泡沫の章〜飛蔵SS〜

□【Not HONEST】
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「ねぇ、飛影。俺近いうちに百足に顔を出しますね」



恋人の口から飛び出した突然の申し出に、朱色に染まる髪の毛をクルクル巻きつけて遊んでた指がピタッと止まる。




「何か用事でもあるのか?」




「ん〜、気になります?」




未だ火照りの残る胸板に、チョコンっと顎をのせ質問で返答をする。


ジ〜と見つめる上目遣いは、どこか面白がってる風で。




「飛影ってばぁ....」




返事を促す誘惑に、流されてなるものかと努めて平静を装ってはみても、ねだるような上目遣いと甘えを含んだ呼びかけのダブル攻撃を受けては、ノックダウン間近というもの。




「まあ....お前が自ら百足に来るなど滅多にないからな」




本当はメチャメチャ気にしてるクセに、さも"だから何だ"と言わんばかりの言い草。




「ほんと、飛影って素直じゃないですよね」



「はっ?」




「気になるなら素直にそう言えばいいのに」




核心をつかれると多少なりともムッとなるもので。


思うは目の前でクスクスと笑う、コギツネを如何に懲らしめてやろうかのみ。




フッと名案を思いついたのか、無防備に寄り添う肩を片手でグッと押さえつけた。


急に訪れた圧迫感に顔を上げてみると、いつもより一層怪しく光る紅い瞳。


ニヤリと張り付く笑みに良からぬ企みが見え隠れしてて。




「確かに....お前の言う通り、俺は素直じゃないな」



なぜか上機嫌な声。

ゾワゾワ〜っと嫌な予感が背筋を駆け抜ける。


身を引こうとしてもガッシリと肩を抱かれては、身動きすら出来そうにない。




「えっと.....いや、素直じゃない方が飛影らしいから....っっんっ....んっア、ん〜っっ!!」




とてつもなくヤバイ雰囲気を感じ取り、必死に取り繕うも時既に遅し。


押し当てられた熱い感触に、出かけた言葉はあっさりと押し戻された。




「ふっ....んっ....んんっっ...あっ.....やっ...」




一通り口内を暴れまわった舌が、休む事なく首筋を狙ってくる。




「ヤァ...んっ...飛....ぇ...やめっ....」




激しく愛された後の身体は、少しの愛撫で反応し出す。



「飛っ....ダメ....もっ...無理っ...アっっん...ん...」




久しぶりの情事は激しくも甘く、何度も愛された余韻は未だ火照りとして残る。

今の蔵馬にとって、もう1ラウンドなんて無理.....確実に記憶が飛ぶのは目に見えてた。


なのに.....




「お前の言う通り、素直になるのも悪くないな」




何ともハチャメチャな理屈を盾に、器用に舌先を移動させていく。




「あっ....んっっ、んぁ.....ふっ...」




掘った墓穴を後悔しても後の祭り。


翻弄される身体は逐一正直な悦びに震え出す。




----飛影のひねくれ者----




頭に浮かんだ小さな悪態も、口に出す頃には甘い吐息に変わる。



【口は災いの元】



"飛影の前では滅多な事を言うもんじゃない"------



学ぶべき教訓も、快感の波にさらわれ、快楽の海の藻屑と消えていく。




「で?百足に何の用だ?」



さっきみたいに質問を質問で返す余裕なんてない.......

まさに狙い定めたようなタイミングでの問いかけ。




「あンン......躯に.....頼まれた.....ふっっ.....薬が.....出来たから....んンンっ...」



途切れ途切れに伝えた訪問目的。

最初から大人しく理由を述べてたらこんな状況にはならなかったのに。

ほんの少しの悪戯心が引き起こした倍返し.....いや何倍返しだろう。




「ふん、それぐらいお前がワザワザ届けるモンでもない。俺がちゃんと届けてやるよ」



ニッと不敵な笑みが見えた直後......




「やっっ.....あぁぁぁンっっ.....ひあっっ....あっ、んンンンっ......」



最奥まで突き上げられ、大きく身体が仰け反った。

激しさを増す律動と、止まない愛撫に意識なんてどこにあるかすら分からなくなる。


追い討ちをかけるように、耳元で低い声が囁いた。




「薬は俺が届ける。だからお前の記憶が飛ぼうが、明日一日中動けなくなろうが、何ら心配はないってことだ」




悪魔の囁きならぬ天邪鬼の囁きにグラリと心が傾く。


文句は言わせないとばかりに、熱い口付けで塞がれてしまえば流れに身を任せる以外の術はなく。


快楽の中に溶けていくだけ。




事が済み、グッタリとベッドに身を沈めた蔵馬の額に優しくキスをする飛影が小さく呟いた。





「俺がパトロール中に百足に来てみろ。むさ苦しいバカ共が何しでかすか分からないだろ」





----飛影って素直じゃないですよね-----



素直じゃないわけじゃなくて......

本人の前で素直になれないだけ。


ようやく零れた素直な本音も、残念ながら夢の世界に迷い込む子狐の耳には届かず。

それでもスヤスヤと眠る寝顔には、満足そうな微笑が浮かんでいた。


fin.




あとがき

“飛影をからかうつもりが、墓穴をほる蔵馬ちゃんって可愛いかも”という妄想から出来たお話(笑)
結局食われちゃう蔵馬ちゃんに萌え(爆笑)



2012.10.10 咲坂 翠

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