泡沫の章〜飛蔵SS〜
□【愛する君へ】
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----俺に構わず逃げろ!---
なぁ、蔵馬。俺はあの時お前にだけは生きて欲しかった。
お前の為なら俺の命なんて捨てる価値さえもないと思ってた。
たかが知れてる生涯だったけど、たった一人愛したお前を守れればそれで良いと。
なぁ、蔵馬。もしかして俺は間違ってたのか?
毎夜毎夜うなされるお前を見て胸が張り裂けそうだった。
それでも時が経てば俺の記憶なんてお前から消えると思ってたよ。
それなのに気の遠くなるような年月が過ぎてもお前は自分を責め続けたよな。
お前が魔界で深手を負い、人間に憑依した時は心底ホッとしたさ。妖狐の記憶はきっと薄れる。これでお前が俺の幻影にうなされる事もないってな。
なのに。。。お前はいつまで自分を責め続けるんだよ。
もう俺の事なんか忘れろよ。
あの日の夢にうなされて、俺なんかの為に枕を涙で濡らして。
お前を残して逝った事を初めて後悔したよ。
夢の中でならいくらでもお前を抱きしめてやれる。でもそんな事しても結局お前を傷付けるだけ。
ほんと。。。ごめんな、蔵馬。
けど、いつからかな。お前の隣に黒い影がピッタリと寄り添うようになったのは。
俺がいなくなって初めてお前の心底嬉しそうな笑顔を見た気がする。
目つきの悪い無愛想な奴だけど、お前を見つめる目は限りなく優しくて、こいつならお前を守ってやれるんだろうな。
もう大丈夫だろ?蔵馬。あの時の悪夢を見ても、お前を包み込む黒い影がいる。お前はもう独りじゃないんだな。
なぁ、小さな邪眼師さんよ。一つだけ約束してくれるか?何があっても絶対先に逝くな。
蔵馬が長い一生を終えた時はほんの少しだけでいい、俺にも蔵馬と過ごす時間をくれよな。
どうせそのうちお前もこっちに来る日がくる。そん時はあの世で正々堂々と勝負しようぜ。
その日まで、蔵馬を守り抜けよ。。。
fin.
後書き
黒鵺さんの話を書いてると本当に泣きたくなります。愛する人を目の前で失う悲しみって底知れないんだろうなって。
最後まで飛蔵にするか幽蔵にするか迷いました。考える中で黒鵺絡みだと幽蔵は何かテイストが違うな?って感じたので、飛蔵前提にしました★
2012.5.15 咲坂 翠