黒龍の章〜飛影×蔵馬〜

□【眠れる君に目覚めのkissを】
2ページ/2ページ

導かれるままにたどり着いたのは、人里離れた山奥にある小さな洞穴。


未だ消えない妖気の流れを辿り、最奥部まで足を進めた。


いつの間にか先導していた妖気は消え、目の前に広がるのは辺り一帯を埋め尽くす棘。


侵入者を拒むように複雑に絡み合う。



そして.......



「やっと来たか」



緋色の瞳が捉えたのは-----


冷たい瞳。
流れるような銀色の髪。
どこか高貴な佇まい........



「おい、あいつは.....蔵馬はどこだ?」


「随分と失礼な挨拶だな。俺だって蔵馬だろう?」



呆れと皮肉が混じったシニカルな笑みが、神経を逆撫でする。



「貴様のごたくはどうでもいい!あいつはどこにいる?」



突きつけられた剣先にも身動き一つせず、フッと真顔に戻る。



「秀一はずっとお前を待ってた。待って待って、待ち続けてたんだよ」



その視線は棘の奥を見据えて。



「お前を信じてなかった訳じゃない。だが、離れてる時間が.....あいつにとっては永すぎた」



喉元をとらえてた切っ先は地面に下ろされ、瞳の奥に戸惑いが見え隠れしだす。


「秀一は全てを拒絶したんだ。この俺も、自分自身でさえも。悲しみを忘れる為に........」



未だ銀の瞳は棘の奥を見つめたまま。



「あいつは.....今どこにいる?」


居場所なんて、もうわかってた。

だけど聞かずにはいられなかった......



「承知の通りだ。奥で眠り続けてる。ず〜っとな。あいつが受け入れる奴しか通さない、この棘の中でな」



ガッチリと絡み合い侵入を拒む棘が、蔵馬の心そのもの。


----あいつが受け入れる奴しか------



「バカが......」



静かに吐き捨て、立ちふさがる棘の前で瞳を閉じた。

暗闇の中に浮かぶのは穏やかな笑顔。



----迎えに来たぞ.....蔵馬....------



刹那、複雑に絡み合っていた棘達がスルスルと解け始めた。

地面にこうべを垂れ、1本の道を作り出す。まるで到着を待ちわびていたように.....



「なぁ、飛影。あいつは想ってるだけじゃダメなんだよ。見えない約束じゃ.......お前が下らないと思うモノでも、秀一には必要なモノだってあるんだ」



-----必要なモノか--------



離れていても想いあえていれば、心は繋がっている。
それは間違いじゃない。

だけど、永すぎる時間はお前を不安にさせてたんだな........

約束の口付けも、
俺の代わりと結びつけた切れ端も、

その不安を拭うには不十分なもの。


棘の一本道を進み、途切れた先、満開の薔薇の中で横たわり眠っていたのはひと時も忘れたことのなかった大切な存在。

ヒラヒラと舞う花弁がその身を守る結界となり、その手首にはあの日の切れ端が........


地面を踏みしめる音に反応した花弁達が一切に四方へ散っていった。

それが自分達の主の意思であるかのように。


ソッと触れた頬は変わらぬ温もりを伝えて。



「バカが.......お前は言葉にしないと分からないのか.......?」



------お姫様は100年間眠り続けました



胸で組まれた手に、己の手を重ね合わせた。

穏やかな寝顔に影が差し......



------その眠りを覚まさせたのは




永い時間触れ合うことの無かった唇に優しい口付けを落とした。



「んっ.........」



ゆっくりと瞼が持ち上がり、閉じられてた瞳の奥から現れたのは変わらぬ翡翠の輝き。

そして------------------



「お早う、飛影。起こしてくれて......ありがとう」


耳に馴染む優しい声、咲き誇る満開の微笑み。


「蔵馬.........」


あの日のように何も言わずに強く抱きしめた。

だけどあの日と違う事は........



「蔵馬、お前は俺にとって何よりも大切な存在だ。離れていてもいつも想ってる。ずっと.......俺の帰る場所はお前の隣だけだ。だから、もう二度といなくなったりするな」


伝えなかった想いを口にした。



「飛......ぃ」



抱きしめた腕の中で蔵馬の身体が小さく震え、溢れ出した大粒の涙が頬を濡らし、飛影の腕をも伝っていく。


それは毎晩枕を塗らした哀しみの涙ではなく、喜びの涙。


未だ泣きながら震える身体を抱き上げた。



「帰るぞ、蔵馬。お前の場所.....いや、俺達の場所に」




帰る場所があるから、待っている人がいるから、俺は不安じゃなかった。
だけどお前は違ったんだな。



-----下らない事でも秀一には必要な事もあるんだ-------



下らないなんて思っちゃいない。
ただ......うまく言えなかった。

そんな台詞、言うべき相手もいなかったからな。

今の俺には大切なお前がいる。

だから........

今夜、想いの全てを言葉にしよう。
お前をこの腕に抱きしめながら.......


------愛してる--------



fin.


後書き

飛影ってなかなか“愛してる”とか言わないよね。
他の殺し文句はバンバン言いそうだけど、肝心な言葉は言わなそう。

眠り姫蔵馬さん萌え★
幸せな夢を見て目覚めなければいいね(笑)
そして飛影は必死に奔走すればいい★

どうでもいいけど深夜0時5分です。21日中のup目指してたのに....5分過ぎた(泣)


2012.7.22 咲坂 翠
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ