闘神の章〜幽助×蔵馬〜

□【Missing flower】
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「ねぇ、幽助。今度映画見に行かない?」


部屋の中心に置かれたガラステーブルに片肘ついて、パラパラと雑誌をめくっていた蔵馬が、フッとその手を止めて視線を上げた。

視線の先では、ソファーですっかりリラックスモードの幽助が、その世界に没頭するかのように真剣に漫画を読んでいたが、愛しい恋人が呼ぶ声に気付かないはずがなく。



「何か見たい映画でもあんのか?」



すぐに返事が返ってきた。

てっきり2〜3回呼ばないと気付かないだろうと思ってた蔵馬は逆に不意をつかれた状態で、幽助をまじまじと見つめてしまった。



「お〜い、蔵馬?」



固まったままの翡翠の瞳に映るようにヒラヒラと手を振ると、ようやく我に返ったのか瞳がクルクルと動き出す。



「え.....あっ、うん。ちょっとね.....」


手元にはページが見開かれたままの雑誌があり、角が小さく折りたたまれていて、そこにお目当ての情報が記載されているのが見て取れる。

つまり、映画を見たいというのは今思いついたばかりの事ではないはず.......

しかも誘ったのは蔵馬の方なのに、当の本人は何が見たいのか言い出しにくそうに、幽助と雑誌の間を視線が行き来する。

しばらくその様子を面白そうに眺めていた幽助だったが、困ってる恋人に助け舟を出すべく漫画を無造作に放り投げ、ソファーに埋もれていた身を起こした。


「蔵馬、こっち来いよ」


ポンポンと空けたスペースを叩き、手招きをすると片手に丸めた雑誌を持ち四つんばいでトコトコと嬉しそうな笑顔で近付いてきた。


-----子狐みてえだな-----



チョコンと幽助の隣に膝を抱えるように腰掛けた、可愛い子狐の肩を引き寄せればすんなりと身を預けてくる。


「で?何が見てえんだよ?」


「ん〜.....これ.....」


何だか恥ずかしそうにクルクルに丸まった雑誌を幽助に手渡した。


載っていたのはいかにもといった感じの恋愛映画。

蔵馬はともかくとしても、幽助には120%似合わない.......

一瞬引きつった幽助の表情を見逃さなかったのか、白く細い指が慌てて雑誌を奪い取ると、ポイっと床に投げ捨てた。


「やっぱり幽助には恥ずかしいよね。ゴメンね、他のを......」


言い終わるより先に幽助がヨッと腕を伸ばして、無残に転がった雑誌を拾い上げた。

印のついたページを天井にかざして書かれてる文字に目を通す。

その顔に何ともいえない笑みが浮かぶ。



「なるほどね。これは、おめえと行かねぇと駄目みたいだな」


「幽助.....」


雑誌のページを踊っていた文字。


----恋人同士で見たらずっと幸せでいられる------


「見たいんだろ?」


「.....うん」


きっと紅くなっているだろう顔を見られるのが恥ずかしくて、幽助の肩にコテンと頭を乗せた。深紅の長い髪が、フワリとその顔を隠してくれる。


せっかく隠れた真っ赤な顔は蔵馬の意思を無視した、だけど温かく優しい手で包まれて幽助の瞳に映り込んだ。


「おめえが見たいって言うから行くけど......」


翡翠に流れ込む幽助の影像が次第に大きくなっていく。
瞳いっぱいに広がりピントがずれる直前、綺麗な翡翠は瞼によって隠され------


代わりに色づき始めた唇に、チュッと軽い口付けが落ちてきた。


「そんなジンクスに頼らなくても、俺はずっと一緒にいるつもりだぜ」


まさに究極の口説き文句と甘いKISSに溶けてしまいそうで.......

そっと目を開けると、“参っただろ?”と得意気な笑顔。


「......たらし幽助.......」



年下の恋人にしてやられるのも癪だと、可愛い憎まれ口を叩いたのに。


「ん〜?ちげぇよ。俺は“蔵馬たらし”な〜の♪」


な〜の♪と軽いリップ音が重なる。


「っっ/////////」


結局は丸め込まれてしまう始末で。


「残念でした、俺の勝ちだな」


悪戯っぽい笑顔に捕まった翡翠が観念したように蕩け始めた。

幽助の掌が頬にかかり、少しのくすぐったさに首を竦めた蔵馬にそっと唇が重なる。

弾けるリップ音は聞こえない、静かな深い口付け........


「ん....っっ.....」


小さな吐息が漏れたところで、幽助の唇が離れ、首筋に柔らかな感触が........



「や.....っっ!!!!!」


されるままに身を預けていた蔵馬の身体が急に強張り、両手を突っ張って幽助を押し戻した。
不意を食らった幽助の身体がソファーの端っこに沈みこむ。


「あっっ....!ゆ、幽助!ごめっっ.....」


幽助を引き起こそうと、慌てて伸ばした手は逆に絡み取られ引き寄せられた。

胸の上に倒れこんだ身体がギュウっと抱きしめられる。


「悪りぃ、調子に乗りすぎた」


「幽助........ゴメンね......俺.....」


幽助の人指し指が蔵馬の下唇に添えられ、謝罪の言葉を封じこめた。


「謝んなって。無理せずやっていこうって言ったのは俺の方だし。今のは完全に俺が悪かった」


人指し指はそのまま頬をなでる優しい手つきに変わっていく。


「幽助ってやっぱり優しいね」


ホッとしたような笑顔に、幽助も安堵の息をつく。


そりゃあ本音を言えば幽助だって相当我慢はしている。
蔵馬の仕草、言動、雰囲気全てが欲情を煽り立てるのだから.......

でも、欲情よりも傷つけるような事はしたくない想いの方が勝って。


「おめぇが大丈夫ってなるまで、ちゃんと待つから」


「うん.......ありがとう」


幽助の優しすぎる気配りに涙腺が緩みそうになって。

気付かれないように、心地よい鼓動を刻む胸に顔を寄せた。



--------ゴメンね、幽助。あと少し、あと少し待って。そしたら貴方と.....-------
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