天魔(エンビル)
□双子の魔獣騒動?!
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気持ちいい暖かさの中、ネルは広場で必死に魔法の本を読んでいた。
「この魔法は…えっと…」
突然、ネルの顔と本の間に顔が現れた。
「キャッ!」
「うぃーっす!オレ、ディブ!」
魔獣のディブはニタニタと笑う。そこに、もう一匹の魔獣がディブの頭を叩く。
「いてっ!」
「人に挨拶する時はおとなしくよ!
アタシはベルです。で、こっちのバカがディブ。
リヴの使い魔です。よろしく」
ベルはネルにお辞儀した。
「リヴちゃんの…ペットです?」
「ちげぇよ!オレはリヴと契約した魔獣だ!」
「ペットのようなものとして、見てて下さい」
ネルはクスクスと笑った。
「なんだか、漫才みたいで面白いです」
「漫才してるわけじゃねぇよ!」
「何はともあれ、リヴ様からの伝言とアタシ達の用事を伝えます」
ベルは咳ばらいをした。
「リヴ様より、ネル様への伝言。ネル、今日は遊びに行けないの。だから、代わりにアタイの使い魔と遊んでね、だそうです。
ということで、アタシ達がネル様と遊ぶことになります」
ネルは頷き、納得した。
「少し残念ですけど…、二人とも可愛いのです!」
ネルは魔法で服を作る。そして、その服をディブとベルに着せた。
ディブはブラウスにオシャレな短パン、ベルはリボンのついたシンプルなワンピースだ。
「オシャレになりました、なのです!」
「オレ、もっと動きやすい服が良いぜ」
「アタシ…良いかも」
ディブは嫌がったが、ベルはまんざらでもなさそうだ。
「ネル様、勉強の方は進んでいますか?」
空からジェルが降りてきた。
ディブはジェルを見た途端、ジェルに近付き手を取る。
「君、可愛いじゃん!今度デートしないか?」
ジェルは困惑の表情を浮かべた。
ベルはディブに怒る。
「魔獣と妖精は結ばれないのっ!
それより、アタシと友達になってよ!メス同士で語り合いましょう」
ジェルは唖然と口を開けている。
「あの…僕、オスですけど」
ディブとベルはショックを受けた。
「オレ様、オスにデート誘ったのか?!ヒ〜、気持ち悪い」
「じゃあアタシと付き合えるのね!可愛い顔ってタイプなの」
「さっき結ばれないとか言ってたじゃねぇかっ!!」
ディブとベルは喧嘩し始めた。
「えっと…、あの二人何なんですか?」
「可愛いコンビです!」
ネルとジェルは、喧嘩が終わるのを待ったのだった。
「どうぞです」
ネルは魔獣二匹を自分の家に案内し、アップルジュースの入ったコップを二匹に手渡した。
ディブが一気に飲み干すと、ネルがジュースをコップに注ぎ足した。
「やっぱジュースは最高だ!」
「全く、図々しいんだから。ごめんなさいね、ダメな奴で」
ネルは首を振る。
「どんどん飲んで下さい、なのです」
「じゃあ、もう一杯!」
ディブの飲みっぷりに呆れるベルなのだった。
ジェルはネルをつんつんとつっ突き、振り向かせた。そして、耳元でささやく。
「ネル様、あの二人は魔獣ですよね?もしかして、あの悪魔の?」
「はい、なのです!リヴちゃんの可愛いペットです」
ジェルはいっそう険しい顔になる。
「ダメですよ!今すぐ追い出しましょう」
「ジェルは頭が固いのです!悪魔でも魔獣でも、優しい心はあるのです」
ジェルは警戒の目を魔獣二匹に向けた。
「さてと、何して遊ぶんだ?一緒に暴れる?戦う?それともいたずら?」
「リヴ様が言っていたでしょ!ネル様の言うことを聞けと。ネル様、どうします?」
ネルは少し考え何か閃いたのか、いきなり立ち上がった。
「ネルは人形遊びがしたいです」
ネルはおもちゃ箱から可愛らしい人形を取り出した。
ディブはそれを見て顔をひきつらせた。
「そんな子供みたいな遊び、できるかーっ!」
ディブは我慢できず、窓をぶち壊し、家から出た。
「だ〜っ、もうディブのやつ…!本当に申し訳ありません、ネル様」
「別に構いませんが、ディブ君が心配なのです」
ネルとベル、そしてジェルは家を出てディブを探した。
「全くリヴの考えがわかんねぇ。なんであんなバカな子供天使と仲良くなりたいんだ?」
ディブは考えれば考えるほど混乱した。
「むしゃくしゃする!暴れてぇ!!」
ディブは鋭い爪で、辺りの原っぱの草花を刈った。
「楽しい!こうなったら、天界の町で暴れまくってやる」
ディブは勢いよく町へ向かった。
ディブを探しているネル達は、町が騒がしいことに気がついた。
行ってみると、なんとディブが暴れているではないか!建物に傷をつけ、草花を薙ぎ払い、地面に穴を空けている。
「ディブ君、止めて下さいです!」
「はっ、やなこった!こんな楽しいこと、止められるか」
ベルはため息をついた後、表情が鬼のように怖くなった。
「主人であるリヴ様に逆らうつもり?!」
「オレはリヴがわかんねぇ。何で天使と仲良くしたいのか…」
ネルは当然のように答えた。
「友達だからなのです!」
ディブは唾を吐いた。
「何が、友達だから!なんだよ…。リヴはお前をいたずら対象としか思ってねぇんだよ!
わかったか?バーーカ!!」
ディブは突然、後ろから頭を殴られた。
「アタイの命令そっちのけで何やってんの?!」
ディブを殴ったのは、リヴだった。
「リヴちゃん!」
ネルはリヴの姿を確認した途端、リヴに近づいた。そして、ディブの殴られた頭を撫でた。
「ディブ君、大丈夫です?」
「いって〜…、天使に心配されたくもねぇよ!!」
ディブはネルの手を払い、リヴの方に向き直った。
「リヴ、お前早かったな…」
「そういえば…、用事だったのですね?どんな用事だったのです?」
リヴは自慢げに懐から紙を取り出した。その紙には、『下級悪魔認定(仮)』と大きく書いてある。
「見習いのままじゃ嫌だからね!受けてきたの。後一つ、試練をクリアしたら正真正銘の下級悪魔よ」
「天使で言う小天使のようなものです?すごいのです!」
ネルがリヴに拍手を送る傍らで、ディブは気まずそうな表情でこっそりと逃げようとした。
「ディブ?何勝手に逃げようとしてんの?」
ディブはゆっくりとリヴの方に振り返った。リヴはカンカンに怒っている。
「ベルも何でディブを止めなかったのよ?」
「いや、止めようとしたのですが、ディブが勝手に…」
「言い訳は聞きたくなーい!とにかく、他の天使が来る前に逃げるわよ」
リヴはディブを捕まえ、ネルに苦笑いを見せた。
「ネル、バカ魔獣が勝手なことしちゃったわね。ほらっ、謝んな」
「え〜?!何でオレが謝んなくちゃいけないんだ?こんなバカ天使に」
リヴはディブの頭を殴った。
「ネルは別に大丈夫なのです。謝るなら、町の天使さん達にお願いします、なのです」
ディブは顔をしかめた。その側で、リヴは大笑いしている。
「ぜってぇに、嫌だっ !」
「一人捕まって刑罰受ければ?アハハハハハ!」
そうこうしている内に、天使が集まろうとしていた。
「ヤバい!ネル、アタイ達帰るわ!!」
リヴはディブとベルを連れ、飛び去った。ネルはリヴを見送った後、町の修復を手伝った。
「二度とあんな天使のとこには行かねぇからな!」
「わかってるわよ!」
ディブとリヴの睨み合いは続いていた。
「リヴ様、ディブに言った方が良いのでは?天使と仲良くなる理由を」
「理由教えろ!」
リヴはため息をつく。
「仕方ないわね…。ディブ、ネルにばらすんじゃないよ」
ディブは笑顔で頷いた。
「ネルは本気でアタイのことを友達だと思ってる。それを利用して、ネルと仲良くなっておけば、天界の情報が掴みやすくなるでしょ?そしたら、いたずらしやすくなるってわけ。
それに、…あの子の作戦の内でもあるしね」
「…あの子?」
ディブは首を傾げた。
「ヴィリアよ、ヴィリア!ネルと仲良くなって、後からどん底の絶望に突き落とすんだって。まどろっこしいけど…まあ面白そうじゃん?」
ディブは納得したようだ。そして、ニタリと笑う。
「そういうことかっ!じゃあもう一回、天界行こうぜ!!」
ディブが走り出そうとしたのをベルが止めた。その顔は怒っているが、呆れた表情も見える。
「あのね、今行ったら天使に捕まっちゃうのよ!考えたらすぐ分かるわ」
「捕まるかどうかわかんねぇだろ?何だよ、顔がしわくちゃになっても知らねぇぞ」
ディブは舌を出して、ベルをバカにした。ベルは眉間にしわを寄せる。
「本当に低脳のバカな単細胞!どうしてそんなアンタが兄なのか、意味不明だわ!!」
「言ったな…。たたきのめしてやるっ!!」
ディブとベルは喧嘩し始めた。 リヴは呆れた様子で、喧嘩の仲裁をすることなく、その場から離れたのだった。
姉弟喧嘩