天魔(エンビル)
□対戦
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「ヴィリアちゃん、ネルです!」
ヴィリアの引き連れている軍団は動きを止めた。ルーヴや魔界人は驚き、様子を伺う。
ヴィリアとヴァンプだけ、ネルに近づいた。
「よく来たね…、ネル」
「ヴィリアちゃん、あなたに伝えたいことがあります!聞いて下さい、なのです」
ヴィリアは黙った。ネルは続けて言う。
「ネルはヴィリアちゃんに何をされても、どんなに傷つけられても、ヴィリアちゃんが大好きです。ヴィリアちゃんの友達です!ヴィリアちゃんは、ネルのこと好きです?」
ヴィリアは冷たく微笑んだ。
「同情?哀れみ?そんなのいらない。ネル…、あなたは私を知り過ぎた」
ネルは大きく首を横に振る。
「違いますです。純粋にヴィリアちゃんのことが…」
「黙れ…。私、あなたみたいな人、大嫌い」
ヴィリアは鎌を素早く振り下ろした。ネルは避けそびれ、腕と羽根が切れる。
「私はリヴのように甘くない。…消えろ」
ヴィリアは鎌を振った。ネルは魔法で防いだ。鎌の刃先は、ネルの首を狙っていた。
「ネルはん、危ないで!」
「魔法生命体は止まってる。助けに行こう」
クワロフとルーヴがネルを助けに行こうとした時、魔法生命体が邪魔した。
「くっ…、ヴィリアが操っているのか…?」
ギャランとガラップ、そしてピトローもまた、魔法生命体に邪魔され、身動きができなかった。
「ヴィリアちゃんは拒絶され続けていましたです。だから、他人を信頼したり、好きになったりする方法を知らないのです」
「幸福に恵まれてきた天使に…、お前なんかに、私の気持ちをわかられてたまるかっ!!」
ヴィリアは素早く鎌を振る。ネルは咄嗟にバリアを張った。鎌が衝突した所にひびが入る。
「天使なんて嫌い、悪魔なんて嫌い、周りの人、みんな大嫌いっ!
自分がすべて…。私さえ良ければそれでいい!!」
ヴィリアは、バリアごとネルを真っ二つにしようと鎌を上に振りかぶった。
「本当にそう思うんです?!」
ヴィリアが鎌を振り下ろす。バリアはガラスのように割れた。
「……っ?!!」
ネルはヴィリアの予想外の行動に出た。ヴィリアに近づき、抱き着いたのだ。そのおかげで鎌の刃に当たらずに済んだ。
ヴィリアはネルを睨む。
「ネルは、ヴィリアちゃんを信じていますです。だから…、ヴィリアちゃんも…ネルを信じて…下さい、なの…で…す……」
ヴィリアは鎌の刃をネルに向けた。
「このまま…殺してやる……!!」
ネルはヴィリアに体重のすべてを預けた。
「……寝て…る?」
ネルはスゥと寝息を立てている。表情は凄く穏やかな笑顔で、まるで母親に甘え眠っている子供のようだ。
「…何故?命を取ろうとしてる私の側で、何故眠れるの?」
ヴィリアは手が震えた。
「意味がわからない。わからない、わからない…。何故?どうして?私は……?」
ヴィリアの頭の中で、過去の記憶が入り混じり、クルクルと回る。今までの苦痛だった過去が、ヴィリアに刃を向け、嘲笑う。その過去が口を開けた。
お前は一人…、ヴィリアは一人…
それにかぶさるように、ネルの声も鳴り響く。
一人じゃないです、ヴィリアちゃんはネルの友達です!
ヴィリアは鎌を消し、ネルを突き飛ばした。
「……ほぇ?」
「わからない、わからない、わからない、わからない…」
ヴィリアは頭を抑え、ネルから遠ざかった。
「ヴィリアちゃん…?」
「来るな…、来るな、来るなぁ…。来るな、来るな来るなっ!!」
ヴィリアは氷の塊を複数出し、あちこちに飛ばした。それでも、ネルはヴィリアに近づいた。
「ネルを…、受け入れてくれますです?」
「来ないで…、来ないで。来ないで来ないで!来ないで!!」
ネルは必死に訴えかけた。
「ネルはヴィリアちゃんを友達だと思っていますです。とても大切なお友達です!」
ヴィリアは耳を塞ぎ、目をつむる。
「意味がわからない。どうして私を信じ続けるの…?何故疑おうとしないの…?」
ネルは答えようとしたが、ヴィリアの魔法で邪魔された。
「いやだ…、いやだ…。いやだ、いやだいやだいやだ!いやだ!!」
ヴィリアは、あらゆる魔法でネルを拒絶した。しかし、ネルは攻撃を受けても引かない。
「あの時もそうだった!
ネルは自分が傷ついてまで私を守った。意味がわからない。
リヴがあなたを嫌いと言い、拒絶した。それでもネルは、リヴを受け入れた。
何故…?何故なの…?!」
ネルは笑顔となった。
「答えは簡単です。ネルは、ヴィリアちゃんもリヴちゃんも、本当に好きだからです」
ヴィリアは目を見開き、ネルを凝視した。ネルの目は真剣だがどこか穏やかで、澄み切っている。
この子なら信頼できる…?私を愛してくれる…?もう、一人じゃなくなる…?
頭の隅で闇が嘲笑う。
どうせソイツも嘘を言っている、裏切るに決まってる。偽善者だ!
「来ないで!いやだ、怖い…。怖い…!」
ヴィリアは鎌を取り出した。むやみやたらに振り回す。
「ヴィリアちゃんっ!」
ネルは鎌の刃の間をかいくぐり、ヴィリアに触れた。その途端、ネルが持っていた魔石は輝きを増した。それを見たギャランは、目を疑う。
「あれは…サンシャインストーンかニャ?」
魔石の光は粒となり、ヴィリアの胸に入る。
女の子が泣いている、一人寂しそうに泣いている。あれは誰?
誰も手を差し延べない、私しか…いない
どうしよう…。怖い……、怖い……
人を受け入れるのが……恐い
でも、周りには誰もいない。その子は泣き続けてる。心が何故か痛む
勇気を…出して……
だ…だいじょう…ぶ…?
「うっ…、うわ〜ん」
私に泣きながら抱き着いてきたのは……ネル?
「ヴィリアちゃん、怖かったんですよね?今まで貫いてきた自分が壊れること、弱い自分がさらけ出てしまうこと」
私…、私は怖かった。だから、自分自身を閉じ込めた
「でも、今のヴィリアちゃんなら…すべてわかるはずです」
うん…、わかるような…気がするよ……
ネル…、いえ、ネルちゃん……、こんな弱い私でも…友達でいてくれる?
「もちろんなのです!」
ありがとう…ネルちゃん
鍵が開く音がする。鎖がほつれてる
私…私は……
「うっ、ぐすっ…、うわぁぁああん」
ヴィリアは泣き崩れていた。ネルは静かにヴィリアの手を握った。ヴィリアの冷たい手が、ネルの温もりにより、少しずつ温かくなっていく。
「とても、寂しかったんですよね。でも、ネルがいるのです。大丈夫なのです」
凍りついた心は、暖かい優しさに包まれた。
ヴァンプが怪しい笑みを見せる。
「心……の…鍵、開い…た。ヴァンプ…身体…ほ……しい、から…だ…欲しい……。
ヴィリア様……欲しい!!」
ヴァンプは魔法で自分の身体を大きくし、長い舌を出した。
「ネル、ヴィリア、危ないっ!!」
慌てて駆け付けたリヴは叫んだが、そのかいなくヴィリアはヴァンプの舌に捕まった。
「ヴァンプ…?!何をするの?離して!!」
「身体……か…らだ…」
ヴァンプはヴィリアの言うことを聞かず、大きな口を開いた。
「た…助けて…!」
ネルは弓を取り出し、構えた。
「友達のためだったら、戦うのです!」
リヴも槍を取り出し、構えた。
「頼まれなくても、助けるのが友達ってもんよ!」
「二人とも……」
いよいよ決戦の時がやってくる。
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