天魔(エンビル)
□秘めた心
1ページ/2ページ
「う〜ん…」
「ジェル!」
ネルの笑顔が、ジェルの目に映る。
「ネル様…あれ?僕……」
「一日中、眠っていたんですよ!起きてよかったですぅ!!」
ネルはジェルを抱き上げた。
「えっと…、記憶が曖昧なんですけど…」
ネルはジェルを助け出した時のことを話した。
「僕、冥界にいたんですか?!あっ、でも…悪魔に会ってるかも」
ネルは首を傾げた。
「確か…、そう!あの悪魔が…リヴが、僕を抱きかかえて走っていました。その後は…すみません、覚えていません…」
「リヴちゃんは…、もしかするとジェルを助け出そうとしてくれていた…です?」
ネルは魔石を持ち、立ち上がった。
「ネル、もう一度冥界に行くです!」
「ならば僕も… 」
「ジェルは起きたばかりです。それに、冥界の空気はジェルにとって良くないものです。休んでて下さい、なのです」
ネルは弓と魔石を持っているのを確認し、急いで出発した。
「お礼を言わないと、そして…謝らないといけないのです!」
ネルの瞳は、決意の色に染まっていた。
「姉ちゃん、それ引きこもりっていうんだよ!いい加減、部屋から出て来れば?」
「うっさいわね!」
ルーヴは、リヴがなんで悩んでいるのかはわかっていた。ネルのことだ。
「僕、知ってるよ。ネルは姉ちゃんに嫌われても、きっと姉ちゃんのところに来るよ。ネルがこの冥界に来ちゃって、傷ついても良いの?」
リヴは黙っていた。
「もう…知らな〜い」
ルーヴは家を出て、どこかへ行ってしまった。
「………ハァ」
リヴはため息をつき、立ち上がった。
魔界に入ったネルは、次に冥界への扉を開こうとした。
「リヴちゃん…、やっぱりネルのこと嫌いなのです?」
冥界に行くかどうか、迷っているのだ。嫌われているなら、会いに行かない方がいいのでは?相手の迷惑になるのでは?
「……でも、きちんと感謝と謝罪をしないと…後悔するのです!行きます、なのです!!」
決意したその時、リヴが急に現れた。
「キャッ!?」
「えっ?!」
二人はただポカンと目を見つめ合った。
「なんでアンタ、ここにいるの?」
「ネルは…、ネルは、リヴちゃんに会って、話をしたかったのです!」
ネルは息を吸い、切り出した。
「リヴちゃん、ジェルを助けようとしてくれてありがとうございました、なのです!
そして、ネルはジェルを選んでしまいましたです。ドジでリヴちゃんを困らせたです。…ごめんなさい、なのです!!」
ネルは涙を流した。
「どんなに嫌われてもいいです。でも、ネルはリヴちゃんが好きです。わがままでごめんなさい、でも…、ネルはリヴちゃんのお友達でいたいのです!ダメです…?」
「…一つ、聞いていい?」
ネルは頷いた。
「アタイと出会って後悔してない?」
ネルは当然のように言う。
「全く後悔なんてしていません、なのです!」
「ふ〜ん…。なら言っておくわ。今後、アタイと関わらないで」
ネルは目を見開いた。
「どうしてですっ?!」
「後々、アタイと関わることで後悔するわよ。何故かって?アタイがアンタをいじめるから」
ネルは首を振る。
「リヴちゃんは優しいです、良い悪魔です!」
「今は、ね。アタイが優しい内に帰った方が良いわよ」
「いやです」
リヴはフォーク型の槍を魔法で取り出し、構えた。
「タイムオーバー!帰れってわざわざ言ってあげてんのに、頑固ね…。いじめてあげるっ!」
リヴは槍を振り回した。しかし、ネルは微動だにしなかった。
「ネル、逃げませんです」
「あら、そう?じゃ遠慮なく」
リヴは、槍でネルの腕を突き刺した。
「っ!!」
「痛い?ほら、喚いていいのよ」
リヴは槍でネルに打撃を与えた。さらに、拳を握り、ネルの頬を殴る。ネルは倒れてしまった。しかし、すぐに立ち上がり、リヴを見つめた。
「ほらほらっ!もっと泣け、叫べ、喚け!」
リヴは槍を仕舞い、殴り続けた。ネルは一向に動かない。痛そうな表情は浮かべるが、真剣で目が据わっている。
「なんで?どうして?痛いはずよ。何故そんな顔できるの?おらっ、弱音吐いちゃえば?!」
ネルは何も言わない。ただ耐えるだけ。
「こんなアタイを、まだ好きでいるの?嫌いじゃないの?」
ネルは笑顔になった。
「ネルはリヴちゃんが大好きです」
その一言が、リヴの心に響いた。
「何で…何で嫌いになんないのよ!」
リヴはネルを殴った。しかし、その力は先程よりも弱い。リヴの目に涙が溜まる。
「アタイ……」
リヴは膝をつき、涙を流した。
「ネル……、う…ぐすっ……」
ネルはリヴを抱きしめた。
「ネルは知っていますです。本当のリヴちゃんは優しいのです。ただ、その優しさを出すのが苦手なだけです…」
しばらくの間、ネルはリヴを抱きしめたままでいた。
「あ〜あ、アタイらしくもない!アンタの前で泣いちゃうなんて」
「いいじゃないですか!ネルもリヴちゃんの前で泣きました、なのです」
リヴはネルを睨んだ。
「あのね、悪魔はプライドがあるの。人前で涙を見せるのは恥!わかる?」
ネルはパチクリとまばたきした。
「何となく…わかりましたです」
「…それより、ケガ大丈夫?…って、アタイがやったんだけど。
アタイね、回復魔法使えないのよ…」
ネルはケガをしている部分を見た。もう出血はない。
「しばらくすれば、完全に治りますです。心配はいりません、なのです」
リヴは天使の回復力に感心するのだった。
「そういえば、リヴちゃんはどうして魔界に来たのです?」
「……ネルに伝えなきゃいけないことがある。聞いて!」
ネルは耳を傾けた。リヴは真剣な顔になり、語り始めた。
「ネルをどん底にまで傷つけようとしてる奴がいる。
信じられないかもしれないけど、ヴィリアなのよ」
「ヴィリアちゃん…が?」
リヴはよりいっそう真剣な表情になる。
「ジェルを操り、ネルを傷つけ、ジェルをさらい閉じ込めて、アタイとジェルを選べ、な〜んていやらしい選択を持ち込み、ネルを闇に取り込もうとした。すべてヴィリアのせいなの」
ネルは少し考えた。
「何故です?ネル、嫌われているのです?」
「アタイもよく知らないけど、天使そのものが嫌いみたい。あの子、羽根が欠けてる天使だから、いじめられてたんじゃない?」
「ヴィリアちゃん、天使だったです?!」
リヴはネルを見つめた。その表情には驚きと呆れが見えた。
「…知らなかったの?」
「リヴちゃんのお友達なので、魔界の人かなと思ってました、なのです」
リヴは少し拍子抜けしてしまった。
「冥界に落とされた、いわゆる堕天使よ。何か罪を犯したんだと思う」
ネルは立ち上がった。
「ヴィリアちゃんに会いますです!」
リヴは、はぁ?!と声を荒げ、ネルの目の前に立った。
「アンタ、バッカじゃないっ?!自ら茨道行こうとしてるのよっ?!!」
「ネルはヴィリアちゃんも大好きです。直接会って話します、なのです」
リヴはため息をついた。
「しょうがないわね。ヴィリアは冥界にいる。一緒に行きましょう」
リヴはネルの手を握り、指を鳴らした。しかし、何の反応もない。もう一度、指を鳴らす。
「なんで冥界に戻れないの?!」
「扉はどうです?」
冥界へ通じる扉は、びくともしない。
二人は、魔界に閉じ込められたのだ。
「どうします…です?」
「アタイについて来て!ト・ギャランに情報を貰いに行くわよ」
リヴはネルとともに、魔界にある町へ向かった。
ギャランの情報屋の前に来た二人は、早速中へ入る。
「ト・ギャランの情報屋敷へようこそニャン!今日も二人とも可愛いにゃ〜」
ギャランは頬を赤らめ、鼻の下を伸ばした。そんなギャランを無視し、リヴは切り出した。
「さっそく情報が欲しいのよ。実は…」
リヴは事情を説明した。
「…恐らく、魔界の魔力に変化が起きたんだニャン」
事情を聞いたギャランは、魔界の地図を出す。
「魔界の真んにゃかに、魔力コントロールセンターがあるニャ。そこに行けば、にゃにかわかるはず…」
「ありがとうございます、なのです!ギャランさん」
「ト・ギャランだニャン!きちんとフルネームを呼ぶのが礼儀だニャ…って、前にも言ったニャン」
「ご、ごめんなさいですっ!ト・ギャランさん」
リヴはクスリと笑った。
ネルとリヴは早速、魔力コントロールセンターに向かって飛び立った。
「敵……発見…、ほ…うこ…く…」
つぎはぎの目がギョロリと光る。
とても高い塔にたどり着いた二人は、地に降りて様子を伺う。
「あんまり変化はなさそうよ。でも、慎重に入りましょ」
「空から飛んで入れますです?」
リヴは塔の頂上を眺めた。薄い半透明の壁が浮いている。
「入れるなら二手に別れたいところだけど…、セキュリティが働いてるわ」
二人は中に入った。広いホールなのに、人が全くいない。
ホールの中央にはエレベーターがあるが、起動していない。
リヴは翼を広げた。
「上の階へ行くわよ」
ネルも翼を広げた。その時、銀髪の少女がネルの後ろに立っていた。
「ネルちゃん…リヴちゃん…」
「ヴィリアっ!」
ネルは動く間もなく、ヴィリアに捕まった。
「あなたとだけ…、話したいのです。一緒に来て下さい」
ヴィリアはネルを連れて、テレポートした。リヴは舌打ちをする。
「油断した…。まさかここにヴィリアがいるとは…」
リヴは上の方を見上げた。