泡沫の章〜幽蔵SS〜

□【熱中期】
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“ずっと一緒にいようね”なんて愛の言葉を囁きあうのなんて、付き合い始めの数ヶ月。

一緒にいる時間が長くなればなるほど、
お互いを知れば知るほど、

当初の熱は冷め、惰性だけで一緒にいるような感じがする。

相手の言動に逐一イラついたり、一緒にいてもトキメかなくなったり。

挙句の果てにセックスレスになっちゃったり。

それでも好きだから一緒にいるんだろうけど。

だけど、何となくチグハグして最初の頃の気持ちとは違ってる。

いわゆる【倦怠期】

大抵のカップルなら一度は通るであろう道。

それは付き合って3ヶ月目だったり、半年だったり1年だったり。

期間に差異はあれど、いつまでも情熱を燃やして相手を愛し続けるなんて無理な話。

絶対にどこかで倦怠期は訪れる。

それで崩れるカップルもあれば乗り越えるカップルもある。

恋人同士の付き合いって普通はそんなもんだろ?

“愛は永遠”なんて台詞、偽善だろ!!

なんて思うよな、普通なら。


でもよ.....


いるんだよな、ここに。倦怠期の“け”の字も知らないカップルが。

何年たっても付き合い当初の気持ちを失わずに、むしろ月日が巡る度に愛情が深まってる珍しい奴らが。

ほんと、天然記念物にしてやってやれよってぐらい珍種カップルだぜ。




「あ〜、腹減った。夕飯どうすっかな.....惣菜でも買ってくか」


ゼミの打ち合わせで予想以上に遅くなった帰宅時間。

てんでバラバラな帰宅方向の友人と別れて寄ったスーパー。

別に食べて帰っても良かったんだけど、一人で外食もどうかと思い、かといって作るのも面倒。

手っ取り早いのは出来合いのモノを買っていく事。

何にしようか惣菜ケースの前でウロついてると、突然聞こえてきた声。


「桑原?」


振り向くとそこにいたのは中学からの腐れ縁。

何やら商品が沢山入った買い物カゴを手に立っていた。


「浦飯?おめぇ今日仕事は?」


「ん?あぁ屋台なら本日臨時休業」


「で?夕飯の買出しにでも来たってか?どうせ俺と同じ、惣菜で済ませる気だろ」


「はっ?おめぇと一緒にすんなよな(-_-;)」


“すんなよな”ってどうせ同じだろ?と覗き込んだカゴの中。

入ってたのは作り立ての惣菜じゃなくて、野菜に果物、肉に魚と調味料。
明らかに“家で作ります”と言った商品チョイス。


「何?おめぇ、作んの?」


「あぁ.....これは」


これは....に続く答えを口にする前に、ワントーン高い柔らかな声が答えを明確にしてくれた。


「幽助ぇ、ほら!モンブランプリン新発売だって!これ買っていい?......って....桑原君?」


驚いたように大きく丸まった瞳が、フワリと柔らかい微笑みに変わる。


「あ〜。何?今から浦飯宅で夕飯?」


カゴの中身の食事はさしずめ本日の献立といったところか?

どうせ、愛情たっぷりの手作り料理を食べるんだろ?

あ〜、羨ましい事で!!


「うん/////桑原君も.....今からご飯?」


「ちょっと大学の帰りが遅くなってよ。こっちは一人寂しくスーパーのおばちゃんの惣菜だけどな」


「そうなんだ.....」


ジ〜っとカゴの中を覗き込まれ、何だか恥ずかしいような居心地が悪いような不思議な気分になってくる。

同じ買い物カゴなのに、中に入ってるモノの幸せの比重が全然違う。

独り身の寂しさがやけに身に染みるなんて。

何か哀しくなってきたぞ.....


「ねぇ、幽助。せっかくだし桑原君も一緒にダメ?2人分も3人分も大して作る手間が変わるわけじゃないし」


「ん?別におめぇがいいって言うなら構わねぇよ」


「ホント?じゃぁ、一緒にご飯食べようよ」


「マジ?いや、でも....せっかく2人でだったんだろ?何か悪ぃな」


「気にしないでよ。明日休みだから幽助とはずっと一緒にいれるし。ね?幽助?」


手にしてたモンブランプリンをカゴの中に入れ、当たり前のように空いてる腕に自らの腕を絡みつかせる。

あまりにも自然な流れで思わずスルーしてしまいそうな動作なんだけど。

よくも人前でまぁベタベタとくっつきますなぁ。

今に始まった事じゃないからいいけどよ(T_T)

レジに並んでる間も腕を組んだままイチャイチャと楽しそうにしてさ。

ようやく離れたのは会計の時。


お財布を出してお金を払う幽助と、買った物を袋詰めしていく蔵馬と。

若い夫婦って言われても疑う要素なんてないよなって思う。


綺麗に袋詰めされたスーパーの袋をヒョイッと手にして、“行くぞ”っと蔵馬の手を取る。

すぐに絡み合った指先と腕を絡ませ密着した身体。

どんだけ離れたくないんですか???


ホントこの2人って四六時中一緒にイチャついてお互いに飽きねぇのかよ。



************************



せっかくだから誘いに甘えて訪れたアパート。

台所から漂い始める美味しそうな匂いを鼻腔の奥に感じながら、軽く一杯と缶ビールの蓋を開ける。

幽助は何が気になるのかチョコチョコと台所に入っては戻ってくるの繰り返し。

台所に入るたびに何やら楽しそうな笑い声が二重奏を奏でるから、どうせ軽くじゃれあってるんだろうけど。

アパートにお邪魔して1時間も経たない内に、テーブルの上に並んだ3人分の食事。

メインのハンバーグにサラダにスープ。

ハンバーグには温野菜の彩りつき。

たった一時間でこれだけ作り上げる手際の良さに素直に“すげぇ”と賛辞の声が出た。


「何?浦飯おめぇ毎回こんな手料理食ってんの?」


「そうだけど?」


そんなサラッと言い放つなよ。

蔵馬の手料理なんて、食いついてくる奴腐るほどいるんだぞ?

それをまぁ、当たり前のように“そうだ”なんて肯定しやがって。

幸せモンが!!!(-_-;)


食事中も目の前の恋人達はイチャイチャ嬉しそうで。


「おっ?今日のハンバーグ中にチーズ入ってんだ」


「いつも同じ味だと飽きちゃうかなって思って。ちょっと変えてみたんだけど」


「おめぇの作る料理に飽きるはずねぇじゃん」


「そ...そう?///////」


絶対俺の存在忘れてるだろ?

人前での恥じらいすらこのカップルには通じないのかと、ポカンと口を開けて見つめる桑原の視線すら痛くも痒くもない様子。


「あっ、桑原君。ご飯お代わりあるよ、食べる?」


「あっ...じゃぁ、一杯だけ」


「桑原おめぇビールも空じゃん。飲むだろ?あ〜、蔵馬。酒と一緒に俺が持ってくっから」


返事を聞くより前に立ち上がった幽助が台所へと入っていく。

その姿を追ってた視線が食卓に戻され、フォークで刺したトマトがポンッと口の中に放り込まれた。


「おめぇっていつでも浦飯の姿追っかけてんのな」


「ん...えっ?そ、そう?//////」


放り込んだトマトを慌てて飲み込んだせいか、少々喉につっかえ気味で答える。


「てかさ、一緒にいて飽きたりしねぇの?喧嘩して顔も見たくネェとか」


「喧嘩した事ないし.....飽きるとかあるはずないよ〜。今でも一緒にいれる時間もっとあればなぁって思ってるぐらいだし////」


「ハハハ....そうですか('_')」


惚気をこうも恥ずかしげもなく、さも会話の一部のように話されると笑うしかない。

でも、浦飯の事を嬉しそうに話すのを見てると、なぜか微笑ましさに変わるのが不思議だった。


熱々カップルの幸せオーラに当てられたのか、巻き込まれたのか。

気付けば相当アルコールを摂取しながら会話に花が開く。

美味しく頂いた食事が片付けられ、代わりに並んだ大量のおつまみにスナック菓子。

アルコールを摂取しない蔵馬の前には、スーパーで買ったモンブランプリンと紅茶のポット。

多少の酔いが回り、ハイテンションで話す幽助と桑原の会話をニコニコ楽しそうに聞いていた。


食事が飲み会へと目的を変えてどの位の時間が経ったか。

まだまだ素面で飲み続ける幽助の肩にコツンっと当たり始めた感触。

隣を見れば、翡翠の瞳を睫毛で隠しそうになるのを辛うじて堪えながら、深紅に染まる頭がウツラウツラと船を漕いでた。


「蔵馬。ねみぃんっだったら、ベッド行くか?」


「ん〜.....まだいぃ....」


まだいいと言いながら、完全に落ちる寸前の瞼は半分も開いてなくて。


「ほら、連れてってやるから立てるか?」


「ん〜っ.....」


小さく振った頭は肩に乗せられたまま。立ち上がろうとすらしない。


「蔵馬って.....もう半分寝てんじゃねぇかよ」


笑いながら抱き上げようと、脇の下と膝の裏に差し入れた腕。


「やだ......」


抱き上げられるのを嫌がるように、グッと腕にしがみ付いてきた。


「まだ....幽助の傍にいたい.....」


今にもピタッと閉じてしまいそうな瞼を必死に押し上げ、“起きとく”と健気に主張する。

フッと小さく笑った幽助を包む空気が、優しく揺らめいた。


「しゃーねぇーな。ほら、頭乗せて」


ポンポンっと伸ばした片足の膝を叩く。

寝ぼけ眼がそれでもニッコリと嬉しそうに解れ、膝の上に軽い重みを乗せてきた。

すぐに感じる重みが増し、聞こえてきた小さな寝息。

羽織るものをとソファーに伸ばした手が、あと少しなのに微妙に届かない。


「ほら、浦飯」


立ち上がった桑原がソファーの上にあった毛布を取り、幽助に差し出す。


「サンキュー」


受取った毛布を、無邪気に横たわる身体にソッと被せた。

優しく頭を撫でる手つきを夢の中でも感じたのか、寝顔に幸せそうな笑みが広がる。

両手の掌で挟み込んだ幽助の手に、しっかりと指を絡めたまま。


「おめぇも、一緒にいて飽きるって事ないだろ?」


「飽きるって何がだよ」


「蔵馬に“一緒にて飽きるとかねぇの”って聞いたらさ、まだ一緒にい足りないみたいに言ってったからさ。どうせおめぇもだろ?と思ってな」


ボンっと一瞬で真っ赤になった顔。

照れ隠しに伏せた視線はスヤスヤと眠る恋人の上に注がれ、優しい指が頬を撫で上げる。


「当たりめぇじゃん。こいつに飽きるなんて....」


「いいっ!!言わなくていい!!むしろそれ以上は言うな!!おめぇらの幸せオーラが俺には毒だ!!」


「じゃぁ、最初から恥ずかしいこと答えさせんな//////」


答え聞く前に見りゃぁ分かんだよ。


絡み合ったまま離れようとしない指と、愛しそうに頭を撫で続ける手つきと。

幸せそうな蔵馬の寝顔と満更でもない幽助の腑抜けた顔と。


“飽きねぇの?”なんてあまりにも野暮すぎる質問だって事。

どんなに一緒にいても、付き合う年月が長くなっても、この2人はいつまでもお互いを好きなままでいられんだろうなって思う。

相手の事が嫌になるとか、マンネリしてくるとか。

他の誰かが良く見えてくるとか。

この2人には有り得ないんだって。

“永遠の愛”って台詞も、この2人になら当てはめてもいいんじゃないかって思える。


こんな貴重珍種のカップルをずっと見てるのも悪くねぇかもな------


fin.


バイトの子が「倦怠期なんですよ〜」っていうのを聞いて、幽助と蔵馬ちゃんには倦怠期ってないだろうな.....なんて妄想をお話にしてみました★

傍から見たらどんだけバカップルなのか、桑原君視点だと分かるかなと(笑)


3013.3.23 咲坂 翠

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