天魔(エンビル)

□ドタバタコンビ結成?!
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女神が治める天界に、一人の見習い天使がいた。

「魔法の勉強するのですぅ!」

薄茶色の髪で綺麗な青色の瞳、クリクリな丸い形の目で、頬を桃色に染め、顔はまだまだ幼い。薄桃色のワンピースを着た少女天使、ネルは魔法書を開いている。

「また失敗するのは止めて下さいよ、ネル様〜」

ネルの隣に、薄緑色の小さな生き物が羽根を羽ばたかせ、飛んでいた。ネルをしたう妖精、ジェルである。

ジェルはネルを心配そうに眺めていた。

「大丈夫なのです、この本の通りに呪文を唱えれば、ジェルの大好きな桃が現れるはずです!
エンジェラエンジェラ、ラピチュトル〜」

えいっ!とネルが腕を振ると、桃が現れた。その桃はネルの手に渡った。

「やりましたです」

「へぇ、珍しく成功しましたね!」

喜んでいると、ジェルの頭に何かがコツンと当たった。桃だ!
それを拍子に、桃が大量に現れてしまい、まるで洪水のように溢れ出た。

「うわぁん、また失敗なのです〜」

「ネル様、な、何とかして下さい!」

ネルは魔法書を開き、魔法の解除方法を探したが、見つからない。

「ジェル、こうなったら…皆様におすそ分けしましょう、なのです!」

「その前に僕達が埋もれてしまいますよ〜」

「じゃあ…、全部食べるのです!」

「そんな無茶な…」

突然、溢れ出ていた桃は治まり、山のように積み上がった桃は消え去った。

「大丈夫ですか?」

「大天使様!」

ネルが振り返ると、そこには男性天使が立っていた。青い髪に青い瞳、整った顔の中には、凛々しさがうかがえる。青緑色を基調としたローブを来たこの男性は、ネルの先生であり大天使の、イルダだ。青く長い髪をサラリと風に流し、眉を吊り上げている。

「また失敗しましたね、一体何回目ですか?」

「すみません、なのです…」

「君のドジは見飽きました。次は成功して下さいね?
因みに、呪文は『エンジェラエンジェラ、ラピチュトゥル〜』ですよ」

読み間違えていることにネルはとても驚いた。それに呆れるジェルだった。




一方、死神が治める冥界に、一人の見習い悪魔がいた。

「つまんなーい!」

薄紅色の髪、吊り目の中で光る赤い瞳、体格はスリムで、胸が膨らんでいる。青紫色の服を着た少女悪魔、リヴは平らな岩に座り込んでいた。

「何か面白いものないかなぁ…、そうだ!」

リヴは立ち上がり、亡者の魂がたくさんいるところへ向かった。

「魔法で遊ぼっ!ウフッ」

リヴは魔法瓶の口を亡者に向け、魂を吸い込み始めた。魔法瓶には次々と魂が入る。
魔法瓶がいっぱいになると蓋を閉め、魔法瓶を振った。

「デビュラデビュララ、魂は飴になっちゃえ!」

魔法瓶の蓋を開け、飴玉を一つ取り出した。成功だ。

「魂ちゃん、この姿で溶岩に入れられちゃったら、どうなるでしょう?教えてあげる!
動けないまま、一生 溶岩に苦しめられるのぉ」

リヴは満面の笑みで溶岩に向かった。その途中、青紫色の小さな生き物と出くわした。垂れ下がった角と尻尾を持つこの生き物は、リヴの飼う魔獸、ディブだ。

「リヴ、何持ってんだ?あっ、キャンディ!!ちょーだい」

「ちょっと?!きゃっ」

ディブはリヴから魔法瓶を奪い、中の飴玉を全て口に入れた。
すると、ディブの体を透けて魂が出て行くではないか!

「ディブっ、その魂の飴は、舐めると魔法が解けちゃうのよ!どーしてくれんの?!」

「とりあえずマズイから…、逃げる!」

「待て、このバカ魔獸!!」

リヴはディブを追いかけたのだった。




空の上から落ちてきた桃、それを拾い上げたのは、赤紫の生き物で、吊りあがった角と尻尾を持つ魔獸、ベルだ。
ベルはしばらく桃を見つめた後、天空を見上げる。

「天界で何かあったのかしら?ちょっと面白そう」

ベルは、主人であるリヴのところへ急いで向かった。

「リヴ様!」

「どけーー!!」

ディブとベルはぶつかってしまった。

「いってぇな…、いきなり何だよ!」

「こっちのセリフよ、ディブ!あなたってば、ホント落ち着きがないわね」

ディブは眉間にしわを寄せた。

「テメェも同じだろ?!オレにぶつかってきたのはベル、お前だぞ!」

「あんたが猛突進してきたんでしょ?!」

「アタイをそっちのけで喧嘩するなー!!」

睨み合う二匹の間にリヴが割り込み、怒鳴った。二匹の魔獣は途端に黙り込んだ。

「…で?ベルは何の用?」

「あっ、はい!おそらく天界から、この桃が落ちてきました。ドジな天使が落としたと思われます。
そこで、そのドジな天使をそそのかし、利用するのはどうでしょう?」

それを聞いたリヴは、嬉しそうに笑顔を見せた。

「ナイスアイディア!早速、天使に化けて…」

リヴはククッと口元を上げた。





「ヘックシ!」

「ネル様、風邪ですか?」

「違いますです!誰かが噂してるのです」

ネルは再びくしゃみをした。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なのです!さて、もう一回桃を出すです」

エンジェラエンジェラ、ラピチュトゥル〜
今度は読み間違えていない。

「それっ!」

空中に一つ、桃が現れた。しかし、その桃は段々と大きくなっていく。

「どうして、なのです?!」

「魔力の入れすぎですよ!」

桃はどんどん大きくなり、しまいにはネル達を押し潰しかねない。

「ジェル、食べちゃいなさい、なのです!」

「また無茶苦茶なことを…」

ネル達が今にも押し潰されようとしていた、その時だ。

「デビュラデビュララ、桃は小さくなれ!」

桃は大きくなるのを止めて、段々小さくなり、普通の大きさになった。そして、その桃はネルの手に渡った。

「アンタ、本当にドジな天使ね」

ネルに近づいてきたのは、見覚えのない天使だった。桃色の髪で紫色のドレスを着ている女の子だ。


「ありがとうなのです!ネルと申しますです、よろしくお願いします、なのです!!」

「リヴよ、よろしく」

ネルはリヴをじっと眺めた。

「な、何…?」

「かわいいのですぅう!」

「はぁ?いきなり何よ…」

「つれていくのです!」

ネルはリヴの手を握り、走り出した。

「ど、どこ行くの?!」

「ネルの家につれていきます、なのです〜」

「ちょっとその前にアタイの話を…、キャーッ!!」

ほぼ強引にリヴはつれて行かれた。
ジェルはそれを呆然と眺めていた。

「全く、ネル様のカワイイ子を見るとコーディネートしたくなる癖を何とかして欲しいものですね…。
それよりあの呪文……」

ジェルはネルの元へ向かわず、どこかへ去っていった。



数分もしない内に、ネルの家に着いてしまった。
ネルの家の庭には花壇があり、きちんと手入れをされているのだろう、綺麗な花が咲き誇っている。裏庭には大きな木があり、可愛い桃の花を咲かせている。

ネルとリヴの二人は家に入った。

「パパもママも、仕事で家にいないのです。帰ってきたら、紹介しますです!」

ネルはタンスから服やアクセサリーを取り出し、リヴに差し出した。

「コレ、あげるので着てみるといいのです!きっと似合うのですぅ」

何だかネルの勢いに押されっぱなし、そう思ったので、服を受け取ってリヴは切り出した。

「ねぇネル、アタイが魔法を教えてあげようか?上手く使えるように、仕込んであげるわ」

「本当です?嬉しいです!お願いします、なのです。
その前に、着てみるなのです」

リヴは渋々、それに着替えた。そして、赤い花柄のドレスに包まれた。

「紫よりこっちが似合うのですぅうう」

「アタイの好みじゃないから、やっぱ返す」

「遠慮しなくて大丈夫なのです」

「遠慮じゃないっ!」

ネルの天然さにはついていけないリヴなのだった…。



ネルとリヴは家の庭で、早速魔法の練習を始めていた。

「魔法のレッスンよ!まずは、この小箱をネズミに変えるの。
手本を見せるわね」

ネルは魔法書を片手に目を輝かせ、小箱を見ていた。

「デビュラデビュララ、箱よ、ネズミにかわれ!」

みるみるうちに、箱はネズミへと変形し、チュッと鳴いた。

「ネルもやるです!えっと…、エンジェラエンジェラ…」

「違うわ!デビュラデビュララ、よ」

「えっ、でも…」

ネルはリヴに、魔法書に書かれている呪文を見せた。そこには、『エンジェラエンジェラ、トランピュラ』と書いてある。

「魔法書通りにやるからダメなの!魔法っていうのは、本来呪文なんていらないの。
呪文は、イメージしやすくするためにある。だから、箱がネズミに変わるイメージを描いたら成功するわ」

「わかりました、なのです!
デビュラデビュララ〜…」

リヴは、ネルに見えないようにせせら笑った。本物の天使が、悪魔の使う呪文を唱えても失敗に終わるだけだからだ。

「箱よ、ネズミに……」

「お待ちなさい!」

ネルを止めたのは、イルダだった。彼の側には、ジェルもいる。

「大天使様、どうかなさいましたです?」

「ネル、この子は悪魔です。信用してはいけません」

ネルはよくわかっていないようだ。リヴは悲しげな表情を浮かべている。

「アタイが悪魔?そんなでたらめ、言わないで下さい…」

「でたらめではありません。デビュラデビュララという呪文は、見習い悪魔がよく使う呪文ですよ」

「よくも天使に成り済まして、ネル様を騙したなっ!」

リヴはまだとぼけている。

「アタイ、天界の本当に隅の方から来たの。少し悪魔の呪文に似ちゃっても、仕方ないんじゃありません?」

「まだ白を切るつもりですか、わかりました」

イルダはリヴを指差した。たちまち、リヴは元の姿である悪魔の姿になってしまった。

「やっぱり悪魔だったのかっ!」

ジェルがリヴを睨んでいるわきで、ネルは目を輝かせていた。

「今のリヴちゃんの方が可愛すぎるですぅう!コーディネートしたいです」

「はいネル様ぁ、今は黙っておきましょうね〜」

ジェルはなるべく、ネルにリヴを見せないように頑張った。

「魔法を解きました。さっさと帰って下さい。でないと、 罰を与えますよ」

イルダは険しい顔でリヴを睨んだ。リヴはため息をつく。

「あ〜あ、ばれちゃった。ネル、アンタのドジっぷりまた見せてね」

「はいです!また遊びましょう、なのです〜」

ネルはリヴに手を振った。リヴは少し拍子抜けした。

「バカね、けなされてんのに…」

リヴは指を鳴らし、消え去った。

「ネル、悪魔は絶対に信頼してはいけませんし、関わらない方が良いです。わかりましたか?」

「リヴちゃんはネルの友達です。だから、わかりません、なのです」

ネルはイルダにこっぴどく叱られた。




「ネルか…。ククク」

リヴは冥界に戻ってから、笑いが止まらなかった。
その様子を見たディブは、リヴに近づいた。

「良いことあったんスか?」

「いたずらに使えそうな材料が見つかったの」

リヴは、再びいたずらの計画を練るのだった。


はたして、これからドジな天使とイジワルな悪魔は何をするのやら……。


次の話→堕天使の偵察

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