闘神の章〜幽助×蔵馬〜
□【My favorite........】
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「幽助、お待たせ」
カチャっと金属音を響かせ扉の奥から蔵馬が顔を覗かせた。
両手に持ったお盆の上からはホコホコと湯気が立ち、部屋の中に美味しそうな匂いが漂い始め、ベッドに横になってた幽助がパラパラめくっていた雑誌から視線を外した。
腹筋の力だけで難なく起き上がると、雑誌をポイっと放り投げフカフカのクッションの上に腰を落とす。
「幽助がうちでご飯食べるの久しぶりだから、今日は腕によりをかけちゃいましたよ」
ニコニコ楽しそうにテーブルへ料理を並べる蔵馬をじ〜っと観察する。
無造作に纏め上げられた髪の毛のおかげで、ほっそりとした白い項が今日ははっきりと自己主張してて、幽助の欲情を煽るのだが......
そんな事も知らず、小首を傾げて幽助を覗き込み嬉しそうに微笑む蔵馬に思わず顔が朱くなり、目線をテーブルに落とした。
そこには作り手そのままを反映したような、色とりどりの料理が綺麗に並んび、食べて貰えるのを今か今かと待ちわびている。
「すっげぇ!旨そう〜っ!」
頂きますの挨拶もそこそこに、幽助の箸が次々と料理を口に運んでいく様を、蕩けるような翡翠の瞳が幸せそうに見つめ、可愛らしい口にも料理が放り込まれた。
---うん、上出来!---
完璧な味付けに笑みが零れる。
チラっと幽助を盗み見ると、正に無我夢中という形容がピッタリという勢いで料理をかき込んでる。
何年たっても、変わらないスタイル。いつだって、初めて蔵馬の手料理を食べた時の感動を忘れずにいてくれて。
口一杯に頬張った料理にむせる幽助に思わず吹き出してしまった。
「幽助ってば、そんなにガッツいて。子供みたい」
クスクスと笑いながら水の入ったグラスをはいっ、と渡す。
一気に飲み干すと、グラスに氷が当たりカランっと涼し気な音がした。
“少年の心を持った大人”--------
幽助を例えるなら正にそれ。
出会った時のまま、ずっと変わらない・・・・
あっという間に、テーブルの上のお皿は空っぽになってしまい、幽助が満足そうに手を合わせた。
「やっぱ蔵馬の料理が一番だわ」
「ありがとう。でも幽助のラーメンには敵わないかもね」
「まあな、俺様のラーメンにはまだまだだな」
「そこは違うよって否定するとこでしょ?」
他愛も無い会話を楽しみながらも、蔵馬の手は休む事無くお皿を重ね合わせていく。
あっという間にテーブルは綺麗に片付き、“お茶入れてくるね”とお盆を抱えて部屋を出て行った。
トントンっと軽やかに階段を下りていく足音が、心地よいリズムを刻む。
お腹いっぱいだと人間は眠くなるとはよく言ったもので。
蔵馬の心地よい足音が、幽助を夢の世界へと誘い始めていた・・・・・
蔵馬が紅茶を入れて部屋に戻ってきた時には、既に幽助は大の字になり、ベッドの上でうたた寝していて。
「もう!久しぶりなのに・・・・・」
翡翠の瞳にほんの少し不満の色が浮かぶ。
仕方ないと紅茶を口にしようとして、熱さに顔をしかめた。
カップを両手で包み込み、フ〜っと息を吹きかけながらテーブル越しに幽助を見やる。
気持ちよさそうに眠る姿に、さっきまでの不満が下らない事に思えてくる。
-----幽助・・・・大人っぽくなったよなぁ・・・・・----
そういえば、こうやって幽助の寝顔を見る事滅多にないな、とカップをテーブルに置きまじまじと見つめた。
出会った頃はまだ幼さの残る少年だった。
---むしろ不良少年か----なんて思わず笑ってしまう。
大人になっただけじゃない。
幽助は本当に強くなったと思う。
あの頃は遥かに自分方が上だった妖力も今ではきっと互角・・・・もしかしたら幽助の方が上かもしれない。
見つめるだけじゃ物足りなくなって、そ〜っとベッドサイドに近付いた。
ほんの少し伸びた髪が今日はサラサラと流れ、それがさらに幽助を大人っぽく見せている。
無造作に投げ出された手にそっと己の手を重ねた。
ゴツゴツした手は自分より一回りは大きくて。
視線をずらした先には無駄なく筋肉が付いた逞しい腕。
指先でそっとなぞる。
眠る時に優しく包み込んでくれる腕。
強く抱きしめてくれる腕。
この腕にいつも守られてるんだと思うと、何だか身体の火照りを感じてしまう。
「幽助・・・・・・・」
名前を呼んでも、起きる気配は全くない。