天魔(エンビル)

□究極の選択!
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「ここは…?!」

「シッ!黙って」

「悪魔…?なんで君が…」

「説明は後っ!今は逃げるのよ」


「逃がさない…」




ネルは窓の外を見ていた。ジェルは帰ってきていない。

「ジェル…、リヴちゃん…」

ネルは決意した。冥界へ行こうと。リヴに謝り、ともにジェルを探してもらうよう、頼むつもりなのだ。

魔法書と護身用に弓を持ち、ネルは飛び立った。



「………!」

荒屋をあさっていた一人の少年天使は、飛んでいるネルがもつ魔法書に目をつけた。

「高級な魔法書じゃないか!ふ〜ん」

少年は気付かれないように、ネルについていく。



「ここで、えっと…、魔界の道を開くのです」

ネルの目の前に不思議な扉が現れた。

「これで良いのです!」

「こんにちは、お嬢ちゃん」

ネルが振り向くと、そこには帽子をかぶり、オシャレな服装をした、緑色の髪の少年天使がいた。

「はじめまして。僕はウィンドル・スラウト!ウィンと呼んでくれて構わない。君は?」

「ネルと申します、なのです。よろしくお願いしますです!」

互いにお辞儀した。

「ネルちゃん、どこに行くの?」

「冥界なのです」

ウィンドルは感心したように頷いた。

「へぇ!冥界に?一人で?凄いね。どうして?」

「ネルのお友達の所に行くのです」

「冥界に友達?その子の所にはよく行くんだ?」

ネルは首を横に振る。

「初めていくのです。冥界自体も初めてなので、少し緊張してますです」

「冥界は初めてなんだ。魔石は持っているのかい?」

ネルは首を傾げた。

「魔石…?」

ウィンドルは右手に持つ石を見せた。その石は光っている。

「この魔石がないと、冥界に入った途端…悪魔になっちゃうんだ」

「し、知らなかったのです!ウィン君、教えてくれてありがとうございます、なのです!貰ってもよろしいです?」

ウィンドルは魔石と魔法書を見比べた。

「この石は高価な物なんだ。だから、そう簡単には渡せないな…。
その魔法書、もしかして女神様が書いた珍しいものじゃない?それとなら交換するよ」

ネルは考えた。魔法書は母親から貰ったもの、魔法を使うために必須のもの。中身はほとんど覚えているが、やはりネルにとっては大切なものだ。しかし、魔石がないと悪魔になってしまうらしい。

どうしよう…?


ネルは決めた。

「ネル、交換したいです!」

「わかった」

ネルとウィンドルは、魔法書と魔石を交換した。

「ありがとうございます、なのです!行って参りますです」

「気をつけて」

ネルは扉をくぐり、魔界へ行った。

ウィンドルは魔法書を開いて眺めた。

「やっぱり、高価な物だ!ただ光る石なんかを持ってて、本当によかった」

ウィンドルは嬉しそうな笑顔で飛び去った。




ネルは魔界を通り、冥界へ進んだ。
冥界は亡者の魂がうようよとさまよい、たくさんの悪魔が徘徊している。

リヴちゃ〜んと、大声を張り上げながら、ネルは周りを見渡した。

「おい、なんで天使が俺様達の世界にいるんだ?」

明らかに恐そうな悪魔が、ネルを睨む。それに気づいたネルは、すかさず尋ねる。

「あの、リヴちゃんがどこにいるか知りませんです?」

「はぁ?そんなの知らねぇよっ!」

悪魔はいきなり攻撃を仕掛けてきたので、ネルはすかさず避けた。

「ネルに戦う意思はありませんです!」

「俺様にはあるんだ」

次々に悪魔が寄ってきて、ネルは悪魔に囲まれてしまった。

「は、話を……」

「問答無用!」

ネルは仕方なく、弓を取り出し構えた。
その時、一人の少年悪魔がネルの前に現れた。

「ネル!」

「ルーヴ君!」

「姉ちゃんの居場所、教えてあげる。僕の側に来て!」

ネルはルーヴに近づいた。ルーヴはすぐさまネルを連れて逃げる。

「待てっ!!天使をかばうとはどういうことだ?!」

「うざいな…」

ルーヴは持っていた銃で、追ってきた悪魔を撃つ。

「撃ってはダメです!」

「この際、仕方ないよ。…それより、姉ちゃんのことだ」

ネルはルーヴとともに逃げながら、話に耳を傾けた。

「昨日、姉ちゃんがひっそりと家を出て行ったから、不思議に思った僕は姉ちゃんを尾行した。そして、姉ちゃんは誰かの屋敷に入って、そのまま出てこないんだ…。
お願い、一緒に姉ちゃんを助けて!一人じゃ無理なんだ」

ネルが頷くのを確認したルーヴは、案内した。



ネル達はお城のような屋敷にたどり着いた。

「これは通信機。耳に付けて」

ネルは小型の機械を耳に付けた。

「どっちが中に入る…?潜入するのは難しい仕事だから、僕が行こうか?」

「いえ、ネルが行くです。何となく、ネルが行かないといけないような気がするです」

「わかった。通信が途絶えたら、僕もすぐ行くよ」

ネルは慎重に屋敷へ近づいた。門は開いておらず、窓も閉まっている。しかし、一つだけ開いている窓があった。

「入りますです」

[了解]

ネルがその窓から入ると、そこはまるでお姫様のようなメルヘンな部屋だった。その部屋を出ると、廊下だった。

「リヴちゃんの魔力が感じられないです…。でも、大きな魔力が側にあります、なのです」

[もしかすると、その部屋にいるかもしれないね。行ってみて]

「はいです」

ネルはゆっくりと進んだ。妙に静まり返っている。

「ネルちゃん」

「へっ?」

振り返ろうとしたネルは、目の前が真っ暗になった。



「ネル?…ネル!応答して、ネル?!」

ルーヴは何回もネルの名前を呼んだが、返事がない。

「ネル、僕も侵入する」

「…入らない方が身のためよ」

通信はブチンと切られた。

「あの声は…確か…、ヴィリア?」





ネルが気が付くと、そこには目を疑うほどのひどい光景が待ち受けていた。

リヴは牢屋に入れられ、手足を鎖で繋がれ、あちこちにケガをしている。意識はあるようだが、ネルに気づいていない。

「……っ!?リヴちゃん!!」

リヴの隣の牢屋には、ジェルがいる。ケガはしていないが、気絶している様子だ。

「ジェル…!なんでここに?」

ネルは辺りを見渡し、鍵を探した。

「ようこそ、ネル・ジェーン」

聞き覚えのない声がする。

「ネル・ジェーン、君が助けたい方の鍵を与えよう。選びなさい」

「両方の鍵を下さい、なのです」

「それは無理だ。この牢屋は、片方を開けると片方はもう二度と開けることができなくなる。どちらかしか助けられないのだ」

ネルはリヴとジェル、両方の顔を見た。

「どちらかを選ぶなんて…できないのです!」

「選ぶのだ!嘘つきの悪魔か、堅物の妖精か」

ネルはもう一度、リヴとジェルの顔を見た。

「…ネル」

「リヴちゃん?!」

リヴは少し顔を上げた。

「何やってんの…?さっさと妖精選びなっ!」

「でも…」

「アンタ、妖精にとても感謝してるんでしょ?」

ネルは首を横に振る。

「リヴちゃんを犠牲にしたくありません、なのですっ!選ぶなんて…」

「甘ったれたこと言うなっ!選択しなくちゃいけない時、…どうするの?二つの間の答えなんて、ない!」

「リヴちゃん…、でも…」

リヴは声を荒げ、怒鳴った。

「ネルってほんとじれったいわね。それに、強引にアタイをコーディネートするしさ、泣き虫だしドジでバカ!
アタイ、ネルなんて大嫌い…、本当に大っ嫌い!!アンタはアタイのこと友達と思ってるけど…、アタイはアンタのこと、何とも思ってない。単なるいたずら対象!わかる?アタイは悪魔よ!天使なんて好きになんてなれないわ」

ネルは目に涙を溜めた。

「リヴちゃん、ネルのこと、本当に嫌いです?」

「出会った頃から今まで、ずっと嫌い。何度でも言ってあげるわっ!大っ嫌い!!」

ネルは涙を流した。そして、俯いた。

「……わかりました、…です」

ネルは見上げた。

「ネルは…、ネルは、ジェル……、ジェルを…」

「ちょっと待って!!」

壁を突き破り、突然ルーヴが現れた。

「声は嘘を言っている。牢屋はどちらを選んでも開かない!ネルが捕まるだけだっ!!」

「そうなのです?!」

「僕が檻を壊すよ」

ルーヴは、急いでジェルとリヴの牢屋を壊した。
ネルはジェルを抱き上げ、ルーヴの様子を見る。

「大丈夫です?」

「なかなか…鎖が固くて…」

「アタイは大丈夫よ、ルーヴ。早く逃げて!」

ルーヴは少しためらったが、頷いた。

「行こう」

「リヴちゃん、本当に大丈夫です?」

リヴはネルを無視し、ルーヴに早く逃げるよう催促する。ネルは悲しそうな表情で、ルーヴについて行った。

逃げる道中、ネルはルーヴに笑顔を見せた。

「ルーヴ君、助けてくれてありがとうです」

「こちらこそ…ありがとう。もしネルの魔力が強くなかったら、探せていなかったよ」

ネルもルーヴも、笑顔になった。

「ネルちゃん…」

「へっ?」

ネルは振り返った。そこには、ヴィリアがいた。

「た…、たす…け…て」

「今行くですっ!」

ネルはヴィリアのところへ行こうとしたが、ルーヴに止められた。

「何やってんの?!」

「えっ、でもあそこに…」

「闇に呑まれてしまう!」

その時、闇がネルを覆いかぶさろうとした。しかし、闇はネルを拒絶している。

「闇がこない…?どうして?まぁいい。僕はネルを無理矢理にでも連れていく!」

「ヴィリアちゃーん!」

もう闇の中にヴィリアの姿はなかった。



抜け出すことができたネルとルーヴは、屋敷を見上げた。
屋敷はどんどん変形し、最後には消えてしまった。

「リヴちゃん、無事に抜け出せたです?」

「姉ちゃんなら大丈夫だよ、きっと」

屋敷があった場所から、何かが勢いよく飛び出した。それはじきに地へ落ちていく。

「あれは…リヴちゃん?!」

ネルは落ちるリヴを受け止め、一緒に地面へ落ちた。砂埃が舞う中、ルーヴは二人の無事を確認した。

「姉ちゃん、ネル、二人とも大丈夫?」

「ネルは平気です。でも、リヴちゃんは気絶してますです…」

「脱出するのに、相当魔力を使って疲れたんだね。ケガもしてるし、僕は姉ちゃんを家に運ぶ。
ネル、君は天使だ。さっさと帰った方がいい」

ネルは首を横に振る。

「リヴちゃんが心配です。残ります、なのです」

ルーヴはジェルを見つめた。

「いつ悪魔に襲われるかわからないし、早く妖精を天界へ帰した方がいい。冥界の空気は、妖精の毒だ」

ネルは抱いているジェルを見た。表情は少し苦しそうだ。

「ルーヴ君、今日は本当にありがとうございました、なのです!また会いましょう、なのです」

「うん、また」

ネルは飛び立った。

「姉ちゃん、本当に嘘つきだね。どうして気絶したふり、してたの?」

リヴは目を開き、ため息をついた。

「ネルに大嫌いって言ったの。あわせる顔がないわ…」

「ネルも、姉ちゃんにあわせる顔がないことだろうね」

「……疲れたわ。帰りましょう」

ルーヴはリヴを支えながら、飛び立った。




「闇が来なかったのは、魔石のおかげなのですね!」

ネルは光る魔石を見て、やっとわかった。

「どうりで魔石が熱いな、と思ったのです」

ネルは、ジェルを寝かせたベッドの隣に魔石を置いた。

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