ヒカルの光

□五章
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ヒカルは目を覚ました。周りは薄暗く、薬品のような臭いがヒカルの鼻を刺激する。
ヒカルは体を動かそうとしたが、腕と足が縄で縛られていた。

「やあ、目が覚めたかい?」

コツコツと足音が聞こえる。薄暗くても、近付く相手の顔は認識できた。ヒカルは、憎らしい笑顔を浮かべるウィンドルを睨んだ。

「僕はマージィに頼まれて、珍しい食べ物を探してたんだ。言ったでしょ?珍しい物を好むって」

「…僕は食べ物じゃない!早くこの縄をほどけ!!」

ウィンドルはヒカルに顔を近付け、ニッコリと笑う。

「威勢が良いね!でも、君はもうゲームオーバー。冥土の土産に、ネタ晴らしをしてあげるよ!
ネルちゃんから君のことを聞いたっていうのは全て嘘。ネルちゃんをたまたま見かけて後をつけたら、人間と一緒に行動してるからビックリしちゃったよ!
様子をしばらく見た後、マージィに人間のことを話したら、さぞお喜びになってね、君をマージィに差し出すために近寄ったってわけ」

ヒカルはウィンドルの話を聞きながら、縄をほどこうと頑張った。しかし、かなりきつく縛られているため、無駄に終わった。

「君のおかげで報酬が貰える。感謝しなくちゃね」

「この薄情天使!よくも僕を騙しやがって」

ウィンドルはクスクスと笑いながら、この場を去った。

何とか逃げ出さないと。ヒカルは上半身を前屈し、足を縛る縄に食いついた。歯で縄を噛み切ろうとしているのだ。縄は固いが所詮は縄、少しずつだが、縄がほつれていく。


もう少しで縄が噛み切れそう、と希望が見えてきたその時、地響きが起こった。

「ト・マージィ様のおな〜り」

周りが一気に明るくなり、ヒカルは目がチカチカした。しばらくして、目が光に慣れてきたヒカルは、目の前にいる巨大な化け猫に驚いた。この化け猫こそがマージィだ。

「魔界に迷い込んだ人間なんて、凄く珍しいんだニャア」

マージィはヒカルを鷲掴みにし、口の周りを舌で舐める。

「人間なんてちっとも美味しくないよ!」

「食べてみなきゃわからにゃいニャ!いただきみゃあす」

マージィは口を大きく開けた。

こんな所でゲームオーバーなんて絶対に嫌だ!

「ちょっと待って!縄まで食べるつもりなのか?僕の縄をほどいてからの方が美味しいぞ」

マージィは動きを止めた。

「言われてみればそうだにゃ」

マージィは魔法でヒカルの縄をほどき、縄をのけた。
ヒカルは今だと言わんばかりに、自分を掴むマージィの手を思い切り噛んだ。

「ニャオァアア?!」

マージィは思わずヒカルを手放した。ヒカルは地面に着地し、逃げ出した。

「よくも…我が手を…!」

マージィはヒカルを追いかけた。ヒカルは必死に逃げる。しかし、マージィが魔法を放った途端、ヒカルは動きを止めてしまった。

「捕みゃえたぞ!」

ヒカルはマージィに捕まった。体を動かすことができない。

「食らってやる!!」

マージィは大きな口を開けた。大きな牙から垂れるよだれがヒカルにかかる。ざらざらな舌が迫る。もう絶体絶命だ!!そう思った時だった。

「待って!」

一人の少女悪魔が飛び出してきて、マージィを止めた。薄紅色の髪がなびく。ヒカルはその悪魔を知っていた。

「リヴ!どうしたんだニャア?」

リヴは舌なめずりする。

「アタイも食べたいわ!父様だけ食べようなんてズルい」

「そうか、そうか!それは悪かったな」

ヒカルの顔は一気に青ざめた。
あの悪魔まで僕を食べようっていうのか?!やめてくれ!!

「アタイが料理してあげるから、父様は待ってて、ね!」

「分かったニャン」

マージィはヒカルを床に置き、この場を去った。
リヴはヒカルに近づく。

「ま、待った!人間なんて絶対に美味しくないから、本当に美味しくないから!!」

「何言ってんの?さっさと逃げるわよ」

リヴはヒカルを担ぎ、逃げ出した。完全に魔法が解けていないヒカルは、ただジッとリヴに運ばれたのだった。




「アンタってホント危険な目に遭うのが好きね」

「好きじゃない!」

ヒカルは体を動かしていた。魔法は解けたようだ。ヒカルはついたよだれを払いのけた。

「リヴ、凄く気になってることがあるんだけど…」

「アタイとマージィの関係でしょ?…親子よ」

ヒカルは目を見開く。

「君は悪魔なのに、魔界人の子ってどういうこと?!」

「悪魔と魔界人とのハーフってこと。別にどうでも良いでしょ?アタイのことなんて」

ヒカルはまだ聞きたいことがあったが、リヴに睨まれたのでやめた。

「ハァ、剣も盾もない、これからどうすりゃ良いんだ…」

「大丈夫よ。そろそろ…」

「お待たせ」

少年の悪魔がヒカルの剣を持って飛んできた。ヒカルはその少年を知っていた。

「ルーヴ!」

「やあ、ヒカル。これ返すよ」

ルーヴはヒカルに剣を手渡した。

「そうか!ルーヴの顔、どこかで見たことがあると思ってたけど、リヴに似てるからだ!!」

ヒカルはリヴとルーヴ、二人の顔を見比べる。

「ということは…、姉弟なの?」

「そうよ」

ヒカルは頷きながら思った。ルーヴがコレの弟だとは思えないと。

「そうそう、もう一人来てるの。現れなよ!」

岩陰から現れたのは、ネルだった。申し訳なさそうに俯いている。

「ネル…」

ネルはヒカルに近寄り、頭を下げた。

「ごめんなさい、なのです。ヒカル君を放って帰っちゃって…」

「こちらこそ…ごめん。酷いこと言って」

ヒカルも頭を下げた。そして、二人同時に頭を上げ、目を合わせる。

「これ、預かっていた盾なのです。返しますです」

ネルはヒカルに盾を差し出した。ヒカルはそれを受け取り、笑顔となる。

「ありがとう!」

ネルはその言葉を聞いて、笑顔となった。その微笑ましい状況を見たルーヴは、密かに嫉妬心を抱いた。

「人間にしては強運だこと…」

空からヴィリアが降り立った。ヒカルは警戒の目を向ける。

「…何の用だよ」

ヴィリアは鎌を取り出した。ヒカルはそれを見た瞬間に剣を構える。そんな二人の間に、ネルが割り込んだ。

「二人とも、やめて下さいです!」

「ネルちゃん、大丈夫。人間を殺しはしない」

ヴィリアは指を鳴らした。ヴィリアとヒカルは消えてしまった。

ネルは空を見つめることしかできなかった。




ヒカルは何もない白い空間で立っていた。目の前には、ヴィリアが微笑んでいる。

「人間、あなたは他人を守れる力を有するの?」

ヴィリアは鎌を振りかぶり、ヒカルに振り下ろした。ヒカルは盾で身を守る。

「もちろんさ!僕にだって、他人は守れる」

「本当に?」

ヴィリアは鎌を振り回した。ヒカルは盾で防ぐが、ヴィリアの鎌の一撃で傷がつく。

「あなたは自分のことしか考えていない。…あの時もそうね」

「あの時?」

「あなたがいじめられた時、あなたは何をした?」

…ネルにいじめの標的を変えてもらった。

「なんで…お前が知ってるんだよ?」

「私は心を読むことができるの。もちろん魔法だけれど…。私に嘘は通用しない」

ヒカルはヴィリアを睨んだ。

「あの時は、確かに自分のことしか考えてなかった。でも、今は違う!!」

「果たしてそうかしら?」

ヴィリアは一旦ヒカルから離れ、ニコリと笑う。

「あなたはこう思ったはず。
何故僕が魔界に?どうして他の人じゃなく僕なんだ?」

図星だった。

「命乞いする時に言ったわね。『人間のドクロなら、人間界にいくらでもある』と」

返す言葉が無かった。

「そんなあなたに、仲間なんて必要ないんじゃないの?自分を守るのに…精一杯な人間に」

一瞬の出来事だった。ヴィリアは目にも止まらぬ速さでヒカルに近づき、鎌を振った。ヒカルは何もできず、鎌の面に当たり、倒れる。もし当たったのが面ではなく刃の方だったならば、そう考えただけで寒気がする。

ヒカルは立ち上がり、剣を振った。しかし、避けられる。

「確かに、君の言う通りだ。でも…」

ヒカルはヴィリアを見つめた。その表情は、決意の色で輝いていた。

「仲間に何度も助けられたんだ。仲間の大切さは、お前よりもわかってる!」

ヒカルは剣を振った。ヴィリアは素早く避けたが、その剣からは衝撃波が放たれた。その衝撃波はヴィリアを襲う。

「…え?!」

ヒカルの持つ剣は、光り輝いていた。試しに振ってみると、先程出た衝撃波が再び出る。

「何コレ…?」

パチパチという拍手の音が聞こえる。その方向に向くと、ヴィリアが拍手していた。

「人間は、微弱ながら魔力を有する。それは天使や悪魔に備わらない、特別なもの。
おめでとう、その剣はあなたの魔力に応え、力を発揮した」

ヒカルはよくわからなかった。

「要するに…、僕の特別な魔力が剣に力を与えたってこと?」

「そういうことね」

ヒカルはヴィリアを見つめた。もしヴィリアがいなければ、この力は発揮できたのだろうか。

「ヴィリア、君は最初からこのつもりで…?」

「いいえ、私は人間…いや、全ての者が嫌いなだけ」

ヴィリアはクスリと笑う。その瞳には純粋な光が見えた。




「ヴィリアちゃん、ヒカル君…」

ネルは空を見つめた。リヴはあくびをする。

「いつまで待ってるつもりなのさ」

ネルはリヴの方へ向いた。

「二人が帰ってくるまで、なのです」

そういうと思った、とリヴは思った。

その時白いヒカルが現れ、そこからヴィリアとヒカルが現れた。

「ヴィリアちゃん!ヒカル君!」

ネルは二人に走り寄った。

「二人とも、大丈夫です?」

ヒカルは笑顔で頷いた。

「私の用事は終わったわ。さようなら、ネルちゃん、そして人間」

ヒカルは少し頬を膨らませる。

「僕はヒカルっていう名前があるんだ!ちゃんと名前で呼べよ」

「下等生物の名前なんて、呼ぶ必要性がないわ、人間」

ヴィリアは飛び去った。ヴィリアに対し怒りを抱くヒカルだった。

「これからどうすんのさ?」

リヴの質問に、ヒカルは当然のように答えた。

「人間界へ戻る方法を探す!」

リヴはヒカルの隣に来て、肩を抱く。

「アタイが手伝ってあげるわよ」

「もちろん、ネルもなのです!」

ネルはヒカルの腕を掴んだ。

「…ありがたいんだけどさ、何だこのハーレムパーティは!!」

ヒカルは振り返り、ルーヴを探した。しかし、姿が見えなかった。


天然な天使とうるさい悪魔に囲まれ、一人の人間の少年は進む。

果たして、ヒカルは人間界に帰ることができるのか?この先に待つ試練とは如何なるものなのか?


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