ヒカルの光

□十四章
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シャンドは一旦後退し、剣を振った。黒い衝撃波がヒカルに迫る。

「なっ?!」

ヒカルは剣でその衝撃波を切った。黒い衝撃波は割れたが黒い刃が出てきて、ヒカルの体を切り刻む。

「い…ぐっ!」

「ヒカル君?!」

ネルはヒカルに回復魔法をかけようと手をかざした。しかし、ヒカルは首を横に振る。

「これは僕の戦いだ…。ネルの気持ちは嬉しいけど、大丈夫!
それよりも、危ないから離れてて」

ヒカルはシャンドに近づき、剣を振った。シャンドは剣でそれを受け止める。

ネルは困惑の表情を浮かべるが、ヒカルに言われた通り、離れ見守った。

「シャンド、君には悪いけど…影に戻ってもらうよ!」

「やなこった!俺はもっとも〜っと遊ぶんだ」

シャンドはヒカルを押しのけた。右目の魔法陣が光り輝く。

「俺はまだまだ…消えるつもりはねぇぞ!」

シャンドの体から、青黒いオーラが出る。そのオーラはヒカルに襲いかかった。ヒカルは一歩引き、大きな衝撃波を二つ出した。二つの衝撃波はオーラを払いのける。

「ふぅ……」

ヒカルの息は、少し荒くなっていた。休息は取った、とは言え完全に疲労がとれていないのだ。さらに、歩き疲れた足は悲鳴を上げている。

ヒカルは剣から電気が出てきて、シャンドの右目にダメージを与えるイメージを思い浮かべながら、剣を振る。剣から放たれた衝撃波は、目にも止まらぬ速さでシャンドの右目を狙う。

「げげっ?!」

シャンドは慌ててバリアを張る。間一髪、衝撃波を防いだ。

「てめぇ、魔法使えるのか…」

「イメージしてたのと違うけどね!」

ヒカルはもう一度剣を振り、衝撃波を出した。その衝撃波はバリアを壊し、シャンドの頬をかする。ヒカルは構わず、シャンドに近づいた。

「だぁああ!!」

ヒカルは剣を振り下ろした。

「……ヘヘ」

シャンドは不気味な笑いを見せた。ヒカルの剣がすぐ目の前に迫っているのに、何故笑えるのかヒカルが疑問に思ったその時だった。

「ぐあっ?!」

ヒカルは自分の身に何が起こったのか、一瞬わからなかった。ただ体の全体に大きな力が加わり、シャンドを斬れないまま、吹き飛ばされたことはわかった。ネルの悲鳴が聞こえる。

「俺の勝ちだぜ!エンドウ」

ヒカルは地面に背中を叩きつけられる。

「お…前……な…にを…」

ヒカルは立ち上がろうとしたが、痛みのせいで立ち上がれない。

「お前よりも魔法の扱いが慣れてるだけのことだ」

シャンドはヒカルに近づいた。ネルは急いでヒカルに駆け寄る。

「ヒカル君、大丈夫です?!ヒカル君!!
シャンド君、もう止めて下さい、なのです」

ネルの涙がシャンドの心に突き刺さる。

「シャンド君、どうしてこんなことするのです?」

「俺は……」

シャンドは眉を吊り上げ、そしてヒカルを指差した。

「俺はそいつが、エンドウが大嫌いだからだ!!俺は影だった。そいつに従って動くだけの影!
エンドウは俺を取り返そうとしてる。でも俺は、もう従うのはゴメンなんだ!」

ネルはシャンドに近寄った。そして、満面の笑顔を見せた。

「教えてくれてありがとうございます、なのです!」

ネルはシャンドに抱きついた。シャンドは困惑の表情を浮かべる。

「あなたがヒカル君を嫌っているのは、変えられませんです。でも、あなたの行動は変わると思うのです。
嫌いだからと言って、相手に暴力を振るうのは悪いこと、なのですよ。ネルは、あなたがもう誰も傷つけないと信じてますです」

ネルはシャンドに微笑みかけた。

「そうですよね?シャンド君!」

シャンドにはネルの行動を理解できなかった。だが、何か暖かいものが伝わってきた。

「…でもさ、エンドウは俺につっかかってくるぞ?そん時は身を守るために、武器を構えるからな!」

ネルはふと思いついた考えをシャンドに告げた。

「ヒカル君とシャンド君、共に行動してみたらどうです?」

シャンドは声を荒げた。

「何でそうなる?!」

「嫌い同士でも、一緒にいると仲良くなれる…かなぁと思いまして」

「ハァ?お前って…よくわかんねぇよな」

痛みが引いてきたヒカルは立ち上がり、シャンドを睨む。

「絶対仲良くなるつもりはないぞ!そもそも、僕の影だったんだ。素直に僕の影に戻れ!!」

「ハッ、やなこった!でも、アレだ、友達のネルが言うんだったら仕方ねぇ。仲良くしてやっても良いぜ?」

「してやってもってなんだよ、してやってもって!」

言い合う二人を、ネルは微笑ましく見守った。

「何や、路線が思いっきしズレてもうたな…」

「ネルは戦いを終わらせる力があるからね…、特にあの単純バカ二人には効くみたい」

リヴは立ち上がり、メリアを見下ろした。

「影でヒカルを阻害するのは、もう無理なんじゃない?」

「…ほんまやな。でも、見てておもろいし、しばらく影はあのままでええやろ」

確かにとリヴは頷いた。

「おい、メリア!」

ヒカルはメリアに剣を向けた。ネルが慌てて止めている。

「一つ提案がある。異界にはいろんな危険が待ち受けている。僕を異界に送った方が…お前にとって楽しいものになるんじゃないか?」

「それもそうやな…」

「なら、今すぐペンダントを返せ!」

メリアはニヤリと笑った。

「よっしゃ、うちと戦って勝ったら返したるわ」

「望むところだ!」

ヒカルは剣を構えた。ネルはヒカルの目の前に立った。

「戦いはダメです!それに、ヒカル君ケガしてるです」

「…避けられない戦いなんだ」

ヒカルはメリアに向かって走り出した。

「そんな…」

ネルは悲しげな表情を浮かべた。その隣にリヴが立っていた。

「まあ良いじゃん!ヒカルとシャンドの戦いは無くなったんだしさ」

それより、とリヴはシャンドの方を向いた。

「アンタがシャンドね。アタイはリヴよ!
ねぇ、アンタもヒカルと一緒で純情なの?」

シャンドは首を傾げた。

「ジュンジョー?」

「フフ、アタイが相手してあげる!」

リヴはシャンドに抱きついた。シャンドは焦りを感じた。

「な、何すんだ?!」

「顔赤いわよ」

「んなわけ…!は、離せ、バカッ!!」

リヴはシャンドの反応を楽しむのだった。




一方、ヒカルは剣を振った。メリアは軽やかな動きで避ける。

「うちは魔術師、人間にやられるわけあらへん」

「やってみないとわからないぞ!」

ヒカルの剣が輝きを見せる。
ヒカルは剣を大きく振った。複数もの衝撃波がメリアを狙う。
メリアは衝撃波を避けるが、衝撃波はメリアを付け狙う。
メリアはバリアを張り、衝撃波を防いだ。

「次はこっちが攻撃する番や!」

メリアはバリアを解き、魔法で二つの剣を取り出し、空中に浮かせた。そして、その剣を操る。

一つの剣がヒカルに突進してきた。ヒカルはそれを剣で受けるが、もう一つのメリアの剣がヒカルに振り下ろされる。

「うわっ?!」

ヒカルは剣を払いのけ、もう一つの剣を避けようと横に動いた。しかし間に合わず、腕に傷ができる。

「うっ?!」

「大丈夫かいな?」

メリアはニタニタと笑っている。

「くっ、腹立つ!」

ヒカルはもう一度、大きく剣を振った。再び複数もの衝撃波が現れ、メリアに襲いかかる。

「無駄や」

メリアはバリアを張り、衝撃波を防いだ。ヒカルは一気にメリアとの距離を詰め、力一杯バリアを剣で突いた。バリアはガラスのように割れる。
ヒカルはその勢いのまま、メリアを突いた。メリアは慌てて避ける。
ヒカルの剣により、メリアのマントが破れた。マントの布切れは風に流される。

ヒカルはメリアを狙い、剣を振るった。メリアの二つの剣が、ヒカルの剣を受け止める。

「メリア、ペンダントを返せ!」

「絶対に嫌や!」

突然のことだった。メリアも予測していなかったに違いない。ペンダントにつけられた青い宝石が眩い光を放ったのだ。

「な、何や?!」

「眩しい!」

ネルやリヴ、シャンドも光に気づく。

「ペンダントが光ってるです!」

「どうしていきなり光り出したのかしら?」

「…あれ見ろ!」

シャンドが指差した先を見ると、空間に黒い穴が開いていた。その穴は、まるでブラックホールのように周りの物を吸い込む。
その穴に近い所にいたヒカルとメリアは、抗う間もなく吸い込まれた。

「ヒカル君!」

ネルは自ら穴に飛び込んだ。

「アタイ達も行くよ!」

「俺も?!」

リヴはシャンドを無理矢理穴に放り込み、自分もまた穴に入った。

空間の穴は、やがて閉じられた。





空に浮く巨大な龍が地上を見下ろしていた。その身体は細長く、鱗は光が反射し、水色に輝いていた。

「ごめんね、ヒカル……。でも、急を要する事態に陥ったんだ」

龍は目をつむる。

「無事を祈る」


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