ヒカルの光

□十章
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ヒカルは盾で影を押しのけ、剣を抜き、影を狙い、振りかぶった。大きな衝撃波が影を襲う。

影は避けることなく、その衝撃波に当たる。その途端、ヒカルの体に痛みが走る。

「うぐっ?!」

「忘れたかぁ?俺の痛みはテメェの痛み、攻撃すれば痛い目見るぜ!」

ヒカルは舌打ちをうつ。
影は満面の笑みで剣を振り回した。ヒカルは盾で防ぐことしかできなかった。

「僕を殺せば、君は消えるかもしれないんだ!それでも、僕と戦いたいのか?!」

「消えるのはヤダ。でも…、苦しむ顔や血が見てぇんだ」

くそ、このドエス野郎が!
ヒカルは盾越しに強い衝撃を感じた。

ヒカルは考えた。
影に弱点はないのか?痛みも感じない冷血野郎の弱点……。
ん?待てよ?

「一発もくらわすことできなくって、イライラしてたんだ」

このテッドの言葉を思い出した。つまり、テッドの攻撃を、影は避けたことになる。

…何故だ?

痛みは感じないはずなのに。体のどこかに弱点があるから…ではないのか?
詳しくテッドに聞いておけば良かった、と後悔している場合じゃない。探せ、弱点を!

…となれば、右目の魔法陣が怪しい。魔法で作られたなら、魔法陣を攻撃すれば何か起こるのでは…?

一か八か、やってみるしかない!

ヒカルは覚悟を決めた。
ヒカルは黒い剣を盾ではなく、剣で受け止めた。そして、盾を持つ左手で、影の右目を狙い殴りかかった。

「…!?」

影は首を傾け、拳を何とか避けた。この行動を見て、ヒカルは確信を持った。

「テメェ…!!」

完全に怒った影は、ヒカルの腹を蹴り飛ばした。ヒカルは地面にのけぞった。

「…許さねぇ」

影は自分の右腕を切り落とした。影であるため、痛がることも、血が吹き出ることもなく、右腕の付け根からは黒い影が漂うのみだった。

一方、ヒカルは声にならない叫びを上げた。左腕に激痛が走る。左腕に外傷は見られない。しかし、まるで腕が引きちぎられたような痛みだ。
持っていた剣と盾を手放し、痛む左腕を押さえ、ヒカルはうずくまった。

「ヒャハハ!痛みに歪む顔…たまんねぇえ!!でも、血は出ねぇんだな…。
やってやる!!」

影の笑顔がヒカルに迫り来る。
ヒカルは左腕の痛みのせいで、瞬時に反応できない。黒い剣は目の前に差し迫っていた。

「危ないです!」

ヒカルを庇うかのごとく、影の前に立ちふさがったものがいた。ネルだ。

「ヒカル君、大丈夫です?」

「……?!」

ヒカルは目を見開いた。ネルの腕から流れる血を見たからだ。薄いバリアを張っていたようで、それが衝撃を和らげた。そのため、幸い深い傷にはならなかった。

「ヒカル君の影君、止めて下さい、なのです!」

「…ヒヒ」

影は急に笑い始めた。

「お前、馬鹿じゃね?自分から斬られにやって来ちゃってんの!超ウケる!!アハハハハ!」

ネルは馬鹿にされてもなお、目は据わったままだった。

「ネルもヒカル君も、武器は無いです。あなたは…無防備なネル達を攻撃するつもりです?」

「さっきの肉が斬れる感触…もっと、もっと、…もっとくれよ!」

影は剣を振った。ネルは強靭なバリアを張り、自分とヒカルを守った。

「あなたはヒカル君の影だったのです。なのに、どうしてこんなことを…?」

影は何も答えないまま、むやみに剣を振る。バリアからネルの手に振動が伝わる。少しずつ、バリアにひびが入るのを目にしたネルは、少し焦りを感じた。

「一つ、これだけ教えてほしいです。あなたの名前は何です?」

影は一瞬、動きを止めた。

「名前…?んなもん、ねぇよ!第一、必要ないし」

「影君はそっけないですし、ネル…あなたと親しくなりたいのです!だからこそ、名前を教えていただきたいのです」

影は完全に動きを止めた。ネルはバリアを解き、剣を持つ影の手に触れた。

「ネルは、ネルと申します、なのです。あなたは?」

影はネルの顔をじっと見た。とても純粋で綺麗な目でこちらを見つめてくる。

「…お、俺………シャンド」

ネルは笑顔で頷いた。

「シャンド君ですね!よろしくお願いします、なのです。シャンド君!」

ネルの笑顔に、シャンドは戸惑いを感じた。

「俺は…ネルの敵なのに、どうして…?」

「ネルは、その人がどんな人であれ、信じたいのです!」

ネルの手は、シャンドの手に暖かみを与えた。

「な、何やってんねん!おい、影?お前の役目、わかっとんのか?!」

メリアは立ち上がり、シャンドに怒鳴りつけた。シャンドはメリアの方に振り返り、睨みつけた。

「俺の名前はシャンドだ、バーカ」

なんやと?!と怒るメリアをよそに、シャンドはネルに告げた。

「俺はネルやエンドウの味方にはなれない。でも、お前の気持ち…すごく暖かかった」

いつの間にかシャンドの右腕は再生しており、シャンドはネルの手を右手で包み込んだ。シャンドの手は冷たいが、ネルにとっては優しい手だった。

「…じゃあな」

シャンドはネルの手をのけ、メリアの元へ行った。

「影…やなく、シャンドか。…なんでシャンドなん?」

「あいつはエンドウだろ?影は英語でシャドウだろ?だからシャンド」

メリアは呆れた表情でシャンドを見つめた。

「何か拍子抜けしてもうたわ。また邪魔しに現れたるけんな」

メリアと影は消え去った。



ネルは倒れるヒカルの所へ駆け寄った。

「ヒカル君?」

「……大丈夫。さっきよりかは、痛み引いたから」

ヒカルは左腕をさすった。

「それよりも…ネルの怪我の方が心配だよ」

「ネルは大丈夫なのです」

ネルは腕を後ろに回し、満面の笑みを見せた。

「怪我…見せてみろよ」

ネルはゆっくりと腕を前に出した。痛々しい切り傷が、細いネルの腕に走っている。

「僕なんかのために…ごめん」

「謝る必要なんてないです!ネルの怪我はすぐに治るのです」

よく見ると、ネルの傷は徐々に塞がっている。

「大変だったわねぇ」

リヴはヒカルに近寄った。ヒカルはリヴを睨んだ。

「ただ傍観してたくせに!」

「違うわ、ラ・メリアから情報もらったのよ」

リヴは得意気な表情だ。

「ラ・メリアはね、二つの理由で影を奪ったの。一つはアンタを阻害するため。もう一つはアンタを救うため」

ヒカルは唖然とした表情でリヴを見つめた。

「僕を…救うため?」

「バーダクは薬を飲んでも、症状が続くの。ギャランが言ってたでしょ?発熱、倦怠感、その他いろいろ。
でも、影を奪われてから、そんな症状出た?」

思い返してみた。そういえば、朝から気分が良いし、今も症状は出ていない。体調は良好である。

「ヒカルと影…シャンドは間接的につながってる。アンタの病気をシャンドが引き継いでるってわけ!
ヒカルには症状が現れないし、シャンド自身は影だから、症状があっても感じないし、まさに一石二鳥」

その理由を聞いても、やはりメリアに対する怒りは消えなかった。




リーナのコンサートは全て終わり、周りは静かになった。

「ピカルン、リーナどうだったぁ?」

「うん、歌上手いし可愛いし、最高だよ」

「ほんと?!嬉しいぃ!!」

リーナは飛び跳ねた。

「リーナ様、今日の踊りはいつになく生き生きとされていて、良かったですよ」

二本の角と翼を生やした青紫の生物がリーナに近寄った。

「ありがとう!ロビリン」

「ロビンです!いちいちあだ名で呼ぶのは止めて下さい」

ヒカルはロビンをまじまじと見た。見たこともない生物だ。
ロビンは目を細め、ヒカルを見た。リーナの側に寄り、リーナの耳元で囁いた。

「リーナ様、この薄汚い猿は何です?」

「おい、聞こえてるぞ!」

ロビンはヒカルを横目に見た。その目はまるで、ヒカルを馬鹿にしているような目だ。

「ロビリン、あのね、この人はピカルンなの!」

「あだ名を教えるなよ!」

「ロビリンが歌詞を書いて、リーナが曲作るの!すごいでしょ」

リーナはヒカルのツッコミを無視し、顔を輝かせた。

「ピカルンのために、歌詞を作ってもらってるの!完成したら、教えてあげるね」

「僕の…歌?」

ヒカルは嬉しそうな表情を浮かべた。

「ありがとう!リーナ、ロビン」

リーナは笑顔を、ロビンはまんざらでもない表情を浮かべた。




夜はもう遅くなってしまったので、宿屋に泊まることにした。
宿屋はリーナがいてくれたおかげで、タダで泊まることができた。

宿屋というだけあって、豪華な食事が並んでいた。しかし、ヒカルは浮かない顔をしていた。

「ヒカル君、どうかしましたです?」

ネルはヒカルの顔を覗き込んだ。

「いや、その……、ううん。何でもないよ」

ヒカルはナポリタンを口にした。ネルは首を傾げつつも、サラダを皿に取って食べた。

「ヒカル君…、もしかしてホームシックです?」

「…わからない」

ヒカルは食事を進めた。

「ヒャッホー!いただきよ」

リヴは、ヒカルの隣で肉にかぶりついた。

「リヴも、ロビンみたいな生き物飼ってるの?」

「魔獣のこと?ええ、飼ってるわ」

リヴは指を鳴らした。途端に二匹の魔獣が出てきた。一匹はロビンと同じく青紫色だが、もう一匹は赤紫色だった。

「おお?リヴ、どうした?」

青紫の方は肉を見つけるなり、かぶりついた。

「ちょっと、ディブ!リヴ様の命令を聞くのが先でしょうが!」

「うっせぇなぁ、ベル。オレは腹へってんだ」

どうやら、青紫の方はディブ、赤紫の方はベルというらしい。

「いいわよ。どんだけ食べたって金かからないし、アンタ達を呼んだのはヒカルに見せたかっただけなの」

ヒカルは呆れるしかなかった。

「ヒカル?何だソレ?」

ディブはヒカルに気付いた。ヒカルの周りを飛び、まじまじと見つめる。

「へぇ、お前…光るのか?」

「光らねぇよ!名前だ、名前!!」

ベルはリヴの耳元で囁いた。

「あれって…人間ですよね?まさか、リヴ様…人間の肉を独り占めしようとしてませんか?!」

「おい!!何か凄く不吉なことが聞こえたんだけど?!」

リヴは大笑いした。

「あんな子どもじゃ、お腹膨れないわよ!
ヒカルが大人になって、もうちょい太ったらさ、アタイとディブとベルで食べちゃえば良いわ」

「いや、違うだろ?!って、食べる前提なの?!」

ディブはよだれを垂らした。

「ニンゲンって美味しいのか?人参と同じ味じゃねぇよな?」

ヒカルは溜息をついた。ダメだ、ツッコミきれない。というか、僕は何でツッコんでしまうんだろう…。

「どんな味か知らないのよね…。ヒカルに聞いてみたらいいんじゃない?」

「僕は知らない!!」

ヒカルは薬を口に含み、一気に水を飲み込んだ。
症状はないとは言え、本体である自分の病気を治さないことには、影を取り返した時に酷い目にあうのは、自分だと考えたからだ。

ヒカルは、さっさと食堂から出て自室に戻ったのだった。

「あらあら、つれないわねぇ。せっかく、ホームシックな気持ちを紛らわせようとおもったのにさ」

ベルは首を傾げる。

「リヴ様、何故人間に対してそんなにも世話を焼くのですか?」

リヴはニヤリと笑った。

「いじめの対象だから、飴と鞭を使い分けてんのよ」

リヴは食事を進めた。ネルは微笑んだのだった。



ヒカルは自分の部屋に入り、寝る準備を済ませ、ベッドの中に入った。窓から月明かりが射し込む。

「いよいよ、明日は魔の森突入か…」

明日に思い馳せながら、ヒカルは眠りについた。





雲の間から月の光が、メリアを照らした。その隣でシャンドは眠っていた。

「…心なんていらんかったかもしれんな」

笑顔で眠るシャンドに、メリアは手をかざした。しかし、何もせず手を下ろした。

「成り行きを見守るしかあらへんな」

メリアもまた、眠りについた。


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