企画室〜薔薇色の小箱〜

□【胸を焦がすは君への想い】
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「え〜!!!やだっっ!!絶対に嫌っ!!」


「なぁ〜蔵馬ぁ〜、頼むよ〜一生のお願い!!」


「やだ!!一生のお願いは去年聞いたもん。去年も同じ事言ってたじゃん。だから今年はぜ〜ったい着ない!!」


「蔵馬〜ぁ(泣)いいじゃん、祭りといえば....なぁ?」


「“なぁ?”って言われても着たくない物は着たくないの!!」


堂々巡りの水掛け論を交わし始めてどれだけの時間が経ったのか。

毎年この時期に開かれる町内の夏祭り。

例年のごとく2人で行こうねと約束して迎えた当日。

出かける準備をする蔵馬の部屋を幽助が訪れたのは、約束の2時間も前。

“逢える”時間が2時間も早まって嬉しくないはずがない。

満面の笑顔で出迎え急ぎ足で準備を進めてたら、とんでもない言葉と共に差し出された物。


「蔵馬、これ着て行こうぜ」


ニコニコ嬉しそうに浮かんでた笑顔が一瞬にして引っ込んだ。

頭を過ぎったのは去年の同じ時期の....今と全く同じ場面。


---頼む!!今年だけでいいから!!マジで一生のお願い!!----


床に頭を擦り付けてまで懇願されたら、どうしても強く“NO”とは言えなくて。

今回だけだよ、とかなりのムチャぶりな要求を受けいれた。

その時はその場の雰囲気に流されてしまったのと、喜んでくれる幽助の顔を見てると何だか嬉しくなったのとで“まぁいっか”なんて思ってしまったけど.......

祭りの後は何とやら。

猛烈な後悔が込み上げてきたのは数日たってから。

思い返すだけでゴロゴロと転げまわってしまいたくなるほどの恥ずかしさ。

だから今後一切あんな格好はしない。

そう固〜く誓ったのに......


「あの時のおめぇの可憐さは忘れようと思っても忘れられるもんじゃねぇよ、マジで!!」


「可憐とか言われても嬉しくないし.....」


「なぁ、蔵馬ちゃ〜ん....やっぱダメか?」


淋しそうな眼差しを向けられるとチクリと胸が痛むけど.....

またも流されてしまいそうな思考を振り払うようにフルフルと頭を振る。


今回は絶対にこの要望は聞き入れない!!


もう一度固く決心してジッと幽助の瞳を見据えた。


「幽助の頼みでも、今年は浴衣なんて着ない!!」


流れる数秒の沈黙。

翡翠の宝石を覗きこんでいた幽助の顔にフッと諦めの笑顔が浮かぶ。

む〜っと唇を尖らせたまま、大して迫力のない威嚇を見せる蔵馬の頭をポンっと軽く叩くと寄せてた顔をあげた。


「わ〜ったよ」


ようやく納得してくれたのか、終止符が打たれた水掛け論。

ホッとする反面、残念そうな顔を見るのが何だか心苦しくなってきて。

自分でも矛盾してるなとは思うけど。


「幽助....普通にTシャツで行くの?」


「ん〜....どうすっかな。せっかくだし甚平でも着ようかとも思ってさ。持ってはきてんだよな」


「お祭りなんだし着替えちゃえば?」


「そうするか」


「あっ....じゃぁ、俺も甚平にしようかなぁ。あっちで着替えてくる」


少しの心苦しさからか、グルグル循環するのはその場に居づらい雰囲気。

空気を変えようと幽助に背を向け、部屋のドアノブに手を掛けた。


「....蔵馬.....」


カチャリとドアが開く音に重なった声。


「なぁに?幽........っっ!!??」


振り返ったと同時に強く引かれた腕。

全くの無警戒状態では咄嗟の反応が出来ず、大きく傾いた身体が倒れかける。

もちろん受け止めてくれたのはいつだって優しく抱きしめてくれる腕と......

重なり合った柔らかな感触。


「んっ.....っっ......」


前触れなしのkissに零れんばかりに大きく見開かれた瞳。

ほんの少しだけ口内の熱が混ざり合い、唇が離れた。


「ふぁっ......」


閉じこめられてた吐息が小さく溢れる。


「幽.....」


ほんのりと潤みを帯びた翡翠の中に映りこんだ幽助の瞳で、悪戯な企みが光った。


「これでもう一度頼んでも....返事は"嫌"だったりする?」


甘いkissに溶かされそうだった意識にセーブがかかる。


「....嫌っていたらイヤ.....」


「ふ〜ん。そっ?なら....」


軽く体を包み込むように回されてた腕に、グッと力が込められた。


「えっっ...幽っ....んっ...!!」


"何だかヤバい感じ"と幽助の身体を押し退けようとしても、しっかりとホールド気味に抱き締めてくる腕から逃れられるはずもなく。

発しかけた言葉は難なく蓋を被され、口内へと吸い込まれていった。

さっきよりも激しさ割増の熱が籠もり始める。

何とか流されまいと身を捩ってみるけど......


「んっ...んふっ....っ....」


自然と漏れる吐息は止められなかった。


---流されたらダメ---


真っ白な景色に溶け込んでいく意識を踏み留めたいのに、蕩けるような口付けに心ごと飲み込まれていく。

抱き締める腕に力は込められてるけど、それは持てる力の半分にも満たってない。

むしろ先程よりは格段と緩まっているのが分かる。

本気で振り払おうと思えば振り払えるのに、それが出来ない。

出来ないんじゃいない、自らの意思でそうしようとしていないだけ。

激しくも甘いKISSに溺れてしまいそうな感覚に引きずられるまま、蔵馬の身体からフッと強張りが抜け落ちた。

同時に引いていくKISSの波。


「観念した?」


耳元で囁く声に心臓がトクリと波打った。

観念なんてとっくにしちゃってる。

でも、“KISS”のせいでブロックしてた要望を受けいれるのは負けた気がして。


「...しないし!!き.....キスなんかで言う事聞くと思ったら大間違いだからね!!」


揺れ動く心を見透かされまいと放った強気な発言を聞き、幽助の瞳に再び宿った企み。


---もしかして自分の首を締めちゃた....?----


零した一言の重みに気付いた時には、置かれてる状況が更にとんでもない方向に動き出してた。


「へ〜?"kissなんかじゃ"って事は....」


嫌〜な汗が背中を伝い落ちる。


「あの、幽助...俺着替え....っっ!!」


苦しい言い訳を盾にその場から逃げようと、拘束の緩んだ腕の中からスルリと抜け出した.....はずだったのに。

気付いたらなぜかドアを背に押付けた状態で、幽助の両腕に囲い込まれてた。


「KISS以上なら聞いてくれるんだよな?」


無茶苦茶な言い分を言うが早いか、濡れた舌がツ〜っと首筋をなぞり上げた。


「ちょっ....幽助!!何やって.....んっ....あっっ...ンン」


シャツの裾から差し入れられた指が敏感な飾りを軽く抓み上げ、甘い痺れが一気に広がる。


「やっ...幽...やぁっっ....んっ...ふっっ...」


自由になる両腕で押し戻そうとする抵抗なんて物ともせず、深まっていく愛撫に堪えきれずに飛び出した吐息。

一度溢れ出した吐息を抑える事はまず不可能。

どんなに唇を噛み締めて耐えようとしても、寸分の狂いもなく訪れる波には逆らえず。

弱い部分を完全に掌握してる幽助が与えてくる刺激に、素直に開花していく身体が正直な反応を示し始めた。


「ふあっっ....あぁぁ....んっっ....やぁっ....」


口では“ヤダ”なんて言っても体は快楽を求める。

いつしか拒絶の言葉は消え、ただただ熱を帯びた息が甘い喘ぎ声となって部屋中を充満してた。


「どう?これで俺の頼みを聞いてくれる気になった?」


確信犯とも言える問いかけに、ギュッと唇を噛み締めてフルフルと首を振る。

与えられる刺激は素直に受けいれてしまっても、“女性物の浴衣”の要求を聞き入れてしまったら完全に白旗を揚げる事になる。

それだけはそう簡単に譲りたくはなかった。


「浴衣なんか...着ないもん....んぁっ....はぁっ...アンっ」


「ったく....おめぇってば意外と頑固なとこあるよな」


下着の中で蠢く指が、悪戯に性感帯のポイントを突いてくる。

翻弄されるままに流れ込んできた熱が放出されそうになる寸前、ピタっと止んだ愛撫。

今の今まで押し寄せてた波が遥か遠くに引いていく。

寸止めされた熱に戸惑い気味の潤んだ瞳で“何で?”と見上げると、そこにはニヤニヤと笑う幽助の笑顔。


「あ〜あ、俺の負け。ここまでして“うん”って言わねぇって事はよっぽど着たくねぇんだよな。ほら、俺も着替えっからおめぇも着替えてこいよ」


そう言うと何事もなかったかように腕の中から蔵馬を解放し、クルリと背を向けた。

残されたのは呆気にとられたような表情と.....ムズムズとした心地悪さ。

中途半端に堰き止められ、篭もったままの熱は発散を待ってるのに。

こんな状態のまま放ったらかしにされるのは......


「ゆ....幽助ぇ......」


「ん?蔵馬ちゃん、どうした〜?★」


キュッとシャツの裾を引っ張ると、すぐに振り向いてくれた幽助の顔に------

勝利への確信が広がっていた。

結局丸め込まれてしまわざるをえない今の状況を恨みたくなるけど、それよりも自分じゃどうしようも出来ない火照りを何とかして欲しくて。


「ようやく降参した?」


またしても囲まれた両腕の中。

どうして欲しいのかなんてとっくにバレてる。

どうにか出来るのは幽助だけだって事も。

でも.....やっぱり腑に落ちないモヤモヤした感情が頭の中をグルグル巡ってしまう。

素直に“YES”と言えずフイッと視線を逸らせた。


「ま〜た無駄な抵抗を(笑)どうする?別に俺はこのままでも構わねぇけど?」


「もう....幽助の変態!!」


視線はサイドにズラしたままで小さくついた悪態。

クイッと顎が掬い取られ、視線が重なり合った。


「男はみ〜んな変態なの。特におめぇみてぇな可愛い恋人をもってたら尚の事な」


「また可愛いとか!!そんなの言われても全然嬉しくないし!!」


「へ〜、嬉しくないんだ。じゃぁこのまま何にもしねぇ方がいい?」


「......バカ.....」


「はいはい(笑)」


「あ〜!!絶対コケにされてる〜っっ!!」


「コケにはしてねぇよ?からかうのが面白れぇだけ♪」


「も〜っっ!!!幽っっ.....」


「はい、ストップ。お喋りはここまで」


しばらく続きそうな文句の嵐を遮るかのように落ちてきたのは甘い口付けと、待ちわびた快楽の渦。

好いように転がされて幽助の思惑にまんまとはまってしまった悔しさはあるけど、今はフワフワと漂う雲に揺られながら気持ちよさに身を任せる以外は考えられなくて。


---今年もお祭りの後に後悔するんだろうなぁ....----


頭のほんの片隅で湧き上がった想いも、押し寄せる快感の波に飲みこまれ悦楽の海の藻屑へと消えていってしまってた。
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