企画室〜薔薇色の小箱〜
□【Heartful Jearousy】
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広場のど真ん中で突然重なり合った唇。
ざわめくギャラリーから注がれる無数の好奇の視線の中、交わされた甘いKISS。
公衆の面前で食らったまさかの不意打ちに、真っ赤な顔で俯いたままポ〜っと放心状態の蔵馬の手を引き歩き出した。
握り締めた掌に指を絡める事なく、大人しく後をついてくる。
ほんのりと汗ばみ火照る掌から伝わるのはきっと激しく鳴り響いてるであろう心臓の鼓動。
(ちょっとやりすぎちまったかな......)
少しの反省はあるけど、どうしても止められなかった衝動。
あんなに可愛らしい嫉妬を見せられたら誰だって------
「蔵馬、いい加減に顔を上げろって」
「だって.....あんな事するなんて.....」
俯いたっきり視線を上げようともしないのは、未だに残る恥ずかしさの余韻。
「だ〜れの為だと思ってんだよ。あんな丸出しの嫉妬見せられたらなぁ?」
「べ....別に嫉妬なんかしてないもん!!」
「へ〜、そう?あんなワザとらしく女達の間を割って駆け寄ってきたのに?」
「そっ....それはっっ....」
「子猫みたいに周囲の女達を威嚇してたのはどこの誰だっけ?」
「....威嚇なんか....」
“してない”そう言いかけたのに、上手く言葉になって出てこなかった。
否定の台詞を堂々と言ってのけられない事は自分が一番分かってたから。
だから......
「ゴメンね。やっぱりみっともなかったよね」
幽助が自分だけを見てくれるのも、あんな嫉妬は無意味だって事も十分分かってるはずなのに。
幽助に向けられる周囲の視線が、賞賛の声が許せなくて。
露呈した自分の心の小ささが嫌になって、まともに顔を見れそうになかった。
消え入りそうな声で“ゴメン”を伝えるだけで、顔は伏せたまま。
優しく揺れた空気に気付けずにいた。
ギュッと強い位に握り締められた掌。
スッと首元に差し込まれた手が“顔を上げて”と促す。
それでも少しの躊躇いが気持ちを押し留め、視線が意味もなく地面を往復する。
「蔵馬。聞こえてる?下を向いてばっかだと、さっきみたいにこの場でチュ〜すっぞ?」
「それは恥ずかしいからやだ.....」
戸惑いながらゆっくりと顔を上げると、呆れたような瞳の中にとても優しい光が揺れていた。
プッと小さく吹き出した幽助が、ケタケタと笑い出す。
「マジ、なんちゅ〜顔してんだよ」
「だって......」
「あのさぁ〜、蔵馬。聞くけど、もし俺がさっきのおめぇみたいに周囲の野郎どもに嫉妬したら嫌だなって思う?」
ほんの少し身を屈め、優しく覗き込む瞳の中に映った蔵馬がフルフルと小さく首を振った。
「じゃぁさ、俺が“嫉妬してゴメンな”なんて言ったらどう思う?」
「....何で謝るのって...あっ.....」
「だろ?俺もおめぇと一緒。別におめぇの嫉妬がみっともないとか思っちゃいねぇし。逆に嬉しいけど?」
ポンポンっと頭の上で軽く掌を弾ませ、“分かった?”と重ねあわせた視線。
チョンッと見上げてきた上目遣いが一瞬伏せられ、再び持ち上がった翡翠から微笑が零れ落ちたた。
しっかりと手を繋ぎなおすと、握り返したきた指が絡み合う。
ゆっくりと歩き出した2つの影が、華やかにざわめく祭りの雰囲気に溶け込んでいった。
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「ねぇ、幽助。花火もうすぐ始まるよ。見に行こうよ」
「もうそんな時間?結構長くここにいたんだな」
広場に来た頃は夕焼け色に染まってた空を、いつの間にか無数の星達が覆いつくしていた。
薄紫色の水ヨーヨーが蔵馬の指先で何度も伸び縮みする。
考える事はみんな一緒なのか、花火を見ようと徐々に一箇所へ向かって増えていく人ごみ。
はぐれないように繋いだ手を放し、ソット肩を引き寄せるとほんの少しピクッと肩が持ち上がった。
緊張は直ぐに解け、僅かな隙間をも埋めるかのようにピットリと寄り添う。
仲睦まじいその姿に、周囲の視線が集まり出し感嘆の溜め息が聞こえ出した。
ヒソヒソと囁かれる互いのパートナーへの賞賛に、少々複雑な想いが交差する。
相手が褒められるのは喜ぶべきことだけど......
華奢な肩にまわされた腕に力が入ったのと、細い指先がキュッとしがみ付いてきたのは同時だった。
同じように感じてる感情が可笑しくなってきて、2人吹き出したのも一緒。
顔を見合わせながら笑い合ってると、背後から聞こえてきた声。
「お〜い、浦飯〜。相変わらずイチャイチャと羨ましい事で。ちたぁ場所をわきまえろよ〜」
振り向かなくても誰がそこにいるかは分かるけど、とりあえず顔を向けるとそこに居たのは予想通りの奴。
“やっぱりお前かよ”と流した溜め息に柔らかい声が重なった。
「あっ!!桑原君。久しぶりだね。今日は一人?」
「いや、学校のだちと一緒。つうかマジ久しぶりだな。元気してたか?」
「うん、おかげ様で元気だよ」
「どうでもいいけど浴衣似合ってんな。見かけた瞬間ツッコンでやろうと思ってたんだけどよ。あんまりフィットしてるから見惚れてしまったぜ」
「もう/////桑原君までそんな事言って」
久しぶりに逢えた事が嬉しいのか、柔らかな波長の声が弾むような会話を続ける。
別に共通の友人と話してるだけ。
ましてや桑原は昔からの腐れ縁で共に戦ってきた戦友だし、多分他の誰よりも自分達の事を応援してくれてる良き理解者。
蔵馬と会話が弾んでるからといって何らやっかむ必要もない。
“見惚れた”なんて台詞もこいつなら何とも......
何とも思わないはずなのに、なぜか今日に限ってやたらと気に障る2人の会話。
蔵馬の腕はしっかりと自分の腕に通され、寄り添った隙間は埋められたまま。
友人と会話しててもその意識が向けられてる先は、疑いもなく自分なのに。
「そんだけ似合ってたら俺だって一緒に連れて歩き回りたくなっちまうな」
「またまた〜。桑原君には雪菜ちゃんがいるでしょ?」
「それを言うか?(苦笑)いや、でも一度は俺ともデートしてくれよ」
“デート”という聞き捨てならぬキーワードに幽助の眉がピクリと反応した。
普段なら「させるか、バ〜カ」の一言で軽く流せる余裕が今は出てこない。
嫉妬なんかしねぇでもいいのに-----
そうやって蔵馬を諭したのは俺じゃんかよ。
桑原に対して嫉妬なんてしてたら、どんだけ無責任な事言ってんだってならねぇか?
分かっちゃいるけど、どこかで納得出来ないのは.....
---なぁ、あの子めっちゃ可愛くねぇ?---
周囲から未だに聞こえ続ける野郎共の声と、好奇以上の眼差し。
もし今隣に俺がいなかったら、あいつら全員蔵馬に声かけてくんだろな。
そんな事を考えてたら、ムカムカ何とも言えない感情が込み上げてきた。
いつものようにかます余裕なんてあるはずもない。
「マジ、今度デートしようぜ♪浦飯だけが男じゃねぇぞ〜(笑)」
明らかに2人をからかうだけの意図しかない笑いまじりの台詞。
ピキッとこめかみに青筋がたった。
「も〜、桑原君ってばそんな事言わないでよ〜。俺は幽助........」
何かを言い掛けた蔵馬の言葉が途中で途切れる。
「蔵馬、花火始まんだろ?行くぞ」
楽しそうに交わされる会話に強引に入り込み、話を中断させると桑原の前から引き離すように蔵馬の腕を引っ張った。
「えっ...ちょっと、幽助!!??あっ...桑原君、また今度ね」
「お、おう....」
親友に挨拶すら交わさず、乱暴に恋人の腕を引きその場を立ち去る姿を、呆気にとられながら見送る桑原の顔に気まずい表情が浮かぶ。
(ちょっとからかい過ぎちまったかな-----)
嫉妬心剥き出しの浦飯を見るのが面白くて、ワザとあんな事言っちまったけど。
若干煽りすぎたのかもしれない。
明らかに機嫌が急降下してた幽助の顔と態度。
蔵馬にあたんなきゃいいけどな------