ヒカルの光

□十五章
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「………ん?」

ヒカルは目を覚ました。周りは暗く、乾いた土の感触が手に伝わる。

暗闇の中に青い光を見つけた。しかし、体が非常に重たく、立ち上がれない。まるでおもりが体の上に乗っているようだ。

「重い……、重すぎる…」

ヒカルは体の上を見た。

「なっ?!」

ヒカルの体の上には、下から順にネル、シャンド、リヴが乗っかっていた。

「お前ら……、早く下りろぉおお!!」

ヒカルの叫びで、リヴが目を覚ます。

「……あら?」

「あら?じゃない!早く下りてくれ!!」

リヴは自分が乗っかっているものを見て、状況を理解した。

「下りてあげても良いけどさ、何かアタイに一言ない?」

「一言?」

リヴはニコリと笑う。

「ここまで来れたのは誰のおかげだと思ってんの?」

ヒカルは言葉に詰まった。確かにここまで来ることができたのはリヴのおかげかもしれない。しかし、リヴに感謝の言葉なんて何だか悔しい。

「あらぁ?どうしたのかしら?」

ヒカルはしぶしぶ口を開いた。

「…リヴ、感謝するよ」

「様付けしなさいよ、リヴ様って!」

ヒカルは声を荒げる。

「何で様付けしなきゃいけないんだよ?!」

「じゃあ下りてやんない」

ヒカルは拳を握る。ほんとにムカつく悪魔だ!

「……ありがとうございます、リヴ様!」

リヴは満足げな表情で一旦下り、シャンドとネルを地面に下ろす。

「さっさと起きな!」

リヴはネルとシャンドの頭をコツンと叩いた。二人は目を覚まし、周りを見渡した。

「…?ここは…どこです?」

「…変なとこだな」

リヴは周りを見渡した。

「多分、ここは異界ね」

異界、その言葉を聞いたヒカルは唾を飲んだ。

異界の景色は、その名の通り異様なもの。空は黒みがかった赤と紫が混濁し、地面は乾ききった硬い土や石で敷き詰められていた。植物は生えていたが、今まで見たことのない植物だ。

そんな異界に、ヒカル達はやってきたのだ。

「…そうだ!ペンダント」

ヒカルは青い光を放つ物の所へ向かった。それを拾い上げると、まさしくそれはペンダントだった。メリアが持っていたはずなのに、どうしてこんなところに落ちていたのだろうか?
とりあえず、ヒカルはペンダントを首につけ、ネル達の所へ戻った。

ペンダントが青い光を放ち、一定の方向を指し示していた。その青い光は、恐らく人間界へ繋がる扉を示しているのだろう。

「なんか天〇の城ラ〇ュタみたい」

ヒカルが呟くと、ネルが首を傾げる。

「何です?それ」

「アニメ映画だよ。面白いから、人間界に来た時に、見てみたらどうかな?」

ネルは笑顔で頷いた。

「そんなほのぼの話、してる暇ないわよ!」

闇の奥から、動く何かが現れた。それはスライムのような、ゼリーのような形状で、何本か触手が生えている。

「うわっ、何アレ…。キモい」

ヒカルはそう呟きながらも、剣を構え振った。衝撃波がスライムを真っ二つにする。

「楽勝!」

しかし、スライムはまだうねうねと動いている。

「完全に消し去ってやるわ」

リヴはスライムを指差した。その指先から炎の弾が出てきて、スライムを焼き払った。

「やった!」

しかし、闇の中から次々とスライムが現れた。

「俺が蹴散らしてやる…!」

シャンドは剣を構え、スライム達を切り刻んだ。その表情はとても楽しそうだ。

「ヒカルもさ、あんな風に戦いを楽しんだら?」

「…無理」

シャンドは全てのスライムを倒してしまった。

「もっと敵、現れねぇかなぁ!」

シャンドに呆れるヒカルだった。

「ヒカル君もシャンド君も、仲良くなってよかったです」

ネルの一言に、ヒカルは首を振る。

「あのな、いつかシャンドは僕の影に戻るんだぞ?仲良くなんて…」

「でも、ヒカル君はもうシャンド君に武器を向けてないです」

ヒカルは言葉に詰まる。
内心、ヒカルはシャンドを認めつつあった。最初は単なる自分の影だと思っていたが、シャンドにはシャンドの人格と考え方があり、一人の人間として見えてきたのだ。

「おい、エンドウ!何してる?行くぞ!!」

シャンドは先々と進む。まるではしゃぐ子どもだ。

「待てよ!」

ヒカルはシャンドを追いかけた。

「…そういえば、ラ・メリアはどこかしら?」

リヴは周りを見渡した。メリアの姿は見られなかった。

「大変です!探さなければ…」

ネルが走り出そうとするのをリヴが止めた。

「異界は危険なのよ?ラ・メリアは魔術師だから大丈夫でしょうけど、アンタが一人で探し回ったら危ないわ!」

ネルは俯いた。

「ただの人間であるヒカルを守る、それがアンタの役目なんじゃない?」

ネルは深く頷いた。

「そうですよね!リヴちゃん、ありがとうございます、なのです」

ネルはヒカルの元へ向かった。

「世話がかかる奴らばっかで疲れるわ」

リヴもまた、ヒカルの元へ向かった。




餌の臭いを嗅ぎつけて、闇の中から現れたのは、しま模様の巨大な蜘蛛だ。

ネルはそれを見た途端、顔面は蒼白となり、その場に凍りついてしまった。

「…ネル?」

ヒカルが心配し声をかけるも、ネルはガタガタと体を震わせるばかりだった。

「ネルは蜘蛛が大の苦手なのよ」

リヴはネルの前に立ち、ネルに蜘蛛を見せないようにした。

「蜘蛛はアタイとシャンドが倒すから、ネルはヒカルと一緒にいな」

ネルはゆっくりと頷いた。ヒカルはネルをなるべく蜘蛛から離れた所へ連れて行った。

「さて、戦うわよ!」

リヴは飛び上がり、蜘蛛の丸いお腹に乗った。蜘蛛は暴れている。

「シャンド、アンタは蜘蛛の足をやりな!動き回られたら、仕留めづらいわ」

シャンドは剣を構え、蜘蛛の足を切り裂いた。一本の足が落ちる。

「もう一本行くぜ!」

シャンドはもう一本、蜘蛛の足を斬ろうと剣を振り上げた。蜘蛛は器用に足でシャンドを蹴り飛ばした。

それをヒカルは見る。

「シャンドのバカ!痛みを感じるのは僕……」

あれ…?ヒカルは自分の体を見た。全く体が痛くならないのだ。痛む所と言えば、メリアにつけられた腕の傷くらいだ。

「どうして…?」

ヒカルは疑問に思ったが、答えてくれる人はいない。

「とどめ!」

リヴは蜘蛛の腹に槍を突き刺した。

「デビュラデビュララ!燃え尽きな」

槍からは炎が舞い上がった。蜘蛛は炎に包まれ、もがき苦しむ。やがて蜘蛛は動かなくなり、炭と化した。

「案外弱いわね!」

「楽しかったぜ!」

リヴとシャンドは笑い合った。

「…蜘蛛はどこかに行ったです?」

ネルは青ざめた顔でヒカルを見つめた。ヒカルは笑顔で頷いた。

「このままリヴとシャンドが頑張ってくれれば、楽に人間界へ帰られる!」

「お前も戦えよっ!」

ヒカルはシャンドに殴られた。

「現実的に考えてさ、僕よりも強い二人が戦った方が良いと思うんだよな。僕は足手まといさ」

「逃げてるだけだろ、ソレ!戦いを楽しめないバカなやつ」

「バカはお前だ」

「何だと?!」

二人の口喧嘩を見て、ネルは笑った。

「兄弟みたいなのです」

「「ちげぇよ!!」」

ヒカルとシャンド、二人同時のツッコミが響く。




流石は異界、魔界とは違い次々と魔物がヒカル達の周りに現れた。

「そろそろうざってぇんだよ!」

シャンドは剣をむやみやたらに振り回した。

「すんなりとは帰してくれないか…」

ヒカルは剣を大きく振った。いくつもの衝撃波が魔物を蹴散らす。

「数でアタイに勝てると思ったら、大間違いよ!」

リヴは余裕の表情で魔物を薙ぎ倒した。

「皆さんの能力を一時的に上げるのです!」

ネルはサポート役として、戦う人の支援をしていた。


もはやこのメンバーに敵はいないようだ。

頼もしいパーティーに、ヒカルは嬉しさと希望を持った。

「なあ、シャンド」

「どうしたんだよ、エンドウ。戦い中だぞ?」

ヒカルはシャンドに笑顔を見せた。

「僕が二人いるなんてすごく可笑しいことだけど…、君も人間界に来なよ」

シャンドは驚いた様子だったが、その目は輝いている。

「良いのかよ?!」

「遊びまくってさ、お互い納得したら元の状態に戻る。その方がさ、気持ちいいだろ?」

「よし、なら人間界に向けて、張り切って行くぜ!」

シャンドは次々と魔物を倒し、道を作った。青い光が指し示す人間界への道を。

「行くぞ!」

シャンドが作った道をヒカル達は進んだ。

そんな中、ネルは胸に手を当てる。

「何です……?この胸騒ぎ…」

ネルは少し不安を抱えつつも、ヒカルと共に進んだ。




ヒカル達は魔物を蹴散らしながら、青い光が示す方向に進んだ。やがて、遠くの方に扉が見えてきた。光はその扉を指している。

「あの扉だ!」

ヒカルは扉を指差した。

「やっと帰られる…!」

「でも、アタイ疲れたわ…!魔物ラッシュが来る前に休んでおきましょうよ」

異界の魔物の量は半端ではなく、今まで戦いながら先へと進んでいたのだ。
流石のリヴでも、疲れるのは無理もない。

「確かに…僕も疲れた」

ヒカルは地面に座った。

「情けねぇな!俺は全然疲れてないぜ」

シャンドはヒカルの飛び跳ねている。

「元気だな…」

「ネルもまだまだ元気なのです」

ネルは元気な笑顔でヒカルの側にやってきた。

ヒカルは自分の体を見た。服は汚れ、少し破れている箇所がある。今まで頑張ってきた証拠だ。

「僕が経験した冒険は、家族や友達に自慢できるね!まあ信じてもらえるかわかんないけど」

「ヒカルのパパとママは、きっと信じてくれるのです」

「ありがと」

ヒカルはネルに微笑みかけた。

「もうこれでお別れなのね、ちょっとつまんない!」

リヴはヒカルの腕を掴む。

「アンタをイジメに人間界へ遊びに行ってやるんだから、覚悟しなさい」

「絶対に来るな!!」

リヴはニヤリと笑った。来るつもりだな…、ヒカルはため息をつく。

「エンドウ、人間が住む世界ってどんなとこなんだ?」

「ネルも聞きたいです!」

「アタイも!」

ヒカルは少し困惑の表情を浮かべた。

「どんなとこって言われても…。ネルもリヴも来たことあるんだから知ってるだろ?」

「あんな短い間じゃ把握できないわよ」

「ネル、もっともっと知りたいのです」

ヒカルは自分の住む東京について話した。人がとにかく多いこと、高層ビルが立ち並んでいる都市であること、食べ物が美味しい店がたくさんあることなどだ。

三人は顔を輝かせていた。

「すげぇな!!東京か…」

「文化や技術がとても発達しているんですね!」

「冥界はあんま美味しい食べ物ないから、行ってみたいわ」

「僕の住む町は高いビルはあんまないけど、住みやすいんだ」

シャンドは立ち上がり、扉を指差した。

「なあ、早く人間界を見たいんだ!行こうぜ、行こうぜ!!」

シャンドの言葉に、ヒカルは立ち上がった。

「そうだな!休憩はできたし、魔物のいない今の内に進んどこうか」

「その前に、ネルがケガと体力を回復させるです」

ネルの暖かな光が皆を包み込んだ。受けた傷は閉じ、疲れが取れた。

「よし、行こう!」

ヒカルの声が周りに響いたその時、闇の中で何かが動いた。

「タイミングが良いんだか、悪いんだか…」

ヒカルは剣を構えた。シャンドとリヴも武器を構える。

「来い!魔物」







「ヤバいな…、ほんまヤバいわ…」

メリアは周りを見渡しながら、走っていた。体に痛々しい傷が見える。その傷口から、血が流れている。

「まさかアイツが異界におるとは…、誤算やった」

メリアは息を荒げながらも、走るのを止めなかった。

「死なんといて…、ヒカルはん!」


メリアの言うアイツとは誰か?無事にヒカルは家に帰ることはできるのか?

いよいよ、物語は終幕に向けて動き出す!!


次の話→十六章

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