天魔(エンビル)

□絆の決戦
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ヴァンプはヴィリアを捕まえたまま、涙を流した。

「ヴァンプ…、知って…る。魔法…生命体…き……もち…!ずっと…願って……た、身体…求め…て…た。で……も、主人…逆ら…えない!
ヴァンプ…だけ、自我…もらった。い……しき手に…入れ……た。
他の…魔法生命体、自我も…らうべ……き。から…だ…もらうべき」

突然、周りの魔法生命体が動き出し、ルーヴや魔獣、魔界の住民達に襲い掛かる。

「い、いきなりにゃんだ?!」

ギャランは魔法生命体の攻撃をジャンプして避け、そのまま踏み付けた。

「おれっち、そろそろ疲れてんだ!いい加減にしやがれっ!!」

ピトローは、魔法生命体を突風で吹き飛ばした。

「ほんと…ウザいな。消えろ!」

ルーヴは銃を構え、撃ちまくった。

「ルーヴ様を傷つけようとするやつは、このアタクシが許しませんことよっ!」

ラミはハンマーを振り回した。

「オレも負けねぇ!」

「もちろん、アタシもね!」

ディブとベルは、協力して魔法を使い、周りの魔法生命体を一気に爆破した。



「ヴァンプ!やめなさいっ!!他の魔法生命体に何をしたの?」

「ヴィリア様、ヴァンプの…から…だ!いた…だ……きます」

ヴァンプはヴィリアを飲み込もうとした。ネルは必死にヴァンプを止める。

「ヴィリアちゃんを離しなさい、なのです!」

リヴはヴァンプを攻撃した。しかし、反応がない。

「こいつ…痛みを感じないの?」

ヴァンプの体は傷がついても、すぐに再生する。

「じゃ……ま…」

ヴァンプはネルとリヴを魔法で吹き飛ばした。

「ヴァンプ、身体を手に入れたとしても、所詮あなたは作り物。私の魔力を断ち切られたら、命はないのよ」

「だ…から、身体……欲し…い。ヴィリア様……欲しい!」

「魔力は身体に宿るものじゃない、魂に宿るもの!」

周りに放たれたヴィリアの魔力は、一気に消え去った。魔法生命体は次々に動かなくなった。

動いているのは、ヴァンプのみ。

「あなたは他者の魂が入ってるけれど、これで終わり。時間の問題だわ」

「ク…ケ……、カカカカカカカカカカカカカカ」

ヴァンプは不気味に笑い出した。

「ヴァンプ、た…くさ…ん、魂…食べ……た。ま…だ死な…な……い」

ヴァンプは周りにバリアを張り、ヴィリアを飲み込もうとした。

リヴは呪文を唱えた。

「デビュラデビュララ、パワー倍増!」

リヴの槍に魔力がそそがれ、輝いた。そして、リヴは力いっぱい槍をバリアに刺した。
バリアはスライムのように柔らかく、 槍の攻撃を和らげた。
リヴは続いて、バリアに爆発魔法を繰り出した。しかし、バリアはびくともしない。

「ネルも攻撃するのです!」

ネルは弓を構え、光り輝く矢を放った。矢はバリアを貫かず、地に落ちた。

「エンジェラエンジェラ!光の舞なのです」

矢は光の粒となり、バリアに入る。

「…真の…闇、全……てを…覆い隠…せ」

ヴァンプのしっぽの水晶玉から、一気に闇が溢れ出た。光の粒は消え去り、暗闇が周りを覆う。

「ネル、大丈夫?!全く見えないんだけど」

「ネルは大丈夫です!ネルより、ヴィリアちゃんが危ないです!!」

ネルは周りを見渡すが、ヴィリアとヴァンプの姿が見えない。

「うまくいくかわかりませんが、やってみます、なのです!」

ネルは手の平を上に向けた。手の平から光る玉が出て来て、その玉は太陽のように輝き始めた。闇は消え、辺り一面の景色が見渡せるようになった。

「ヴィリアちゃん…?!」

ヴィリアは一人佇んでいる。ヴァンプの姿は見当たらない。

「よかったです!助かったのです」

「…ヴィリア?アンタ、ちょっと大丈夫?」

ヴィリアは急に笑いはじめた。

「ククク…カハハハハハハハ!!ヒヒ、ヘヘヘ、フフ、ホホホホ、ハハ…。ヴァンプ、テイレカラウラシレ、ホマホセメタジカイル」

ヴィリアは、壊れたロボットのように意味不明な言葉を連ねている。ただわかるのはヴァンプという言葉のみ。

「もしや…。ネル、ヴィリアの姿をしてるけど、こいつは ヴァンプ!敵よ!!」

「えっ?!そうなのです?」

突然、倒れた魔法生命体が動き出し暴れた。
ルーヴや魔界人達、魔獣は驚いた。そして、魔法生命体を止めるため、戦いに挑んだ。

「ヴァンプ、ヴィリアの魂はどこ?!アンタの身体は、ぬいぐるみはどこ行ったの?」

「オシタナ、マエタシカハヨセ…」

ヴィリアは魔法で氷の槍を作り、リヴを攻撃した。リヴは速やかに避け、叫んだ。

「本物のヴィリアを探して!ヴィリアの魂を」

「わかりました、なのです!」

ネルは目をつむる。

ヴィリアはネルに指先を向けたが、リヴに邪魔された。

「アンタの相手はアタイよ!かかってきな」

リヴは冷や汗をかいていたが、その表情は輝いていた。


「ヴィリアちゃん…、どこです?ヴィリアちゃん…」

ネルは誰かの魔力を感じた。悲しげに泣いている。ネルはその魔力の元へ向かった。

魔力の正体は、ヴァンプだった。ヴァンプは魔法で作られた檻に閉じ込められ、泣いていた。

「今、出します!…キャッ?!」

檻に触れた途端、電気が流れた。

「ムリよ…、ネルちゃん」

頭の中で声がする。

「うまく喋られないから、テレパシーを使ってるの。聞いて!
ヴァンプの魂は、私の身体の中にある。そして、私の魔力を無理矢理吸い取って生きてる状態なの。
私が消えれば、あの子も消えるわ。お願い!私を消して。破壊魔法で檻ごと…」

ネルは首を横に振る。

「そんなこと、できませんです!!他に方法はないのです?」

「身体を取り返す方法なんて知らない。それに、今…一番幸せな時に死ねるなら、別に命なんていらない」

ネルはさらに首を振った。

「そんな悲しいこと、言わないで下さい、なのです!ヴィリアちゃんの未来は、絶対に楽しいものです」

「ヴァンプをそのままにしておくと、何をしでかすかわからない!…私を消して」

ネルは迷った。どうすれば良いのだろう…?



リヴは戦っていたが、体力の限界を感じた。出血のせいで、体力が落ちているのだ。そして、ヴィリアの身体のため、迂闊に攻撃できない。

「す…キ、あリ…」

ヴィリアは、魔法で地面から茨を生やし、その茨でリヴを捕まえた。

「ぐっ?!し、しまった!」

リヴは炎の魔法を出したが、茨は燃えなかった。力付くで抜け出そうとしたが、体にまとわり付くばかり。
ヴィリアはリヴに近づき、ニヤリと笑う。

「やと、ことば話せるなた…。ヴァンプ、て入れた!他のこ…、からだ…あげる」

ヴィリアはリヴの頭を掴んだ。

「リヴちゃん!」

ネルは弓を射った。矢はヴィリアとリヴの間を通った。

「お前、からだよこせ」

ヴィリアはネルを指差した途端、ネルの足元から茨が生えた。

「きゃあ!!な、なんです?!」

ネルは茨に襲われ、捕まった。その拍子に、ネルの懐から魔石が転げ落ちてしまった。

「…ヴァンプさん、あなたは間違っていますです!他人の身体を勝手に奪うなんて、悪いことなのです」

「ヴァンプ、知らない、わからない。ただ、自分の欲望に従うだけ…」

ネルは魔法で茨を除けようとした。しかし、魔力が溢れ出ない。

「茨、魔力吸う。そして、ヴァンプのものなる」

「だから、アタイの魔法も効き目がないのね!」

「どうすればいいのです…?」

ネルは魔石を落としていることに気づいた。魔石は茨の刺に引っ掛かり、ネルの腕を伸ばせば取れそうだ。
ネルは精一杯、腕を伸ばした。指先が魔石に触れる。

「何、やっている…?」

ヴィリアは魔石に触った。その時、魔石は眩しいほどに輝きを放ち、ヴィリアの目をくらませた。

「な…んだ……?!」

ヴィリアの魔力が四方八方に溢れ出た。

「ヴァンプの…ま…りょ、く…が…消え…て……」

茨は段々と枯れていき、リヴとネルは解放された。

「どうなってんの…?」

戸惑うリヴの側で、ネルはヴァンプが捕まっていた場所へ走り出した。

檻は壊れ、ヴァンプは外に出ていた。

「大丈夫です?」

「ええ…」

ネルはヴァンプを抱き上げた。

「何となくですけど、今なら身体を取り返すことができる気がします、なのです!一緒に行くのです」

ネルはヴィリアの元へ走った。


「ぐ…げき…こ…が…、魔力が…魔力…が…!!」

ヴィリアはもだえ苦しんでいる。

「完全に…ならない…と、死ぬ…!ヴィリア様の魂を、取り込むしか…ない」

ヴィリアは、ネルが抱きかかえているヴァンプを睨みつけた。

「ネルちゃん…、私を私の身体に投げつけて!多分…、この方法しかない」

「わかりました、なの…ですっ!!」

ネルはヴァンプを投げた。しかし、ヴィリアがいる方向とは違う方向へ飛び、しかもヴィリアに全然届いていない。

「ご、ごめんなさい、なのです!!」

「……自分で行く」

ヴァンプは小さな翼を広げ、ふらつきながら飛んだ。その動きは、おぼつかない。

「ヴァンプ、私はここよ!逃げも隠れもしないわ」

ヴィリアはヴァンプに近づき、ヴァンプの体を掴んだ。そして、魔力を吸い取っている。

「完全な生き物になる…!ヴィリア様…食べる!!」

ヴィリアは、ヴァンプから魂を取り出し、丸呑みした。ヴァンプの目は輝きを失い、地面に落ちた。
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