玉虫色の章

□【Flower〜天使が生まれた日〜】
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3月3日.....雛祭り。

女の子の健やかなる成長を祝う「桃の節句」

幸せな成長を祝う為に飾る雛人形。

店頭で売られる菱餅に雛あられ。
可愛らしく包装され、華やかに政に彩を添える。

まさに女の子の為の行事。


そんな日に“彼”がこの世に生を受けたのは、偶然なのかはたまた天の計らいか......


鮮やかに人目を惹き付ける深紅の髪。

吸いつけられるような翡翠の瞳に一度視線を合わせれば、誰もが引き込まれてしまう。

艶やかに色づく桜色の唇から紡がれる柔らかい声。

常に湛えるは可憐な花にも似た微笑み。

周囲に薫る爽やかな薔薇の香り。


出会った者全てを魅了する可憐な容姿。

それは美しく凛として咲く、赤い薔薇の花........

あまりにも高貴な佇まいに、誰一人としてその薔薇を摘む事は出来ず。

だけど、誰もがその薔薇を手に入れたいと密かに願っている。


“彼”の誕生日が近付くにつれて、“彼”をよく知る周囲の人々達がにわかにざわめき出す。

可憐な薔薇をいかに美しく咲き誇らせるか.......

密かな想いのたけに気付きもせず、無邪気に揺れるその花に精一杯の想いを伝えようと。

唯一無二の赤い薔薇を、我先に摘み取らんと水面下で続く小さな攻防戦。


その薔薇を創造した天地の創造主である全能の神が天の玉座で面白そうに見守る中、地上では来るべきその日を前に“彼”に魅入られた人達が必死に奔走してた。




************************




「なぁ、桑原〜。蔵馬ってさ、今何か欲しい物ってあんのかなぁ?」


「蔵馬の欲しい物?急になんだよ」


「ん?いや〜、もうすぐ誕生日だな〜って思ってさ」


「誕生日?あ〜、そういや3月か」


3月3日が誕生日なんて出来すぎてるというか、妙に納得してしまう。

仲間として長年付き合ってきたのに、今年になって初めて聞いた蔵馬の生まれた日。


“何で教えてくれなかったんだよ〜”と言った言葉に“だって....聞かれた事なかったし”とあっさり返された返事。

そりゃ別に恋人同士でも何でもないんだし?

いちいち野郎同士で誕生日を祝うってのも......とは思うけど。

俺の中で蔵馬は【野郎同士】の括りには入らねえんだけど!!!


ここは贈り物の一つでも渡して......


なんて思ってはいても、何をあげればいいのかさっぱり見当がつかない。

とりあえず街で物色してみっか、とアチコチ手近な店を見て回ったけど全く決めきらない。

フッと目に付いた小物屋。

ショーウィンドウの中でマネキンの首に巻かれてた真っ白なマフラー。
見るからにフワフワと気持ち良さそうな感触が伝わってくる。


“すっげぇ似合いそう”


深紅の髪と真っ白なマフラー。

鮮やかなコントラストがイメージの中に浮かび上がり、それがしっくり来たのか思わずニヤケる。

そこでハタっと気付いた。

確かにメッチャ似合うけど、“女の子じゃないんだから”なんて怒られはしないか?


ん〜......却下だな。


数時間探し回っても何となく“コレ”ってモノがない。

途方にくれてる時にバッタリと遭遇した友人。

かくして冒頭の台詞をぶつけたわけで......


「蔵馬の欲しいものなあ......何かあいつ物欲がなさそうだし、何やっても“ありがとう”なんつって喜んで受け取るんじゃねぇの?」


確かに桑原の言う事は正しいと思う。

だけど、“何でも”って簡単には決めたくねぇんだよな......

珍しく真剣に考え込む幽助の横顔に、フ〜っと溜め息がぶつかった。


「おめぇさ、そうやって悩む前に蔵馬デートに誘っちまえよ。んで好きなモン買ってやりゃあいいじゃん」


悩むのが面倒だろ?と何となしに言った一言。


「ばっっ....バカ!!デートとか....マジそんなんじゃねぇし!!」


いやいや.....

その上ずった声での否定マジ説得力ねえから。

バレバレなんだよ!!


「ふ〜ん、そう?まっ、せいぜい悩めばいいんじゃね?その間に蔵馬が他の奴に取られてもし〜らね!!」


“他の奴?”


聞き捨てならない言葉に幽助のこめかみに青筋が走る。


「他の奴って......何だよ」


「あ?飛影とコエンマに決まってるだろう?何?浦飯おめぇ気付いてねぇの?あいつらもぜってぇ蔵馬の事好きだぜ」


「だっ....だから!!俺は別に好きとかじゃねぇし!!!!」


おいおい.....
今さらそこを否定????

面倒臭ぇ〜っと会話を続ける気にもならない。

幽助といえば“どうすっかな〜”と相変わらず眉間に皺を寄せて悩んでる。

しばらく特に話す事もなく歩いてると、見たことのある髪色が目についた。

新しく家でも建つのであろう空き地の入り口で、しゃがみ込んで何かを見てる。


「おっ、噂をすれば何とやら。あれ蔵馬じゃねぇ?」


「えっ!!!蔵馬??どこ、どこ????」


“ん〜”っと俯いて考え事をしていた顔が、弾かれたように持ち上がりキョロキョロ動き出す。


「おめぇ....やっぱり好きだろ」


呆れたように呟いた声なんぞすでに耳には入らず。

鼻歌混じりの軽い足取りで、蔵馬に近付いた。


「蔵馬?こんなとこで何してんの?」


「あっ、幽助、桑原君」


見上げてくる角度でニッコリ微笑まれ、幽助の顔が瞬殺で真っ赤になる。

何だよ、その角度。
マジ可愛いじゃねぇか!!

口を金魚のようにパクパクして言葉が出ない。


「何?こんなとこでしゃがみ込んで?」


機能してない幽助の代わりに桑原が声を掛けた。


「あっ....うん、この子が.....」


困ったような視線を落とした先には段ボール箱。

薄汚れて破れかけた箱の中で、小さな猫がニャーニャー鳴いていた。


「あ〜、捨て猫かぁ〜」


「...うん。そうみたい....」


蔵馬の隣に屈みこんだ桑原を見て、慌てて幽助も反対側にドカッと腰を落とす。


「うちのマンション別にペット禁止じゃないから連れて帰ろうと思ったんだけど......俺ペット飼ったことなくて。飼ってあげたいんだけど、こんな小さな子猫の世話出きるかなって思ったら迷っちゃって。でも置き去りには......」


シュンッと哀しそうな顔で俯く姿に、場違いだと思ってもドキっとしてしまう。

ペットか......

俺んちペット飼えねぇしな......

蔵馬が困ってるのに何も出来ない俺って情けねぇ〜!!!!

なんてそれこそ場違いどころか、見当違いの呵責に苛まれる。


「じゃあ、俺んちに連れて帰るわ。猫なら何匹増えようが構わねぇし」


「本当?桑原君、いいの?」


「おう!!さすがにこいつ小さすぎるし。このままだと死んじまうかもしれねぇしな」


「ありがとう。良かったね!!桑原君なら大事にしてくれるよ」


“ヨシヨシ”と首を擽ると、ゴロゴロ嬉しそうに喉を鳴らす子猫に向けられた満面の笑顔。

その笑顔がそっくりそのまま桑原に向けられたものだから、幽助にとっちゃ堪ったもんじゃない。

ブス〜っと不機嫌さを隠そうともせず、空気が殺気立ってくる。


こいつ面倒臭ぇぇっ!!!!


心の奥で叫び何度目かの溜め息を零す。ハタっと何かを閃き蔵馬に声を掛けた。


「そういや、蔵馬3日誕生日なんだって?俺んちでパーティーしね?誕生日パーティー。なっ、浦飯?」


「お....おうっっ!!しようぜ、おめぇの誕生日祝い。今までしてなかったしな」


「そうだ!!飛影とコエンマの奴も呼んでさ。パ〜っと祝おうぜ、パ〜っと!!なぁ、浦飯い〜?」


はぁ???
何でそこでその2人まで呼ぶ必要がある????


イラっと言い返してやろうと思ったんだけど......


「本当?みんなにお祝いしてもらえるなんて、嬉しいかも。楽しみにしてるね」


心底嬉しそうにそう言われたら、“あいつらいらねぇだろ?”なんて言えるわけがない。


にこやかに蔵馬と別れての帰宅の途中。


「桑原〜、おめぇは何考えてくれちゃってんのかなぁ〜????(怒)」


「何がだよ?俺は純粋にみんなで祝ってやりてぇって思っただけで、深い意味はねぇよ」


嘘付け。
ぜってぇ面白がってるだけだろ?

ゲンナリとしながらも、“あいつらには負けられねえ”とメラメラ闘志が燃え盛っていた。
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