泡沫の章〜幽蔵SS〜

□【so Pretty】
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---桑原。俺、蔵馬と付き合う事になったから---


友人から打ち明けられたマル秘話。

そのまま宙に舞い上がって、どっかに飛んでいっちまうんじゃね?

なんて思う位に浮き足立ってる姿は、正直今までの人生で最大の衝撃だった。

相手がどんなブスだろうが、ヤンキーの姉ちゃんだろが俺には関係ないし、別に浦飯が誰と付き合おうが知ったこっちゃねぇけど....

まさか選んだ相手が「蔵馬」だなんて、天地がひっくり返るかと思ったよ。

そりゃあいつは確かにその辺の女よりか可愛いし、浦飯が一目惚れしたらしい事は薄々気付いてたけど......

だけどさ、年上だろ?超有名進学校に通ってるだろ?

その時点で浦飯とは天と地の差があんじゃんよ。

その前にあいつ男じゃん。

まぁ.....あのルックスだからそれは差し引いたとしても....

妖怪じゃん?

妖怪と付き合うとかマジ斬新もいいとこじゃね?

本当にこいつら大丈夫なのかよ......


大親友の色恋沙汰にいちいち口出しするまいと思っても、やっぱり心配になってくる。

だけどそんなのは、ただの取り越し苦労だったんだけどな。

寧ろ今は“羨ましい”とすら思っちまう。

優等生とか年上とか、男だとか妖怪だとか関係ねぇわ。


あんな彼女.....じゃなくて恋人は反則すぎだぜ、マジで-----





「あ〜!!!もう、ちくしょう〜!!何で蔵馬と飛影が同室なわけ?」


「知らねぇよ(T_T)さっきから同じ事をグダグダとうっせ〜なぁ」


かれこれ何十分も.....実際には部屋割りが決まった初日からずっとだったのだけど----同じ愚痴を聞かされ続けている桑原の顔に、疲労ともウンザリともつかぬ表情が浮かぶ。


「つうかさ、おめぇも俺と蔵馬が付き合ってんの知ってんだったら、普通はあそこで助け舟を出すもんじゃねぇの?」


「はぁ?なぜにそこで俺が責められねぇといけねぇんだよ(-_-;)」


いつの間にか己に向けられ始めた怒りの矛先に、どうでもいいと大きな溜め息を吐く。


---部屋割り?貴様ら人間は人間同士、俺達は妖怪同士上手い具合に分かれればいいじゃないか---


そもそもの発端は飛影がシレ〜っと口にした言葉。


あそこで俺が口ぞえしたとこで、結果は変わんなかったと思うぞ?

だってあれは明らかにあのチビが面白がってやった事だろ?


幽助の人生全てに見限られたような落ち込み顔と、飛影のドヤ顔の対比が余りにも面白かった事を思い出して、つい吹き出しそうになる。

ギロリと物凄い形相で睨まれ、慌てて口を閉じた。


「くそ〜、マジ心配!!!飛影の奴、蔵馬に手ぇなんか出してねぇだろうな〜(T_T)」


ウロウロと落ち着きなく部屋を歩き回っては、壁に耳を寄せ隣の部屋の様子を窺う。


おめぇの様子の方がよっぽど怪しいよ!!!


もう何度目かも分からない溜め息を吐き出し、火をつけた煙草を肺いっぱいに吸い込んだ。


「あのさぁ、蔵馬って....そんなにおめぇがどっぷりはまり込む要素あんの?」


常々抱いていた疑問。

浦飯の惚気話は日頃から聞いているけど、何か俺の中の蔵馬のイメージと違うというか.....

どうもこいつらが「恋人」ってのにシックリいかねぇんだよな。


「は〜?何言っちゃってんの?あいつマジではまる要素しかねぇから(^o^)」


「そうかぁ.....?何かさ、蔵馬っていっつも冷静じゃん?しかも年上だろ?おめぇみてぇな中坊のガキ相手すんの手馴れてんじゃねぇの?」


俺からしたら“付き合ってる”というより、浦飯が“付き合ってもらってる”という印象が拭いきれない。

まぁ、それもイメージなんだけど......


「そんな事ねぇよ?寧ろ蔵馬の方が年下みてぇな感じだぜ?メッチャ甘えん坊だしよ///////」


はぁ〜????甘えん坊????

マジで言ってんのかよ.....


「甘えん坊かぁ〜?やっぱピンッとこねぇんだけど。だってよ〜、あいつ結構エグイ勝ち方してなかったか.......?」


脳裏を過ぎるのは武術会初戦の相手。

可愛い顔してあいつマジで鬼か???っていうような方法で相手を打ち負かしてたじゃんかよ。

普通に“こえ〜”って思ったぜ?俺は....

それで可愛い言われてもな......


「あ〜、あれはあれ。普段の蔵馬は全然ちげぇんだって。マジで、おめぇも一緒にいたら分かるって!!!!」


力説する幽助を横目に、桑原としては今いち信じられないといった様子。


「そんなもんかねぇ.....」


甘えん坊ねぇ.......


やはり納得出来ないと、眉を潜めながら壁の時計を見ると結構な遅い時間になっていて。


「もうこんな時間じゃねぇかよ。寝るべ、寝るべ」


“何で分からねぇかな〜”と、睨み付けて来る視線は一切無視してベッドに潜り込もうとした。

フイに聞こえた小さなノック音。


「こんな時間に誰だよ?」


潜りかけていたベッドから降り、部屋の扉を開ける。

フワリと漂う花の香りに包まれ、たった今まで話題にのぼっていた人が立っていた。


「お〜、蔵馬?どうした?」


「あっ.....桑原君....あの....」


桑原を通り越して室内に向けられた視線が、キョロキョロと何かを探し求める。


「あ〜。浦飯なら......って!!!!いってツツツ!!!!!」


視線の意味を即座に理解して、蔵馬の探し人を呼んでやろうと出した親切心。

弾かれたように立ち上がり駆け寄ってきた幽助に、その親切心ごと押しのけられた。


「蔵馬〜おめぇ...どうした?何かあったのか?」


「あっ、ううん。何かあったって訳じゃないんだけどね......」


「くおらぁぁっぁ〜ツツツ!!!浦飯〜てめぇはぁ〜(`´)」


突き飛ばされて床に転がった桑原が喚きたてる声も全く耳に入ってないのか、予想外に部屋を訪れてきてくれた恋人に、幽助の顔はニヤケっぱなし。


「ほ〜ら。んなとこに突っ立ってねぇで、中に入れよ」


「う...うん...でも....」


目の前から急にぶっ飛んでった桑原が気になるらしく、翡翠の視線が申し訳なさげに床に落とされた。


「あ〜、こいつの事は気にしねぇでいいから♪」


「.......(怒)」


気にしねぇでいいからって.....ぶっ飛ばされてぇのか??!!


今すぐに薄情な友人をぶん殴ってやろうかと尖らせた空気が、ふと目に映った光景を前に急速に萎んでいく。


「にしても....マジ何かあったんじゃねぇの?こんな時間に」


「本当に何でもないよ。ただ...幽助と一緒にいたかっただけだから//////」


目の前で交わされた恋人達の腑抜けたやり取り。

頬をほんのりと染め、恥ずかしそうに俯く蔵馬を見てると、己が抱いていたイメージがガラガラと崩れ去っていくのを感じた。


“一緒にいたかった”って.....

何今の胸キュンな台詞は????

そして、何ですか????その密着度は????

ピッタリとまさに“寄り添う”との言葉の通り。

マジマジと凝視する桑原が何かに気付き、口をあんぐりと大きく開く。

蔵馬の体格にフィットするにはダブダブした大きめのシャツ。


「なぁ、蔵馬。何かシャツ大きすぎねぇ?」


「....これ?幽助の...../////」


あ〜.....これって噂の【彼氏のシャツ】ってやつですか.....

つうか、俺のイメージと全然っっ!!違うんだけど????


呆気にとられる桑原なんてもはや眼中にないのか、ホヤホヤの恋人達はソファーに並んで座り仲良く談話中。

向けられた視線に気付いたのか、蔵馬の顔にフッと微笑が浮かんだ。

その可憐さに思わずドキッと鼓動が高鳴る。


---やべ....普通に可愛い---


抱いてイメージを払拭するには十分すぎる程の威力を発揮した微笑みに、ガチで見惚れてしまいそうだった。

もし、次に見た光景がなければ、本気で惚れてたかもしれない。

すぐに幽助の方へと戻された翡翠の視線-----満開の笑顔が華やかに咲き誇っていた。

それは本当に嬉しそうな笑顔で。

己に向けられていた微笑とは全然違う、きっと浦飯だけに見せる特別な笑顔。

“浦飯が付き合ってもらってる”なんて、ほんの少しでも疑ってかかった事が申し訳ない程。

何だかもう少しイメージとのギャップを知りたくなって、談笑する2人の輪の中に加わることにしてみた。




*********************



それから一時間近く、3人の話は尽きる事無く続いていた。

床に座る桑原と、ソファーで寄り添う恋人達と。


(何かこいつら仲いいいよな....つうか少しは離れろよ)


隙間なく密着したままの距離と、さりげなく重なり合った掌と。

目の前に俺もいんだぞ?????なんてツッコミいれたくなる程の仲良しぶり。

描いていた蔵馬のイメージは、すでに新たなイメージへとすり替わり始めていた。


----蔵馬の方が年下みてぇなもんだし----


何となくその言葉も納得出きる気がする。

後は“甘えん坊”ってう言葉が当てはまるのかだけ。

それも......


「蔵馬、そろそろねみぃんじゃね?」


トロンっとした瞳と、今にも閉じられてしまいそうに小さく痙攣する瞼。

睡魔が蔵馬に襲い掛かっているのがよく分かる。


「戻るなら部屋まで送っていくけど?」


立ち上がりかけた幽助の腕にキュッと細い腕が絡まり、フルフルと深紅に染まる頭が小さく振られた。


「飛影が....“明日の朝まで戻ってくるなよ”って.....部屋にいれてくれないって言ってたし....」


「はぁ???何だよ、それ(T_T)」


「さっきもね、“ソワソワしてるお前を見てると煩わしくて仕方ない”って怒られて....“幽助のとこにでも行って落ち着いてこい”って言われたんだよ.....」


「あいつ....俺をおちょくってるだろ(T_T)」


やり取りを聞いていた桑原が、爆笑してしまいそうになるのを必死に堪える。


---やるわ、あのチビ---


完全に2人を手玉にとって、内心面白がっているに違いない。


「ねぇ、幽助.....やっぱり戻らないと...駄目?」


シュンッと哀しそうに見上げる上目遣いに、ハートを射抜かれたのは幽助も桑原も同時。


「いや/////全然ツツツツ!!!!!!!そんな必要ねぇし//////」


「(......おめぇの顔崩れちまって気持ち悪ぃよ.....)あっ、蔵馬は俺のベッド使えよ。俺ソファーで寝るからよ」


「え....桑原君!!!駄目だよ、それは悪いよ(>_<)」


「いいって、いいって。家ではいっつも床に寝てんだからよ」


蔵馬はちゃんとベッドで寝かしてやんなきゃいけねぇなって.....何だか妙な使命感を感じて譲ってやったベッドの権利。


「え.....でも、俺は.....」


なぜか戸惑いを見せ、なかなか“うん”と頷かない。


「あ〜、桑原おめぇベッドで寝ていいぜ」


そう言いながら、幽助は早々と自分のベッドに滑り込む。


いや、俺がベッド使ったら蔵馬どうすんだよ?

って....そんな心配は杞憂も杞憂だった。


「蔵馬、ほら来いよ」


体をズラし、人一人分のスペースを空け、ポンポンっとシーツを叩く。


来いよ?来いよって何だよ?????


呆気にとられる桑原の前で、蔵馬の顔に浮かんだ恥じらい混じりの笑顔。

当たり前のように幽助の腕の中に収まった身体。


「幽助ぇ......」


ちょっとだけ舌足らずの甘えるような声で、スリスリと甘える姿はまさに子猫。

ガラガラと崩れ去っていくイメージに思考はフリーズ寸前だった。


そしてとどめの一発は.....


「寝る前の....いつものは今日はいいのか?」


「.....うン.....桑原君いるし....」


俺がいたら何ですかぁ〜???????


「ふ〜ん?まっ、俺は桑原いようがいまいが関係ねぇけどな〜♪」


「え?幽助???ちょ......んツツツ........」


何を血迷ったか、目の前で交わされたKISSと甘い吐息に、完全に思考はシャットダウンしてしまった。

トロ〜ンと蕩けた瞳。


「お休み、蔵馬」


しっかりと胸に抱き込んだ蔵馬の背中で、トントンっと優しい手つきがリズムを刻む。

すぐに聞こえ始めた小さな寝息。

幽助の腕にギュッとしがみついたまま、無防備に眠る蔵馬の寝顔はまるで幼い子供みたいで。


「お〜い、桑原。いつまでそこに突っ立ってんだよ」


掛けられた声に、身体から離脱しかけていた思考が戻ってくる。

それでも頭の整理はつかないのか、フラフラ〜っと覚束ない足取りでベッドに潜り込んだ。


「だから言っただろ?蔵馬は甘えん坊なんだって」


きっとしたり顔であろう親友の方へ顔をむける事なく、ボ〜っと天井の染みを見つめる。


---確かに....甘えん坊だよな---


しばらく何も考えないでいると徐々に思考も落ち着きを見せ、冷静になってくる。

チラリと隣の様子を窺うと、親友は愛しの恋人を抱きしめたまま幸せそうに夢の世界に旅立っていて。

フッと桑原の口元が綻んだ。


「おめぇら....ホント最高のカップルになれるぜ」


ボソッと小さく呟き、眠りにつくべく部屋の電気をパチっと消す。

すぐに訪れた眠り。

暗闇に包まれた空間で、異なる寝息が三重奏を奏で続けていた。



fin.



前回に続いて武術会関連のSSです(^0_0^)

幽倉前提で部屋が別々とか美味しいなって思い、ちょっと考え付いたネタでした。

そりゃ桑原君も最初は面食らうだろ?とか思ったり。

ん〜....甘さが足りなかったかな......

もっと砂糖菓子みたいに甘〜い幽蔵を書きたいですね★


2012.2.1  咲坂翠

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