泡沫の章〜幽蔵SS〜

□【雨の日は2人で】
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「ねぇ、幽助?今日はうちでご飯食べてく?」


幽助の膝の間にチョコンと座り、背中を預けたままテレビを見てた蔵馬が、背後の幽助に顔だけを向けて尋ねた。


「ん〜?」



左腕でしっかりと蔵馬の腰を抱きしめ、右手で柔らかな深紅の髪をクルクル遊ばせてた幽助の動きが止まる。

目の前の翡翠は期待の眼差しでじ〜っと幽助を見つめて........

望み通りの返事をして、その瞳をとろけさせるのは幽助だけの特権。またその逆も........


「あ〜、悪ぃ。今日は桑原の奴と夜約束してんだわ」


みるみるうちに翡翠の中に落胆が広がる。だけどそれはほんの一瞬で。


「そっか.....残念」


じゃあまた今度だね〜なんてニッコリ笑って視線をテレビに戻す。


本人は至って平静を装ってるつもりでも、無口な態度と微かに震える肩が蔵馬の意気消沈ぶりをありありと表して。

だけど決して口に出すことはなく。

回されてる幽助の腕にそっと手を重ねたのは、せめて今だけは離れたくないという精一杯の強がり.....


----健気な奴-----


幽助の顔が綻ぶ。

強がる姿も愛しいけど、やっぱり一番見たいのは.......




「う〜そ!嘘だって!もちろん食べてくし、今日は泊まってく」


意地悪を詫びるように、両腕でしっかりと抱きすくめた。


蔵馬の肩の力がフッと抜けたのが伝わる。


「じゃあ幽助の食べたい物作るよ」


さっきまでの落ち込みはどこへやら、途端に明るい声が響く。

見ないでも分かる。その瞳はとろけて今は弾けそうな笑顔...


「幽助、何が食べたい?」


クルンと向きを変え、幽助に向き合った翡翠の瞳が嬉しそうにクルクル揺れる。


「んだな〜....あっ!ハンバーグ」



「ハンバーグ?」


ん〜...ハンバーグかぁ....と、上目遣いを空中に彷徨わせ、冷蔵庫にある材料を指折り数えながら頭に浮かべる。

その無意識の仕草があまりにも可愛らしくて.......


---ハンバーグより先に食っちまうぞ-----


当の本人は悶々とする幽助の気なんかこれっぽっちも知らずに、「あ〜っ!!!!」と素っ頓狂な声をあげ立ち上がった。


「幽助、玉ねぎがないから買いに行ってくる」


「ワザワザ買いに行かなくても.....あるもんでいいぜ」


一瞬キョトンとした翡翠の瞳がフワリとした微笑みに変わる。


「幽助が食べたい物を作りたいから....」


言って恥ずかしくなったのか、ほんのり頬を朱く染めて"ちょっと行ってくるね"とパタパタと部屋を出て行った。

幽助はといえば、完全にノックアウトされて放心状態のまましばらく固まっていた........




スーパーのレジで手早く会計を済ませ、店を出た蔵馬の表情が曇った。
いつの間にかパラパラと降り出した雨。

(嘘....傘持ってこなかった....)


ため息は付けど、幽助を待たせたくなくて....まっ、いいかと少々濡れる覚悟で雨の中に一歩踏みだそうとした蔵馬の前に影が落ちた。


そっと上げた視線の先には、広げた傘を差し出す幽助の笑い顔。


「忘れもんだぜ、蔵馬」


「幽助......」


何だか呆けてしまってる蔵馬の指からスーパーの袋をそっと外し、代わりに傘を持たせた。


「ほら、帰るぞ」


自分の傘を広げ歩き始めた幽助の足が止まる。振り返るとその場を動こうとしない蔵馬の姿。



「蔵馬、どうした?」


怪訝な顔で幽助が蔵馬のもとに戻る。


蔵馬は無言のまま。手にした傘を綺麗にたたみ、幽助の手に渡ったスーパーの袋を再び己の手に収めた。
その顔は微かに薄紅色に染まって......

恥ずかしがり屋の蔵馬の精一杯のアピールに幽助が気づかないはずはなく。

フッと微笑み、ほらっと腕を差し出した。

嬉しそうに腕を絡め身を寄せてくる。

そこに浮かぶのは幽助が一番見たかった満面の笑顔。


一つの傘の中で二つのシルエットが揺れる。


歩き始めた二人がふと立ち止まり、傘に映る影が一瞬だけ重なり合った。


それはすぐに二つに戻り再び歩き始める。

頭上には少しずつ青空が見え始めて。


雨があがるまであと少し........


fin.


後書き

雨の日は鬱陶しい!とにかく甘い話を書きたい!症候群2日目(笑)
てか雨のシーン少しだし(汗)
イチャツクだけの話だ・・・
いいさ、しょせんうちの幽蔵はバカップル☆


2012.6.28 咲坂 翠

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