闘神の章〜幽助×蔵馬〜

□【Forever with you】
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カタっっ.......



窓を開ける小さな音と共に、室内に吹き込んできた涼しい風。

萌える新緑の薫りを纏い、清々しい空気が部屋を循環していく。

肌を優しく撫で、未だ深淵を漂う意識に覚醒を促す。

それでも、明け方近くにようやくベッドに沈み込んだ体は未だ鉛のように重く、瞼を開けれそうにもない。

フッと鼻を掠めたのは緑に混じった花の蜜の香り。

耳に聞こえるパタパタという足音。
どうやら狭い部屋の中を行ったりきたりしているのが分かる。

覚束ない意識の中でもそこにある存在が誰かなんて......

何とか眠りの淵に踏ん張ってみるけど、襲い来る睡魔には勝てそうにもなく。

再び奥底に引きずり込もうとする眠りに少しの抵抗を見せ、片手を空中にさ迷わせた。

そこにある存在を確かなものとして感じたくて。


部屋を行き来する軽快なリズムがピタっと止まる。

フッと空気が優しく揺らいだ気がした。

ギシっとベッドが軋む音がして、一人分の重みが加わった。

空中に浮いてた手に絡まった細い指先。

頬に感じた柔らかな感触。


そして.........




「まだ.....寝てていいよ」



耳元で囁かれた天使の誘惑にも似た甘い声。



「.........ま.........」



発した言葉が声になる前に、穏やかな眠りに誘われた意識が深淵へと落ちていった。






*************************




どのぐらい経っただろうか。

心地の良い眠りに疲れきっていた身体がだいぶ癒された気がする。

それは夢の中で見た、綿帽子みたいにフンワリとした微笑みのせいかもしれない。



------幽助.......-------



綺麗な微笑みを浮かべたその人が、小さく名前を呼んだ。


“呼ばれてる.....”


抱きしめようと伸ばした手が触れる寸前で、ユラユラと蜃気楼のように消えていった。



(そうか.....夢の中だからか......)



あの微笑みを腕の中に閉じ込める為には.........


眠りと覚醒の間で浮かんでた意識が一気に覚醒へと流れ込んでいく。

目を開けて大きく伸びをした。

締め切っていたはずの窓は開けられ、涼しい空気が部屋を快適な空間に仕立て上げていた。

枕元の煙草を手に取り一本取り出す。

着火しかけた火は葉を燃やす前に消し去られた。

物が散乱していたはずの床は綺麗に片付けられ、テーブルの上の一輪挿しが殺風景な部屋に華やかな彩りを添え。

彼方此方に脱ぎ捨てたままだった服は、石鹸の匂いを撒き散らしながら窓辺で風に靡いている。


部屋に満ち溢れるのは爽やかな涼気。

ニコチンを溶け込ませるのは忍びなくなって、ポンッと手にした煙草を元に戻した。


代わりに開け放たれた窓から入り込む新鮮な空気を、胸一杯に吸い込む。

体も心も軽く、すっきりとした目覚めが爽快な気分にさせていた。


扉一枚隔てた向こう側から、トントントンっと一定のリズムが聞こえる。

カチャっとコンロに火が着く音に続き、ジュ〜っと何かが焼ける音がした。

それは普段聞くことのない非日常的な音。

だけど、とても幸せな気分にさせてくれる.......

しばらく聞き惚れていると、ガチャと目の前の扉が開いた。


ヒョッコリ顔を覗かせたのは、夢の中で消えていった綺麗な微笑み。


起き上がった幽助を見るなり、満面の笑顔に変わった。




「あっっ、幽助、起きたんだ?お早う......って、もうそんな時間でもないか」



太陽は既に天空の真上で輝き、規則正しく時を刻む時計の針は、朝の挨拶には遅すぎる時刻を指している。

口にした挨拶が今の時間にはそぐわない事に可笑しくなったのか、クスクスと笑いながら部屋の中に入ってきた。


手にした洗濯物を、すでに干されて風に揺れるシャツの横に手早く干していく。

全て干し終わってフッと一つ息をついた。



(これで良しっと。お掃除は終わり)



「ねぇ、幽助。ご飯食べ..........」



振り向くより前に後ろからギュッと抱きすくめられた。

華奢な身体は逞しい2本の腕の中にすっぽりと収まる。




「ようやく掴まえた」



夢の中ではユラリと消えた存在が今は腕の中で静かに息づいて。

このまま放したくない.........




「幽助......おっ....お腹すいたでしょ?今ご飯......」



不意打ちの抱擁と背中越しに感じる隆起した筋肉に恥ずかしくなってきて、鳴り響く鼓動に気付かれないように何とか幽助の注意を逸らそうとした。

それも先手を打った幽助の前では意味をなさなかったようで.....



クルリと身体が反転して、正面で瞳が重なる。

落ちてきたのは優しい口付け。




「ん......」



身も心も蕩けるようなKISSに翻弄されてしまえば、身を委ねる以外の術はなく。



「ねぇ.....幽助、ご飯冷めちゃう........」



そんな台詞を言ってみたところで大した意味も.......




「んなもん後で温めりゃいいじゃん」




----ほら、やっぱり.......-------



再び重なった唇は吐息を絡め合いながら、熱く深まっていく。



「ん.....ふっっ.....んンンン.......」



激しさを増していく口付けに力が抜け、崩れそうになった膝が掬い取られ身体が宙に浮いた。




「ちょっっ......幽助!!!!」




「ほら、バタバタすんなって!大人しくしてねぇと立ったまま犯っちまうぞ」




「も......もう////////」



とんでもない台詞に観念したのか、ジタバタ宙を蹴っていた足がスッと大人しくなった。




「幽助のバカ........」



小さな悪態に視線を落とした先に見えたのは、顔を埋めギュッとしがみつく何とも愛らしい姿。


ベッドにその身を降ろそうとしても尚絡めた腕を放そうとはせず。




「蔵馬......」



優しいトーンにようやく見せた顔は真っ赤に染まり、恥ずかしげに見上げる瞳にはそれでもどこか期待が含まれていて。

望み通りに艶やかな唇を塞げば、絡み付いてた腕がスルリと解けた。

ソッとベッドに横たえ身体中に証を刻み込めば、色めく吐息が零れだす。


涼しい風が吹き抜ける部屋の中で、火照る熱だけが留まることをしらず上昇し続けていた。





**********************





「なぁ、蔵馬。おめぇ何か欲しいモンある?」




「欲しいもの........って急にな〜に?」



幽助の胸の上で甘い余韻に浸ってた蔵馬がフッと顔を上げた。




「ほら、今度の土曜日記念日だろ?だからさ」



一瞬キョトンと丸くなった瞳がみるみるうちに綻び始める。

二人で時を重ねてから5回目の記念日。

毎年同じように訪れる日だけど、5年目って何だか特別な気がして。


共に過ごした5年の間、蔵馬が欲しいものを自ら口にした事はない。

誕生日であれ、クリスマスであれ幽助が贈る全ての物を嬉しそうに受け取る。


だから特別な記念日ぐらいは自らの願いを形にしてやりたいって思ったのに。




「俺は....幽助が一緒にいてくれるだけでいい。ずっと一緒にいれたらそれで......」



願うは大好きな人の隣で笑っていられる事。


胸の上に添えられた手がキュッと縋りつく。

込み上げる愛しさがどうしようもなくて。




「やべぇ......俺今セーブきかねぇかも」




「えっ......幽助.....やっ...はっっ......んっっあ......」



あまりの可愛らしさといじらしさに、もう一度腕の中に閉じ込めた。

すぐに火照り始めた身体が、妖艶に乱れだす。

再び高まる熱に浮かされ、桃色の吐息が鮮やかな色彩を放っていた。




さすがに立て続けの情事に身がもたなかったのか、意識を飛ばした蔵馬は今やスヤスヤと軽い寝息をたてて。

幽助の腕の中にスッポリとくるまれ、無防備に身を委ねるのは、たった一人だけに見せる信頼の証。

きっとこれから先もずっと変わらないであろう.....




--------ずっと一緒にいれたらそれで......-------





それはワザワザ願わずとも、叶えてやりたいと思っている願い。

胸の上に添えられたままの左手を握りしめ、薬指をなぞり上げた。


ならば“物”ではないその願いを形にしてやれば。



「もう5年だし。そろそろだよな.......」



小さな独り言を呟き、細い薬指にソッと口付けた。
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