ヒカルの光
□十二章
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草むらから現れたのは、頭はワシで体がライオンの生物、グリフォンだ。そのグリフォンは、大きい生物に襲いかかった。よく見ると、体にばんそうこうが張られている。
「そうか…、あいつはあの時の……!」
ヒカルは立ち上がり、グリフォンに近づいた。そして、優しく体を撫でる。
「ありがとう、グリフォン!」
グリフォンが大きな生物を足止めしてくれている間に、ヒカルは生物の懐に入り、腹に刺さる剣の柄をしっかりと掴んだ。そして、力一杯に引っこ抜いた。
生物の腹に出来た傷口にグリフォンは牙を向けた。生物の肉を食いちぎるそのグリフォンの様は、実に醜くえげつないものだったが、ヒカルにとってグリフォンは救世主だった。
生物の大きな体は大きな音を立て、地面に倒れ込んだ。グリフォンは多少怪我を負ったようだが、大したことはなさそうだ。
ヒカルはグリフォンに近寄った。グリフォンは辺りを見渡している。
「ネルを探してるのか?今、ネルはいないよ」
震えていたユームは、ゆっくりとヒカルとグリフォンに近づき、頭を下げた。
「あ、ありがどうごぜぇますだ!!」
ユームは何度も何度も頭を下げ続けた。
「大したことしてないから、そんなに頭を下げなくても……」
「いんや、命の恩人に頭を下げねぇバカはいねぇだ!」
ヒカルは困惑の表情を浮かべるしかできなかった。
「超痛〜い!レディになんてことするわけよ…って、あら…?」
リヴはあの大きい生物を探したが見当たらなかった。代わりにグリフォンを見つけるやいなや、槍を構えた。
「新手が来たわけ?!」
「違うっ!助けてくれたんだ」
グリフォンはリヴに警戒の目を向けた。致命傷を与えられた相手なので仕方はないが、ヒカルはこの場をどうにか治めたかった。
「ほら、ネルが治療したグリフォンだよ!証拠にばんそうこうが体に張られてる」
リヴはばんそうこうを確認した後、武器を仕舞った。
「ネルもアンタも甘いわね!ホント意味不明」
リヴはそっぽを向いた。
しばらくの間、グリフォンはリヴに警戒の目を向けていたが、やがてそれを緩め、立ち去った。
「行っちゃった…」
「おらもそろそろ行ぐだ。ヒガル君!」
ヒカルは振り返った。ユームが頭を下げていた。
「ヒカルだよ、ヒ・カ・ル」
「わがっでるども、ヒガル君!」
ヒカルは肩を落とした。
「なまるのはわかるけどさ、名前はきちんと発音してくれよ。ヒガルってなんか、僕がひがんでるみたいじゃん」
「んだごと言われでも…。ヒガ…カル、ヒガル……う〜ん、言いにぐいべ」
逆にヒガルの方が言いにくいと思うけどな…、ヒカルはそう思うが、ユームに微笑みかけた。
「ユームが呼びやすい呼び方で良いよ」
「わがっただ!じゃあまたなぁ、ヒガル君」
ユームは飛び去った。
「ひがんでるヒガル…」
リヴは笑いをこらえていた。
「一発殴って良いか?」
「レディを殴る気?うわぁ、ヒガルってそんな乱暴な人だったの?」
「ヒカルだっつうの!」
ヒカルは拳を握り、リヴに殴りかかった。しかし、いとも簡単に避けられてしまった。
「相変わらずバカね!アンタの動きなんて、亀よりも遅いんだから」
ヒカルはリヴを睨んだ。リヴに対する怒りがフツフツとこみ上げてくる。
「見てろ…、いつか仕返してやるからな!」
「無理ねっ!」
ヒカルはとりあえず、怒りを心の中に仕舞い込んだ。
合体生物との戦いもあり、だいぶ時間が経っているような気もするが、ネルは姿を見せなかった。
「…ネル、大丈夫かな?」
「…ちょっと見てくるわ。アンタはここを動いちゃダメよ!」
「わかった」
リヴは翼を広げ、飛び立った。
ヒカルは地面に落ちる盾の破片を眺めた。身を守る道具をなくしてしまったことに、ため息をつく。
ヒカルは次に剣を見た。数々の動物を斬ってきたこの剣、刃こぼれ一つ見当たらない。前にヴィリアが言っていた。「剣はあなたの魔力に応え、力を発揮した」と。剣自体にも不思議な力がある、ということだろうか?
「不思議なことだらけだな…」
ヒカルは剣を軽く振った。小さな衝撃波が勢い良く飛び出し、地面に傷をつける。
「ネルもリヴも遅いなぁ」
ヒカルは地面に座った。そして、上を見た。雨も光も遮る木の葉が生い茂るのみだった。
「ネル?どこ?」
リヴは空を飛び、周りを見渡した。雨が視界を濁らせるが、目の良いリヴは目立つ黄色を見逃さなかった。
「いた!ネ〜ル〜!!」
「あっ、リヴちゃん!!」
ネルはリヴの呼びかけに気が付き、リヴに近寄った。
「良かったのです!森を出た途端、リヴちゃんの魔力が感じられませんし、森には入れませんし、不安で不安で……」
リヴは眉を潜めた。そこには焦りも見える。
「…どういうこと?!」
「森にバリアが張られているようなのです。そのせいで中からの魔力を感じられなかったのかと思うです」
リヴは急いで森の中に入ろうとした。しかし、見えない壁にはばかられてしまった。槍で壊そうとしたが、びくともしない。
「マジで?!……ヒカルッ!!」
リヴは壁をひたすら槍で突き続けた。
ヒカルはしばらくの間、座って二人を待っていた。
「どうしたんだろう?」
探しに行きたい気持ちだったが、動いてしまっては余計会えなくなる。ヒカルはじっと我慢した。
「待っても無駄だぞ、人間」
ヒカルは立ち上がり、剣を構えた。
「誰だ?!」
「そなたの目的、そして望みはわかっておる。我に力を示せ!さすれば、望みを叶えてやろう」
ヒカルの目の前に、人が現れた。水色の短髪で細身の男性だ。裾の長いローブをはおり、どことなく不思議なオーラをかもしだしている。
「我は魔神の子、母上の代わりにそなたを試す者だ。そなたと戦うには、人の姿が良いと思ってね…」
男性は魔法で棒を取り出した。棒の両端には綺麗な宝石が埋め込まれている。
「我が名はアング。本気で来い…、ヒカル」
ヒカルは剣を構え直した。そして、大きく剣を振りかぶる。衝撃波がアングに襲いかかる。
アングは自分を中心にし、地面に棒で円を描いた。円は突風を生み出し、衝撃波をなぎ払った。
ヒカルは盾の破片を素早く拾い上げ、アングに投げつけた。しかし、破片も突風により吹き飛ばされてしまった。
「これならどうだ?」
ヒカルは剣を構え、アングに向かって走り出した。
「悪いが、この突風はあらゆるものを吹き飛ばす」
ヒカルが円を踏んだ途端、突風の力により足が浮いた。ヒカルはバランスを崩し、後ろにのけぞる形となった。
「くらえ!」
ヒカルは持っていた剣を振った。盛大に尻餅をつくが、衝撃波は突風にはねのけられることなく、アングの腕をかすった。
「…やるね」
アングはヒカルから少し離れ、棒を振り上げた。棒の先からは青い炎が出ている。その炎は孤を描き、ヒカルに襲いかかった。
炎の範囲は広く、逃げられそうにない。かと言って盾もない。このまま焼かれてしまうのか?ゲームオーバーになるのか?それは…絶対にいやだ!
ヒカルは立ち上がり、目を瞑った。炎の光がまぶたの裏に焼きついている。
ヒカルは勢いづいて炎に近づき、思い切り炎を斬った。
熱風を感じる。肌が熱い。しかし、自分の体に火がまとわりついていないことは確かだ。
ヒカルが目を開けると、炎は真っ二つに割れていた。…いや、違う。ヒカルを避けるようにして枝分かれしているのだ。
よく見ると、自分の周りに薄青色の半透明な壁が出来ていた。
「これ…バリア?」
「お見事、そなたは力を示した!褒め称えよう」
炎は消え、その向こうには拍手するアングがいた。穏やかな笑みだ。
「よくわからないんだけど…?」
「そなたは我々、魔界人が評価する二つの力を示した。
一つは魔力、そなたの持つ魔力がそのバリアを作り上げたのだ。盾が壊れたために、自分を守るものを欲したのだろう?それが具現化したのだよ」
ヒカルは唖然とアングを見つめた。僕が魔法を使ったというのか?…信じられない。
「…もう一つの力は?」
「もう一つは勇気。命の危険にさらされながらも炎に立ち向かった。以前にもそなたの勇気を見せてもらったから、それは申し分ない」
ヒカルは自分の行動を思い返してみた。やけくそに近い自分の勇気、いや無謀さに笑えてくる。
「これは私からの忠告。その勇気を…忘れないでね」
ヒカルは、いきなりアングの口調が変わったので、驚いた様子でアングを見た。アングの表情は、真剣そのものだった。
「さて、ヒカル…。そなたは見事、力を示した。これを授けよう」
アングは棒を振った。鮮青の綺麗な丸い宝石のついたペンダントが現れた。それは浮遊し、ヒカルの首元につけられた。
「その宝玉は異界に道を繋げ、人間界の扉を開く鍵となるもの。成すべきことを終え、時が満ちれば、道は開かれるだろう」
アングは闇に消えた。
ペンダントの宝石は不思議な光を放っていた。どこか心の安らぐような優しい光だ。
「ヒカル君!」「ヒカル!」
ネルとリヴが空から下りてきた。
「ネル!リヴ!良かった、心配したんだよ?」
「それはこっちのセリフよ!」
「怪我がなくて良かったのです」
ヒカルは微笑んだ。
「あら…?」
リヴはペンダントを見つめた。
その目線に気づいたヒカルは、ペンダントを指差した。
「あ、コレ、魔神の息子から貰ったんだ。異界を繋げる道を作ってくれるんだって」
「いつの間にそんなの貰ったの?」
リヴは宝石をじっと見つめた。
「…あげないよ」
「わかってるわよ!」
ヒカルはリヴの舌打ちを聞き逃さなかった。
「今すぐ異界に行くのです?」
「いや、やらなくちゃいけないことをやってからだ」
ネルは首を傾げた。
「僕の影を取り返さないとね」
「鍵を手に入れてしもうたか…」
メリアは口元を吊り上げる。
「頼むで!アンタの腕を見込んで高い報酬払ったんやから」
メリアの後ろで誰かが微笑んだ。
「僕に任せなよ。絶対にやってみせるからさ」
この微笑む影は誰なのか?そして、ヒカルは影を取り返すことができるのか?
「クライマックスやけど…まだ終わらんで」
メリアは不適な笑いを見せた。
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