ヒカルの光

□十三章
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ヒカル、ネル、リヴの三人は魔の森を出た。外はいまだ雨が降っていたが、朝ほど激しくはない。

「メリアとシャンドをどう探すか、なんだよな…」

「案外すぐ現れるかもよ?邪魔しに来るって言ってたし」

すぐに来ないでほしい、ヒカルはそう思った。何故なら、魔の森での戦いに体力を削られた挙げ句、歩き疲れてしまったからだ。

「素直に影を返してくれれば、こっちもありがたいんだけどな…」

「話し合いで解決はできないです?」

ヒカルはメリアのことを考えた。
あいつが話し合いで、魔法を解くだろうか?いや、僕とシャンドを戦わせ、楽しみたいだろう。だから、簡単には返してくれないか…。

「ネルには気にくわないだろうけど、シャンドと戦って、影を取り返すしかないよ」

ネルは俯いた。

「あのさ、思ったんだけど…」

ヒカルとネルは、リヴの方に振り向いた。リヴは笑顔でこう言った。

「別に影が無くても良いんじゃない?」

ヒカルは大きく首を横に振った。

「影無くちゃ困るだろ?!大体、僕の足元見てみろよ!」

リヴはヒカルの足元を見た。ネルとリヴは影が伸びているのに、ヒカルは伸びていない。あまりにも不自然な状況に、リヴは苦笑いを見せる。

「…ちょっと気持ち悪いけどさ、死ぬわけじゃないし」

「あのな…、どっかに自分と瓜二つの人間がいたら嫌だと思わないか?それに、シャンドの痛みは僕の痛みだ。勝手にシャンドが怪我して、僕が損するのはゴメンだ!
僕は影を取り返す!絶対にね」

リヴは顔をしかめた。面倒だと言いたげな顔だ。

「面倒ならいいよ、別に!」

「ネルはヒカル君を手伝うので、ご安心下さい、なのです」

ネルは張り切って言ったが、ヒカルは正直不安だった。




体力がもう限界に来ているせいか、ヒカルの足はだんだんと重たくなってきた。

「ヒカル、遅いわよ!町まで後少しなのに…情けないわね」

リヴは早足に進んでいた。ネルはヒカルの手を引いている。

「そんなこと言われても…」

「休憩しますです?」

リヴの言う通り、町はもうすぐだ。ここで休んでなんかいられない。そして、何よりもここで歩みを止めては、リヴに負けた気がするし、悔しいのだ。だから、ヒカルはネルに笑顔を見せた。

「大丈夫だよ」

ネルは頷いたが、まだ心配しているのだろう、表情が少し曇っている。



突然、突風がヒカルの体にぶつかってきた。ヒカルは倒れ、ネルも一緒に倒れてしまう。
ヒカルの目の前には、緑色の髪をなびかせた少年の天使が立っていた。ヒカルはその少年を知っていた。

「ウィンドル!!」

「やあ、久しぶりだね」

ウィンドルはヒカルに微笑みかけた。ヒカルはウィンドルを睨みつけた。

「一体何の用だよ?…この薄情ナルシスト!」

「これを貰いに来たのさ」

ウィンドルは手に持っているペンダントをヒカルに見せた。そのペンダントには青い宝石がついている。

「それは……!!」

ヒカルは自分の首元を見た。魔神の息子、アングから貰ったペンダントがなくなっている。
ヒカルは立ち上がり、ウィンドルを睨む。

「返せ!それは僕のだぞ?!」

「返せって言われて返すようなバカじゃないんでね、ありがたく貰っておくよ」

ネルは立ち上がり、ウィンドルに近寄った。

「ウィン君、人の物を勝手に取り上げるのは、ダメなことなのです!それをヒカル君に返してあげて下さい、なのです」

ウィンドルは嘲笑するような目でネルを見た。

「君みたいに余計な正義感を持ってる奴、嫌いなんだ」

ウィンドルは近寄るネルを指差した。その途端、ネルの体が吹き飛ばされる。

「ネルっ?!くそ、てめぇ!」

ヒカルは剣を抜き、構えた。

「無駄だよ、ヒカル君」

ヒカルはウィンドルに近づき、剣を振る。ウィンドルは余裕の表情で剣を避け、ヒカルの腹を蹴り上げる。

「っが?!」

「どぶネズミが可憐な猫に勝てると思うのかい?」

ヒカルはうずくまった。しかし、剣は強く握られたままだ。

「窮鼠…猫を噛むっていう言葉、知ってるか?!」

ヒカルは狙いも定めず、剣を振る。しかし、これは魔法を使うためだ。ヒカルの魔法は縄となり、ウィンドルの足を捕まえる。

「なっ?!」

「くらえ!」

ヒカルは素早く立ち上がり、ウィンドルの頬を殴った。

「…どうだ!」

ウィンドルは黙ったままだった。しかし、その目には怒りの炎が燃え上がっていた。

「……僕の顔を、この…美しい顔に、よくも!!」

ヒカルは恐怖におののいた。何故なら、ウィンドルの周りにどす黒いオーラが漂い、こちらを睨みつけているからだ。

殺す気だ…、怒りのウィンドルを見て一番に思ったのがこれだ。

「僕が悪かった!ごめん!…本当にごめん!!……ごめんってば」

ウィンドルはヒカルの魔法を払いのけた。そして、両手にナイフを持ち、ゆっくりとヒカルに近づいた。ヒカルの顔が一気に青ざめる。

「やめて下さい、なのです!」

ウィンドルの前にネルが立ちはだかった。

「…どけよ。流石の僕でも、女の子を傷つけるのは気が引ける」

「いやです。あなたはヒカル君に武器を向けています、なのです。それをおろして下さいです」

ウィンドルは笑った。しかし、その笑みはとても冷たかった。

「殺しはしないさ。殺しは天使の禁忌だし、僕の性分に合わない。ただちょっと常識を教えてあげるだけ…」

ウィンドルはヒカルを睨んだ。

「そこのバカになっ!!」

ウィンドルはナイフを振った。しかし、それは槍により防がれた。

「遅いと思ったら…」

「リヴちゃん!」

ウィンドルはリヴを睨む。リヴはウィンドルを睨み返した。

「アンタならわかるはずよ。アタイとアンタの力量の差が…」

ウィンドルはナイフを引っ込めた。

「これだけは覚えておきなよ、ヒカル君。僕の顔を傷つけた罪は、殺害の罪より重いとね」

ウィンドルはさっさと飛び去ってしまった。

「…ナルシストを怒らせると、怖いな」

ヒカルは安堵のせいか、全身の力が抜けてしまった。

「ウィン君、結局返してくれませんでしたです…」

「あ…、そうだ!ペンダント」

ヒカルは慌ててウィンドルを追いかけようとしたが、もう姿は見えない。

「しまった……」

ヒカルはうなだれた。

「何がどうなってんのさ?」

ネルがリヴに説明している間、ヒカルは座って考えていた。
ウィンドルには、もう会えない気がしてきた。ウィンドルは僕から余裕の表情で逃げていくに違いないからだ。ウィンドルに逃げられれば、絶対に追いつけない。

ヒカルはため息をつく。

「なんでこんなにも不幸なんだ……」

「ヒカル、何やってんの?行くわよ!」

リヴに呼ばれ、ヒカルは立ち上がった。しかし、その足はどことなく重たかった。




三人は町にたどり着き、休息をとった。ヒカルは自分の足をさする。じんじんと痛みを感じる。

「…これからどうしよう」

ヒカルの呟きに、リヴが首を傾げる。

「影とペンダントを取り返すんでしょう?」

「ペンダントはウィンドルが持ってるんだぞ?取り返せっこない!
それに、簡単には影を取り返せそうにないしさ、もう嫌になるよ…」

「何諦めてんの?らしくないわね!」

リヴはヒカルの肩を思い切り叩いた。

「いってぇぇえ!!な、何すんだよ?!」

「アタイ達がいるってこと、忘れてた罰」

リヴは自信ありげな表情だ。その隣でネルが微笑んでいた。

「ネル達がいますです!だから、気を落とさないで下さい、なのです」

ヒカルはネルとリヴを見つめた。思わず涙が出そうになった。

「ネル、リヴ、……ありがとう!」

「邪魔するでぇ」

聞き覚えのある声の方向へ振り向くと、そこにはメリアがいた。隣にはシャンドもいる。

「いきなりかよ!もう少しさ、間があっても良いんじゃないか?!本当に今は邪魔以外の何ものでもないぞ!!」

「何をずべこべ言おるんや?それより、これ見てみ」

メリアは持っているものをヒカルに見せた。青い宝石のついたペンダントだ。

「あっ!!」

「ウィンドルはんに頼んで、盗ってきてもらったんや」

お前のせいか!とヒカルはメリアに怒りを感じた。

「ウィンドルはん、怒ってはったで!ヒカルはんに制裁加えてほしいって頼まれたわ」

制裁という言葉に、ヒカルは震えた。

「まあ安心し!制裁なんてせえへんから」

ヒカルはその言葉が信じられなかった。

「よお、エンドウ!」

「…シャンド!」

ヒカルは剣を構えた。

「あの…!」

ネルが一歩前に出てヒカルを止め、メリアに訴えかけた。

「戦わずに済む方法は…ないのです?あなたの望みは何です?」

メリアはニヤリと笑う。

「ネルはん、うちはな…戦いを見るんが好きやねん。
さあ、シャンド!行きなはれ」

「おうよ!」

シャンドは剣を構えた。シャンドの持つ剣はまがまがしいオーラに包まれていた。

ヒカルは剣を構え直した。ヒカルの持つ剣は清らかな光を帯びていた。

二つの剣が交わり、金属音を出す。

ヒカルとシャンドの戦いが、始まった。

「アタイは観戦するけど、アンタは?」

「うちも観戦するで!」

リヴとメリアは仲良く座っていた。そして、またもや仲良くポップコーンを口にしていた。それを見たヒカルは、眉を吊り上げる。

「またかよ!いい加減にしろっ!!」

ヒカルのツッコミは二人に届かず、空しく響くだけなのだった。


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