ヒカルの光

□四章
1ページ/1ページ


「フフ、発見」

緑色の髪がなびく。



ヒカルは干し肉をかじりながら、山を下った。登り道よりかは楽に思えるが、実際はより注意を払わなければならないので、登り道よりもキツいのだ。
しかし、村が見え始めたことで、断然ヒカルの足に力が入る。

ヒカルは山のふもとの村に入った。

「誰だ?人間か?」

ヒカルを見つけた魔界人が、不思議そうにヒカルを見つめた。それを拍子に続々と魔界人が集まってきた。

動物に囲まれてしまったヒカルは、大声を張り上げた。

「あ、あの、食料と水が欲しいんですけど!」

「あっちだぞぉ」

一人の魔界人が指差した先には、お店があった。

「ありがと」

ヒカルは魔界人を押しのけ、その店に入る。


「らっしゃい」

「日持ちする食料が欲しいんですけど」

「日持ちね…、ちょいと待ちな」

店員はゴソゴソと棚から袋を取り出し、そこから蛙を出した。

「この蛙はね、栄養があるし中々腐らないんで、人気商品なんだ。一つどう?」

「蛙なんて食べれるかっ!」

店員は蛙を仕舞い、太い芋虫を出した。

「これはね、一匹食べるだけで…」

「そいつの説明もいらない!」

店員は顔をしかめた。

「じゃあ何が良いんだ?」

ヒカルは店内を見渡した。蛇が干してあったり、虫が集る肉が置いてあったり、ろくな食べ物はなさそうだ。

「…他をあたります」

「何だ、冷やかしかよっ!」

ヒカルはさっさと店を出た。



ヒカルは、地図を眺めながら考えた。

自分なりに整理してみるとこうなる。
小屋で出会った魔界人は、何らかの目論みがあって、僕をこの魔界へ連れ込んだ。恐らく自分が楽しみたいだけなんだろうけど。
奴はたくさんの課題があると言っていた。僕の行動をどこかで監視し、行く先々に課題を設置するのだろう。僕が進まなかったらどうなる?奴は諦めるだろうか?

…いや、あのニタリ顔は諦めないな。進まないと、強制的に進まさせられるか、一生人間界に戻れないか…。何なんだよアイツは!無性に腹が立ってきた。

「クソ!あの関西弁魔界人め、今すぐ出てきやがれぇ!!」

「凄く元気が良いね」

ヒカルは急いで振り返った。緑色の髪をサラリと流した天使が立っていた。叫びを聞かれていたことに、ヒカルはこっぱずかしくなった。
おしゃれに服装を決めた天使は、ヒカルに微笑みかけた。

「初めまして、僕の名はウィンドル。実は君を探していたんだ」

ヒカルは自分を指差し、目を丸くする。

「僕を?」

「そう。ネルちゃんから、君のことを聞いてね、人間界へ戻る方法を探す手伝いをしてほしいって頼まれたんだ。ネルちゃん、君のこと気にしてたんだけど、合わせる顔がないんだって」

そうか、ネルが…。ヒカルは顔を曇らせた。

「何があったかは聞かないけどさ、次に会った時は仲直りするんだよ」

「わかった。ありがとう」

ヒカルはウィンドルに笑みを見せた。

「君を探すついでに、人間界に行く方法を探したんだけど、見つからなかった。でも、もしかするとこの魔術師が協力してくれるかもしれない」

ウィンドルはヒカルに、自分が持っている地図を見せた。そして、バツ印が描かれている場所を指差す。

「ここから遠いし、協力してくれない可能性も…。それでも行くかい?」

「もちろん行くさ!」

ヒカルは天使の優しさを痛感した。

「じゃあ決まり!地図を見てわかる通り、そこへ行くにはいくつかの山と谷を乗り越えなければいけない。早速、準備を整えようか」

ウィンドルは指を鳴らした。すると、目の前にたくさんの食料と鞄が現れた。

「好きな食べ物を鞄に入れて持っていけばいい。万一はぐれても良いようにね」

つくづく天使の優しさに感謝するヒカルだった。



ヒカルとウィンドルは、村を出て魔術師の所へ向かった。その道中、ヒカルはウィンドルにこれまでの苦労を話した。

「それは大変だったね」

「だろ?この世界に来てから、疲れる一方だよ…」

ウィンドルはヒカルの顔をマジマジと見つめた。

「な、何?」

「…君って、本当に人間?」

いきなり何言い出すんだよ!とヒカルは驚いた。

「日本の東京生まれ、父さんも母さんも日本人。正真正銘の人間だよ!!」

ウィンドルはクスリと笑う。

「そんな本気で返されてもねぇ。冗談だよ、冗談」

ウィンドルはヒカルに顔を近づけた。ヒカルは困惑の表情を浮かべる。

「人間にも、ほんの少しは魔力が宿ってるらしいよ。中には、たくさんの魔力を持ってる人間も。
君に眠る魔力は、果たしてどれくらいなんだろうね…」

クスクスと笑うウィンドルに、首を傾げるヒカルだった。

「そういえば、その魔術師ってどんなの?」

「名前はト・マージィ、見た目は醜い猫だけど、魔界では有名な魔術師なんだ。結構な変わり者で、珍しい物を好む。もちろん、人間もね」

ヒカルは相槌を打つ。

「マージィなら魔力も高いし、人間界へ繋げる道を作るのも容易いと思うよ。やってくれるかどうかはわからないけどね」

「流石、詳しいね」

「もちろんだとも。僕の情報網は、いつでも当てにして良いからね」

ヒカルはとりあえず頷いた。
このウザいナルシスト感さえ無ければ、凄く良い人なんだけどな、そう思うヒカルだった。




ヒカルとウィンドルは、沼地に到達した。ウィンドルは飛べるが、ヒカルは沼を通らないといけない。

「ゴメンよ、僕が力不足なばかりに」

「別に…良いけど…さ…、押して…くれたって…良い…だろ!」

ヒカルは重たい足を引きずりながら、ゆっくりと沼の中を進んでいた。

「僕のこの顔が汚れたら困るだろ?」

来たよ、ナルシスト。でも、そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ?!

「汚れるわけないだろ?このナルシスト天使め」

「フッ、自分を愛でて何が悪いのさ」

ヒカルは苦笑いを見せる。

沼のドロドロとした水はヒカルの足に吸い付き、より速さを遅くさせた。膝の上の辺りまで沼の水位が来ている。

「早くしなよ」

「んなこと…言われ…たって…」

ウィンドルはロープを取り出し、近くの木にしっかりと結びつけた。そして、ロープの端をヒカルに投げた。

「それに掴まりな。引っ張るから」

ヒカルはロープに掴まった。これで少しは早く進める。

「っ!?」

ヒカルの足は何かに捕まってしまったのか、進まなくなってしまった。ヒカルは剣を片手で抜き、自分の足を捕まえているものを突き刺す。
沼から浮かび上がったのは、蔓だった。しかし、その蔓はうねうねと動く。

沼からいきなり現れたのは、牙を持つラフレシアだ。蔓を動かし、ヒカルとウィンドルを狙う。

「厄介な相手だね…」

ウィンドルは両手にナイフを持ち、素早く動いた。一瞬の内に一本の蔓が切れた。


ヒカルは焦っていた。思うように動けない上に、複数の蔓に狙われている。

「…やるしかない」

ヒカルは、一番近い一本の蔓に掴まった。その蔓はラフレシアの口元に餌を持って行くために、ヒカルを捕まえ上昇する。
ヒカルは沼から足が抜けたことを確認した後、蔓を切り逃れた。そして、蔓を伝い花へ向かった。

「協力するよ」

ウィンドルはヒカルを狙う蔓を次々と薙ぎ払う。

ヒカルはラフレシアの臭みに襲われた。鼻がもげるような酷い臭いだったが、ヒカルは剣を振り上げた。

「これで終わりだ!」

ヒカルは花の下に隠れた太い茎に、剣を突き刺した。その途端、ラフレシアの花は悲鳴を上げる。ヒカルは、花と茎を切り離そうと剣の柄を持ち踏ん張るも、ビクともしない。

一本の蔓がヒカルの腹に直撃した。ヒカルはその衝撃で沼に落ちる。

ザシュッ…

ヒカルが沼から顔を出した時には、ラフレシアはしおれ、倒れていた。ウィンドルがヒカルの剣でとどめを刺したのだ。

ウィンドルはヒカルに手を差し伸べた。

「君の勇気を誉めるよ」

「ありがと」

ヒカルはウィンドルの手を取った。



沼を抜け出したヒカルは、自身の汚れっぷりに驚いた。

「うわっ、汚ねぇ」

「…僕に近寄らないでよね」

ウィンドルは自身の鼻を押さえ、先に飛んでいった。先程、僕の手を取ったのは何だったのか…。
早く風呂に入りたいと、切実に願いながらヒカルは進んだ。



夕暮れ、一つの山を切り抜けた二人は宿を探し当て、そこで一泊することにした。

「一つの山に一日か…。先が思いやられる」

ヒカルは念願の風呂に入りながら、呟いた。まだ越えないといけない山はある、それを思うとため息が出る。因みに、汚れた服は明日の朝までに宿の人が洗濯しておいてくれるらしい。

綺麗に体を洗い、入浴で体を温めた後、浴衣を着て風呂から出た。この後の夕飯が楽しみだ。


ウィンドルと同じ部屋であるヒカルは、ウィンドルの待つ部屋へ向かった。

部屋に入ろうとした時、ひそひそと話すウィンドルの声が聞こえた。内容は聞き取りずらかったが、何とか耳を澄ませた。

「はい……、今そちらに………いる…です。まだ時間が……。人間は……運び…ので、………」

自分なりに言葉を繋げてみた。

「はい、今そちらに向かっている最中です。まだ時間がかかりそうです。人間は運びますので」

ヒカルはそう解釈した。

どういうことだ?ウィンドルは誰かと企み、僕をどこかへ連れ込もうとしているのか?

ヒカルは部屋に戻らず後ずさりした。逃げなければ!

ヒカルは宿の人に濡れている服と預けていた剣を貰った。服は冷たかったが、石けんの匂いがする。
早速着替え、宿の人に浴衣を返した後、宿から出ようと出入り口の戸を開けた。その戸の先にはウィンドルが立っていた。

「遅いと思ったら、こんな所にいたんだ」

ヒカルは剣を構えた。

「お前…、どういうつもりだ?誰と話してたんだ?!」

「フフフ、聞かれちゃったか。せっかく穏便に済ませようと思ったのにねぇ」

ヒカルはまだ信じられなかったが、ウィンドルに剣を向けた。

「ウィンドル、君は今、武器を持っていない。おとなしくそこをのけ!さもないと…」

「さもないと…何だい?」

ヒカルは剣を落とした。体がふらつく。急な眠気に襲われたのだ。

「くっ…、お前……何を…?」

「ゆっくりお休み」

ヒカルは倒れた。ウィンドルはヒカルを見下し、せせら笑うのだった。


次の話→五章

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ