泡沫の章〜飛蔵SS〜
□【Eternal chain】
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時々不安になる。
いつまでお前をこの腕に抱きしめていられるのか。
吸い込まれる程に透明な翡翠の宝石が、いつまで俺を映し出してくれるのか。
人を疑うことを知らない瞳はどこまでも美しく、
汚れを知らない身体はいつまでも無垢なままで。
一晩中抱きしめても、
何度身体を重ね合わせても、
満たされない心の乾き。
いつか目の前から消えてしまうんじゃないか.......
得体の知れない不安が募る。
美しい翡翠が誰かに微笑みかける度に、
お前が誰かに触れる度に、
渦巻く黒い炎が全てを焼きつくさんと燃え盛る。
いっそお前をこの炎で燃やし尽くしてしまえと暗闇が囁く。
----飛影.....ねぇ、飛影------
嬉しそうな顔で甘えるように俺の名を紡ぐお前を、心から愛しいと思う。
されど......
その声で他の誰かを呼んでる、考えるだけで湧き上がる真っ黒な感情。
愛すれば愛する程、膨らみ続けるのは......
お前を永遠に閉じ込めておけたら------
「やだっっ.....飛影っ、やめてっっ.....やだぁぁっっ!!!」
部屋に木霊する悲鳴にも似た、涙混じりの叫び声。
乾くことのない涙が次々と頬を濡らし続ける。
ベッドに横たわるのは美の化身とも言うべき美しき裸体。
透き通るような肌に散らされた紅い花弁が、美しさを更に際立たせていた。
所々に滲む薄紅色の鮮血が、まるで雪の上に落とされた真っ赤な血のように肌に映える。
「飛.......っっ...やだ.....やっ....んぁっっ..はあっっ...あんっっ.....」
繰り返されてた拒絶が一瞬で甘い吐息へと変化した。
小さな突起の上をコロコロと舌先が転がる。
濡れた舌先が絶妙なタイミングで、桃色に色づいた先端に刺激を与えていく。
痺れるような快感に、洩れる吐息が大きくなってきた。
「ふぁ.....んっっ....あぁんっっ......ふっっ...うぅんっっ.....」
めくるめく快感の波が押寄せる。
波に飲み込まれる寸前で、翡翠の瞳が零れ落ちんばかりに見開かれた。
ツンッとたった飾りにたてられた歯が、今度は容赦なく痛みを与える。
「いっっっ......いたっっ....飛影っ、痛いよっ!!やめてっっ.....ひあっっ!!」
噛み付かれた箇所が鬱血して薄っすらと血が滲む。
身を捩って痛みから逃れたくても、両手首がきつく縛り上げられ頭上でベッドにくくりつけられた上に、馬乗りになられてる状態では身動き一つ出来ない。
ただ涙を流しながら懇願する蔵馬の声も届かないのか、乱暴な行為は続き、濡らしてもいない蕾の中にゴツゴツした指が入り込んできた。
鋭い痛みが襲い掛かる。
「いやぁぁっ......いっっ.....ひっっ.....あぁぁっぁ........」
断続する痛みに繰り返される小さな痙攣。
甘く溶ける様ないつもの優しい愛撫とはあまりにも違う乱暴な扱い。
(何で.....飛影.....どうしちゃったの.....)
どうしてこんな仕打ちを受けるのか全く分からなかった。
そろそろ寝ようとベッドに入りかけた時に感じた妖気。
愛する人の訪問に顔を綻ばせ、急いで窓辺に走り寄った。
夜の闇の中で目を凝らし、見つけた姿に手を広げる。
飛び込んできた漆黒の影が、いつものように強く抱きしめてくれると思ってたから。
それなのに.......
伸びてきた腕に強引にベッドへ押し倒され、抵抗する間もなく縛り上げられた両手。
訳も分からないままに、気付いたら引き裂かれてた衣服。
あっという間に身包み引き剥がされ、始まった乱暴な愛撫。
無言のまま行われる行為を“止めて”と訴えるしか出来なくて。
捻じ込まれた2本の指が、蕾の中を遠慮なしに引っ掻き回し始めた。
「ひあっっ......痛っ!!!やだっっ....飛影.....お願い....もうやめてよ.....」
何か気に障るような事をしたのなら言って欲しかった。
理由も分からず......こんな事.......
「飛影.....何で?俺.....何かした.......?」
痛みに耐えながら、途切れ途切れの言葉で必死に問いかけた。
涙で潤んだ瞳が緋色の瞳と重なる。
優しさを湛えてるはずの瞳が今は氷のように冷たくて。
「蔵馬.....お前、今日幽助と何してた?」
ようやく聞けた声もひどく冷たかった。
----幽助と......?------
頭の中を流れる今日一日の出来事。
幽助と......
「何って......久しぶりに幽助の屋台に行っただけですよ。何してたって....それだけです」
記憶の隅々まで辿っても、飛影を怒らせるような原因には思い当たらない。
“新作の味見をしてくれ”と言われて久しぶりに暖簾をくぐった屋台。
2時間程お互いの近況を話して......
“美味しかったよ”って感想を述べて......
「飛影.....俺、幽助とは屋台で話しただけですよ.......」
何もやましい事なんてしてない。
幽助と屋台で話した事は今までに何度もあった。
だから、こんな事が飛影の怒りに触れるはずなんて......
冷たく見下ろす紅い瞳がスッと細くなった。
「蔵馬.....今後一切、俺のいないとこで他の奴と二人っきりになるな」
二人っきり------?
もう一度呼び起こした記憶。
確かに二人っきりで話してたけど.......
「飛影、どうしたの?急にそんな.....今まで一度もそんな事言わなかったのに」
翡翠の中に広がる戸惑いと困惑。
そうだな、蔵馬。
こんな事言うのは馬鹿げてると思う。
だが、今は.......
蕾にねじ込んでた指を引き抜いた。
「お前は......黙って俺の言う事を聞いていればいいんだ」
有無を言わせぬよう、押し当てた熱い楔を一気に最奥まで押し込んだ。
裂けるかと思う激痛に、美しき裸体が仰け反った。
「いやっっ!!!!ひっっ....いっ...つっ....ひあっ、あぁっぁっっ!!!」
メチャメチャに壊してやりたい衝動。
腸内までも引っ掻き回すように、強く深く腰を打ちつけた。
何度も何度も突き上げて。
俺だけで満たされるように。
段々と小さくなる声。
ドクドクと熱い血潮が流れる楔を何度も打ち込む。
煮えたぎる白い欲望を注ぎ込んだ時には、すでにグッタリとなった身体がベッドに沈み込んだ。
「飛.....影.....どうし.....て.....?」
視線の定まらない瞳が、それでも理由を求めて宙を彷徨う。
知りたいのは飛影の真意。
未だ繋がりあったまま、視線を落とした緋色の中に広がった苦悩の影。
「お前が......あんな笑顔を向けるから」
-----幽助、ラーメン美味しかったよ------
甘い声で紡いだ己以外の名前。
向けられた満開の笑顔。
邪眼越に見た光景に言いようもない怒りと嫉妬を覚えた。
そして湧き上がる不安も。
「あのまま、俺の前から消えてしまうんじゃないかって......」
永遠でもない限り、蔵馬を腕の中に閉じこめられないような気がした。
「飛影.....そんな事考えるなんて....バカですよ」
フッと聞こえた小さな声。
視線がぶつかった翡翠の中に優しい色が広がる。
「俺が.....貴方の前から消えるはずないのに.....だって、俺は......ずっと飛影だけのモノなんですから.....」
フワリと広がる柔らかい微笑み。
スッと伸ばされた腕は飛影に絡みつく前に力を失い、パタリとシーツの上に投げ出された。
光を失った瞳が閉じられる前に、微かに動いた唇が小さな音を言葉にする。
-----大好き.....------
それっきり聞こえるのは少し荒い呼吸と小さな寝息。
蕾の中に収まったままの楔をゆっくりと引き抜いた。
乱暴に抱いた爪痕の残る身体を覆うように布団を被せる。
「くそっっ!!!」
与えた仕打ちに対する罪悪感と、どうする事も出来ない不安定な感情が激しい葛藤となりぶつかり合う。
愛すれば愛するほどに湧き上がるのは、醜い程の独占欲。
蔵馬の全てが俺で満たされるように。
蔵馬の全てが俺に向けられるように。
このまま【永遠】という檻に閉じ込めてしまえたら......
【所有】という名の鎖で繋いだまま.....
fin.
あとがき
いつもの甘い飛影とは違う、ちょっとダークな部分を書いてみました。
愛するが故に、どうしても自分だけのモノにしたい。
嫉妬も相まって少々暴走しちゃったんですね。
そんな事しなくても蔵馬ちゃんは消えないのにね。
2012.11.19 咲坂 翠