天魔(エンビル)

□だるいイルダの失態?
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「大天使様、質問があるのです!」

「何でしょう?」

ネルは目を輝かせて尋ねた。

「大天使様に仕えるメイドさんが可愛いという噂を聞きました、なのです。コーディネートしてもよろしいです?」

イルダは少しずっこけた。

「勉強の質問かと思いきや、コーディネート…ですか?
駄目です!一度、魔法を成功させてからになさい」

「はいです…」

ネルはがっかりした様子で、この場を去った。

「ネルには困ったものですね…」

イルダは四枚の翼を広げて、飛び立った。その様子をリヴは見ていた。

「あの頭でっかち天使のせいでいたずらできなかったんだから、…仕返しよ!」

リヴはイルダの後をつけた。イルダは自宅へ戻り、中で探し物をしているようだ。
窓から覗くと、探しているのはイルダではなく、メイドだった。

「早くして下さいね」

「はい、ご主人様」

イルダはベッドに横たわり、ダラけている。

「あら、意外ね…。これは使えるかも!」

リヴはにやけた。



ネルはジェルとともに、草原の真ん中に立っていた。その瞳はメラメラと燃え上がっている。

「ネル様、今日も張り切っていますね」

「どうしてもメイドさんをコーディネートしたいのです。成功してみせる、なのです!」

ネルは魔法書を開き、呪文を唱えた。

「エンジェラエンジェラ、ラピチュトゥル〜!桃よ、出て来るのです!!」

一つの桃が出て来て、ネルの手に渡った。

「やりましたね!」

「三度目の正直、なのです」

しかし、桃はじきにスライムのようなドロッとした物になってしまった。

「な、何故ですぅ?!」

「またまた失敗…。二度あることは三度あるってこういうことですね」

二人ともため息をついた。

「ハロー!」

二人の目の前に、リヴが降り立った。

「リヴちゃん!」

「あっ、あの時の悪魔!何しに来たんだ?」

ネルは歓迎を、ジェルは警戒をしていた。

「今日はネルのお手伝いをしに来たの!ほんとよ?
イルダっていう天使の家に、連れて行ってあげるわ!もちろん、許可は得てる」

疑いの目をするジェルに対し、ネルは大喜びだった。

「大天使様に許可をもらうなんて、さすがリヴちゃんなのです!」

「大天使様が悪魔なんかに許可するはずがない!」

「ついて来てごらん、アタイが嘘を言っていないことがわかるわ」

リヴは余裕の笑顔を見せた。



三人はイルダの家に辿り着いた。
イルダの家は二階建てで、屋根は綺麗な青色、壁は白色のいたってシンプルな家だ。庭には花壇があり、その側にはテーブルと椅子がある。いつでも花の観賞ができそうだ。

「イルダの家はココ!中にメイドもいるわ」

「わーい!大天使様、ネルが参りましたー!入ってもよろしいです?」

しばらくすると、玄関の扉が開き、カールした金髪のメイドが現れた。

「ようこそ、イルダ様がお待ちでございます。どうぞ中へ」

ネルはいっそう目を輝かせた。一方、ジェルは目を丸くしていた。

「可愛いのですぅ」

「うそ…、ほんとに許可もらってる…」

ネルとリヴはウキウキな気分で、ジェルは恐る恐る家の中に入った。

家の中は綺麗に片付いていて、白と青を基調とした広い部屋だ。イルダはリビングのソファーに座っている。その表情は少し強張っているように見える。

「ようこそ。メイド、ジュースを出してあげなさい」

「いえ、ネルはいりません、なのです。メイドさんをコーディネートしに来ただけですから」

ネルは魔法でトランクを取り出し、そこからたくさんの可愛い服を出した。

「早速、始めますです!更衣室に案内して下さい、なのです〜」

「因みに、ネル様はコーディネートのことになると、何故か魔法が成功するという謎の能力があります…」

「ジェル、ボソボソ言ってないで、早く来るです!」

「はい…」

リビングはイルダとリヴ、二人だけになってしまった。

イルダは座ったまま、黙り込んでいる。

「アハッ!もしかして、秘密をばらされるって思ってる?きちんと約束は守るわ。だから、あなたも約束守ってね?怠け天使様」

イルダはリヴを睨むが、言い返すこともできず、俯いた。

「ねぇ、何か楽しい話題ないの?アタイ、つまんない!
それとも、弱みを握られて焦ってるの?アハハ、超ダサいし、カッコ悪いわ」

イルダは黙ったままだった。
更衣室から、大喜びのネルの声が聞こえる。

「あら?コーディネート終わるのかしら?
アタイが飽きるまで、ずっとアタイの言う事、聞いてもらうんだから!これからもよろしく、天使様!!」

リヴはニコニコして、ネルを待った。



メイドは、シンプルなメイド服からフリフリのレースがついたドレスへ着替えていた。

「大天使様、メイドさんがよりいっそう可愛くなりました、なのですぅ」

メイドは顔を赤らめ、照れている。

「そういえばネル、アンタ何でそんなにコーディネートしたがるの?」

リヴがネルに尋ねると、当然のごとくネルは答えた。

「可愛い子をもっともーっと可愛くしたいからです。そんな時、ありませんです?」

「全然ないわ…」

ネルの趣味に呆れるリヴだった。

「そうそう、リヴちゃんもコーディネートするのです!」

リヴは少し焦った。

「アタイはしないわよっ!アンタの趣味に付き合ってられないわ」

「そんな遠慮なさらず!」

「だから、遠慮じゃないっての!」

イルダはその様子を見て、含み笑いした。

「更衣室、またまた借りるのです!」

リヴは、無理矢理ネルに連れて行かれてしまった。ジェルは呆れたように笑う。

「ネル様には困ったものですね…。それはそうとイルダ様…」

ジェルはイルダの方へ向いた。その表情は真剣で、心配しているものだった。

「何故、悪魔を家に入れたんですか?もしや、あのことを悪魔に?」

「君の想像通りですよ。いつもはカーテンを閉めるのですが…、うっかりしていました」

イルダはジェルに苦笑いを見せた。



ネルが魔法を成功させようと頑張っている時のことだった。

「見〜ちゃった、見〜ちゃった!!見ちゃったもんね!」

リヴは、イルダが怠けているところを目撃し、窓から入って来たのだ。

「っ!?悪魔!」

イルダは即刻に魔法で杖を取り出し、構えた。

「どっちが不利かわかってんの?アタイを攻撃したら、みんなにいいふらしてやる。
イルダは外ではしっかり者。でも家じゃ何もしない、メイドに任せっきり!そうなると、あなたのメンツ丸つぶれね!アハハハハ!!」

イルダはリヴを睨みつけた。

「いいふらしたければそうするが良い。お前の記憶抹消も、お前自身の存在も消すことはできるんだ」

「嘘ね!天使は相手が誰であれ、殺害は禁句となってる。
記憶抹消と言っても、また記憶が戻るかもしれないし、人の記憶いじるのって、罪になるんじゃないの?」

「…よく調べていますね」

イルダは杖を消した。

「要望は何ですか?言っておきますけど、いたずらの手伝いは真っ平ごめんですよ」

「そんなに難しいことは頼まないわ。
一つは、悪魔を見つけても追い出さないこと。もう一つは、アタイの言う事を聞くこと。
ねっ?簡単でしょ?その代わり、アンタの秘密は喋らない。この約束を破ったら…、わかるわね?」

イルダは頷いた。

「早速だけど、お願いがあるの!ネルにメイドのコーディネートさせてあげて」

「…何か企んでいますね?」

「違うわ。単にネルと仲良くなりたいだけよ」

イルダはリヴを疑った。

「あんまりアタイを怒らせたり、不機嫌にさせたりしない方が良いわよ?」

イルダは、疑いの目を少し緩めた。

「そう、正解!じゃ、ネルを呼んでくるから準備お願い」

「私の家でコーディネートさせるつもりですか?」

リヴはイルダを見下し、少し眉を吊り上げた。

「文句あんの?」

「…別に」

リヴは窓から飛び立った。



「こういうことです…」

「そうだったんですか…」

ネルの大喜びな声が聞こえる。ジェルはイルダに笑顔を見せた。

「僕が何とかします!」

「しかし…」

「任せて下さい!イルダ様のお役に立つのは本望ですから」

ジェルは胸を張る。



「お待たせいたしました、なのです!二人目のアイドル、リヴちゃんです」

リヴは薄い桃色のフリフリドレスに身を包んでいた。可愛らしい赤いリボンが目立つ。

「もぉ可愛いです!幸せなのですぅ!!」

「アタイ…帰る…」

リヴの顔は少し青い。どうやら服装に問題があるようだ。

「また来て下さい、なのです」

「次はコーディネートいらないからね!わかった?」

「はいです」

リヴはさっさと家を出て、飛び去った。

「可愛いのに、やっぱりリヴちゃんは恥ずかしがり屋なのです」

「趣味が合ってないだけだと思いますけど」

ジェルの冷静なツッコミを無視し、ネルは自分の世界に入っていた。

「あっ、そうなのです。本日はお招き下さり、本当にありがとうございました、なのです。
メイドさん、またコーディネートさせて下さい、なのです!」

「あ…はい、お願いします」

ネルは晴々しい表情で自分の家に帰った。




冥界に帰ってからも、リヴは喜びの笑顔でいっぱいだった。

「まさかあの頑固天使を利用できるとは思わなかったわ!」

「リヴ様…?」

リヴは振り返ると、ベルが少し困惑した表情でいた。

「どうしたの?」

「ヴィリア様があなた様を探していましたので。それより、何ですか?その格好は…」

すっかり忘れていた、フリフリドレスを着ていたことを。

「げっ?!脱ぐの忘れてた!」

着替えようとしたその時、ヴィリアが来た。

「リヴ!あら?…ああ、なるほど。ネルに会ったのね!その服、似合うじゃない」

「もう脱ぐわ、こんな服」

「着てなさいよ!可愛いわ」

ヴィリアは微笑んだ。しかし、リヴにはその笑顔が黒いものに見えた。

「で、何の用?」

「私の言った作戦、進んでる?」

リヴは薄笑いを見せた。

「ネルを信用させる作戦でしょ?大丈夫よ」

「ネルの大切なものが、信頼している人に壊されたらどんな顔するかな?早く見たい…」

ヴィリアは腹黒い笑みを見せた。

「本当に悪魔よりも悪魔ね。そんな面倒臭いこと、悪魔ならしないわ。
どうして信頼させてからなの?直接いじめた方が楽しいし、手っ取り早いのに」

ヴィリアは笑った。目は全く笑ってはいなかったが。

「ウフフ…。天使なんて大嫌いだから。それとも何?文句あり?」

「そんなのないわよ…。
アタイそろそろ行くわ!なんか体中、むずむずしてきた」

ヴィリアは冷めた横目でリヴを見た。

「フ〜ン。勝手に帰れば?」

ヴィリアは翼を広げて、どこかへ飛んで行ってしまった。

「さっ、ベル、帰るわよ!」

「はい」

リヴもまた、飛び立った。

ヴィリアの魔法のせいで、一日中ドレスを脱ぐことができなかったリヴは、ディブやルーヴに馬鹿にされたそうだ。


次の話→ネルとリヴが決闘?!

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