闘神の章〜幽助×蔵馬〜
□【特効薬の君】
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--------頭痛い.....---------
朝から何だか体調は悪かった。全身を疲労感が包み、目が霞む。
とりあえず出勤してみたものの、仕事の内容なんて全く頭に入ってこなくて。
とにかくたまった書類だけは何とか片付けようと、パソコンに向かうも、いつもなら流れるように画面に打ち込まれる文字が今日は途切れ途切れでなかなか先に進まない。
出社前に飲んだ風邪薬はこっれぽちも効かず、気休め程度にもならなかった。
昼過ぎには頭痛も酷くなり、書類をめくるのさえ億劫になる。
(はあ・・・・・仕事になんない)
これ以上会社にいても仕事はたまるだけだと判断し、30分後には帰宅の途についていた。
その頃には体が鉛のように重くて、いつもの倍の時間をかけてゆっくりゆっくり歩き、帰宅したときには疲労困憊。
何とか上着だけ脱ぐと、倒れこむようにベッドに横になった。
右腕で顔を覆い、初めて額がやけに熱いのに気づいた。
ヨロヨロと立ち上がり、救急箱から体温計を取り出し口に含む。
数十秒後、ピピピっと軽やかな電子音がして、体温計が指し示していたのは・・・
「うそ・・・・39度もある・・・」
体温計が壊れてるんじゃないかと、もう一度測ってみるも、当然の如く結果は同じで。
とにかく横になろうとフラフラの足でベッドに戻り、布団に潜り込んだ。
(何か・・・・気持ち悪い・・・・)
吐く息が熱を帯び、じっとりと汗がにじんで来る。
とにかく寝ようと目を瞑ってみるも、気落ち悪さが先行して眠りが訪れてくれない。
しばらく天井を見ながらボーっとしていたが、腕だけを伸ばしベッド下のカバンを漁る。
なかなかお目当ての物が見つからず、しばらくカバンの中をかき回していた指にやっと目的物が触れた。
散りだしたのは携帯電話。
ダイヤルを押そうとした指が一瞬止まってしまった。
時計をチラリとみると16時過ぎ。
「この時間じゃ忙しいよね・・・・」
一つため息をつき、ベッドサイドに無造作に放り投げた。
寝れば治るだろう、と布団を頭からかぶり目をギュッと瞑る・・・・・
瞑ってみたはいいが、熱を帯びた息が布団に篭り、汗ばんだ顔や首筋に深紅の長い髪がピットリ張り付いて余計に眠れない。
しばらく我慢していたが、頭痛は酷くなる一方で。
どうしようもなくなって、放り投げた携帯を再度手に取ると、ダイヤルを押した。
数回のコール音の後に、慣れ親しむ声が受話器越しに聞こえた。
「蔵馬?こんな時間に電話なんて珍しいな。会社は?どうかしたのか?」
気遣うような優しい声に少しだけ体が軽くなった気がした。
「ううん。今日は、早く退社してきただけ。幽助・・・今忙しい?」
「今か?開店準備やら仕込やらでバタバタしててよ」
予想通りの答え。当たり前の事を聞いた自分が何だか恥ずかしくなる。
「つうか、何か急用か?」
「別に何でもないよ。少し・・・・・声聞きたかっただけだから。じゃあ屋台頑張ってね」
「おう!後で電話するわ」
「うん、じゃあね」
通話終了ボタンを押すとすぐに、物憂い倦怠感がどっと襲ってきた。
頭痛と不快感はさらに増し、ユラユラと波に揺られるような感覚に陥る。
見上げた天井がグニャグニャとその形を変え、視界がグルグルと回りだした。
具合が悪い事を言えば、幽助の事だ、きっとすっ飛んでくる。
幽助が「暇だ」と答えたら、「来て欲しい」と言うつもりだった。
本音を言えば、本当は今、幽助に傍にいて欲しい。
幽助の「忙しい」を理由にして、話を切り上げたのは、遠慮かプライドか・・・・はたまた素直になれないだけか。
(とにかく寝なきゃ・・・・)
一つ気怠いため息を吐き、蔵馬はそっと目を閉じた。