天魔(エンビル)
□対戦
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お父様、お母様!
「いやだ、来ないで!」
「悪魔の子だ!天使の羽根なんか生やして…」
えっ…?痛い、痛いよ…。この目が悪いのね、そうなのね
「キャー?!」
「来るなっ!」
なんで?何故私を拒絶するの?みんな、嫌いっ!
「大丈夫、守ってあげるから」
本当に?だったらなんで倒れているの?嘘つき、みんな…大嫌い
「天使か?」
「天界から落ちたんだ。いじめようぜ!」
悪魔…!いやだ、怖い、誰か助けて…
いいえ、もう誰も信用できない…、自分だけ、自分がすべて!
「違いますですっ!」
ネルは飛び起きた。目は潤み、自然と涙が流れた。
「ネル、入るよ」
ドアが開き、入ってきたのはルーヴだった。
「よく眠れた?朝食できてるから、よければおいで」
ネルが頷くのを確認し、ルーヴは部屋から出た。
リヴは脇腹を少し抑えながら、リビングのテーブルに座った。
「リヴ!おっはよう!!オレ達を置いて、勝手に行っちゃうからそんなケガすんだ。まあ、でもお前ならほんの数日で治るだろ!気にすんじゃねぇぞ!!」
「ディブ!リヴ様はまだケガが治ってないのよ。静かにしなっ!」
ベルはディブの頭を叩いた。
「いってぇな!オレなりの気遣いだよ、き・づ・か・い!!」
「全くなってないわ!」
「別にいいわよ。アンタ達の喧嘩の方がうるさいわ。
それより、すごくお腹空いた…。肉持ってきて!」
ルーヴは猪の丸焼きをテーブルの上にドンと置いた。
「うまそう!」
「こっちは魔界人の。姉ちゃんはこれ」
リヴの目の前に、赤黒いスープが置かれた。
「…何これ?」
「まあ飲んでみなよ」
リヴはスプーンを持ち、スープをすくった。生臭いが、一応飲んでみる。
「うっ…、まっず!」
「こうもりの血と鳥の肝臓を一緒に煮たんだ。鉄分たっぷりだよ」
リヴは吐き出しそうになった。
「んなもん食わせるなーっ!」
「でも、魔獣達は飲んでるよ」
ディブもベルもラミも、おいしそうに飲んでいる。特にラミは、ルーヴが作ったものなので、どんどんおかわりをしている。
「あっそ!この丸焼きの方が元気になれるわ。よこしなさい!」
丸焼きにかぶりつくリヴの姿は、まさしく悪魔だ。ギャランやクワロフも肉にかぶりつき、本当に獣である。
カタッ、足音が聞こえる。
「ネルっ!」
リヴは肉を飲み込み、ネルに近づいた。
ネルは、包帯が巻かれているリヴの体を見た。脇腹はまだ出血している。
「リヴちゃん…、ごめんなさいです!」
「なんでアンタが謝るの?そんなことより、食べなっ!」
ネルは首を振る。
「食べたくないです…。それよりも、リヴちゃんの治療です!」
「このままでいいのよ。じゃないと、毒が外にでないの。魔法で治る毒じゃないみたいだからね!
とにかく座りな!食べ物見たら、食欲がわくかもよ?」
ネルは椅子に座った。ルーヴは、ネルの目の前に目玉焼きとハムを乗せたトースト、フルーツを添えたサラダ、飲み物に牛乳を置いた。
「卵とハム、牛乳は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、醤油に塩、置いてあるから自由に使って」
「ありがとうございます、なのです。いただきますです」
ネルはまずサラダをいただいた。おいしいのか、どんどん平らげていく。
ルーヴは、ネルの笑顔を見て安心した。
ラミはそれを見て、少し気にくわなかった。
「ちょっと、ルーヴ様?」
ラミはルーヴをつっつき、耳元でささやいた。
「何ですか?あの女は」
「何って、天使のネルだけど」
ラミは少し不機嫌な様子で去っていった。ルーヴは首を傾げるのだった。
丸焼きを平らげたクワロフとギャランは、満足げに座っていた。
「食うたぁワン、おおきに!」
「美味だったニャ〜。これで美人に囲まれてたらにゃ…」
ガラップは黙ったまま、ギャランを見てくすりと笑った。
「ビ・ガラップ、にゃんか文句あるかぁ?!」
「兄貴っ!!」
ギャランがガラップに殴り掛かろうとした時、ピトローが慌てて大声を張り上げる。
「ヴィリアが来ますぜ!大勢の魔法生命体を引き連れてまっす!!恐らく、ネルちゃんを狙っていると」
「げげっ?!早くも来たか…!みんな、おいらのところに集合だニャ」
みんながギャランの周りに集まった。ギャランは頭をフル回転させた。
「敵は堕天使と魔法生命体。
堕天使は強敵だが弱点がある。それは闇魔法ニャン。その代わり、魔法生命体には闇耐性があるから気をつけて攻撃。
分担は、素早いハ・ピトローが敵をできるだけ拡散。攻撃力のあるビ・ガラップが堕天使、素早さと武器を持つルーヴ・イーサルトが魔法生命体を倒せ。魔獣にも手伝ってもらうニャン。
ド・クワロフは家に入ってきた敵を狙撃。リヴ・イーサルトは無理がにゃいよう、戦いに参加してくれたらありがたい。
ネル…、ネルの今の状態では戦えそうにない。家の防御魔法だけお願いしたい。
おいらは状況を見て判断し、戦うニャ!
戦いに参加したくない者は挙手するニャン」
ネル一人だけが手を挙げた。
「戦いが嫌いなのです…。戦わずに済みませんです?」
「ヴィリアは人を傷つけ過ぎたニャン。そして、話し合いでは解決できないほど、ヴィリアは心を閉ざしている。
戦わなければ、おいら達がやられる…。世のにゃか、甘くにゃいんだニャ」
ネルは俯いた。
「ネルは…やっぱり戦いたくありません、なのです」
「わかっているニャン。でも…もし君がよければ、家の防御をお願いしたいニャ」
「わかったです…」
「よしっ早速攻めよう。ハ・ピトロー、頼むぞ!」
ピトローは空に舞い上がり、高速でヴィリアの元へ向かった。
「カーカー!カーーッ!!」
ピトローは、ヴィリアの引き連れている魔法生命体の軍団を風の魔法で吹き飛ばした。
ヴィリアがピトローを指差すと、魔法生命体の数体がピトローを襲う。
「こんな少人数じゃ、おれっちを倒せねぇぜ」
ピトローは次々に敵を薙ぎ払う。ヴィリアはそれを見て、魔法生命体の軍団の一部をピトローへ向かわせた。
「ルーヴ、魔法生命体を足止めするニャン。ビ・ガラップはヴィリアを叩け!」
ガラップとルーヴは頷いた。
ルーヴは一歩前に出て、自分で発明した大きいレーザー銃を構え、魔法生命体の軍団を狙い撃った。
レーザー光線は魔法生命体の軍団を貫き、辺り一面を破壊した。
「やるにゃ〜!」
「でも、パワーを溜めるのに時間がかかるんだ。
姉ちゃん、敵が家に近寄ってきたらコレ使って!その頃にはフルパワーだと思う」
「わかったわ」
ルーヴは大きいレーザー銃を置き、小さな銃を二丁とマシンガンを持って、魔獣を引き連れて戦場に向かった。
ルーヴはマシンガンを脇に担ぎ、撃ちまくる。
「銃の腕前、見とけ…」
空いている片手としっぽを使い、それぞれに銃を持ち、撃った。
「ルーヴ様、カッコイイですわ!」
「ラミ、早く戦え!」
ディブのツッコミに耳を貸さず、ラミはルーヴばかりを見ていた。そんなラミに魔法生命体が襲い掛かる。
「邪魔!ルーヴ様が見れないじゃないの!!」
ラミは特大ハンマーで魔法生命体を一気に薙ぎ払った。
「オレ達も負けられないな!おらぁ!!」
ディブは鋭い爪で魔法生命体を倒した。ベルは長い鞭で魔法生命体を倒した。
魔法生命体は倒れるが、次々と新しい魔法生命体が迫ってくる。
ガラップは素早い動きでヴィリアのところに赴いた。
「…あら、兎さん。私と遊びたいの?でも、ごめんね」
ヴィリアは無表情で鎌を取り出した。
「消えて」
ヴィリアは鎌が紫色に光るのを確認し、その鎌を地面に刺した。地面は変色し、草は枯れていく。そして、同じ鎌を何個も作り出し、ガラップを狙う。
ガラップは素早い動きで避け、小さく呪文を唱えた。地面から太い植物の蔓が生え、鎌を捕まえた。そして、蔓は鎌とともに石と化した。
ギャランは焦りを覚えた。ルーヴ達は数が多すぎて手に負えず、漏れが出ている。ガラップは今のところ互角に戦っているが、いつやられるかわからない。
「ド・クワロフ、前線で戦えニャン。お前ならできる!」
「わい、怖いワン…」
「お前は力が強いニャン!自信を持て」
クワロフは意を決して、ルーヴ達のところへ走った。そして、魔法生命体を薙ぎ倒していく。
「おいらはビ・ガラップの援護に行くから、拠点の守護を頼むニャ」
ギャランはそうリヴに告げた後、戦場へ走っていった。
「猫ちゃんも遊びに来たの…?」
ヴィリアは、石化した蔓を魔法で破壊した。
「あなたも…消えて」
ヴィリアは指を鳴らした。周りの石や岩が浮遊し、ガラップとギャランに向かって飛んでいった。
ガラップとギャランは高く跳び、岩の上をちょこまかと走る。そして、ギャランがヴィリアの下から炎、ガラップがヴィリアの上から雷の魔法を放った。
ヴィリアはあらかじめ、身体の周りにシールドを張っていたので、ダメージはない。
「シールドが見えたニャン!闇魔法、くらえっ!!」
ギャランの手から闇が一気に溢れ出て、シールドを貫き、ヴィリアを襲う。しかし、ヴィリアは余裕の笑みを見せた。
「天使は闇魔法に弱い。でも…私は違う」
ヴィリアは闇をはねのけた。そして、魔法で暗黒の手を出した。
「あれに捕まると厄介だにゃ…」
ギャランは迫る手を避けながら、破壊魔法を繰り出した。ヴィリアのシールドがガラスのように割れると、すかさずガラップが波動を出す。
「…………邪魔」
ヴィリアは目を光らせた。その途端、ギャランとガラップは吹き飛ばされた。
「まだまだやるニャン!行くぞ、ビ・ガラップ」
ガラップは頷いた。
リヴはつまらなそうな顔をしていた。
「アタイも戦いたいなぁ」
「どうして戦いで解決しようとするのです?」
「相手が話し合いで納得するはずないからよ。…来た!」
魔法生命体の軍団はどんどん家に迫ってきた。リヴはレーザー銃を持ち、フルパワーなのを確認し、撃った。
魔法生命体の軍団は一気に爆発に巻き込まれ減るが、また新たな魔法生命体がやってくる。
「やっぱ直接戦うしか…、うぐっ?!」
リヴは冷や汗をかき、脇腹を抑えた。
どうしよう、ネルがそう思ったその時だ。
「ネル…」
ヴィリアの声だった。
「あなたの魂と引き換えに、戦いを止めてあげる。だから、おいで…」
ネルは立ち上がり、家を出た。
「ちょっ、どこ行くの?」
ネルはリヴに向かって、笑顔を見せた。
「ネル、ヴィリアちゃんのところに行きます、なのです」
リヴは止めようとしたが、ネルは行ってしまった。