黒龍の章〜飛影×蔵馬〜

□【Sweet cocoa】
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「飛........影ぃ....?」


瞳の意味するものが分からず、困惑しているうちにヒョイッと身体が宙に浮いた。



「えっ?えっ?ちょっっ....飛影?????」



ジタバタする抵抗をものともせず、軽々と抱き上げられた華奢な身体を目と鼻の先にあるベッドに軽く放り投げる。

少しの振動と共にベッドに沈み込み、フワリと靡いた長い髪から甘い香りが漂った。



「もう!飛影!そんなに急かさないで.......んっ....っっ」



顔に纏わりつく深紅を引き剥がしながら零した文句は最後まで言葉にならず。

それを封じ込めたのはまたしても柔らかな感触。

そして流れ込んで来たのは温かく心地よい妖気。

疲れきった身体中に染み渡り、内部から揺らめく炎が包んでくれる.......

頭の先から爪の先まで、余すとこなく循環したのを確認して、飛影の纏う妖気が小さくなった。



「血色の悪い顔しやがって。少しは自分の体調に目を向けろ、バカ狐が」



“あっっ.....”と小さな声を洩らし、瞳の意味を理解した翡翠が気まずい空気の中、視線を伏せた。



「ごめん........最近仕事が立て込んで忙しくて........」



「忙しくて、何だ?」



「会議が続いたり、書類がたまってたり......それで......」


しどろもどろに掠れていく声は、どんどん小さくなり消え入りそうな語尾はほとんど聞き取れなくなっていた。


「ごめんなさい......」


やっとの事で音になったのはやっぱり謝罪で。
そして......飛影の口から出たのは、もはや日常風景と化した盛大なため息。



「謝る前に少し横になってろ」



覆い被さっていた身体を起こしてベッドから立ち上がった姿に慌てた蔵馬の手が、背を向けた飛影の腕を咄嗟に掴んだ。


「飛......っっ、待っっ!!!」


意外な程大きな声で呼ばれ、驚いて振り返った飛影の目に映ったのは、大きな翡翠一面に広がる不安の影とジワ〜と潤み始めた瞳。

再びついたため息はすぐにフッと緩んだ緋色の瞳に掻き消され、伸ばした指が蔵馬の頬を優しくなぞり、キラリと光った一滴の雫に吸い寄せられるように、目尻に口付けた。



「何を勘違いしてるんだ、バカ狐。帰るとは一言も言ってない」


その言葉を聞いても翡翠は潤んだままで。

呆れたような瞳はそれでも優しい色を湛えたまま、深紅の髪をクシャッと撫でた。



「おとなしく待ってろ」


未だ不安げな蔵馬の耳に聞こえるのは階段を下りていく足音........



数分後、戻ってきた飛影の手には2つのマグカップが握られてて。

無言で差し出された真っ白い陶器の中には褐色の液体が、白い湯気をたてながら揺れていた。



「飛影.....これ.....」



「疲れた時には甘いものなんだろ?特別に甘くしてきたぞ」


また零れそうになった雫をグッと堪えるように、マグカップに口をつけた。
コクリとした音と共に喉を通り過ぎたのは、甘いココア......

猫舌の蔵馬がすぐに飲めるぐらいの程よい温かさ。


「ありがとう......でも甘すぎだよ。砂糖?ミルク?入れすぎ」


泣きそうな笑顔なのに、どこか可笑しそうにクスクス笑う。

その笑顔を複雑な表情でチラリと見やった飛影が、細い指に包み込まれていたマグカップをヒョイッと取り上げた。

至近距離で瞳をクロスさせ、何かを企んでるような笑みを浮かべる。



「もっと甘くしてやろうか?」


言うが早いか、取り上げたカップの中身をクイっと口に含み、ココアでほんのり濡れた花びらのような唇に口付けた。スルリと舌を滑り込ませ、含んだ液体を蔵馬の喉に流し込んでいく。

コクリと飲み込む音が合図となり、入り込んだ舌が口内を好き勝手に翻弄し始めた。

温かい感触とココアの甘さが混じりあう。

そこに激しくも優しいキスが重なれば、極上の甘さに溶けていくだけ........


極上のkissととびきり甘いココアと、ぶっきらぼうな優しさと。



全てが混ざり合って生み出されるのは最上級の時間。


そして洩れだすのはあらゆる者を虜にする甘い甘い吐息........


甘いkissと甘い吐息。


重なり合えばあとは快楽の海に溺れていくだけ-------


fin.



後書き

何か無性に甘い飛蔵を書いてみたくなったので、相変わらず甘いだけの話(笑)
ココア作るとか、蔵馬さんといると、どんどん人間かぶれしていく飛影(笑)


2012.7.31 咲坂 翠
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