天魔(エンビル)

□天使と悪魔の淡い夢
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ルーヴは椅子に座り、考えていた。何故こんなにも自分はイライラしているんだ?

「ルーヴ、アタイ出掛けるわよ!アンタも出掛けるんだったら、戸締まりよろしく」

リヴはそそくさと出て行った。ルーヴは無言のままだ。

ネルと出会ってから、僕の心がざわつく。イライラする。悲しくなる。何故だ…?まさか恋…?そんなはずはない、でも……。

ルーヴは立ち上がった。そして、答えを探すために家を出て、飛び立った。

それを見たラミは、考えた。

最近のルーヴ様、様子がおかしい。どうしたのかしら…?

ルーヴに気づかれないよう、ラミはルーヴを尾行した。



ジェルは、ネルが作ったポテトサラダを食べた。

「おいしいです!」

「よかったのです!!」

ネルとジェルは笑い合った。

「リヴちゃんやルーヴ君にも食べさせてあげたいです」

「悪魔は主に肉類を好みますから、口に合うかわかりませんよ?」

ネルはポテトサラダをパックに詰めた。

「行ってきます、なのです」

ネルは笑顔で家を出た。ジェルは黙って見送った。



ルーヴは天界にやってきた。しかし、迷っていた。悪魔と天使は結ばれない。自分がネルに惹かれていても、この愛は成就しない。

「ルーヴ君?」

ルーヴは目を見開いた。目の前にネルがいたからだ。

「ちょうどよかったのです!これ、どうぞなのです」

ネルはルーヴに、パックを手渡した。

「ネルが作ったのです!」

「あ、ありがとう…」

ルーヴは俯いた。顔が赤くなっているのを見られたくないからだ。

「ルーヴ君は何故、天界に来たのです?」

「特に理由はないんだ。ちょっと、天界を探検しようかな…と思ってね」

ネルは相槌を打ち、ひらめいた。

「ネルが案内するのです!その方が楽しいと思ったのですが…いかがです? 」

「お願いするよ」

ネルは満面の笑みで頷いた。そして、ルーヴの手を握った。ルーヴは少し戸惑った。

「連れて行きたい所があるのです!一緒に行くのです」

「う、うん」

ネルはルーヴを案内した。


ネルとルーヴは、女神の塔のてっぺんにいた。天界の綺麗な景色が見渡せる。

「すごいのです!」

ネルは目をキラキラと輝かせた。

「ネルが感動してどうするんだよ…」

「いつどんな時でも、ここは素晴らしいのです」

ルーヴは自然に笑顔となった。

「冥界はどんな所です?」

「ほとんどが荒れ地か砂漠。こんな美しい景色なんか一つもない」

「じゃあ、天界の美しい自然を見せてあげるのです」

ネルは翼を広げ、飛んだ。ルーヴもネルについて行く。

山の緑や透き通った湖、風に揺れる草花や静かに流れる川、美しく広がる海、たくさんの素晴らしい景色をネルとルーヴはゆっくりと飛びながら楽しんだ。

「どうです?」

「うん、とても…美しい」

ルーヴは目が輝いていた。それを見たネルは、とても嬉しそうな表情だ。

景色も美しいが、ルーヴはネルの姿も美しいと思っていた。
つぶらな青い瞳、桃色に染まる頬、みずみずしい唇、サラサラで綺麗な髪。
ルーヴは確信した。

僕は…ネルが好きだ。友達としてではなく、異性として…。

「…そろそろお腹も空いてきたね。オススメの食べ物ある?」

「町にレストランがありますです!とてもおいしいのです。案内します、なのです」

ネルは町の方向を指差して、ルーヴとともに飛んで行った。



賑やかな町に着いたネルとルーヴは、早速レストランで食事をすることにした。

「ここのオススメは、牛乳たっぷりの野菜クリームシチューなのです。肉がお好みでしたら、特製ハンバーグもあります、なのです!」

二人は席につき、メニューを選んだ。

「ネルはクリームシチューとふんわりオムレツにしますです」

「僕は…、さっき言ってたクリームシチューと特製ハンバーグにするよ」

注文を終え、二人は料理が来るまで話をしていた。

「ルーヴ君は発明家、なのです?」

「まあね!腕につけてるコレだって、僕が作ったんだ」

ルーヴは自分の右腕をネルに見せた。手首から肘の近くまで機械をはめている。

「小型コンピュータさ。ネット通信や情報記憶もできるし、頑丈だから防具にもなる」

「すごいです!ネルは特技がないので、羨ましいです」

「ネル、君はすごい特技を持ってるよ」

ネルは首を傾げた。

「純粋な信念を貫くその心は、人を変えられる力だ」

ネルは笑顔となった。

「はいです!!」

話していると、料理が運ばれてきた。ルーヴはハンバーグを一口食べる。

「おいしい!とてもさっぱりとして、食べやすい肉だね。何の肉だろう…」

「実はそれ、お肉ではなく豆腐なのです」

ルーヴは驚いた。もう一口食べてみても、やはり肉の食感だ。

「天界は殺生を禁じられているのです。だから、お肉を食べる人はほとんどいません、なのです」

「…要するにベジタリアンか」

植物も生き物なんだけどね、そう思ったルーヴだが言わないことにした。

ルーヴは早くも完食したが、ネルはオムレツを食べていた。

「…ごめんなさい、なのです!すぐに食べますです」

「自分のペースで食べなよ。むせたら…」

ルーヴが言い終える前に、ネルは咳き込んでいた。

「ほら…。はい、水」

ネルは水を飲み、一息ついた。

「すみません…なのです」

「別に構わないよ。ゆっくり食べな」

ルーヴは、ネルが食事をしている姿を眺め、微笑んだ。



食事を終えた二人は、ショッピングモールに向かった。

「ネルは買い物が大好きなのです!ルーヴ君はどうです?」

「あまり買い物は行かないから…、何とも言えないな」

「ネルが買い物の楽しさを教えてあげるのです!」

二人は服屋に入った。
ネルは、ルーヴのために服を選んだ。シルクのブラウスに紺のネクタイ、黒のズボンに茶色のブーツだ。

「う〜ん、ちょっと違いますです」

ネルは、黒いジャケットとシルクハットを持ってきて、ルーヴに着せた。

「良いです!カッコイイのです!!」

「…そう?」

ルーヴはまんざらでもなさそうだ。

続いて、ルーヴはネルのために服を選んだ。純白のワンピースの上に桃色のガーデガン、桜の髪飾りにハートのネックレス、リボンのついたハイヒールだ。

「気に入ってもらえたかな?」

「はいです!」

ネルは頬を赤く染め、照れ隠しに満面の笑みを見せた。


二人は買い物を終え、互いに向き合っていた。

「楽しかったよ!君と一緒に買い物できて」

「ネルも楽しかったのです!ありがとうございました、なのです」

ルーヴは唾を飲み、切り出した。

「ネル、単刀直入に言う!僕は……」

その時、建物の陰からラミが現れた。

「許せない!アタクシはこんなにもルーヴ様を愛してるのに…」

ラミはハンマーを取り出し、ネルを狙って振り回した。

「止めるんだ、ラミ!!」

「ルーヴ様、アタクシにお任せ下さい!邪魔な天使を排除いたしますので」

「止めろっ!!」

ラミは動きを止めた。そして、大粒の涙を流した。

「どうしてですか?!ルーヴ様、うぅ……」

ラミはネルを睨みつけた。

「どうせ天使と悪魔は結ばれないんだよっ!!わかったか、このクソ女!」

ラミはどこかへ飛び去った。

「…えっと、な、何だったのです?」

「気にしないでくれ、いつものことだ」

ルーヴはため息をついた。



「そろそろ帰るよ」

「あっ、でも、話の途中だったんじゃ…」

ルーヴは首を横に振る。

「いいんだ。大したことじゃない。今日は本当にありがとう!じゃ、また」

ルーヴは飛び立った。ネルは腕を大きく振り、見送った。

ネルは心が揺れ動いていた。このざわめきは何だろう…?

「ルーヴ君…」

ネルは笑顔で空を見上げた。



「戸締まりしろって言ったのに…。ルーヴ?」

リヴはルーヴを睨みつけた。

「何も盗まれてないからいいだろ?」

「うわっ、ムカつく…。随分と生意気になったわね」

ルーヴはリヴを横目で見た。

「最初からだけど」

リヴが怒っている最中、ルーヴは思った。

結ばれない恋、でも僕はそれにすがりたい
ネル…、大好きだよ


その日に食べたポテトサラダは、ルーヴにとって甘く、そしてほのかに暖かい味だった。


もう一人のドジっ子?

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