泡沫の章〜幽蔵SS〜

□【sugar trap】
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「ん........ふん....んンンン......」



軋むベッドの上で絡み合う汗ばむ身体。

全身をくまなく解すように丹念に施される愛撫が、体の火照りを呼び覚まし熱を高みにまで押し上げる。






「あっ....あんっ...んっ....ふぁっ...んンっっ....」




もたらされる愛撫に反応して、素直に零れる甘い声。

一度耳にすれば、二度と抜け出す事は出来ない甘美な罠。


囚われないようにと、熟しきった魅惑の唇に熱い蓋を押し当てた。

声ごと閉じ込めてしまうように。


くぐもる声すらも耳に届かせぬように、深く深く舌を絡ませる。
息もつかせぬ程激しく。

口内に閉じ込められた吐息が、唾液と混じりあいクチュリと厭らしい音をたてた。


長い口付けに酸素が不足し、息苦しくなってきたのか、抵抗なくシーツの上に投げ出されていた腕が密着した身体を剥がそうと、軽い抵抗を見せ始める。

逞しい胸板を掌で何とか押し返そうとしてみるも、片手で造作もなく絡み取られ頭上で押さえつけられてしまった。



“抵抗できるうちはまだ大丈夫.....”とでもいうように。



角度を変える一瞬の間に出来る隙間からすら空気を取り込めず、息苦しさが増す。

それでも蕩けるようなKISSが神経をも溶かして.........




「ん......んンンンン......」




いつ終わるとも知れない口付けに、さすがに視界が真っ白になりかけ、軽く首を振り限界を伝える。

艶やかな唇を放すのを惜しむかのように、もう一度口内深く入り込んだ舌がゆっくりと引き抜かれ、銀の糸がキラキラと橋を渡す。


急激に入り込んできた酸素をうまく取り込めず、思わずむせ込んだ。




「....っっケホっっっ........」




口元を抑えた両手がゆっくりと引き剥がされ、優しくシーツに縫い付けられる。

手首を押さえつけてた大きな手が頬を包み込んで.......




「悪ぃ......苦しかったか?」



落ちてきたのは優しい言葉と少しだけ気まずい声。

かすかに顔をしかめて咳きこむ姿を映した瞳に少しの焦りが浮かぶ。


だけど、掌の中でほんのり上気した頬がフッと揺るむのがはっきりと伝わって、瞳の中に映ったのはフワリとした微笑み。



「ううん......大丈夫だよ」



綺麗な微笑みの一部を織り成す愛らしい口元が、大好きな言葉を紡ぎだす。




「幽助........」




甘えを含んだ自分より高いトーンが吐息以上に感覚を刺激して。

魅惑の罠に囚われぬようにとしてたのに.......

妖惑の息に酔わされたくなる。

首筋からゆっくりと舌を這わせ、ポツンと飛び出た突起を口に含んだ。

突起のてっ辺で舌先をコロコロと遊ばせれば、フッと小さく息が洩れる。

それはみるみるうちに桃色に色付き部屋中に散らばっていく。




「はっ....あァァん.....幽.....んっっ....ふうンンンっ......」




与える愛撫を全身で感じ取り、感じるままに従順に受け入れる。

何度体を重ね合わそうとも、初めて抱いた時と変わらない。

決して摺れることのない純真さ。

妖艶な乱れ方で惑わすくせに、どこか恥ずかしげで。

自ら誘いを口にした事は一度だってない。

けれど求めに応じて惜しげもなく、その美しき裸体をさらけ出す。

それが堪らなく愛しい.......




「ふっっ.....んあっっ....はぁぁ....んっっ....やんっ......」



吐息が奏でる幻想が今日はやけに脳に響いて。

少しだけ意地悪してみたくなる。


愛撫の手を止め、ジッと蔵馬の瞳を覗き込んだ。

潤んだ瞳の中で透き通るような碧の宝石が頼りなく浮かぶ。

勢いよくひいていく快楽の波。

宝石の中に戸惑いの影が広がった。



「幽助ぇ.......」



ピタリと動きを止めた幽助に、潤んだ瞳が訴える。



----何で止めちゃうの.....?-----



火照り始めた身体を中途半端に放り出されて、満たされない疼きが全身を支配する。



「幽助ぇ....」



直接は言えない願いを名前に代えて託したのに。


分かってるクセに無言のまま、視線だけが"何?"と語りかける。


こういうのを言葉にするのが苦手だって知ってるのに。


口に出せないもどかしさが収まらない疼きに輪をかける。



「ねぇ...幽助ぇ...」



もう一度紡ぎ出した名前に、隆起した筋肉質な肩がピクリと反応した。


見上げる翡翠は陰り一つなく澄み切っていて。



----囚われてしまう----



思った時にはもう吸い寄せられたかのように、視線を外せなくなっていた。


その瞳の前では全てが無力に等しく。

グラリと揺さぶられかけた心が、直前で踏みとどまった。



この瞳さえ見なければ------



無造作にたくしあげられたままのシャツを、スッポリと脱がせる。




「んっ......」



いきなり晒された肌にひんやりとした空気が絡みつき、小さな声があがる。

床に脱げ捨てられるはずの服が、翡翠の瞳を覆い隠した。




「やっ....幽助....何...?」




後頭部で感じた固い結び目に、暗闇に切り替わった視界に、声が震え出す。

何も見えない状況にこみ上がる不安。

落ちてきた優しい口付けにさえビクッと肩が小さく飛び跳ねた。


それもすぐに押寄せてきた波に飲み込まれる。

止まってた愛撫が、再び快楽を引きつれ身体中に証を刻み始めた。

真っ白な肌の上に次々と咲き乱れる赤い花.......

親指の腹で押し潰すように敏感な飾りをこね回せば、桃色の色香を放ちプックリと立ち上がる。




「ひあっ......あんンンン......ん....はっっ.....」



洩れる吐息は更なる熱を呼び覚まし、抗えない快楽の渇きが下半身に流れて。



「ん....はああっっ....うんン.....幽...けぇ.....」



絶え間ない快楽の波に身体は満たされていくはずなのに、物足りなさが襲う。

名を呼ぶ声に含まれる意図を察した幽助の手が、スッと肌を滑り下腹部に伸びた。


それは肝心な場所に触れることなく、ツゥっと付け根をなぞり周囲を撫でる。

膨らみ始めたモノは既に先走りで濡れ、刺激を求めてるのに。

わざと焦らすように執拗に中心部の周りだけを愛撫していく。

下半身にこもり続ける熱を発散できずに、ムズムズとした疼きが不快感を呼び起こす。




「ね....ねぇ、幽助......」



「ん?どうした?」



「お願い.......」



快楽を閉じ込めたまま、放置されてる状態から抜け出したくて、必死に訴えてみるのに.....



「お願いって何が?」


分かってるクセにすっとぼけた返事を返す。



「ちゃんと......して.....」



「ちゃんとって.....さっきからちゃんとしてんじゃん」



下腹部を這わせてた指で菊座をなぞり上げれば、電気が走ったように小さな痙攣を見せる。



「んぁ....あっっ....はっっ.......」



「ほら、ちゃんと気持ちいいトコついてるだろ?」




「やぁ......幽助ぇ、違うの......ちゃんと触って........」



恥ずかしさを堪えて、精一杯の言葉を発したのに。




「どこ触ってほしいの?ちゃんと言わなきゃ分かんねぇよ?」



相変わらず肝心な中心部には一切触れる事なく、意地悪な指使いはピンポイントを外して刺激を与えてくる。

それはそれで、めくるめく悦楽へと誘ってくれるのだけど.......




「幽助....ん...あンン....お願い....だから.....」



下半身の疼きがどうしようもなくて、太腿を擦り合わせる。

遮られた視界では幽助の表情がうかがい知れない。



「だぁから!どこ触って欲しいのか具体的に言ってくれねぇと」



その口調から、どうやら悪戯心からの行為だとは理解できる。

だけど、お預けをくらってる身としては悪戯心では済ませなくて。

たった一言なのに先行するのは恥ずかしさ。


狂いそうな程の熱が下半身に溜まり、羞恥をも吹き飛ばしそうになる。




「幽助......俺の......俺の.....」



限界を感じて懸命に言葉にしようとしたのだけど。




------やっぱり言えないよぉ.....--------



発散出来ない熱が、
どうする事も出来ないもどかしさが、

快感を少しの苦痛へと変えていく。

隠された翡翠の淵から堪えきれない涙が滲み出した。

それは頬を伝うことなく光を遮断しているシャツへと吸い込まれていく。




「幽助......っく、もっ.....意地悪...ふっ....しな.....っで....ふっく...」



意思とは無関係に零れだす涙も、部屋に響く嗚咽も止まらなくて。


少しだけ頭が浮いた感触がして、結び目が解かれるのが分かった。

視界を塞いでいた邪魔な布が取り払われる。

暗闇に慣れた目には部屋の灯りが眩しすぎて、思わずギュッと瞳を閉じた。




「蔵馬.........ごめん。やり過ぎた」



優しく髪をなでる手つきと同じ、優しい声に静かに目を開くと真っ先に飛び込んできた紅い舌。

目尻の雫をペロリと舐め取り、口付けへと姿を変える。

一しきり口内の熱をかき混ぜ、ソッと唇が離れた。



「......幽....けぇ....」



目尻いっぱいに透明な雫を溜めたままの揺れる翡翠にジッと見つめられ、吐息混じりの声でねだられたら悪戯心なんて消えてしまい。


残るのは囚われてしまった心。


忘れてた-------


吐息を塞いで閉じ込めても、
吸い込まれそうな翡翠を覆い隠しても、


何の意味もない事を........


たった一粒の涙を見ただけで、空気を震わせる嗚咽を耳にしただけで、願い全てを叶えたいと思わせるほど虜になってるんだから。



「ん......ふっっ....はっっ......あンンン.....やぁ....ン」



ようやく施される望み通りの刺激に、全身が悦びに打ち震える。

その声に、
その反応に、

酔わされた心はどんどんと深みにはまっていく。



汚れを知らぬ恋人に求めて欲しいと思ってた。

だけど.......


結局自ら求めてしまう。



いつの間にかはまりこんだのは永遠に抜け出せない------


甘い罠.........



fin.




あとがき


幽助、暴走させてごめんなさい企画第2弾♪

勝手に甘くやっててって感じの.......(汗)

ピュアピュアな蔵馬ちゃんに萌え★
蔵馬ちゃんはいつまでたっても純粋なままでいて欲しい(*^_^*)

純粋なのに全身で相手を酔わすという小悪魔さが堪らんです(^^)
自覚症状なしだから、蔵馬ちゃんの彼氏はみんな大変(笑)


2012.10.24 咲坂 翠 

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