ヒカルの光

□三章
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ヒカルは崖を見上げた。決して登れそうにない絶壁。ヒカルは別の道を探した。

道は東西の二つに分かれているが、東の道の先は行き止まりが見える。ヒカルは西の道を進んだ。
途中、湧き水を発見したヒカルは、その水を手で汲み、一口飲む。乾いていた喉が潤う。水を入れておくものがないので、水はできるだけたくさん飲んでおくことにした。


ヒカルは先に進んでいくと、洞窟の入り口を見つけた。空が薄暗くなる中、灯りも持たず洞窟に入るのは無謀だとは思うが、ヒカルは洞窟に入っていった。

洞窟の中では、幸い光る苔が辺りを照らしていたので困らなかった。しかし、洞窟内に立ち込める冷気がヒカルの体温を奪う。服が濡れているため、余計に寒気を感じた。

奥へ進むと、二つに道が分かれていた。

ヒカルは右に行くことにした。自分が右利きだからだ。ヒカルは剣で右の道の壁に目立つよう印をつけた。そして、その道を進む。

バサバサ、コウモリが飛ぶ。一匹のコウモリがヒカルの目の前を飛んだ。驚いたヒカルは、一歩後ずさる。その時、背中に何かが当たる。

「エサのニオイがする」

ヒカルは後ろに向く。長い牙を生やした大きなコウモリがこちらを睨んでいた。

「血を…吸え!」

一斉に周りのコウモリがヒカルに襲いかかった。

「吸われてたまるかっ!」

ヒカルは剣を抜き、むやみやたらに振り回す。コウモリは剣により真っ二つになるもの、翼を斬られ倒れるものなど様々だ。

「ええい、何をやっている?!」

大きなコウモリは周りのコウモリを押しのけ、ヒカルに襲いかかった。二本の長い牙が剥き出しになっている。あれが突き刺されば、一溜まりもない。

ヒカルは剣を構え、大きなコウモリに向かって走った。

「諦めて我がエサとなるが良い!」

「そのつもりはないよ」

大きなコウモリは口を大きく開け、ヒカルにかぶりついた。ヒカルは体をひねり、二本の牙の間に入る。

「お前のエサはこれだ!」

ヒカルは目をつむり、コウモリの喉に剣を突き刺した。獣の叫び声とともに、周りにいた全てのコウモリは消え去り、大きなコウモリも煙のように消えた。

「うっ、コウモリのヨダレが…」

髪や顔、手についたネバネバの液体を見て、ヒカルは顔をしかめた。

ヒカルは剣を拾い上げた。自分自身の勇気に、少し感心しながら剣を鞘に収めるのだった。


「ヘックシ!」

ヒカルはくしゃみをした。体が震える。洞窟の外は、もう夜なのかもしれない。

ぐぅと腹の虫が鳴く。青リンゴ以来、何も食べていないからだ。ヒカルは座り込んでしまった。

「あの猫に…食料貰っとけば良かった」

ヒカルはしばらく休んだ後、再び立ち上がった。進まなければ…。

ヒカルは先に進みながら、家を恋しく思った。自分が寝たい時に寝れて、食べたい時に食べれて…。宿題が嫌だったり、母さんがうるさかったりするけど、やっぱり家が良い。

ヒカルは再び二つに分かれた道に出くわした。今度もまた右の道へ行ってみることにした。前回と同じように、壁に印をつける。

しかし、その道をしばらく行くと、天井が崩れてしまい、通ることができなくなっていた。

「動く気力が失せる…」

ヒカルはため息をつき、地面に寝転がる。
冷たい岩の床は、ヒカルにただ寒さを与えるだけで、何もしてくれない。光る苔はヒカルに関心を持たず、光を弱める。

この苔は食べられるかな?ふと疑問に思ったヒカルは、少し苔を手に取る。お腹は空いているものの、苔を見ていると食べる気が失せた。

ヒカルは立ち上がり、行っていない道へ行くことにした。

足の裏は悲鳴を上げた。普段、あまり動かさない筋肉にも疲れが溜まっている。
ヒカルはゆっくりと歩きながら、リンゴの芯を取り出し、文字を確認した。変化はない。変化といえば、リンゴの果肉が完全に茶色くなっていることだけだった。

ヒカルは曲がり道を曲がった。その先は…行き止まりだった。

最初の二股道に戻らないといけない現実に、ヒカルはうなだれた。

「ここまで来るのに、どれだけ時間かかったと思ってんだよ!!」

ヒカルは壁を蹴った。…足が痛むだけだった。

ヒカルが戻ろうとしたその時だ。

ドカーンと近くで爆発音が聞こえた。な、何だ?!ヒカルは爆発音のした方へ向かう。

「開通完了」

砂煙の中に一人の悪魔の少年がいた。青紫の髪がなびく。その姿をひっそりと見ていたヒカルは、その顔をよく見た。どこかで見たことがある気がする。

「…誰だ?!」

少年は銃を構え、素早くヒカルに近づいた。ヒカルは慌てて両手を挙げる

「爆発音が聞こえたから来ただけだ、敵じゃない!」

「…人間?」

少年は銃を下ろした。ヒカルは胸をなで下ろす。

「人間が何で魔界にいるわけ?」

少年は不思議そうにヒカルを見た。

「何でって聞かれてもな…。
人間界に戻る方法を探してるんだけどさ、何か知らない?」

「知らない。自分で探せば?」

何だよコイツと、少し怒りを感じるヒカルだった。

「それより、相当…疲れてる顔してるね」

少年は懐から、乾いたパンとナイフを取り出し、ナイフでパンを半分に切った。

「あいにく、自分の分しか水持ってないんだよね」

少年は半分のパンをヒカルに投げ渡した。

「えっ…良いの?」

「水も食べ物も持ってきてないなんてさ、哀れなバカに同情しただけだよ」

殴りたい、心によぎるが気力が無かった。

「もう夜だし、外に出ない方が良いよ。夜行性のどう猛な動物がウヨウヨと徘徊してるからね」

少年は苔を採取し、一ヶ所に集めた。そして、その苔を指差す。

「デビュラデビュララ」

苔は燃えだした。

「僕はここで夜を過ごすつもりだけど、君どうするの?」

少年の問いにヒカルは答えを迷った。ここで夜を過ごすか、この少年が通った道を進むか。
体力は限界が来ている。リンゴの芯にヒントも出てこない。進むべき道がわからない…。

「…ここで一泊するよ。一緒に良い?」

「好きにすれば?…でも、その前に」

少年はヒカルを指差した。その途端、ヒカルは水でびしょ濡れになってしまった。

「うわぁ?!な、何すんだよ!!」

「だって汚かったから」

「だからって了承を得るだろ?!」

「火で乾かせるから良いじゃん。綺麗にしてもらえたんだから、文句言うなよ」

少年の生意気な言葉に、ヒカルは怒りを覚えた。



ヒカルは火の側に座り、体を温めた。

「名前、言ってなかったね。僕はヒカル。君は?」

「僕はルーヴ」

二人はパンを口にしていた。ヒカルのパンは、先ほど水分をたっぷりと吸ったので、少しヒカルの口を潤す。

「ルーヴは何故この洞窟に?」

「鉱石を探しに」

「鉱石…、何かに使うの?」

ルーヴはヒカルを冷ややかな目で見た。

「随分と質問してくるね」

「えっ、まあ…別に良いじゃん」

ルーヴはパンを食べ終え、指を鳴らした。布が二枚出てくる。

「…寝る」

ルーヴは一枚の布にくるまり、横になった。

ヒカルはもう一枚の布を手に取る。


何だかんだ言っても、イメージしていた悪魔とは違い、悪魔って優しいんだな。
そう思いながら、ヒカルは眠りについた。



翌朝、ヒカルは目を覚ました。起き上がり、周りを見渡す。洞窟内は苔の光ではなく、ほのかな日の光で照らされていた。出口が近い証拠だ。
ルーヴの姿は見当たらず、干し肉の欠片と水の入った瓶が置いてあった。

ルーヴに感謝を感じながら、干し肉と瓶を貰い、出口へ向かった。

洞窟から出ると、森が広がっていた。空は明るく、雲の間から光のカーテンがなびく。

清々しい空気に、ヒカルは背伸びをした。

ヒカルは先に進んだ。真っ直ぐ行くと、小屋にたどり着いた。

「ネルが言ってた小屋か…?」

ヒカルは小屋に近づき、扉を開けた。中は誰もいなかい。

リンゴの芯を見ると、文字は消えていた。

「おい!着いたぞ!!」

反応はなかった。

ヒカルは小屋の中を調べた。古ぼけた本がたくさん置いてあった。一つ本を取って開くと、見たことのない文字でズラズラとページいっぱいに書かれていた。

ヒカルは本を置き、小屋から出ようとした。

「いやぁ、ちょいと遅れてしもたわぁ」

ヒカルは振り返った。帽子を深くかぶり、マントで身を隠す者がいた。

「ようこそ、魔界へ。遠藤 晃」

帽子の下で黄色い瞳が光る。ヒカルは警戒の目を向ける。

「お前がリンゴの芯で指示してた奴か?」

「そうや!ついでに明かしたる。アンタをこの魔界に連れ込んだのは、このうちやねん」

ヒカルは眉を吊り上げる。

「さっさと僕を家に帰せ!」

「頼み方、ちゃうんとちゃいまっか?」

ヒカルは拳を握る。渋々頭を下げた。

「お願いします…。僕を人間界に戻して下さい」

「嫌や」

ヒカルは頭を上げ、怒鳴りつけた。

「人に頭を下げさせといて、速攻のキャンセルか!!
それに、関東生まれだからあまり言えないけど…、その下手な関西弁は何だよ!」

「えっ、下手かいな?あんま下手やないと思うんやけどな」

クスクスと笑う魔界人に、ヒカルは苛立ちを覚えた。

「なら、力ずくでも僕の言うことを聞いてもらう」

「人間ごときに無理やって!」

ヒカルは剣を抜いたその瞬間、魔界人に後ろを取られ、首元にナイフをつきつけられる。

「ほれ、みてみぃ」

「まだわからないぞ」

ヒカルは魔界人の足を踏みつけた。魔界人が痛がり、首元からナイフが離れた。その隙に、ヒカルは勢い良く剣を振り、そのまま魔界人を斬った。

「…な!?」

斬れていたのは魔界人ではなく、布だった。

魔界人は空中に浮いていた。

「人間にしては、その場の判断力、冷静さに長けてるな。普通、首にナイフあったら怖いで!頭脳の方も悪うはないみたいやし。
でも、そのわりには無謀な所があるな。足踏みつけるんは良い案やけど、その拍子にナイフが来ると思わんかったんか?」

「来たら後ろにのけぞって、手で防ごうと思ってた」

魔界人はニタニタと笑いながら、ヒカルの目の前に下りた。

「いろいろ質問したいんだけど」

「さて…、これからの話や」

「人の話を聞け!!」

魔界人は構わず話を続ける。

「うちな、人間界のRPGゲーム好っきゃねん。ほなけん、これあげるわ」

魔界人は紙を取り出し、ヒカルに手渡した。魔界の地図だ。丁寧なことに、現在地の場所が円で囲まれている。

「アンタの最終目標は、人間界へ戻ること。それまでにある数々の課題に、アンタはどう切り抜ける?
脚本無しの冒険、頑張って!ほな」

魔界人は一瞬の内に消え去った。ヒカルは床を蹴る。

「何だよ、戻ってこい!!」

ヒカルはリンゴの芯を取り出した。文字はない。地図を見ると、山のふもとに村があるようだ。

ヒカルはリンゴの芯を思い切り投げ捨て、村に向かって歩み出した。

リンゴの芯は転がる。そして、そこに文字が浮かび上がった。

『勇気を捨てるな』

それが何を意味するのか?ヒカルの運命は…?


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