天魔(エンビル)

□秘めた心
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ネルは、周りに沢山のモニターと機械が設置されている部屋に連れて来られた。

「ここは…どこです?」

「魔力コントロールセンター、最上階です」

カツ、カツと靴の音が聞こえる。振り返ると、ヴィリアがいた。銀髪に白い肌、しわ一つ無い黒いドレスに身を包んだその姿は、まるで綺麗な人形のようだ。

「どうぞ、座って下さい」

いつの間にか、一人用のソファーが向かい合って置いてあった。
ネルはその片方のソファーに座った。ヴィリアも、もう片方のソファーに座った。

「話とは、何です?」

「リヴちゃんに、私の話…聞いたの?」

ネルは頷いた。

「ヴィリアちゃんは堕天使で、天使が嫌いと聞きました、なのです」

ヴィリアは少し俯いた。

「確かに私は堕天使です。でも、天使嫌いではありません。ネルちゃんを友達だと思っています」

「本当です?良かったです!リヴちゃん、勘違いしていたようです」

ヴィリアは横に首を振った。

「勘違いではありません。わざと嘘をついたのです…。私を一人だけにするために…」

「えっ?!」

ヴィリアは涙を流した。

「堕天使になってから、寂しかった。リヴちゃんと友達になりましたけど、嫌われているんです…。ネルちゃんと友達になったら、それに嫉妬して…リヴちゃんはどうにか私を引き離そうとしているんです…!」

ヴィリアはとうとう泣き崩れた。ネルは立ち上がり、ヴィリアに寄り添う。

「泣かないで下さい、なのです」

「ネルちゃん、私達、お友達ですよね?私を信じて下さい…」

ネルは困惑した。リヴとヴィリア、どちらかが嘘を言っている。友達のリヴとヴィリア、どちらも疑いたくない。

「それとも…、リヴちゃんを信じるのですか?嘘つきな悪魔を…信じるのですか?」

ネルはリヴの言葉を思い出した。

「二つの間の答えなんて、ない!」

本当に間の答えがないの?本当に?
どちらかを選べば、疑ったことになってしまう。どちらかの友達を傷つけてしまう。そんなの…嫌だ!

「ネルは…、決めました、なのです」

ネルは笑顔になった。

「自分の力で、真実を見つけます、なのですっ!」

ネルはソファーに座り、目をつむる。その途端、ヴィリアは焦りを覚えた。

「ヴァンプ、ネルを止めて!」

「は…い……」

ヴァンプのしっぽの水晶玉が輝いた。そして、水晶玉から闇が湧き出た。

「暗や…みの…夜……に眠…れ……」

闇はネルを覆いかぶさろうとした。しかし、闇はネルを拒絶する。

「ヴィリア……様…」

「何故、今日も…?」

ネルは目を開いた。その瞳は焦点が合っていない。

「もう無理ね…。魂は誰かの中に入ったわ」

「ヴァンプ…わ…から……ない…」

「私とは別の方法で、人の心を読んでいるの。自分の魂を人の心の中へ入れる高等魔法。
この魔法はね、相手が心を閉ざしていても入り込むことができる。その代わり、自分の魂が帰って来ないリスクが高い。悪魔や堕天使の大抵が、心を閉ざしていることを知っていたのね…、この子」

ヴィリアはネルを見つめた。



リヴは、塔の最上階を目指し飛んでいた。

「ネルの魔力が小さくなっていくわ…。早くしないと!」

リヴは汗だくになりながら、最上階のコンピュータルームにたどり着いた。

「ハァ…ハァ…、ネルっ!」

リヴはドアを力付くでこじ開けた。
部屋の中には、座っているネルと立っているヴィリアがいた。

「リヴ…、ネルが死んじゃった」

「なっ?!」

リヴはヴィリアに殴り掛かろうと拳を握った。ヴァンプがすぐさま現れ、リヴの前に立ち塞がった。

「ヴィリア様…、き…ずつ…く……、ダメ……!」

ヴァンプは突風を起こした。リヴは風に押され、壁にたたき付けられた。

「ヴィリア、ネルに何をした…?」

「ネルが勝手にしたことよ…」

ヴィリアは、ネルの座っているソファーを動かして、リヴに見せた。

「魂が抜けた人形は、はたして何を持って帰るのかしらね…?」

ネルの目は少し潤んでいた。




ここは…どこです?

「勉強なんてやだやだ!!」

あれは…誰です?

「こんな家、出て行ってやる。アタイの好きなことばっかりやってやるんだから」

あ、こっちに来たのです

「アタイ、素直になるのが苦手なの。でも…、今なら言える。ネル、ありがとう!
アンタが来るべき所はここじゃない」

…リヴちゃん、どこに行くのです?

「何を見ても、あなたの信念を崩さないで。堕ちた心を救ってあげて」

リヴちゃん?リヴちゃん!?行かないで下さい、なのです。リヴ…ちゃん……



あれ?女の子が泣いていますです

「赤い目なんて…気持ち悪い」

「悪魔だ、悪魔の子だ!」

そんなこと言わないで!

「きゃ、来ないで」

「この…悪魔っ!!」

いやだ、いやだ、いやだ!みんな…嫌い!!

…嫌い?

みんなで私を苦しめる
一人、一人ただ一人…

強くならないと、弱いと悪魔の餌食になる

みんな…信じられない!自分がすべて!

自分がすべて…?自分だけ?

「そうか…、ヴィリアちゃんは……」




ヴィリアは心に違和感があった。何かが入り込んでいる感覚だ。

「まさか…やめて!私の心を読むなっ!!」

ヴィリアは魔法で大きな鎌を取り出し、振りかぶる。
リヴはすぐさまヴィリアの前に立ち、ネルを庇った。

「どいて。邪魔…、邪魔なの…。邪魔…邪魔、邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔!邪魔ーっ!!」

ヴィリアは鎌を振り下ろした。その鎌の刃は、リヴの腕に刺さる。

「悪魔は回復能力ないけど、身体が頑丈なの。アタイを真っ二つにできるならやってみなっ!」

ヴィリアはリヴを睨み付けた。

「ヴァンプ!」

「わ…かってい……ます…」

ヴァンプは長い舌を出した。その長い舌でリヴをぐるぐる巻きにし、引っ張った。

「ぐっ!?ぬいぐるみに負けないわよ…」

リヴは持っていかれないよう、踏ん張った。

「勝つ…つ…もり……ない…」

ヴァンプは急に舌の力を弱めた。リヴは後ろに思い切り尻餅をついた。

「死ね…」

ヴィリアはネルを狙って、鎌を振り下ろしたその時だった。
ネルは光に包まれ、その光が鎌を防いだ。

「魂が…戻った……?そんなバカな…、だって…」

ネルは涙を流した。

「ヴィリア…ちゃん?」

「ネル、危ないわよっ!」

ヴィリアは無表情で鎌を振り下ろした。間一髪、リヴが立ちはだかり、盾となった。リヴの腕に血が滴る。

「とにかく、逃げるしかなさそうね…。ネル、立って!」

ネルは涙を流すだけで動かない。

「ネルっ?!」

「一時的に魂が抜けていたから、しばらく動けないし、意識も朦朧としてるはず」

リヴはネルに気を取られ、ヴィリアに背を向けていた。鎌の刃がリヴを襲う。

「うぐぁっ?!!」

リヴは横に倒れ込み、うずくまった。脇腹を深くえぐられたのだ。

「みんな…消えちゃえ」

ヴィリアはリヴの首を狙い、鎌を振り下ろした。

「ちょっと待ちやがれ、かわいこちゅわ〜ん!」

何者かが猛スピードで鎌を蹴飛ばし、リヴを守った。

「ト・ギャラン…、き、来てくれた…の?」

「にゃかま集めるのに時間がかかったニャ」

ギャランがそう言うと、兎、犬、鳥が入ってきた。

「ビ・ガラップとハ・ピトローは敵を止めろ!ド・クワロフとおいらは怪我人の介抱!」

兎のガラップはヴィリア、鳥のピトローはヴァンプと戦った。犬のクワロフはネルの様子を伺う。

「この子大丈夫かいな?なんや、ボーッとしてはりますワン」

「魔法を使ったんだろう。ゆっくり運ぶニャン!」

クワロフは持ち前の力で、ゆっくりネルを抱き上げた。

「こいつはひどいケガニャ…。動かすから少し痛むけど、我慢するニャン」

「わかってるわ…。うぐっ!!」

ギャランはリヴを抱き上げた。

「よし、逃げるニャー!」

「了解だぜ、兄貴!」

ピトローは高速で飛び、魔界の魔力を正常に戻した。皆が一斉に指を鳴らし、テレポートをした。

「…………」

ヴィリアは、口元を吊り上げた。




「……?」

「気がつきはったワン!!」

ネルは起き上がった。周りを見渡すと、どこかの家の中のようだ。

「やあ、ネル」

「ルーヴくん!」

ルーヴは笑顔で手を振る。

「ここは…ルーヴくんの家です?」

「そうだよ。姉ちゃんは隣の部屋でケガの治療中」

ネルは俯いた。

「申し訳ありませんが…、ネル、一人になりたいです」

「わかった。ド・クワロフ、出よう」

「ワン!」

ルーヴとクワロフは部屋を出た。

「ヴィリアちゃん…」

ネルは静かに泣いた。




「あいたたたっ!!もうちょっと丁寧に塗りなさいよ」

「………」

ガラップは、リヴに治療薬をたっぷりと塗り込んだ。

「ギャーー?!だから痛いってのっ!!」

「ビ・ガラップ、もう十分塗ったニャン」

ギャランがガラップを止め、リヴの傷の様子を見た。

「脇腹がひどいニャ。治るどころか、どんどん酷くにゃってる…。薬を飲むことニャ。この薬はあらゆる毒に効く優れ物!」

「やっぱ、毒のせいなのね」

リヴは薬を受け取り、口に入れた。その途端、顔をしかめる。

「苦い…」

「良薬口に苦し、だニャン。安静にしていれば、じきに治ると思うニャ」

リヴはため息をつき、隣の部屋の方向を見た。

「なんか…この数日でいろんな騒動になっちゃったわね」





銀色の髪をなびかせ、ヴィリアは空を見据えた。

「ネルは私の心を読んで、一体何を思っているのかしら?」

「同情…、哀れ…み」

ヴィリアは冷たく微笑んだ。

「ネルの魂、頂こうか」

「は…い……」

赤い瞳が妖しく光る。

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