天魔(エンビル)

□秘めた心
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「う〜ん…」

「ジェル!」

ネルの笑顔が、ジェルの目に映る。

「ネル様…あれ?僕……」

「一日中、眠っていたんですよ!起きてよかったですぅ!!」

ネルはジェルを抱き上げた。

「えっと…、記憶が曖昧なんですけど…」

ネルはジェルを助け出した時のことを話した。

「僕、冥界にいたんですか?!あっ、でも…悪魔に会ってるかも」

ネルは首を傾げた。

「確か…、そう!あの悪魔が…リヴが、僕を抱きかかえて走っていました。その後は…すみません、覚えていません…」

「リヴちゃんは…、もしかするとジェルを助け出そうとしてくれていた…です?」

ネルは魔石を持ち、立ち上がった。

「ネル、もう一度冥界に行くです!」

「ならば僕も… 」

「ジェルは起きたばかりです。それに、冥界の空気はジェルにとって良くないものです。休んでて下さい、なのです」

ネルは弓と魔石を持っているのを確認し、急いで出発した。

「お礼を言わないと、そして…謝らないといけないのです!」

ネルの瞳は、決意の色に染まっていた。




「姉ちゃん、それ引きこもりっていうんだよ!いい加減、部屋から出て来れば?」

「うっさいわね!」

ルーヴは、リヴがなんで悩んでいるのかはわかっていた。ネルのことだ。

「僕、知ってるよ。ネルは姉ちゃんに嫌われても、きっと姉ちゃんのところに来るよ。ネルがこの冥界に来ちゃって、傷ついても良いの?」

リヴは黙っていた。

「もう…知らな〜い」

ルーヴは家を出て、どこかへ行ってしまった。

「………ハァ」

リヴはため息をつき、立ち上がった。




魔界に入ったネルは、次に冥界への扉を開こうとした。

「リヴちゃん…、やっぱりネルのこと嫌いなのです?」

冥界に行くかどうか、迷っているのだ。嫌われているなら、会いに行かない方がいいのでは?相手の迷惑になるのでは?

「……でも、きちんと感謝と謝罪をしないと…後悔するのです!行きます、なのです!!」

決意したその時、リヴが急に現れた。

「キャッ!?」

「えっ?!」

二人はただポカンと目を見つめ合った。

「なんでアンタ、ここにいるの?」

「ネルは…、ネルは、リヴちゃんに会って、話をしたかったのです!」

ネルは息を吸い、切り出した。

「リヴちゃん、ジェルを助けようとしてくれてありがとうございました、なのです!
そして、ネルはジェルを選んでしまいましたです。ドジでリヴちゃんを困らせたです。…ごめんなさい、なのです!!」

ネルは涙を流した。

「どんなに嫌われてもいいです。でも、ネルはリヴちゃんが好きです。わがままでごめんなさい、でも…、ネルはリヴちゃんのお友達でいたいのです!ダメです…?」

「…一つ、聞いていい?」

ネルは頷いた。

「アタイと出会って後悔してない?」

ネルは当然のように言う。

「全く後悔なんてしていません、なのです!」

「ふ〜ん…。なら言っておくわ。今後、アタイと関わらないで」

ネルは目を見開いた。

「どうしてですっ?!」

「後々、アタイと関わることで後悔するわよ。何故かって?アタイがアンタをいじめるから」

ネルは首を振る。

「リヴちゃんは優しいです、良い悪魔です!」

「今は、ね。アタイが優しい内に帰った方が良いわよ」

「いやです」

リヴはフォーク型の槍を魔法で取り出し、構えた。

「タイムオーバー!帰れってわざわざ言ってあげてんのに、頑固ね…。いじめてあげるっ!」

リヴは槍を振り回した。しかし、ネルは微動だにしなかった。

「ネル、逃げませんです」

「あら、そう?じゃ遠慮なく」

リヴは、槍でネルの腕を突き刺した。

「っ!!」

「痛い?ほら、喚いていいのよ」

リヴは槍でネルに打撃を与えた。さらに、拳を握り、ネルの頬を殴る。ネルは倒れてしまった。しかし、すぐに立ち上がり、リヴを見つめた。

「ほらほらっ!もっと泣け、叫べ、喚け!」

リヴは槍を仕舞い、殴り続けた。ネルは一向に動かない。痛そうな表情は浮かべるが、真剣で目が据わっている。

「なんで?どうして?痛いはずよ。何故そんな顔できるの?おらっ、弱音吐いちゃえば?!」

ネルは何も言わない。ただ耐えるだけ。

「こんなアタイを、まだ好きでいるの?嫌いじゃないの?」

ネルは笑顔になった。

「ネルはリヴちゃんが大好きです」

その一言が、リヴの心に響いた。

「何で…何で嫌いになんないのよ!」

リヴはネルを殴った。しかし、その力は先程よりも弱い。リヴの目に涙が溜まる。

「アタイ……」

リヴは膝をつき、涙を流した。

「ネル……、う…ぐすっ……」

ネルはリヴを抱きしめた。

「ネルは知っていますです。本当のリヴちゃんは優しいのです。ただ、その優しさを出すのが苦手なだけです…」

しばらくの間、ネルはリヴを抱きしめたままでいた。



「あ〜あ、アタイらしくもない!アンタの前で泣いちゃうなんて」

「いいじゃないですか!ネルもリヴちゃんの前で泣きました、なのです」

リヴはネルを睨んだ。

「あのね、悪魔はプライドがあるの。人前で涙を見せるのは恥!わかる?」

ネルはパチクリとまばたきした。

「何となく…わかりましたです」

「…それより、ケガ大丈夫?…って、アタイがやったんだけど。
アタイね、回復魔法使えないのよ…」

ネルはケガをしている部分を見た。もう出血はない。

「しばらくすれば、完全に治りますです。心配はいりません、なのです」

リヴは天使の回復力に感心するのだった。

「そういえば、リヴちゃんはどうして魔界に来たのです?」

「……ネルに伝えなきゃいけないことがある。聞いて!」

ネルは耳を傾けた。リヴは真剣な顔になり、語り始めた。

「ネルをどん底にまで傷つけようとしてる奴がいる。
信じられないかもしれないけど、ヴィリアなのよ」

「ヴィリアちゃん…が?」

リヴはよりいっそう真剣な表情になる。

「ジェルを操り、ネルを傷つけ、ジェルをさらい閉じ込めて、アタイとジェルを選べ、な〜んていやらしい選択を持ち込み、ネルを闇に取り込もうとした。すべてヴィリアのせいなの」

ネルは少し考えた。

「何故です?ネル、嫌われているのです?」

「アタイもよく知らないけど、天使そのものが嫌いみたい。あの子、羽根が欠けてる天使だから、いじめられてたんじゃない?」

「ヴィリアちゃん、天使だったです?!」

リヴはネルを見つめた。その表情には驚きと呆れが見えた。

「…知らなかったの?」

「リヴちゃんのお友達なので、魔界の人かなと思ってました、なのです」

リヴは少し拍子抜けしてしまった。

「冥界に落とされた、いわゆる堕天使よ。何か罪を犯したんだと思う」

ネルは立ち上がった。

「ヴィリアちゃんに会いますです!」

リヴは、はぁ?!と声を荒げ、ネルの目の前に立った。

「アンタ、バッカじゃないっ?!自ら茨道行こうとしてるのよっ?!!」

「ネルはヴィリアちゃんも大好きです。直接会って話します、なのです」

リヴはため息をついた。

「しょうがないわね。ヴィリアは冥界にいる。一緒に行きましょう」

リヴはネルの手を握り、指を鳴らした。しかし、何の反応もない。もう一度、指を鳴らす。

「なんで冥界に戻れないの?!」

「扉はどうです?」

冥界へ通じる扉は、びくともしない。

二人は、魔界に閉じ込められたのだ。

「どうします…です?」

「アタイについて来て!ト・ギャランに情報を貰いに行くわよ」

リヴはネルとともに、魔界にある町へ向かった。


ギャランの情報屋の前に来た二人は、早速中へ入る。

「ト・ギャランの情報屋敷へようこそニャン!今日も二人とも可愛いにゃ〜」

ギャランは頬を赤らめ、鼻の下を伸ばした。そんなギャランを無視し、リヴは切り出した。

「さっそく情報が欲しいのよ。実は…」

リヴは事情を説明した。

「…恐らく、魔界の魔力に変化が起きたんだニャン」

事情を聞いたギャランは、魔界の地図を出す。

「魔界の真んにゃかに、魔力コントロールセンターがあるニャ。そこに行けば、にゃにかわかるはず…」

「ありがとうございます、なのです!ギャランさん」

「ト・ギャランだニャン!きちんとフルネームを呼ぶのが礼儀だニャ…って、前にも言ったニャン」

「ご、ごめんなさいですっ!ト・ギャランさん」

リヴはクスリと笑った。
ネルとリヴは早速、魔力コントロールセンターに向かって飛び立った。

「敵……発見…、ほ…うこ…く…」

つぎはぎの目がギョロリと光る。




とても高い塔にたどり着いた二人は、地に降りて様子を伺う。

「あんまり変化はなさそうよ。でも、慎重に入りましょ」

「空から飛んで入れますです?」

リヴは塔の頂上を眺めた。薄い半透明の壁が浮いている。

「入れるなら二手に別れたいところだけど…、セキュリティが働いてるわ」

二人は中に入った。広いホールなのに、人が全くいない。

ホールの中央にはエレベーターがあるが、起動していない。
リヴは翼を広げた。

「上の階へ行くわよ」

ネルも翼を広げた。その時、銀髪の少女がネルの後ろに立っていた。

「ネルちゃん…リヴちゃん…」

「ヴィリアっ!」

ネルは動く間もなく、ヴィリアに捕まった。

「あなたとだけ…、話したいのです。一緒に来て下さい」

ヴィリアはネルを連れて、テレポートした。リヴは舌打ちをする。

「油断した…。まさかここにヴィリアがいるとは…」

リヴは上の方を見上げた。
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