだ。
「何よ、その無関心なフーンっていうのは?」
「別に。そんなことでうかれる姉の姿を見て呆れてるだけ」
リヴはこみ上げる怒りを抑え、単調に言い放った。
「前に頼んどいたアレ、できたの?」
ルーヴは、スイッチの付いた円柱状の短い棒をリヴに渡した。
「携帯槍。使い方によっては盾になる」
リヴはスイッチを押した。棒は一瞬で長くなり、先端が分岐し、フォーク型の槍となった。
それを見るなり、リヴは上機嫌になった。
「すごいじゃない!でも、細すぎよ」
「超合金で作ってるから、なかなか折れないさ!」
リヴは家を出て槍を振り回し、試しに岩を一突きした。岩は見事に粉砕した。ルーヴは満足げに頷いた。
「前の槍はこんなに頑丈じゃなかったからね!ありがたく使わせてもらうわ」
リヴは口元を吊り上げ、槍を再び振り回した。
ヴィリアはぬいぐるみを抱きしめている。そのぬいぐるみは、ヴァンプだ。
「ヴァンプ…、あなたが私の初めての友達だった。今までありがとう…、ごめんね」
ヴィリアは涙を流した。その涙の粒がヴァンプに落ちる。
ヴァンプは動かなかったが、表情は穏やかになった。
「………」
ヴィリアは微笑んだ。その笑みは、純真でとても優しく温かいものだった。
「行こうか…、新しい道へ」
ヴィリアは翼を広げ、飛び立った。
ネルは、青いペンダントを握った。表情は嬉しそうだ。
「ネル様、良いお友達ができましたね!」
「はいです!」
ネルは、今日もリヴとヴィリアに会いに行く。
晴れ渡る空の下、ネルは歩み出した。