ヒカルの光

□六章
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「何の手掛かりもねぇじゃん!」

ヒカルはリヴからもらったハムをかじりながら、こう言った。

ヒカルはネルとリヴに協力してもらい、魔界中の情報を集めてもらっていたのだが、人間界へ戻る方法はおろか、ヒカルを魔界へ連れ込んだ魔界人の情報すら見つからなかったのだ。

「ああ、もうやだ!アタイ、疲れた。光らないヒカル、肩揉んで」

「だからその呼び方止めろって!」

「何よ、アンタのためにわざわざ情報を集めてあげてるアタイに、ねぎらいの言葉も無いわけ?うわっ、小さい男…。そんなんじゃ、モテないわよ」

「うっせぇよ!!」

ネルは、睨み合うヒカルとリヴの間に割り込んだ。

「二人とも、ケンカはダメなのです」

ヒカルとリヴはそっぽを向いた。

「…忘れてたけど、金返せよ!」

「何の話?」

ヒカルはリヴの方に向いた。眉を吊り上げ、怒りの表情をあらわにしている。

「学校のガラスを豪快に割って帰りやがって…!あの後、クラス全員で弁償したんだぞ」

「そんなの知らないわよ!大体、あの時にアタイが現れなきゃどうなってたか…わかってんの?!感謝代金として、アンタが支払ってくれたって当然じゃない」

ヒカルとリヴの睨み合いが始まる。

「ふ、二人とも、ケンカしている場合じゃないです!方法を探すのです!」

ネルが再び、二人の間に割り込んだ。

「バカルのせいで、無駄な時間くっちゃったじゃない!」

「バカルって何だよ!!このリブス!」

「ブスって言ったわね…!」

リヴは槍を取り出した。ヒカルは剣を構える。
ネルは困惑の表情を浮かべた。

「ど、どうすれば良いです?」

ネルの困惑をよそに、リヴとヒカルの戦いが始まった。




「弱っちぃ人間になんか負けるかっつうの」

リヴは槍で一突きした。あまりにも速い突きに、ヒカルは肩をやられる。

「やったな…!」

ヒカルは剣を思い切り振った。大きな衝撃波がリヴに襲いかかる。

「甘いね!」

リヴは槍で衝撃波を切り裂いた。ヒカルはもう一つ衝撃波を放っていた。その衝撃波はリヴの間近にある。先程の大きな衝撃波で見えなかったのだ。
リヴはその衝撃波に当たる。

「いった〜!レディになんてことするの?!」

「お前なんかレディだなんて思ったことすらないよ。つか、お前の口調といい、態度といい、まるっきり男なんだよ」

「言ったな…!テメェをぶちのめしてやる!!」

剣と槍が交わった、その時だ。

「いい加減にして下さい、なのです!!」

ネルの光がヒカルとリヴの持つ武器をはねのけた。

「ケンカしてても、何も始まらないです。仲直りして下さいです」

ヒカルとリヴは互いに見つめ合った。

「アタイは謝るつもりないけど、このままじゃ進まないわ。もう止めよ」

「僕も謝らない。でも…そうだな、止めよう」

ヒカルとリヴははねのけられた武器を拾い、仕舞った。




結局、三人はギャランの所へ向かうことにした。新しい情報が入っているかもしれないからだ。

「アタイがまた運ばないといけないの?…めんど」

飛べないヒカルは、リヴにそっぽを向く。

「別にいいよ!地道に歩くさ」

「ちょっと待って下さい、なのです」

ヒカルはネルの方に向いた。

「妖精のジェルを呼ぶのです!ジェルは小さいですけれど、大きな幻獣になることができるです」

ヒカルは妖精の姿を想像した。蝶々のような羽根がついている小さな女の子をイメージした。

ネルは魔法陣を描き出した。

「ジェル、来て下さい、なのです」

「ネル様、どうされましたか?」

魔法陣から出てきたのは淡緑色の小さな翼のついた、ぬいぐるみのような生き物だった。

「こ、これが…妖精?!」

イメージしていたのとは、全く別物だった。

「ジェル、紹介しますです。こちらはヒカル君なのです」

ジェルはヒカルにお辞儀した。

「こんにちは、ヒカルさん。ジェルと申します」

「ど、どうも…」

ヒカルもお辞儀し返した。

「ヒカル君をト・ギャランさんの所へ運んでほしいのです」

「わかりました!」

ネルとジェルは光り始めた。二つの光が合わさり、ジェルに降りかかる。ジェルの形態はみるみるうちに変わり、大きな翼の生えた四足の獣となった。

「すげぇ…」

「乗って下さい」

ヒカルはジェルに触れた。名前とは裏腹にサラサラとした毛並みだ。

ヒカルがジェルに乗ると、ジェルは大きな翼を羽ばたかせ、飛んだ。
速すぎず、遅すぎず、安全に飛ぶジェルにヒカルは感心した。

「リヴの飛び方とは大違いだ!」

「何よ、アタイに文句あんの?」

ヒカルはリヴを無視し、優雅に景色を眺めた。

「ヒカルさんは人間ですよね?どうして魔界に?」

「変な魔界人に連れてこられて。…早く家に帰りたい」

「イルダ様なら、何かご存知なのでは?」

首を傾げるヒカルだったが、ネルがハッとした様子でヒカルに近寄った。

「そうです!大天使様はたくさんの知識を持っています、なのです。ネル、呼んできますです」

ネルは飛んで行ってしまった。

「大天使…様?」

「大天使イルダ様は、ネル様の先生です。博識で、魔界と人間界をつなぐ方法を知っているかもしれません」

ヒカルは顔を輝かせた。

「そんな人がいるんだ!どうしてネルは教えてくれなかったんだろう?」

「…恐らく忘れていたのでしょう」

ヒカルはずっこけた。

「…ネルらしいや。でも、これで道が開ける」

「そうかしら?」

リヴの一言に、ヒカルは振り向いた。

「あんな怠け天使にできるはずがないわ」

ジェルは体の向きをリヴに向けた。

「イルダ様を侮辱するな!」

ヒカルは急にジェルが動いたので、バランスを保つのに必死だった。

「事実を言ったまでよ!」

怒ったジェルは、光の球を出す。その光の球を放ち、操って、リヴに襲いかかる。リヴは光の球を槍で払いのけた。

「幻獣になったからって、所詮は妖精。アタイにかなうはずないわよ」

「言ったな…!」

ジェルは勢いよくリヴに近づき、リヴに覆い被さろうとした。リヴは横に避け、ジェルに乗るヒカルの様子をうかがう。

「もっとゆっくり飛んであげないと、人間が落ちるわよ」

リヴはニヤニヤと笑う。リヴの言った通り、ヒカルは落ちないようしっかりとジェルの体を掴んでいた。

「リヴにムカつく気持ちはとてもよくわかるけどさ、急に動くのはやめてくれ!」

「すみませんでした…」

リヴはニンマリと笑った。

「バカな妖精だこと!主人に似ちゃったのね、お気の毒様」

ジェルはリヴを睨んだ。

「悪魔…、今日という今日は許さないぞ!」

ジェルは星屑を周りに浮遊させ、それをリヴに飛ばした。リヴは槍を振り回し、星屑を叩き落とした。

「やる気?なら…、受けて立とうじゃねぇか!」

ジェルとリヴは睨み合いを始めた。ヒカルは、このままでは巻き込まれると自分の身に危険が及ぶことを察した。

ジェルの下は森。もう少し、ジェルが下の方へ行けば、安全に地面へ降りられる。

黒い雲がゴロゴロと鳴り始めた。遠くの方で雷が落ちる。それが戦いの始まりの音となった。

「くらいな!」

リヴは指先から、火の玉を何個も連続で出した。ジェルはバリアを張り、身を守る。

リヴは槍でバリアを突き刺した。バリアにはひびが入る。そのひびから水が溢れ出た。水はリヴに襲いかかる。

「うざってぇ!」

リヴは力一杯、槍で水を突いた。水は槍の先で見事に割れる。
続いて、リヴは槍を振り回し、バリアのひびに一発打撃を加えた。そのせいでバリアが割れ、その衝撃でジェルの体はのけぞってしまった。

「うあっ?!」

ヒカルは、ジェルの体からずり落ちた。ジェルの足を掴もうとしたが、不幸なことに届かなかった。

「ヒカルさん?!」

ジェルがヒカルに気を取られている内に、リヴがジェルに打撃を与えた。

「う…!ちょ、ちょっと待って下さい!」

「アタイは腹が立ってるんだ、ずべこべ言うんじゃ…」

「ヒカルさんが落ちたんです!!」

リヴは動きを止めた。

「嘘…でしょ?!」

ジェルとリヴは下に下り、ヒカルを探したが見つからなかった。




ヒカルは地面に落ちていた。
木の枝や葉、柔らかい土が衝撃を和らげてくれたものの、体のあちこちに怪我をし、さらに左足をくじいてしまった。立ち上がろうとしたが、左足に激痛が走った。体を動かすだけで痛みを感じる。

「……なんで」

ヒカルは涙が溢れてきた。痛いからではない。複雑な思いが入り混った結果だ。

「帰りたいよ…!!」

ヒカルはとうとう、号泣してしまった。今まで抑えていた気持ちが爆発したのだ。

家に帰りたい思い、こんな目に逢いたくない思い、平穏な暮らしをしたい思い、家族はどうしているのか心配な思い…。いろんな思いが涙となり、溢れ出た。


ポン、ヒカルの肩に誰かの手が乗る。

「大丈夫?」

高い少年のような声が、優しくヒカルの頭を撫でる。
ヒカルは少年の姿を見た。少し赤みのある金髪で、クネクネとあらゆる方向に髪が向いている。オレンジ色の瞳は、とても穏やかだ。服装はブラウスにベストを着ている。
角や尻尾があるので、その少年は悪魔だろうが、ただじっと、何も言わずヒカルの側に寄り添った。その温かみは、ヒカルに安心感を与えた。

ヒカルは、悪魔とは思えない少年の優しさに感謝した。


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