天魔(エンビル)
□微嫉妬(ビシッと)友情!
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ラミは鼻歌を歌いながら、掃除機を片手にルーヴの部屋を掃除していた。
「ルーヴ様のためなら〜何でもこなしちゃう〜」
ラミは埃一つも残らないよう、徹底的に掃除した。ベッドの下、棚の上、本の隙間など、部屋の隅々まで。全ては愛するルーヴのために。
ふと机の上を見ると、スケジュール帳が置かれていた。それには付箋がつけられている。
「ルーヴ様ったら…こんな所に置きっぱなしにして」
ラミはスケジュール帳を手に取る。スケジュール帳に付けられた青い付箋には、ピンクのインクでハートが描かれていた。
「ルーヴ様がこんな付箋を使うなんて…」
不思議に思ったラミは、付箋がついているページを開く。
ラミはそのページを見た途端、目を見開き、眉間にしわを寄せた。
「ネルと……デート?!」
そう、そのページには『ネルとデート』と書かれていたのだ。しかも、日にちは今日である。
「あの女ぁああ!!ムカつくムカつくっ、ムカつくぅうう!!!」
ラミは時計を見た。スケジュール帳に書かれた待ち合わせ時間はまもなくだ。
「こうしちゃいられない!早く何とかしないと…」
ラミは勢い良く家を飛び出した。
「まだかな…、ネルは」
ルーヴは、天界のとある公園の木の下でネルを待っていた。つけている腕時計を見る。その顔は赤かったが、とても嬉しそうだ。
「ネルのことだから、ドジしちゃって遅れてるんだろうな」
ルーヴはクスリと笑った。
「お、お待たせいたしました!!…です」
ルーヴは声のした方向に振り返った。
麦わら帽子を被り、リボンがついた赤いワンピースを着た天使の女の子、ネルが息を切らしている。
「遅れてごめんなさい…です!その…いろいろとあって……」
「大丈夫だよ。さあ、行こうか」
ルーヴはネルの手を握った。ネルの顔は真っ赤になり、のぼせ上がる。
「…だ、大丈夫?」
「は、はい!」
ネルはルーヴの腕にベッタリとくっつき、満面の笑顔となった。ルーヴは少し戸惑いを感じたが、微笑みを見せた。
その様子を陰で見ていたヴィリアは、眉を潜ませた。
「ルーヴさっ…、ルーヴ君、あそこに行きましょです!」
ネルはルーヴの手を引っ張り、向こうにある店を指差した。その店はソフトクリームが置いてあった。
「ルーヴ君は、チョコレートですよね!」
「えっ、どうして知ってるの?」
「あ…えと…、それは…その…勘です!」
ネルの様子に少し疑問に思うルーヴだったが、ネルに引っ張られ、考える間もなくソフトクリームを買うこととなった。
「ストロベリーとチョコレート、一つずつお願いします!」
ネルは懐から財布を出し、お金を出そうとした。それを見たルーヴがすかさずネルを止める。
「ネル、僕が払うよ」
「いつも払ってもらって下さってますから…今日くらいは」
ネルはお金を出し、ソフトクリームを貰った。
「お一つどうぞ、です」
ネルはチョコレートの方を差し出した。ルーヴはそれを受け取り、微笑みかけた。
「ありがとう」
「いえ…」
照れているのか、ネルの頬は赤く染まる。
「あ、あれを見て下さいです!」
ネルが指差した方向を見ると、二羽の鳥が仲良く空を飛んでいた。
「まるで僕達みたいだね」
ネルは笑顔で大きく頷いた。しかし、その瞳にはどこか悲しげで、空しい色が宿っていた。
「ネル、次はどこ行こうか?」
ルーヴはソフトクリームを舐めながら尋ねた。ネルは俯き、小さく呟いた。
「…ルーヴ様、あなたの心はあの女に?」
ルーヴは首を傾げた。ネルはルーヴの方に向き直り、真剣な表情を見せた。
「ルーヴ君…、ネルのことはどう思ってるんですか?」
ルーヴは頬を赤らめ、唾を飲む。
「もちろん、……好き…だよ」
ネルは顔を真っ赤にさせた。しかし、これは照れではなく、心に潜む怒りからだ。それをグッと我慢し、次の疑問を切り出す。
「じゃあ、あなたに仕えるラミちゃんのことはどう思ってるんですか?」
ルーヴは目をパチクリとまばたきさせた。
「ラミかい?どうして君が…」
「良いから答えて下さい!!」
ネルは眉を吊り上げ、ルーヴに迫る。戸惑いを感じつつも、ルーヴは正直に答えた。
「別にただの使い魔と思ってるけど」
ネルは目を見開いた。必死に涙を我慢し、ルーヴから少し離れた。
「ネル、はっきり言います!ネルはあなたが…」
「それ以上、ネルちゃんの姿で勝手なことしないでくれるかしら?」
二人の間に割り込み、ネルの言葉を遮ったのは、ヴィリアだった。ネルとルーヴは、ヴィリアの登場に驚きを隠せなかった。
「ヴィリア!?…どういうこと?」
「わからないの…?こういうことよ」
ヴィリアは指を鳴らした。たちまち、ネルはラミの姿へと変わる。
「ラミッ?!」
そう、ラミはネルの姿に変身していたのだ。
「本物のネルはどこなんだ?」
「…言いたくありません」
ラミは涙を流した。
「アタクシは…ルーヴ様を……愛しています!!天使と悪魔なんて結ばれるはずありません。どうか…もう一度お考えに……」
「答えるんだ。ネルはどこ?」
ラミは口を閉ざしていたが、ルーヴの本気の怒りを見て観念したのか、黙り込んだまま、案内した。
ラミはルーヴ達を小屋に案内した。その小屋は、ラミが魔法で作ったものらしい、少し形が歪み、不安定である。
ラミは扉の閂を外し、扉を開けた。中には、ネルが小さな寝息を立てている。
「ネル、大丈夫?!」
ネルは眠気の残るまぶたを開き、起き上がった。
「あ…おはようございます、なのです」
「どうして寝てたの…?」
ルーヴの問いに、ネルは当たり前のように答えた。
「暗かったので、寝てしまいました、なのです」
ルーヴとヴィリアは唖然とネルを見つめるのだった。
「ラミ、ネルに謝るんだ」
ラミは素直に前に出て、頭を下げた。
「…ご、ごめんな…さい」
「可愛いのです!」
ネルはいきなり、ラミに抱きついた。ラミは困惑の表情を隠せなかった。
「い、いきなり何っ?!」
「えっと…ラミちゃんでしたです?どんな服装が好みです?」
ラミは戸惑いを感じた。
「この状況分かってんの?!アタクシはアンタをここに閉じ込めたのよ?ルーヴ様とデートできなくなっちゃったのよ?!…アタクシのせいで」
ネルは爽やかな笑顔を見せた。
「ラミちゃん、ルーヴ君をひとりじめしたかっただけです。その気持ち、ネルにもわかりますですから」
ラミはまばたきをした。そして、笑顔になった。
「あなたとルーヴ様がくっついても、アタクシの愛は変わらないからね!わかった?」
「はいです!」
ネルとラミは互いに笑顔を交わした。
「あの、『くっつく』ってどういう意味です?」
ネルがキョトンとした顔で尋ねてくるので、ラミは驚いた。
「知らないの?!というか…アタクシに言わせる気?!
だ、だから、くっつくっていうのは…」
その状況を微笑ましく見ているルーヴとヴィリアなのだった。