ヒカルの光

□序章
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僕の名前は、遠藤 晃。他の漫画やアニメみたいに特徴的なところは全くない、ごく普通の中学生だ。

「ちょっとコンビニで食いもん買ってこいよ」

「い、いやだよ」

「いやだってか?なら、一発…」

「止めて!わ、わかったよ…」

いじめ…、学校のクラス内で行われる、いわば儀式。いじめの標的は気まぐれで変わる。
もしいじめを止めようとすれば、標的はその人に変わる。だから、皆は傍観者となり、いじめを見て見ぬふり。かくいう僕も…。


僕は学校の玄関にある、自分の靴箱を開けた。中には上履きが入っていた。その上で這いつくばる芋虫を見て、思った。

次の標的は…、僕か。

来るとは思っていた。だから、悲観することもなかった。

「やだ、何アレ…」

「気色悪い」

ひそひそと女子がざわめく傍ら、僕は上履きにくっついている芋虫をのけた。

仕方のないことだ、標的が変わるまで辛抱するしかない。
そう思いながら、教室のドアを開けた。

一つの机がひっくり返っていた。「バカ」や「死ね」と落書きされている。倒れた机の周りには、ノートや教科書、ゴミが散らかっていた。

「ククク…」

教室の隅で嘲笑っているクラスメイトは、僕にちり紙を投げつけた。そのちり紙に書かれていることは予想できる。

僕は倒れた机を起き上がらせた。傷ついた机は、これからの僕の心を物語っていた。


この世に救いの神なんていない…。そう思わせる現実を、僕は噛み締めるだけだった。




「おかえり」

帰宅時、エプロンをつけた母が笑顔で僕を迎え入れた。

「…ただいま」

僕は母の顔も見ず、二階にある自分の部屋に向かった。

「おやつあるけど?」

「いらない」

僕の即答に、母は寂しそうな声を出した。

「…そう」

僕はそのまま、自分の部屋の扉を開けた。



………??!


僕の部屋の真ん中に何かいるよ?!翼を生やした女の子がいるよ?!明らか外人って感じだけど…。ていうかなんで母さん気づいてないの?!ただ単なる不法侵入者だぞ!

女の子は僕に気づき、近づいてきた。

「勝手に家の中に入って、ごめんなさい、なのです!」

に、日本語喋ったー!?ということはあれか、本当は日本人の女の子で、天使のコスプレしてます的な?じゃあ、その青い瞳はカラコンですか?小学校低学年くらいの女の子がカラコンて、どんだけハイカラな時代なんだよ。
…にしても、何だ?この漫画的展開は。女の子がいきなり部屋にいるとか、どこの恋愛漫画だ?

「き、君…名前なんて言うの?」

やっと出た言葉がこれだった。名前聞いてどうすんの?って自分でも思うけど、とりあえず日本人の名前が出てくることを願う。

女の子は笑顔で答えた。

「ネルです」

来たよ、アニメキャラなりきり!何のアニメか知らんけど。もしくはあれか?音に瑠璃色の瑠で音瑠(ネル)か?いや、やっぱなりきりか。どっちにしろ追い出そう、すぐに追い出そう。

「あ、迷惑でした、ですね。失礼しました、なのです」

ネルは僕の心境を察したんだろうか、そそくさと窓辺に立ち、窓を開けた。そして、そこから飛び降りようとした。

「ちょっ、おい!落ち…」

…なかった。彼女は翼を羽ばたかせ、空を飛んだのだ!

この時、思った。ネルはコスプレイヤーでも日本人でもない、本物の天使なんだ。

僕は窓から、ネルが飛ぶ姿を眺めた。自由に空を飛べたら、どんなに気持ち良いんだろう?

…あれ?ネルの様子がおかしい。ふらついている。
って、落ちた!天使なのに落ちちゃったよ?!猿も木から落ちるって、このことかな?

こんなこと考えてる場合じゃない!ネルは大丈夫なのか?僕は鞄を放り投げ、外へ向かった。

本物の天使なら、できるかもしれない。いじめの標的を他の人に変えることが…!


ネルが落ちた場所は、さほど家から離れていなかった。

「大丈夫…?」

僕はネルに近づき、声をかけた。

ネルは目から涙を溢れさせ、大泣きし始めた。

えっ?!僕何もやってないのに?むしろ優しく声かけたんだぞ?
このまま他人のふりして帰ろうか…。でも、周り見てるな。この状況、まるで僕が泣かせたみたいじゃん!ヤバい、ここから物凄く逃げたい。でも、この子だけにするのは気が引けるし…。どうすんの、僕!結局は他人なんだし、放っておいても…いや、でもな………(中略)…だぁあ!!もう、面倒だ!

「ネル」

ネルはこちらを向いた。

「僕の家に来いよ。話、聞くからさ」

ネルは笑顔で頷いた。



「ネル、人間界に遊びに来てたんですけど、魔力があまり出なくなっちゃって…、落ちちゃったのです」

ネルは自分で描いた絵を指し、説明してくれた。何だ、この下手な絵は…。幼稚園児かっ!

「わかりましたです?」

とりあえず頷いた。

「このままじゃ…帰れません、なのです」

「力になれるかわからないけど…、僕がいるから大丈夫!
そういえば、名前言ってなかったね。僕はヒカル、よろしく」

ネルは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、なのです!!ヒカル君」

この天使を迎え入れたことで、僕へのいじめは終わる!

くぅう…、ネルのお腹の虫が鳴いている。

「何か食べ物でも持ってくるよ。ちょっと待ってて」

「はいです」

確かおやつがあるって、母さんは言っていた。それを取りに、僕は台所へと向かった。

台所にあったのは、クッキーだった。

「これ、貰うよ」

「じゃあ、一緒に食べる?」

「いや…、明日テストなんだ。だから、ちょっとつまみながら勉強したいから」

僕はそそくさとジュースを入れ、お盆にクッキーの入った皿とジュースを乗せ、台所を出た。
天使でも、人間と一緒でお腹空くんだな、そう思いながら階段を上がっていると、僕の部屋からドダンッ!と大きな音がした。な、何事だ?まさかネルの身に何か…?

「ネル?!」

僕は急いで扉を開けた。


な、なんじゃこりゃあー??!!

ネルを中心にして、部屋の中はめちゃくちゃになっていた。

「や、屋根は直ったんですけど、魔法の反動で部屋が……。ごめんなさいですぅ!!」

この瞬間、僕は思った。役に立たない天使だと…。



僕はネルとともに母のもとへ向かった。

「母さん、この子…ネルって言うんだけど、うちで泊めても良いかな?」

ネルを見た母は目を輝かせた。

「あら?可愛い子ねぇ!別に構わないけど、その子の両親が心配するんじゃない?」

「ある事情で帰られなくなっちゃって…、だから…」

母は大胆なことに、ネルを抱きしめた。ネルは少し驚いた表情をした。

「家に帰られなくて寂しいね、でも大丈夫よ!今日だけ、私をママだと思ってちょうだいね」
ネルはどこか嬉しそうに、頷いた。

「腕を振るって、夕飯作らなくちゃね!えっと、ネルちゃん?手伝ってもらっても大丈夫かしら?
ヒカルったら、手伝ってってお願いしても…全くやらないのよ」

だって、面倒臭いんだもん。

「はい、手伝いします、なのです」

今日のメニューは何だろう?そう思いながら、僕は自分の部屋に戻った。夕飯ができるまでの間に、片付けなければ…。

でも、母さんはネルの翼に気づかなかったのか?ただ単にスルーしてるだけなのか?どちらにせよ、僕にはどうでも良いことなのだが。

父の反応を密かに楽しみにする、僕だった。



「夕飯できたわよ!」

母の声で、僕はリビングに向かった。今日のメニューはカレーライスだ。

「ネルちゃん、凄いのよ!カレーの作り方、全部知ってるの。毎日、ママのお手伝いをしてる証拠だわ!ヒカルも見習いなさい」

いやだ。

「お手伝いは楽しいのです!ヒカル君もぜひやってみて下さいです」

腹減ったなぁ。

「ただいま」

あ、父さんが帰ってきた。僕はそそくさと父を迎えに玄関へ向かう。

「おかえり」

「おお、ヒカル!ちょうど良かった」

父は鞄から袋を取り出し、僕に手渡した。その袋の中身はわかっている。文庫本だ!

「ありがとう!後で読むよ」

「どういたしまして。
おっ、カレーの匂いがするな!今日はカレーライスか」


父とともにリビングへ向かった。父はネルの姿を見るやいなや、目を丸くする。

「えっ?!この子は…一体?」

「この子はネルちゃんよ!今日一日泊まるの」

「よろしくお願いします、なのです」

ネルは父にお辞儀した。
父はあんぐりと口を開けている。

「巧妙なコスプレだな…」

やっぱそう思うか。

「違うわよ、本物の天使ちゃんよ!ね?」

母の確認に頷くネルだった。というか、えっ?!母さん、本当の天使だと思ってたの!?なら、反応違くね?

「本物の天使か!そうか、そうか」

何故そこで納得?!絶対的に常識人は僕一人だけだぞ!!もう、意味不明だよ…。

とりあえず、四人で夕飯を食べた。いつもとは違い、賑やかな楽しい食事となった。



ネルは僕の部屋で寝てもらうことになった。

「お休みなさい、なのです」

「お休み」

明日、いよいよ標的が変わる。ウキウキな気分の中、僕は夢の世界に行った。
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