天魔(エンビル)
□ネルとリヴが決闘?!
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「ネル様…、魔法以外のことでもドジるのは、どうかと思いますよ」
ネルはホワイトクリームケーキを作ろうと、まずスポンジケーキの生地から作ったのだが、泡立てすぎたり、転んでこぼしたりとドジを繰り返していた。
「ジェルがうるさいからです!」
「僕のせいにしないで下さいよ!」
ネルは、クリームの入ったボールをジェルに投げつけた。ジェルはボールに直撃してしまった。
「いった〜っ!!ベトベトになったじゃありませんかっ!」
「ジェルなんて、…大嫌いなのです!!」
ネルは家を飛び出した。
ネルの一番気にしていること、それは自分のドジだ。魔法も料理も、その他のことでも、ドジを踏んでしまい、ネルはがっかりしていた。
「ネルは…どうして…」
ネルは涙を流した。
リヴは天界に来ていた。ネルに何かイタズラしてやろう、そう考えやってきたのだ。
「どんなイタズラしてやろうかしら…」
次々と現れるイタズラのアイデアを頭の中で巡らせていると、どこか遠くの方で泣き声が聞こえた。ネルの声に似ている。
何かしらと不思議に思ったリヴは、泣き声のする方へ飛んでいった。
天界で一番静かで綺麗な場所、星の谷にネルはやってきた。
「ネルはドジばかりなのです…。だから、見習いなのです…、落ちこぼれなのです…」
我慢できなくなったネルは、大泣きした。静かな谷に、ネルの泣き声が空しく響き渡る。
「何を泣いてんだか…。ネル〜」
ネルは目をこすり、自分を呼んだ声の正体を確認した。
その正体はリヴだ。
「魔法が上手くいかなくて困ってんだ?だったら、アタイと魔法合戦しない?」
「戦う…ということです?」
リヴは笑顔で頷いた。
「戦いは嫌いだからやりません、なのです」
「戦いというよりも、組み手みたいなもんよ!やりましょうよ」
リヴの目論みは、組み手をし自分が勝つことで、ネルを再びがっかりさせるという、何とも陰湿なものだった。そんな考えがリヴにあることに気付いていないネルは、しばらく考え頷いた。
「やります、…です。ケガしない程度でお願いします、なのです」
こうして、ネルとリヴの組み手が始まった。
「♪〜♪」
ネルは鼻歌を歌いながら、簡単な魔法陣を描き上げた。
「行くのです!」
魔法陣から大量の水が湧き出て、リヴに襲い掛かった。リヴは慌てて避ける。
「今まで魔法失敗して泣いてたくせに、いきなり成功させるんじゃないわよっ!」
「いや…その…小さい雫から雨を降らせようと思ったのですが、思ったよりでかく…」
リヴはずっこけた。
「アンタって魔法の扱いに慣れてないのね…」
リヴは指先に炎の弾を複数作った。
「アタイが教えてあげるわよ!!」
炎の弾はダダダと連続で発射された。ネルは手を前にかざした。
「ガードするのです!エンジェラエンジェラッ!!」
ネルの手の前に光の壁ができてネルを守る…はずだったのだが、ただ光が出ただけで壁が出て来ない。
「あ、当たるですっ!!」
ネルはとっさに翼で体を包み込み、守ろうとした。しかし、見習い天使の翼は、自分の体を包み込めるほど大きくないのだ。
「もうダメです…」
炎の弾がネルに当たりそうになったその時、翼の羽根が輝き出し、大きくなった。
炎の弾は光の羽根により、弾き返された。
「その羽根…、いえ、その魔法って、高等な防御魔法なんじゃ…?」
「よ、よくわかりませんが、羽根さん、行くのですっ!」
光の羽根は細い針となり、リヴに飛んでいった。
リヴは魔法でフォーク型の槍を取り出し、それを上にクルクルと振り回した。針は槍に当たり、地面に落ちた。
「デビュラデビュララ、竜巻出てこい!」
回転する槍から風が舞い上がり、やがて竜巻が出来上がった。
竜巻は周りに落ちた石や枝などを巻き上げ、そのままネルの方に進んだ。
「この竜巻を鎮められるもんならやってみな!アハハハハッ!!」
「リヴちゃんが本気になっちゃったです…。ネル、やるのです!」
ネルは魔法書を片手に、空中に魔法陣を描いた。そして、目をつむって集中し始めた。
「光の精霊さん、ネルを助けて下さい、なのです!」
魔法陣から光が放たれた。そして、その光は一つの線となり、竜巻の中に入り込む。
「い、一体何なの?!」
「竜巻を破壊するのです!」
竜巻は輝き出し、光によって包まれた。その途端、竜巻は消えてなくなったのだ。
光は女性のような姿となり、空へと消えていった。
その光景を見て、リヴは唖然と立っていた。
「本当に…見習い天使なの?相当な魔力がないと、光の精霊は出せないはずなのに…」
「初めて成功したのです!」
ネルは大喜びだ。しかし、急に倒れてしまった。
「ちょ、ちょっと…、ネル?!」
リヴは慌ててネルに近づき、様子を見た。ネルはぐっすりと眠ってしまったようだ。
「わからない子ね。ドジだけの天使だと思ったのに、高等魔法を使うなんて…」
リヴはしゃがみ、ネルをじっと見つめた。
「う〜ん…、あれ?ネル、寝てた…です?」
「ええ、ぐっすりとね」
ネルは寝ぼけたまぶたをパチクリとまばたき、リヴの顔を見た。
「アンタはね、多分だけと…自分の魔力が大きすぎて、魔法のコントロールができてないだけ。
呪文のある簡単な魔法じゃなくて、魔力がたくさん必要な難しい魔法をやってみれば良いわ」
なるほど!とネルはメモをした。
「ありがとうございます、なのです!」
あっ…、とネルは何かに気づき、リヴに頭を下げた。リヴは少し首を傾げる。
「すみませんです。ネル、寝てしまって…リヴちゃんに迷惑をかけてしまったです…。ずっと見守ってくれてたのですね」
リヴはニヤリと笑った。
「アタイは悪魔、悪魔 のリヴよ!隙だらけのアンタにいたずらしないわけないじゃない」
ネルは自分自身を見た。いたずらされた様子はない。鏡を取り出して、顔や髪を見て確認しても、変化はない。
「…可愛い笑顔で寝てるからよ。別にいたずらしたくなかったわけじゃないの。
次にアタイの前で寝たら、顔に落書きでもしてあげるんだから」
ネルは笑顔で答えた。
「はいです」
ジェルは家の片付けをしながら、ネルの帰りを待っていた。しかし、片付けが終わっても帰って来ないのだ。
しばらく待っていても、家の周りを探しても、ネルの姿はない。
「ネル様…、ネル様〜!!」
ジェルは心配になり、空高く飛び上がる。
「フェアリア、ルフィーヌ、ネル様の居場所を教えて!」
ジェルの目の前に十字架が現れた。そして、十字架は光線を星の谷に向かって出す。
「星の谷か…。よし、行くぞっ!」
ジェルは魔法で飛ぶ速度を上げて、星の谷へ急いだ。ネル様が無事でありますように、そう祈りながら。
星の谷に着いたジェルは、周りを見渡した。
「ネル様、何処ですか〜?」
リヴはジェルを見つけると、ネルに知らせた。
「お迎えよ!」
ネルはジェルの元へ行こうと、一歩足を踏み出したが躊躇った。
「ネル…、ジェルに大嫌いって言ったのです。あわせる顔がありません、なのです…」
リヴは笑った。
「大丈夫よ!とにかく、行ってみな」
ネルはジェルを見つめた。そして、飛び立った。
「アタイはおさらばね!」
リヴは冥界へ帰るため、飛び去ってしまった。
「ネル様!」
「ジェル!」
二人は目を合わせた。
「ジェル、大嫌いなんて言ってごめんなさい、なのですっ!」
「僕こそ、ネル様が気にしていることに釘を刺して、すみませんでしたっ!」
お互い仲直りの印に握手をした。
「さっ、帰りましょう!」
「はいです」
ネルはもう帰ってしまったリヴの優しさに感謝しながら、家へ帰って行った。
リヴは家に帰って来て、机に顔を伏せ、嘆いていた。
それを見たルーヴが、少し心配しながら尋ねた。
「姉ちゃん、どうしたの…?」
「アタイ、悪魔らしからぬ行動をしちゃったのよ〜!!というかさ、いつの間にかあの天然キャラに影響されちゃってて…。
ヤダーもう!自分に虫ずが走る…」
ルーヴは苦笑いして、姉を置き自分の部屋に戻るのだった。
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