泡沫の章〜幽蔵SS〜

□【瞳の中に映るもの】
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待ち合わせのメッカとなっている駅前の広場。

中心にある噴水の周囲は、季節ごとに四季折々の花で彩られ華やかな雰囲気を醸し出す。



別名ナンパ広場。


一人佇むお目当ての子を見つけるや、果敢に声をかける男達。


成功して舞い上がる者、玉砕して肩を落とす者。


小さな広場で繰り広げられる様々なドラマ。

見てる方としては面白い。


声を掛けられる側としても、2〜3回であればちょっとした優越感に浸れる。


それも度を越すと........




「ねぇねぇ、君一人?カラオケ行かない?」




「お姉さん、今暇?お茶しない?」




「近くに超〜いい店あるんだけど、一緒にどう?」




先程から入れ替わり立ち替わり、ひっきりなしにかかる声。

その光景はなぜか一ヶ所に集中してて。




「ごめんなさい」


「待ち合わせしてるので」




声がかかる度に、鸚鵡のように同じ台詞が繰り返される。


広場には相手を待つ女性達が溢れているのに、まるで存在しないかのように、飢えた狼達が群がるのはたった一人だけ。

あまりにも人目を引く容姿のせいか。


腰まである長い髪は目を見張る程に鮮やかな深紅に染まり、風がそよぐ度に、靡く髪から漂う甘い香り。


真っ白いカッターシャツは、雪のように白い肌と相まって清潔感が漂う。

ピッタリとフィットしたパンツがスラリと伸びた長い足を際だたせていた。



チラチラと腕時計を気にして、"人と待ち合わせてます"オーラを発散してるのに、しつこい誘いの連続。





「あの.....俺、男ですから」




本当の事を正直に言ってるのに.......




「ま〜たまた、下手な嘘ついて追い払おうとしてるでしょ?」




「いや、本当に男なんですけど......」




「マジで言ってる?いや、でも.....そんだけ綺麗な顔してるなら男でもいいよ」




「...........」




開いた口が塞がらなかった。

深い溜め息をつき目の前の、名も知らぬ男から視線を逸らす。


“あなたに興味はありません”


言葉にしなくても、鬱陶しそうな態度が強固な意志を示してた。

それでもしつこく食い下がる輩も何人かいて。


ナンパなら辛うじて許せた。




「ちょっと、君!!うちの店で働かない?今日からでもNO1ホステスになれるよ」



さすがにプッツンとキレそうだった。

ザワザワと不穏な妖気が波立ちそうになるのを必死に抑える。


どうにか冷静にかわした時にはどっと疲れが押寄せていた。




「もう!幽助と待ち合わせするといっつもこうなんだから!」



なぜか幽助と待ち合わせた日に限って多いナンパ率。

理由はなぜか全く分からないけど。




(幽助、早く来ないかな........)



もうすぐ幽助に会える--------

それだけで何だか嬉しくなってきて、自然と頬が上気してくる。

ほんのり染まった頬と、はにかんだ微笑。


それが世の男性達のストライクゾーンを打ち抜いてるとは露とも知らず。


かくして【幽助と待ち合わせ=ナンパの嵐】の方程式が出来上がるのだ。





「そこの可愛い子ちゃん♪一人ならお茶しない?」



またもや降ってきたのは、腐るほど聞いた台詞。

さすがにウンザリしてきたのか口調が荒々しくなる。



「もう!!結構です!!!.........って、あっ」



振り返った先に見えた顔にフッと緊張が解れる。




「すごいピリピリしてんな。そんなにナンパされ過ぎたか?」




「桑原君。冗談にしても面白くないですよ」




ム〜っとむくれる顔には、よっぽど煩わしかったのだとしっかりと書いてある。

心開ける相手を前についつい洩れる本音と素直な表情。

フッと視線を移した先、桑原の背後にいる友達らしき人たちに気付き、慌てて膨らませた頬を引っ込めた。




「桑原君はお友達とお出かけ中?」




「ん?あぁ、こいつらね、大学のゼミ仲間。今から打ち合わせ」




「桑原君、ちゃんと真面目にやってるんだね.......あっ、こんにちは」



背後から顔をのぞかせ、様子を窺う友達軍団にペコリと頭を下げた。

フワリと向けられた微笑みに全員が真っ赤になる。




-----相変わらずすげぇ、威力-------



まさに「微笑みの爆弾」といったところ。

本人だけはその威力に全く気付かないまま、時計をチラリと見てはキョロキョロ落ち着かない。




「何?今から浦飯の奴とデートか?仲いいことで、羨ましいねぇ」




「もう、桑原君。からかわないでよ///////って......あっ!!」




遠くに待ち人の姿を見つけたのか、照れ笑いがみるみるうちに満開の笑顔にかわっていく。




「お熱い2人の邪魔するわけにもいかねぇし、俺行くわ。蔵馬、今度飲みにでも行こうぜ」




「そうだね、久しぶりに集まりたいね。じゃあ、またね。皆さんもお気をつけて」




にこやかに手を振る蔵馬につられて、顔を真っ赤にしたまま手を振り返すツレ共に、桑原は必死に笑いをかみ殺していた。




「ちょっと、おい!!今の子友達?やっべぇ可愛いし」



「マジ!!紹介してくれ、てか合コンしよう!おい、桑原!さっきの子に頼んでくれよ、なっ?」



完全な勘違いの否定はせず、それでも桑原の口から出たのは友人達の興奮を冷ます一言。




「あ〜、無理無理。絶対無理!!あいつ他の奴には全く興味ねぇもん。つか、眼中ねぇもん」




「何だよ、それ」



「どんなパーフェクトな男でもあいつは落とせねぇよ」



何たってあのコエンマにも振り向かないのによ---------




食い下がる友人達をあしらいつつ、その場を離れる桑原の背に聞こえてきたのは、難攻不落の心を独り占めする幸せ者の名前。




「幽助っ!!」




弾む声を聞いただけで、どんな顔してるのかすぐに分かる。

少しだけ振り返った。

行き交う人混みの中見えたのは、嬉しそうに腕を絡める蔵馬と、その姿を愛しそうに見つめる優しい眼差し。




-----あ〜あ、幸せそうな顔しちゃって、腕なんか組んで------




あいつら付き合い初めた頃は、手一つ繋ぐのにも恥ずかしそうにしてたのによ.....

あ〜んな正々堂々とイチャイチャしやがって。




「なぁ、桑原。やっぱ合コン駄目か?」



くわえた煙草に火を付け、諦めきれてない友人に溜め息をついた。




「だから無理だって言ってんだろ?あいつの目には他の男は映ってね〜の!!」



煙を吐き出し、もう一度振り向いた先に一瞬見えたのは重なり合う2人。

すぐに離れ、それでもピッタリと身を寄せ合いながら歩き出す。




-----あんなど真ん中で......どんだけお互いしか見えてねぇんだよ-------



蔵馬の瞳に映るのは浦飯だけなんだろうな。

浦飯の目が見つめるのもたった一人だけ。


きっとこれからもずっと.........





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(おまけ)



「ねぇ、幽助ぇ。幽助と待ち合わせするとい〜っつもナンパばっかりされちゃうんだけど」




「そりゃあ、おめぇが一人でいればな。俺でもナンパしちまうわ」



「も〜!!こっちの身にもなってよ。今日なんか“キャバクラで働きませんか”だよ?失礼しちゃうよね」



確かに蔵馬ならNO1になれるよな、何て掠めた思いはバレないうちに慌てて消し去った。

ム〜っと尖らせた口から出るのは散々だったさっきまでの待ち時間の出来事。

自覚症状なしとはいえ、さすがにひっきりなしのナンパには参るんだろう。




「わ〜った!これから待ち合わせする時は5分前に来いよ」




「5分前?何で?」




「俺が10分前に来といてやるから。したら煩わされる事もねぇだろ?」



な?っと片目を瞑って笑う幽助に思わず顔が火照るのを感じた。




「......うん」



コテンと頭を肩に寄せる。

真っ赤になってる顔を見られるのが恥ずかしくて。

だけど、早まっていく鼓動だけは鎮めることが出来そうになかった。


溢れ出していく想いも..........





fin.



あとがき

やっぱり蔵馬ちゃんはどこに行ってもモテモテなんです(#^.^#)
今回は少し桑原君視点を入れてみました。
飛蔵には躯姉さん、コエ蔵にはぼたんちゃん、そして幽蔵には桑原君。

暖かく見守ってくれる重要なサブキャラさん達★

何年たっても変わらずにイチャイチャしてればいいね(^_^)


2012.10.8 咲坂 翠  

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