作品1

□第五回企画『夏』
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 暑い夏。
 蝉が鳴く。
 青春は、まだまだこれから。

 ――って思っていたのに……。
「この夏休みでしっかり復習しないと受験はボロボロだぞ。特に蔦原、お前は始めが遅かったから真面目にな!」
「はぁい」
 欠伸混じりの返事をしても、先生は大きな鼻で一息するだけで、今日の補修は終わった。
「真面目にやってるっつーのっ」
 解放された屋上は生徒の溜まり場。と言っても夏休みにワザワザここまで来るやつなんて、高が知れてる。オレと加藤くらいなもんだ。
「そりゃあね、遅かったし彼女と遊んでたし、もう居ないけど……」
「いつ真面目にやってんだよ」
「はぁああぁ〜……全然青春してねぇよ、オレ」
 うなだれると、口にくわえたアイスと共に汗のような涙のような、水分かボタボタこぼれた。
「お前、なんでフラれたん?」
 加藤は容赦なく痛いところを突く。得意技だ。と思いながら話すオレも、オレ。
「……海で、」
「海で?」
「抱きしめた時にブラ紐と手が絡まって」
「……」
「離れたときに、スルッ、て」
「……そういや左頬赤いな」
 正直受験どころじゃない。オレの夏も青春も、あの日海に流されたんだ。
「今日、俺んち来いよ」
「……加藤」
「親父がさ、新作の和菓子出来たから友達呼んで試食しろって言うんさ。だから来いよ」
 加藤んチは代々続く和菓子屋だ。小さい頃から世話になってきた。
「へぇ……どんな?」
「お前の海での出来事を、思い起こさせるような」
 おいおい……。
「加藤、いくらお前でもそれはねぇよ! 親友の傷口に塩を擦り込んでくれるなっ……」
 滝のように溢れる涙がアイスを更に溶かし、オレの顔は妙な液体だらけでグチャグチャだった。
「甘えるな蔦原! それを見てやつを思い出し、それを食べて、お前の青春を取
り戻すんだ!」
 やたらと力を込める加藤。一体どんな和菓子なんだ。
「……どんな和菓子なわけ、ソレ」
「プリンだ!」
「……ぷ……」
 それを見て‘やつ’を思い出し――。
「……加藤ぉおお! お前は永遠に親友だぁああ〜!」
「蔦原ぁ〜!」
 イメージが一致したオレたちは、友情を確かめ合うように抱き合った。

 暑い夏。
 蝉が鳴く。
 青春は、まだまだこれから。
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