黒龍の章〜飛影×蔵馬〜
□【Be envious of..........】
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飛影と派手に言い合いしてからすでに一ヶ月。
10日も経つ頃から怒りは薄れ、蔵馬の心に湧き上るのは後悔の念ばかり。
なぜ飛影の話をちゃんと聞かなかったのか..........
頭に血が昇り、冷静になれなかった自分が恥ずかしい。
そして心にもない台詞を吐き捨てた事に腹がたつ。
-----もう二度と来ないで!--------
そうやって飛影を拒絶したのは自分なのに。。。。
今はただ会いたくて逢いたくて。
来るはずのない貴方の為に毎朝窓を開け放していく。
帰宅した時に真っ暗なままの部屋を見て切なさだけが募るのは分かってるのに。
それでもどこか期待をしてしまうなんて。
「..........バカみたい」
拒絶したのは俺自身・・・・・・
今さら逢いたいなんて虫が良すぎる。
------なら終わりだな---------
最後に聞いた言葉が頭の中でリフレインし続ける。
考えないようにしても頭に浮かぶのは飛影の事ばかりで。
ベッドに入っても無意識に隣にあるはずの温もりを探してしまう。
もう2度と感じることの出来ない貴方の核の鼓動を・・・・・
気付けばいつの間にか夜が明けていた。
ベッドから降り、窓辺に立つ。一つため息をつき、窓を閉めた。
そして、ここ何年も掛ける事のなかった鍵を静かに掛けた・・・・・・
「お〜い、蔵馬!」
街で声を掛けられて振り返った蔵馬の目に映ったのはなつかしい笑顔。
「幽助!久しぶりですね」
「今帰りか?」
「ええ。幽助は屋台休みですか?」
「まあな、たまにはゆっくりしないともたね〜し」
「それもそうですよね」
久しぶりにみる蔵馬の笑顔。何年たっても相変わらず柔らかい笑顔で。
「久しぶりに会ったんだし・・・どう?」
幽助がクイっとグラスを傾ける仕草を向けた。
一瞬考えた後、じゃあと頷く。
幽助と二人きりなんて飛影が知ったら・・・と考えかけてフッと可笑しくなった。
そんな事きっと飛影にとってはもうどうでもいい事なのに。
せっかくだから、ゆっくり話しながら飲みたいと、一番近い蔵馬の部屋での酒盛りとなった。
幽助の変わらぬピッチの早さに苦笑いしてしまう。
何だか久しぶりに少しだけ心が晴れた気分だった。
心地のいい酔いが身体に染み透り始めた頃、
「なあ、おめえ最近飛影と何かあったのか?」
あまりにも唐突過ぎる幽助の質問に一瞬固まった。
「別に・・・・普通ですよ」
動揺を隠しつつ、何とか話題を逸らそうと、差し障りのないように答える。
そんな蔵馬をジっと見ていた幽助が大きくため息をついた。
「嘘つけ。どうせ喧嘩でもしたんだろ?しかもばかデカイ喧嘩」
「な・・・何でそう思うんですか?」
は〜っともう一度深いため息を吐き、幽助が窓を指した。
「おめえ、あの窓だけはいつも開けっぱなしだったじゃねえかよ。誰かさんの為に。よっぽどな理由があんだろ?鍵まで閉めてる理由が」
予想もしなかった幽助の言葉を聞いて、押し殺していた何かが弾けた。
そして・・・・蔵馬の頬を一筋の涙が流れた。
あの日から一度も流れなかった・・・流さなかった涙。
心の奥にずっと閉じ込めていた気持ち。
気付いたら次から次に涙が溢れ出て、止まらなくなってた。