瑠璃色の記憶〜過去拍手収納庫〜

□【2014年3月】
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--10年後にこの場所で集まろう--



桜舞い散る季節。

それぞれの道を歩み始める別れの日。

手にした卒業証書に込められた3年間の思い出を振り返りながら、10年後の再会を約束した。

共に過ごした仲間の数だけ違う未来があって、そのどれもが希望の光に包まれてる。

選ぶ道は違っても、同じ思い出を分かち合った大切な仲間達。

悠久の時を越えようと心の中に仕舞いこんだ思い出は消えない。

たとえ.....同じ長さの時間を共有しあえなくても......


「お前が父親になるなんてな」


「順調に出世してるみたいじゃん」


「私も仕事続ければ良かった。専業主婦なんて退屈なだけよ」


10年ぶりに再会したクラスメート達。

交わされる会話の節々に、歩いてきた時間の長さが滲んでた。

まだ高校生だったあの頃から10年。

重ねてきた時間は10代だった少年少女達を大人に変え、積み上げてきた時間の分だけその容姿を変化させる。

人間ならば誰しも過ごした年月だけ重ねていく歳。


でも俺は......



「それにしても南野は全然変わらないのな」


「本当!!まだ高校生って言っても全然通じるって!!!」


「いいな〜。30代間近でその容姿なんて」


卒業した頃から少しも変わらないあどけなさと、幼さの残る声。

まるで高校時代にタイムスリップしたとさえ錯覚させるような姿。

年相応の貫禄がつき始めた同級生達から感嘆の声が上がる。


「も〜、あんまり言わないでよ。これでも気にしてるんだから」


人の輪の中に囲まれた蔵馬の口から恥ずかしそうな文句が零れる。

小さく口を尖らせて不満を表わしても、かえって逆効果。

子供っぽい仕草に、周囲からますます好奇の眼差しが注がれた。


「何か南野ってずっとこのままの気がするよな」


何となしに発したのであろう同級生の言葉がチクリと胸に突き刺さる。


---ずっとこのまま---


分かってる。人として自然な時を重ねる事が出来ないのは妖化の代償。

それを受けいれてないわけじゃないけど.....


「みんな元気でやってるようで良かったよ。また10年後にここで再会しような。まぁ、その時は何人集まれるか分からないけどさ」


満開の桜の木の下で交わしたのは、10年ごとの同窓会の約束。

今から10年後。

40代を目前に控えて“年をとったね”なんて、肩を叩きながら笑い合うのだろう。

でもその場に居合わせる事は出来ない。

時の流れに逆らって決して変わる事のない自分の姿を見せるのは、これが最後だから。


“また明日”と家路につく放課後の校庭と同じように、手を振りながら去っていく仲間達。

これから先、いったい何度同じように仲間の背中を見送るのだろう。

決して重なる事のない時間の中で繰り返される出会いと別れ。

ここ(人間界)を離れる時まで、いくつの別れが訪れるのだろう。

フッと見上げた桜の木。

きっと何年たっても何十年たっても、同じように満開の花を咲かせては散っていく。

春風に揺れる愛らしい花なのに、ジッと見つめてると切なさが込み上げてきた。


「蔵馬」


フイに背後から聞こえた声に振り向いた瞳の中、滲んでいた哀しみの色がほんの少し薄くなっていく。


「幽助.....」


「どうした?桜の木なんか見上げて。何かすっげぇ感傷に浸ってるように見えたけど?」


隣に並んだ幽助が一瞬桜に投げかけた視線を、蔵馬の上に移動させる。

翡翠の中でチラつく涙の影。

何も言わずに俯き加減の頭を片手で抱きこみ、ポンポンっと軽く掌を弾ませた。


「久しぶりに旧友と再会して、ちょっとセンチな気分になっちまった?」


「....そんなんじゃないけど.....」


自らの生きる道を否定もしないし後悔もしない。

だけど、同じ時を歩む事の出来ない思い出ばかりが増えていく現実。

辛くないと言ったら嘘になる。

何よりも大切な人と永遠にも似た時を過ごせる喜びに、少しだけ入り混じる哀しみの感情。

何かを得る為には何かを捨てなきゃいけない。

分かっているけど、矛盾する想いに心は揺らぎ続ける。

それが人の器に物の怪の魂を宿した自分が、一生かけても見つける事の出来ない“答え”。


「あのね.....さっき.....」


抱えている想いを少しだけ言葉にしたら、頭の上の重みが消え、代わりに全身がすっぽりと腕の中に包み込まれた。

伝わってくる暖かい体温が、心の奥にまで染み渡っていく。

一瞬の驚きで大きく見開かれた瞳にも温もりが触れ、ゆっくりと瞼が閉じられた。

耳に感じる心臓の鼓動が心地良いリズムを刻む。

頭の中でいくつもの“答え”が浮かんでは消えていく。


本当は“答え”なんて一つしかないけど.....


「“答え”が見つからないなら....おめぇの納得がいくまで探せよ。それでも見つからなかった時は、俺がちゃんと“答え”を用意しててやっから」


そう....葛藤する心の矛盾の先にある“答え”は.....


「おめぇがさ、関わってきた奴ら全てと別れたとしても、俺が最後まで傍に居る。だから安心しろよな」


力強く告げられた言葉に、蔵馬の肩からフッと力が抜ける。


これから先、いくつも訪れるであろう大切な人たちとの別れ。


人として共に過ごせる時間の満期を待たずして、自ら立ち去らなきゃいけない。

それは変える事の出来ない未来の定めだけど.....

哀しみはきっと乗り越えられる。

10年後も20年後も....100年後もきっと咲き続ける桜の花。

同じように変わる事のない確かなものが一番近くにいるから.......


fin.


AKBの10年桜を聞いててフッと思いついたネタです(AKB好きだな、おい!!!)

蔵馬ちゃんってず〜っとあのままの姿なんだよな....10年位なら「童顔!!」で誤魔化せるけど、時を重ねていくにつれて無理が出てくるよな....

きっと友人や家族の記憶を消していって、そんな別れを繰り返すんだろうなって思って。

そんな蔵馬ちゃんの傍にずっと幽助が居たらいいなって....

無理矢理超SSに纏めたのでグデグデですけど(汗)

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