太陽

□太陽 1
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空港は僕達には慣れた場所だ…
時々慣れすぎて今どこにいるのかこれからどこに向かうのか判らなくなる時さえある

様々な人がそれぞれの目的地に向かって飛行機に乗り込むのを眺めているとその流れに乗ってふらっと何処か遠くへ旅に出たい衝動に駆られた


愛する人と一緒に…

現実には

マネージャーやスタッフに促されてファンの波を掻き分けてタラップに乗り込む

まだ昨日のパリ公演の余韻が醒めやらぬ中灼熱の国スペインへ

初めての国に行くのはとてもエキサイティングだ
知らない文化、知らない街並み、そして何より僕達を知らない人達の中に入って普通の事を普通にする…買い物だったり食べ歩いたり街を散策したり

そういう当たり前の事を当たり前に出来るのがとても嬉しい

韓国では難しい…でもスペインなら…なんて考えていると少し後ろを歩いていたチャンミンに早く行きますよ、と目で合図された

その様子にこのまま僕と逃避行しようと言ったらどんな顔をするんだろう…

何もかも捨てて

僕と行こうと言ったらどうするんだろうなんて考えが浮かんでしまう

仕事も家族も何もかも捨てて


自分でも馬鹿げた考えに頭を降った

逃避行なんて

出来ない事は僕にもよく解っている

でもチャンミンとなら…


飛行機に乗り込むといつも大抵寝てしまう
特に今日はSMタウンパリ公演が大成功に終わったばかりで

ヨーロッパやアメリカの公演が最初は信じられなかった
今は世界中の情報…世界中の音楽がどこにいても瞬時に手に入る

アジアでひK-POPとして広く認識されている音楽ももうその肩書きがいらないほど当たり前にチャートを賑わす時代だ


ただヨーロッパやアメリカ…特に自分が憧れていた人達と同じ舞台に立ったり人種に関係なく韓国語で僕達の歌を口ずさんでくれたりするのをステージから見ると

感動する…誇らしい気持ちになるしもっと頑張ってもっと…

と思っているうちにいつの間にか眠ってしまった


スペインに降り立つと流石に暑い

日本で冬に出る写真集なので衣装は
冬支度


すきなようにしていて、と言われ見たい場所もあって嬉しかったけど暑さには閉口した

…撮影は快調に進んだ

スペインは街並みも綺麗だし食べ物もとても美味しい
チャンミンはマッシュルームの料理が気に入ったみたい
僕はチャンミンが食べるのを見ているのが好きなので見入っていると軽く睨まれてしまう


ホテルに戻ると上機嫌でワインを開けていたチャンミンはシャワーから戻るなり寝てしまって

僕は一人取り残される


眠れずに安らかに眠っているチャンミンを眺めていると改めて信じられない

僕達が恋に落ちるなんて

…8年前には考えられなかった光景だ
あの頃はただのマンネだったのに

大切なメンバーだし大事にしていなかった訳じゃない

でもただこんなに誰かの事を考えて…

寝ていれば寝顔を見ていたいし
どんな夢を見ているんだろう…いい夢だといいな
…僕は出てくるかな?なんて
自分でもちょっとおかしいんじゃないかと思うほど…


僕の中でチャンミンが特別な存在になったのはあの辛い時期…

すでに僕達5人の間には亀裂ヵ入っていた
それでもまだ僕は希望を捨てていなかったけど…本人からてなく周りから聞こえる雑音とエスカレートしていく現実に押し流されて

目の前で夢や希望や未来や何もかにもがまさに砂城のようにあっけなく崩れ去るのを見ている事しかできずに

長い異国の生活からやっと帰って大賞も取ってこれから

やっと頂点に…と言うときに降ってわいたような悪夢

裁判所の調停が失敗したと聞いたのはドラマ撮影終盤後少しでクランクアップする時だった


突然世界が色を無くした



…倒れた時には正直ほっとした

誰にも会いたくないし何もしたくなかった
ぼんやりと病院のベッドに横たわり点滴の落ちるのを眺めていた…恐怖を抱いて

…治るのが怖かった


何故リーダーなのに大切なグループを分裂させてしまったのか
何故お互いもっと話せなかったのか
何故こうなる前にもっと…

永遠に続く疑問に答えは無く

破裂しそうな頭と裏腹に空虚な心

…僕は目を閉じた

何も見たくなかったから…



気がつくと手のひらが暖かくて

一瞬咄嗟に振りほどこうとするとさらに強く握られた

薬で朦朧とする頭に繰り返し聞こえる声

「…大丈夫…」


聞き慣れているのに初めて聞くような響き


チャンミンが僕の手を握っていた

顔は背けて窓の方を見て

僕も窓の外に目を向けた


僕達は無言のまま


お互いを知り始めた…

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