作品1

□第五回企画『夏』
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「敬意をはらって変態とお呼びします」
「どうぞ、駒井作戦部隊長」
なに、作戦部隊長って。
いきなり炎天下のプールサイドに現れ「あれ?駒井さん生理なのかな」とセクハラ発言を吐いたこの保健室勤務の男性教諭長坂はわたしの隣に座りこみ、水着の男子をいやらしく見ている。キモい。
「知りませんでした、先生はぴちぴちの女の子より男の子の方が好みなんですね」
「うん、先生は男子の二の腕が好きなんだ。ひきしまってて。美しいよね」
「わたしに同意はできませんが好みは人の自由かと」
「だよね、駒井さんだいすきー分かってるー」
塩素の匂いが鼻につく。水がちゃぷちゃぷ、太陽の熱で温められてサイダーをイメージさせる。長坂はわたしのクラスメイトの男子ひとりを指差した。
「あの子好きだな、足のラインが最高」
「あの…、本当にセクハラで訴えられます先生。指差しちゃだめです」
「そうだね」
あはは、と先生が笑う。笑い事じゃない。先々月もセクハラの訴えで女性教諭が辞めさせられたばかりなのだ。
…え、この学校変態しかいないの?
わたしが真剣に転校を悩んでいると、「長坂先生、うちのクラスの男子が先生の視線が気になるって言って困るんです。保健室に戻っていただけませんか?」という担任の声が聞こえた。長坂は残念そうにわたしを見た。ナンダ。
「帰れだって。聞いた?駒井さん、先生帰れって言われたよ」
「仕方ないです先生」
「んー、じゃあ帰るか」
長坂は立ち上がってプールサイドから出ていく。その背中をわたしは複雑そうに見ていた。




(たまにはこっち向け、ばか教師)
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