企画室〜薔薇色の小箱〜

□【妖華の薔薇】
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---何か最近体調がおかしいかも---


春の気配を感じ始めてから、なぜかすっきりしない日が続いてる。

新しく生まれる生命の息吹を振りまきながら、爽やかな風がそよぐ季節なのに、ムズムズと何だか心地が悪い。

季節の変わり目に風邪でもひいちゃったのかもしれない....

熱っぽいのも、身体が気怠いのも全ては ただの風邪....

そう思ってたのに。

何日経っても収まらない体の火照り。

熱を測ってみても平熱も平熱。

だけど日を負うごとに熱はその温度を高め、体内に閉じ込められていく。

発散出来ない熱を溜め込んだ身体が、何とも言えないむず痒い感覚を生み出す。

その感覚が何なのか。

その感覚の意味するものが分からないまま------




「蔵馬、おめぇ熱でもあんじゃねぇの?」


最近体調が優れないと聞いてたから、ゼリーだのフルーツだのさっぱりと口に出来るものを手土産にして、屋台の開店準備前に立ち寄った蔵馬のマンション。

出迎えたのはいつも以上に上気して薄桃色に染まる顔と、トロンと潤んだ瞳。


「熱?別にないよ?」


言ってる割には言葉と一緒に吐き出した息に熱がこもってた。


「おめっ...ちょっとこっちに来い!!」


靴を脱ぎ散らかし、持ってきた食料の入ってたビニール袋を放り投げるようにして上がった玄関先。

ボ〜っと突っ立ったままの蔵馬の腕を引き、とにかく座れとベッドに腰掛けさせる。


「おめぇ、ぜってぇ熱あるだろ!!??」


口に体温計をくわえさせ、フワリと掻き揚げた前髪から除かせた額におでこを重ね、体温を測ろうとしてみたけど熱があるのかどうかまでは分からなくて。

結局、体温計が計測し終わるまで待って確認した体温は37度。

微熱と言えば微熱だが、今すぐにどうこうと心配するほどでもない事にホッとはしたけど、顔の火照り具合といいどこか視線の定まらない瞳といい、体調が宜しくないのは明らか。


「とりあえず横になっとっけ」


「幽助〜、ホントに熱ないし大丈夫だよ.....」


「“体調がおかしい”って言ってたのはどこの誰だよ?いいからベッドに横になる!!」


まだ文句の言いたげな口元から次の文句が零れ落ちてくる前に、有無を言わさずベッドに横たわらせる。


「熱がないから大丈夫ってわけでもねぇだろ?」


掌で火照る頬に触れながら、ゆっくりと屈めた身。

綻ぶ花びらのような唇に静かに被せた蓋。


「ん.....」


小さく零れた吐息をスルリと聞き流し、軽く触れた口付け一つだけで身を起こした。

いつもならここで恥ずかしそうな上目遣いが見上げてきて、はにかむような微笑が顔中に広がるはずなのに......


「ふぁ....ん....」


まるで敏感な部分に触れた時のような官能的な吐息が空気を震わせた。

見上げて来たのは潤んだ瞳の中でユラユラ揺れる翡翠と、無意識に誘いかけるような表情。


「蔵馬......?」


思いもしなかった反応に、多少の驚きを見せながらも指で頬を一撫でする。

体調不良の所為でボ〜っとしてるんだろ......ゆっくり休めば良くなる。

ちょっとおかしな蔵馬の様相もその程度にしか思ってなかった。

まさかこんな行動に出るなんて-----

滑らかな頬をなぞらせてた幽助の指に絡んできた白く細長い蔵馬の指。

口元に引き寄せられた指が艶やかな唇に包み込まれ、口内に吸い込まれた。


「えっ...蔵っ...なっ...!!??」


何を血迷ったか口にくわえた幽助の指に下を絡ませ、チュパっと何度も吸い付いてくる。

舌をはわせては強く吸い上げ、口から離してはまた含んで.....


「ん.....ふっっ....ウんっっ....」


妖艶な吐息を聞かせながら一心不乱に口を動かす様子が、戸惑いを見せてた幽助の本能を刺激し始める。

反面、微熱に冒された突拍子もない行動に本能を剥き出しにしちゃいかん!!と僅かな理性が必死にセーブを掛けようとしてて。


「あのなぁ〜、蔵馬.....」


ピチャピチャと厭らしい音を立てながら動かし続ける舌を制止するように、ゆっくりと蔵馬の口内から指を引き抜く。

代わりに塞いだ唇から割り込ませた己の舌で激しく熱をかき回した。


「んっっ.....んふっっ...うウウ....んっっ....」


激しい長い口付けを交わしたのは、突き上げてくる本能に従っての行動。

息も出来ない程の深い口付けに、クテッと力の抜けた身体がベッドに埋もれる。


「おめぇは〜。なんちゅう誘い方を....ったく、大人しく寝てろって。じゃねぇといつもみたいに優しくなんて抱けねぇぞ?」


冗談交じりの本音を洩らしたのは、流されそうな本能を抑えるため。

なのに.....


蔵馬の両手首をシーツに縫い付けてる腕に押し当てられた柔らかな感触。

小さな口から出て来た紅い舌がチロチロと腕を滑る。


「んっ......」


チュパっと音をたてて軽く吸い付かれた箇所に紅い印が浮かびあがった。


「幽助......」


絡み付いていたしなやかな腕が首元を引き寄せ、至近距離に近付いたお互いの顔。

ジっと見つめる潤んだ瞳。

小さく開いた口元からは、激しい口付けの名残が銀の糸となり一筋伝い落ちる。


「ねぇ.....幽助ぇ....して?」


「★×▼※○◇※//////〜っっっ!!!!」


常に清楚で受身一点の恋人からは滅多に見れない....いやお目にかかる事すら奇跡に近い誘いかけの言葉に一瞬でパニックに陥った思考回路。

幽助の口からはもはや単語にすらならない言葉が飛び出た。


----絶対におかしいぞ----


こうしてる間に熱が上がったんじゃねぇか?

あまりの体調不良に頭がのぼせて思考が機能してないんじゃねぇ?

蔵馬にとっては奇抜とも言える言動に、恋人として先立つは“心配”な気持ち。

それも首筋に感じた擽ったい感触に妨げられてしまって。

常に咲かせる一方だった紅い花弁を、つたない仕草ながらも咲かせようとしてる.....

そんな蔵馬を見て欲情しない方が男として間違ってる。

理性なんてどこか彼方へ吹き飛んでしまい、取り戻すなんて不可能。

絡み付いてた腕を引き剥がし、頭上で一括りにして押さえつけた。

もう片方の手をシャツの中に滑り込ませ、滑らかな肌に掌を滑らせる。

すぐに探し当てた突起をキュッと摘み上げた。

敏感な神経が集中してるヵ所に与えられた刺激が、甘美な吐息を引き出す。

桃色に息づく声が溢れ出して来た。


「ひあっっ.....あんンっっ.....ふっっ....んぁっ」


いつも以上に妖艶に乱れる姿に、一度爆発した欲情が収まるはずもなく。

噛み付くように唇を塞ぎ、普段の交わりでは決してしない荒々しい動きで口内を貪った。

素肌を弄ってた手を下半身に伸ばせば、閉じられてた足がスッと開く。

日頃はやっとの事で見せる行動なのに。


---マジかよ、おい.....-----


何だか普通じゃないと思ってはいても、目の前で自分を求めてくる姿なんてこれから先拝めるかどうか.....


多分最初で最後だろうな、うん。

それならある意味“記念”として-----

強引に納得させると、煽られた欲情の突っ走るままに身を埋めた。



*************************




「さすがにやりすぎちまったかなぁ.....」


初めてなんじゃないかっていう程の激しさでかき抱いたせいで、グッタリと意識を飛ばした白い裸体にソッと毛布を被せた。

大きく上下する胸と微かに荒い呼吸に、無理な負担をかけちまったと反省しきりで。

珍しい蔵馬からの誘いかけでも、こういう抱き方はするべきじゃなかったと少々の自己嫌悪にド〜ンっと気持ちは沈みこむ。


「んっ.......」


小さく身動ぎして薄っすらと開いた瞼の中に僅かに見える翡翠の欠片。

まだ完全に覚醒しきっていないのか、ポケ〜っと視線を彷徨わせてる。


「蔵馬......」


声の聞こえた方にノロノロと向けた視線が幽助を捉え、ニッコリと微笑んだ。


「幽助......」


「悪ぃ、身体平気か?」


「うん......幽助、どっか行くの?」


すでに着替え終わって出かけモードの漂う姿に、不安そうな声が問いかける。


「あぁ、そろそろ開店準備しねぇと。一人で大丈夫か?」


「うン......」


「ちゃんと横になってゆっくりしてろよ。って、あんな抱き方しておいて俺が言うのも何だけど」


「分かった....」


「じゃぁ、行ってくるからな。終わったらここに戻ってくるけど、無理して起きてなくていいから、むしろ寝て待ってろよ」


「.....は〜い.....」


まるで子供を一人で留守番させるような言い聞かせ方が不満なのか、幽助がいなくなる事自体が不満なのか。

プ〜っと脹らんだ頬をチョンッと指で突っつきプシュッとへこませると、文句を言いたげに尖らせた唇にソッと口付けた。

一人残していく恋人を安心させる為、落としたのは触れるだけのKISS。

重ねた唇を離そうとしたら.......またもや蔵馬の行動に異変が起きた。

深い口付けを手繰り寄せるように、スルリと割り込んできた舌。

慣れてない動作はたどたどしくも、幽助の舌に絡めるように動き回る。


(ちょっ....マジどうした??!!)


再度の誘いかけに思わずグラリと傾きかけた心を、ギリギリの淵で踏みとどまらせると慌ててくっついてくる身体を引き剥がした。


「ん.....ふ...うン......」


離れても尚追いすがるように求めてくる唇の誘惑を必死で交わしながら、ポフっと華奢な身体をベッドに沈ませる。

見上げてくる瞳はまるで熱に浮かされたように潤み、“どうしてしないの?”と疑問を投げかけてくる。


「蔵馬、おめぇマジ....大人しく寝てろ!!」


「幽助ぇ〜......」


いくら何でもおかし過ぎる、そうは思っても求められるままこれ以上抱くわけにもいかない。

大体蔵馬から求める事自体が天変地異の前触れというか.....

この場にずっと居ると本当に限界まで抱いてしまいそうになる。

ブンブンっと大きく頭を振り邪念を振り払うと、今度こそ立ち上がり何かを言いたげな瞳に背を向けた。

勿論、別れ際にポンっと頭に手を乗せ“早めに切り上げてくるから”と安心言葉を掛けて。


垣間見たいつもと違いすぎる蔵馬の様相。

それは純粋無垢な恋人に隠された、本当に天変地異にも匹敵する......狐ならではの習性の前触れだった事に幽助が気づく頃にはとんでもない事態に発展しかけるのだけど。

今はそんな事に気付くよしもなく。

気にはなりつつも、そんなに大事とは考えていなかった。
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