泡沫の章〜飛蔵SS〜

□【愛するあなたへ】
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----蔵馬!逃げろ!----



いつまでも頭の中で鳴り響く声。


そして--------


次々と貫かれていく身体。

飛び散る真っ赤な血飛沫。


朱一色に染まった視界。


助けに戻ろうとした俺を止めたのは、初めて聞く恫喝。



「来るな!!!さっさと行け!!!!」



荒ぶる声を聞いたのはそれが最初で最後。
俺に怒鳴った事なんて一度もなかったから........



最後に見たのは変わらない優しい笑顔。

その口元が最後に形にした言葉。


それが思い出せない.......




ねぇ、黒鵺。

どうして先に逝っちゃったの?



「俺さ、ず〜っとお前の傍にいて守ってやるからな」



そうやってくっついてくる貴方を"暑苦しい!"なんてあしらってたけど、内心では嬉しくて。

でも、やっぱりどこか線を引いてた。


あの日、失って初めて知った。どれだけ大切なモノだったか。

後悔しても失ったモノは二度と戻らない。


あの時決めたんだ。

もう誰も愛さない。

魔界で深手を負った時、心を占めたのは安らぎ。

これで黒鵺に逢える.......


覚悟して目を閉じた時に浮かんだのは貴方の最後の姿。

何かを伝えてた唇。

急きたてられるように気付いたら人間界に逃げ込んでた。


姿形が変わって、少しずつ記憶は薄れていったけど、貴方を忘れた事はなかったよ。


夢に見るのはあの時の光景。

目を覚ます度に流した涙が枕の染みを増やしていく。


心に渦巻くのは哀しみと後悔と.....

何度自分を責めても記憶の中の貴方は笑ってて。


助けれたはずなのに、結局見殺しにしたのは俺......


あの時一緒に死ぬべきだった.....


出口の見えない暗闇を一生彷徨い続ける。


それが貴方を助けれなかった自分への罰........


誰も愛さない
誰にも愛されない


そう思ってた。




でもね、黒鵺。


いつからかな、貴方と同じ黒い影が傍にいてくれるようになったのは。


仏頂面で無愛想な人だけど、抱き締めてくれる腕は暖かくて、その瞳には優しさを湛えて。



----俺がずっと傍にいる----



あの日の悪夢にうなされる俺をそう言って抱きしめてくれた。



黒鵺?貴方を失って1000年。


俺......


愛せる人に巡り会えたよ-------


貴方は怒るかな?......



***********



夢を見た。

黒鵺の夢。

いつもと違う夢.....
あの日の悪夢じゃなく、目の前で黒鵺が笑ってた。


「黒鵺.......」


1000年前と変わらない優しい笑顔で。


伸ばした手が触れる前に、何かを言い残してユラリと揺れて消えていった。


今度はちゃんと聞き取れた言葉....




----蔵馬、生きろ。そして幸せになれ------




*************



眠っていた意識がフッと覚醒した。

頬を伝う湿った感触。



(夢か.......)



何度も何度もうなされた悪夢。

だけど今の夢は......流れた涙も哀しみの涙とは違う。

ソッと体をずらし、涙を拭こうとしたのになぜか動けない。

視線を上に移動させると寝顔にぶつかった。



(そうだ......飛影が一緒なんだ....)



穏やかな寝顔からは考えられない程の強い力で蔵馬の体を抱き締めたまま。
一晩中包み込んでくれる腕。
全てのモノから守ってくれるような........

体内まで染み渡る安堵感に身を委ね、胸に顔を埋めた。



「夢.......見たのか?」


突然降ってきた言葉。

驚いて顔を上げるといつの間にか起きたのか、心配そうな緋色の瞳がジッと見つめてた。

蔵馬を抱き締めてた腕が片方解かれ、代わりに頬を濡らす涙をそっと拭った。



「うん。でも、黒鵺.....笑ってた......」



「......そうか」



濡れたままの瞼に一つ口付けを落として、もう一度強く抱き締めようとしたら、蔵馬の腕が其れを押し留めた。

緋色と翡翠が重なり合う。



「ねぇ、飛影。絶対に俺をおいて先に逝かないで下さいね」


もう二度と大事な人を失いたくない.....


フッと小さな息が聞こえ、抱き締めた蔵馬ごと飛影の体が回転した。

白いシーツに広がる深紅の髪。



「俺は同じ事は二度と言わない主義なんだが.......」


二人の唇が重なり、すぐに離れた。

両手で頬を包み込み、不安に揺れる瞳を見据えた。



「もう一度だけ言ってやる」


耳元でそっと囁いた低音。



------俺がずっと傍にいる-----


再び重なった唇はしばらく離れる事はなく。その口付けを深めていく。





ねぇ、黒鵺。

大丈夫だよ。俺、ちゃんと生きるから。

貴方が愛してくれたように。

きっとそれ以上に、全てを受け止めて愛してくれる人と共に.......

だけど心の中に貴方は生き続ける。

忘れたりはしないよ.......


そのうち俺もそっちに行く日が来るから。

その時は一度だけ、抱き締めて........



fin.



後書き


以前書いた【愛する君へ】の蔵馬さんバージョンです。
相変わらず乙女チック★

黒鵺っていいよね〜。
何か黒鵺との話書きたいな〜(*^_^*)

今回の飛影は何だか余裕ぶっこいてますけど、内心ではジェラジェラしてるんですよ、きっと!(笑)


2012.8.12 咲坂 翠

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