ヒカルの光

□一章
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「う……ん…?」

一人の黒髪の少年が目を覚まし、周りを見渡した。

「何だ…?ここどこなんだよ…」

少年は起き上がり、もう一度周りを見渡した。木が生い茂る森の中だ。光はあまり届いておらず、薄暗い。

少年は考えた。この森に来る前のことを。


僕は町中を歩いてた。おつかいを頼まれて…。いつの間にか意識は無くなっていて、ここにいた。記憶が曖昧、ということは…どういうことだ?


少年は金が盗まれていないかどうか確認した。

「…えっ?!」

少年は自分の服装を見て驚いた。
マントに丈夫そうな皮の服、腰のベルトには小さなポシェットと、鞘に収められた剣がある。さらに、地面には盾が落ちている。

少年は思った。

どこのRPGゲームの主人公だよ、コレは!!


ポシェットの中身は小さな青リンゴと見たことのない硬貨が入った巾着袋、ばんそうこう二枚のみだった。ズボンのポケットを探るも、何も入っていない。

どうすりゃ良いんだよ!!


とりあえず、少年は盾を構え、一歩を踏み出した。周りを警戒しながら、一歩ずつゆっくりと進む。

カサカサ、と草むらが揺れる。
少年は振り向き、剣を抜いた。少年の細い腕には重たかったのか、剣先は地面に刺さり、持ち上がらない。
少年は仕方なく剣を捨て、盾の陰から草むらの様子をうかがった。

草むらから這い出てきたのは、こうもりの翼を生やし、三つの長い首を持つコブラだ。コブラの尾は何故か燃えている。

何だ、この合体生物は?!と心の中で思いながら、少年はじっと動かず、コブラを睨んだ。危険動物と対峙した時は、目を逸らさず急に逃げ出すな、と聞いたことがある。ただ単に腰が抜けてしまい、動けないだけなのだが。


コブラはチョロチョロと舌を出し、少年に近づいた。体の震えが止まらない、少年は冷や汗をかく。逃げたい、そう思うも、体が言うことを聞かない。

コブラの頭の一つが少年の脚に巻きつく。服の上からでも、鱗の冷たさを感じる。

ヤバい…、殺されるかも。
少年は捨てた剣を見た。手を伸ばせば届きそうだ。残り二つのコブラの頭は、自分の体を舐めるように見ている。

少年はゆっくりと腕を伸ばした。焦ったら負けだ。このコブラは多分、僕を木か何かだと思っている。つまり、僕が急に動かなければ襲わない。そう信じるしかない!

少年は剣の柄を掴んだ。しかし、コブラの頭の一つが剣を掴んでいる方の腕の上に乗る。マズい、このままでは剣を抜けない!
そのままコブラは腕に巻きついてきた。少年に剣を取らせないようにしているのだろうか。
三つの頭は少年の顔の前に来て、ニンマリと笑う。

少年はこの時、気づいた。コブラはわかっている、僕自身が餌であることを。

少年の歯はガチガチと鳴り始めた。号泣したい思いだったが、それをこらえ、剣の柄を再び強く握りしめた。

「うわぁあ!!」

少年は盾でコブラの頭を向こうへ押しやると同時に、自分の顔を守った。そして、剣を力いっぱいに抜き、その勢いのまま剣を振る。
腕に巻きつくコブラの首が、腕を締めつける。しかし、痛みより勢いが勝った。コブラの首が一つ落ちる。残りの二つは見事な反り具合で避けた。

怒った残りの頭は、二つ同時に少年に襲いかかってきた。その牙は少年の柔らかい首を狙っている。

もう一度剣を振ろうにも、間に合わない。盾も間に合わない!もう駄目だ…。

ザシュッ!

コブラの二つの頭は串刺しになっていた。太い槍のおかげで。

少年は力が抜けてしまい、地面に座り込んだ。

「間一髪だったわね!」

空から降りてきたのは、悪魔の少女だった。

「何でさ、こんな所にいるわけ?光らないヒカル」

「…その呼び方止めろよ、リヴ」

悪魔リヴは、少年ヒカルの手を取り、立たせた。

「完全に腰抜けてたわりには、やるじゃん!あのコブラ、中々狡賢いから仕留めるの難しいのよ」

ヒカルにとってはどうでも良い情報だった。

「…お前って意外と優しいよな」

「ハァ?そんなわけないじゃん!
アンタのビビり顔、凄く面白かったわよ」

リヴは大笑いし始めた。ヒカルはリヴを睨む。

「やっぱ悪魔か!人が必死になってたとこ、笑いやがって…」

ヒカルはリヴに殴りかかった。リヴはヒョイと避ける。

「人間なんて、まるで亀だわ」

リヴは素早く跳び、ヒカルの肩の上に乗った。ヒカルは体重を支えきれず、リヴの下敷きになる。

「は、早く…降りろ!」

「それより本題よ。何でアンタ、魔界にいるわけ?」

魔界、その言葉を聞いて、ヒカルは動きを止めた。

「ここ…、魔界っていうの?じゃあ…、僕は別の世界に来ちゃってるってこと?!」

「…なるほど、何もわからないということね」

リヴはヒカルを抱き上げ、翼を羽ばたかせた。

「えっ、ちょっ?!」

「暴れたら即落とすからね」

リヴはヒカルを抱き上げたまま、空を飛んだ。先程までいた森が早くも遠くの方にある。

ヒカルは飛べる清々しさよりも恐怖に震えた。

「ど、どこ行くつもりなんだよ…?」

「役立つスケベのとこ!」

ヒカルは首を傾げた。




「リヴ、にゃんで女の子連れてこないニャ?!」

「アタイで十分でしょ?さっ、情報ちょうだい、ギャラン」

リヴは猫の魔界人、ギャランのボロい情報屋に来ていた。

「何で猫立ってんの?何で喋ってんの?!ツッコミ所ありすぎなんだけど」

「ちょっとアンタ黙ってて」

リヴはヒカルの頭を叩いた。

「人間が魔界に迷い込むなんて…、今までになかったからにゃ。どうやって元の世界に戻したら良いか、流石においらでもわからにゃいニャン…」

ヒカルは手を挙げた。

「前にネルとリヴが僕の住む世界に来てたけど、あれはどうやって来たの?」

ギャランは紙に正方形を書き、その角に四つの丸を書いた。そして、丸の中に世界の名前を書き込む。

「天界と冥界、魔界と人間界はそれぞれ裏表にあるニャ」

ギャランは正方形の対角線を二本書き、その交点にバツ印を入れる。

「対角線は通ることができにゃい。でも、四角の辺は通れるから、ネルとリヴは辺を通ったわけ」

「なら、僕も天界に行けば良いじゃん」

ギャランは大きく首を振る。

「それはダメニャン!天界と冥界は人間界から見ると『あの世』、死者の世界ニャ!!魔力のにゃい人間が行けば、たちまち魂となって帰れなくなる」

ヒカルは目を見開いた。

「とにかく、人間には住処を提供するニャ!」

ギャランは部屋の奥から埃をかぶった薄汚い布を取り出し、床に敷いた。

「ここで寝泊まりすれば良いニャ!お前の布団はこれ」

「そんなありがたくない気遣いはいらない!」

ヒカルはそそくさと情報屋から出た。リヴが不思議そうな表情でヒカルを追いかける。

「どうすんのさ?」

「一刻も早く、自分の家に帰りたいんだ。だから、何か方法を探す」

「フーン。じゃ、頑張ってね」

リヴはさっさと飛び去ってしまった。

「手伝おうという気にはならないのかよ!」

ヒカルのツッコミは空しく響くのだった。



ヒカルは情報を集めた。魔界から人間界へ行ったことのある人はいないか、世界を移動できる道具や魔法はないのか。しかし、情報はなかった。

ヒカルはポシェットに入っていた青リンゴを取り出した。そして、一口かじる。

「…酸っぱ」

酸っぱいリンゴを食べ進めながら、ヒカルは途方に暮れていた。RPGゲームなら、どっかにヒントがあるはずなのにな…。

リンゴを食べ終え、ふとリンゴの芯を見たその時のことだった。
リンゴの芯に小さな文字が浮かび上がった。魔法で書かれた文字なのか、揺れ動いている。

丁寧なことに、きちんと日本語で書かれていた。内容は『天使を仲間にし、南にある山へ向かえ』

「天使…?」

まさかあの子では?とふと頭をよぎる顔があった。そのまさかだった。

「ヒカルく〜ん!」

一人の天使の少女が手を振りながら、ヒカルの側に飛んできた。

「お久しぶりなのです!」

「久しぶり!ネル」

天使ネルは満面の笑みとなった。

「リヴちゃんが教えてくれたのです。ヒカル君が魔界にいるって」

あの悪魔、やっぱりちょっと優しいな、とヒカルは思った。

「人間界に帰る方法を探してるんだ。手伝ってくれるかな…?」

「もちろんなのです!」


果たして、ヒカルは元の世界へ帰られるのか?そして、ヒカルを魔界へ送り込んだ存在は?魔法の文字は誰が?

いくつもの疑問の中、ヒカルは前へ進む。


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