ヒカルの光

□二十章
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ヒカルが人間界に帰った後、ネルはヒカルの剣を持ち、天界にある自分の家へと帰ってきた。

「ただいま、なのです!」

「おかえりなさい、ネル様」

ジェルはネルを出迎え、近寄った。

「ヒカルさんは無事、人間界に帰ることができたんですか?」

「はいなのです」

ネルはキッチンへ向かい、洗剤のついたスポンジを手に取る。そして、ヒカルの剣を鞘から抜き、洗おうとした。

「ネ、ネル様?!何をしようとしているのですか?」

「ヒカル君の剣をキレイにしようと思ったのです」

「そこで洗わないで下さいよ!!汚れるでしょ?!外で洗ってください」

ジェルは庭を指差した。

「す、すみませんです」

ネルは庭に出て、ホースから水を出した。そして、その水で剣を洗い流す。

「キレイに洗うのです!」

剣についている汚れや血は、綺麗な水で流れていく。
ネルは改めて剣を見た。その金属は光沢を放ち、切れ味は良さそうだ。しかし、光沢が鈍い部分もある。

「ジェル、剣のことってわかりますです?」

「剣がどうされました?」

ジェルはネルに近付き、剣を眺めた。

「ここ、比べると光ってないのです。どうしてかわかりますです?」

ジェルは首を傾げるのみだった。

「大天使様ならご存知なのでは?」

「なるほど!!報告も兼ねて、行ってくるのです」

「その必要はありませんよ」

ネルは後ろに振り向いた。そこには、イルダが微笑みながら立っていた。

「大天使様!」

「その剣を見せてください」

ネルはイルダに剣を手渡した。イルダは剣を持ち、剣の柄から先までじっくりと眺め、ネルの言っていた光っていない部分をじっと見つめた。

「…これは磨く必要がありそうですね」

「では、磨くのをお願いしてもいいです?」

イルダは横に首を振る。そして、ネルに剣を返した。ネルは首をかしげながらも、剣を受け取った。

「いえ、私の魔力は合っていないようです。しかし、ネルの魔力とその剣との相性は良さそうですね」

イルダは魔法で自分が持つ刀を取り出し、その刃に触れた。

「磨き方を教えましょうか?」

「お願いします、なのです!」

ネルは進んでイルダに磨き方を教わった。ジェルはその様子を微笑ましく眺めていた。





リヴは冥界にある自分の家に帰ってきた。

「おっ、ルーヴ、帰ってきてたんだ」

「おかえり」

ルーヴは紅茶を用意した。もちろん自分の分だけだ。

「……生意気なガキめ」

リヴは舌打ちをしつつも、自分で飲み物を入れた。

「なあなあ、リヴ!人間どうなった?」

「リヴ様、人間の肉は召し上がったんですか?」

目を輝かせながら、ディブとベルはリヴに近寄ってきた。リヴは苦笑いを見せる。

「言ったでしょ?あんなんじゃ腹ふくれないって」

「おい、オレの質問に答えろよ」

「焦らないの!あのね…」

リヴは楽しそうな表情でヒカルの冒険話を始めたのだった。






「ふう、結局リヴと合流できなかったや」

ゲティは魔界にあるギャランの情報屋に来ていた。しかし、ギャランに尋ねたところ、リヴはもう出て行ってしまったらしい。

「お邪魔しますだ」

そこに、ユームがやってきた。腕には野菜の入った籠を抱えている。

「野菜を配りにきたんだ、食べてけろ」

ユームは籠からトマトを取り出し、ゲティに渡した。

「ここの家の人じゃないから、受け取れないよ…」

「まあたくさんあるから、受け取ってくんろ」

ゲティはトマトを手に取り、笑顔となった。

「おお、女の子が来たニャア!!もしかして、ヒカルっていう人間に会ったかにゃ?」

「会っただ」

「あの人間もやるニャァ」

ギャランは有頂天になり、ユームの周りを回っていた。ユームは首を傾げるのだった。







ヴィリアは空を見ていた。風で長い髪がなびく。

「………」

ヴィリアは目をつむり、後ろに振り向いた。

「どうやら、人間は無事に人間界へと戻ることができたみたいよ」

ヴィリアが薄目を開けると、そこにはニヤニヤと笑うメリアがいた。

「何や、親切な堕天使はんでんなぁ。うちにわざわざ報告して下さりはるやなんて」

「一つ…忠告しておくわ」

ヴィリアはメリアを無表情で睨みつけ、鎌を向けた。

「私はあなたの行動に興味はない。でも、ネルちゃんの悲しむ未来を生み出す行動を取れば、命はないと思いなさい…」

「おぉ、怖いわぁあ!」

メリアはわざとらしく体を震わせてみせた。

「…でも、安心しなはれ。アンタが思ってるほど、残酷なことはせぇへん」

「本当かしら…?」

ヴィリアは静かに立ち去った。メリアは明るい笑顔でそれを見送った。





リーナはマイクを手に持ち、たくさんの観客の前で言った。リーナの高い声が響き渡る。

「みんな、この歌はね、ある一人の男の子に作ってあげた歌なの!その男の子に届くよう、一生懸命歌うから、聞いてね!
題名は『光の行方』だよ!」

リーナは透き通るような声で、歌い始めた。



普遍的な日常 ため息をつく
僕は いつもと変わらぬ道を行く
ありふれる街 その中で
僕は何ができるんだろう

普段の生活 やみくもな思い
僕は さりげない態度で笑う
何もない空 その下で
僕は日常を歩む

君と出会うまで 僕は
そうやって生きてきた
けれど 僕は何かが変わった

光の息吹を感じながら
僕は無謀に突き進んだ
そして 天にあおりながら
心は希望に溢れた


不思議な旅立ち 周りは全て
見たことのない景色が映る
刺激的な冒険 その様に
僕の体は 震え出す

まだらな非日常 不安もある
けれど僕は 先に行くしかない
隣にいる仲間 その支えで
夢を抱くことができた

君と出会わないと 僕は
できなかったんだ
けれど 僕は何かが変わる

清々しい風を浴びながら
勇気を振り絞り 立ち向かう
そして 暖かさを感じて
心に光が宿る



拍手喝采の中、リーナは空を見上げた。

「今頃、何してるのかな?ピカルン」


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