瑠璃色の記憶〜過去拍手収納庫〜

□【2014年6月】
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シトシトと降り続く雨が、窓からの景色を滲ませる。

天気予報では降水確率10%だったはずなのに。

90%は晴れる.....

それをひっくり返してしまうなんて。

気まぐれな空模様にため息が漏れた。


「気まぐれなのは....雨だけじゃないか....」


無意識のうちに口をついた台詞。

乾いた笑みが零れ落ち、雨音の中に溶け込んでいく。

雨は好きじゃない。

空一面を覆い尽くす雨雲が、心にまで広がり気分を沈ませるから。

だけど今日は逆......

沈んだ心を反映した空から落ち続ける灰色の雫。



---これでサヨナラだ---


頭の中で繰り返し流れる同じ台詞。

その台詞を聞いたのはいつだったか......もう何ヶ月も前だった気もするし、つい数時間前だったような気もする。

前髪から滴り落ちた雫が、フローリングの上でポツリと弾け、フルリと震えた身体。

雨に濡れ、身体が濡れきっている事に今さらながら気付く。

徐々に体温が奪われていくにつれ、鮮明になっていく記憶。

頭の中で反響する“サヨナラ”.....聞いたのは.....ついさっきだったと思い出した。


なのに数ヶ月も前に聴いた台詞のように思えたのは、一緒に過ごした時間があまりにも希薄だったせい。

まるで長い夢を見ていたような、実体のない世界にいったような....そんな感覚。

“サヨナラ”を言うだけの関係だったのかすら分からない。


逢って....身体を重ねあわせて.....時々一緒に出かけたりして。


これは世間一般の定義を当てはめたら【恋人】という事になるのだろうか?


「....違う....よね」


“恋人”という響きには甘いイメージがあるべきなのに、終わってしまった関係のどこを探してもそんなイメージは見つからない。

自分でも分かってる。

当たらない天気予報みたいに、気紛れな関係だったって事を。

だから.....


【本気の恋なんかじゃない】


そう言い聞かせて、偽りの仮面を被り続けてきた。


---もういいだろ?----


まるで“飽きた”とでも言うように、たった一言を残し去っていった後姿を追いかけるつもりもなかった。


道の途中ですれ違ったあなたと....ちょっと寄り道をしただけ。

ただそれだけの関係。それ以上でもそれ以下でもない。


それなのに....


何でこんなにも心が空っぽになっちゃったんだろう。

本気の恋じゃない.....そう自分に刷り込ませていただけだって今さら気付くなんて。

惨めな自分を認めたくなくて、強がっていただけ。

最後の最後まで自分の気持に素直にはなれなかった。

だけど、追いすがってもあなたはきっと振り向いてはくれなかっただろうね....


窓の曇りガラスを指先でなぞり、浮かび上がらせた文字。

頭の中に広がって離れないあの人の名前は、水滴に流されすぐに消えていく。

庭先の紫陽花の上で雨音が弾ける。


振り続ける雨がどこか哀しげな調べを奏で続けていた。


fin.

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